2026.08.15
リーダーシップの授業で、大学生は発達段階が高まるのか?
慶應大学のリーダーシップ講座の効果を、ハーバードの「成人発達理論」で測った日本初の研究。
受講した学部生22名に、講座の前後でインタビュー調査。
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使ったのは、キーガン教授(ハーバード大)の発達段階という物差し。
ざっくり言うと、
・第2段階:自分の損得で動く(自己至上、レッド)
・第3段階:周りの期待に応えて生きる(社会化、アンバー)※大人の大多数はここ
・第4段階:自分の軸で決めて生きる(自己主導、オレンジ)
年齢を重ねれば自動的に上がる、というものではないのがポイント。
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結果は、
・わずか4カ月で、22名中13名(59%)の発達段階が前進!
・講座前はゼロだった第4段階(自分の軸で生きる)に、2名が到達。
成人の発達としてはかなり短期間なので、これは結構すごいこと。
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学生の生の声が、段階の違いをよく表してます。
第3段階:「周りが就活していると焦る。周りの大多数に合わせられれば安心」
移行期:「オリジナリティを出したい。でも周りの影響を気にする自分がいや」
第4段階:「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。自分の軸で選べば満足できる」
同じ「進路」の話でも、意味付けが全然違う。
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ただし面白いのは、
もともと発達段階が高い学生ほど、効果が大きかったこと。
(第2段階中心:33%、第3段階中心:56%、第4段階中心:100%が前進)
講座は演習・討議中心のアクティブラーニングだったので、
主体性の土台がある人ほど恩恵を受けやすかったのかも。
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注意点としては、
・比較対照群なしの22名の調査なので、あくまで第一歩。
・面談時期が就活シーズンと重なっていて、就活経験が成長を後押しした可能性も著者ら自身が指摘。
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それでも、
「リーダーシップ教育=スキルを教えること」ではなく、
「その人の世界の見方(意味付け)そのものが成熟すること」
を狙って、それを測ってみた、というのが面白いところ。
周りの期待に応える生き方から、自分の軸で選ぶ生き方へ。
大学の4年間(あるいは大人になってからの学び)って、
本来こういう変化のためにあるのかもしれませんね
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対象は慶應の商学部、3・4年生。レッドの方もいて、アンバーが主流。というのも面白いです。
あくまで、1つの授業の参加者ですが。
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添付エクセルに、生の声を書き起こしています😊
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日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証:ハーバード大学ロバート・キーガン教授の成人発達理論の視点から
田村次朗・渡邊竜介・渡邊理佐子
法學研究(慶應義塾大学法学研究会)92(3), 1-29, 2019/3
https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20190328-0001
「リーダーの器」は科学的に大きくできるか? ハーバード大・キーガン教授の「成人発達理論」から紐解く、次世代リーダー育成の劇的な効果検証 Based on research from Keio University(日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証) Cornell Notebook 現代のパラドックス:優秀だが、社会を変える自信がない若者たち 世界最高レベルの 教育水準 (PISA/TIMSS 調査結果より) 「社会を変えられる 確たる意識がない」 (内閣府 平成26年度 若者意識調査より) 知識やスキル(How to)を教える従来の教育では、VUCA時代(変動的で不確実な世界)を生き抜くリーダーは育たない。必要なのは「人間の内面」へのアプローチである。 リーダーシップ開発の「氷山モデル」 スキル・行動様式 (技術的知識、課題分析力など) 倫理・価値観 (目標設定、アイデンティティ) 意味付け・認識力 (自分や社会をどう認識するか) 「即効性はあるが、 時代に左右されやすい表層」 「持続性の高い本質的な リーダーシップ能力 =成人発達理論の領域」 真のリーダー育成は、水面下の最も深い層である 「精神面の成熟度」を高めることに注力すべきである。 Germick Notebook 人間の器はどう大きくなるのか? (主観と客観のメカニズム) 主観(Subject)- 支配されている状態 自分の一部であり、見えないため 疑う余地がない真実(盲点)。 客観(Object)- 制御している状態 枠組みを様々な角度から検証し、 自ら制御できる状態。 発達とは、「主観(無意識の思い込み)」を切り離し、「客観」へ変換していくプロセスである。 Genius Notebook 成人発達理論:精神的成熟の階段 第4段階【自己主導段階】(Self-Authored) 自分軸と独自の規範の世界(一部の成人) 第3段階【社会化段階】(Socialized) 他者の期待と所属の世界(大多数の成人) 第2段階【自己至上段階】(Imperial) 自身の欲求とルールの世界(一部の成人) (※第1段階は幼児期、第5段階「自己変容」は中年期以降の極く一部のため、大学生の焦点は第2~第4段階となる) 第2段階:自己至上段階(利害とルールの世界) 主観のメカニズム [行動] → [直接的報酬] 二者択一の思考(善か悪か、自分の利益か、他者を「自分の欲求を満たす味方か徹底か」で判断する。 「人に優しくすることが自分につながるのだと思った。別の人間たちもいつかくる見返りを考えているのかもしれない」 「高い収入を得て良い物を買い、色々な場所に旅したいので、稼ぎたい。そのために出世したい!」 © Gamified Notebook 第3段階:社会化段階(空気と期待の世界) 主観のメカニズム 家族 集団 社会 所属する組織や大切な人の期待を「自分のもの」として内面化する。慣慣的市民だが、価値観が衝突した時に決断を下す術を失う。 「自分の意思で大きな選択をした経験が少ない。敷かれたレールの上を走っている」 「周りが就活していると焦り不安になる。周りの大多数に合わせられば安心できるのだが」 「批判された時に自分の自信のなさが露呈した。組織に対する忠誠心が強い」 第4段階:自己主導段階(自分軸と信念の世界) 主観のメカニズム 周りの意見を客観的に考えしつつ、それに振り回されず独自の規範を定める。予言するシステムを調整し、決断する力を持つ。VUCA時代のリーダーの最低条件。 「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。周りの軸ではなく、自分の軸で選べば、自分が満足できる結果を得ることができる」 「『成功』というのは未来にいる言葉。過去にやったことに対して『あれは成功だった』と思うものではない」 「自分の信念や判断軸は保ちながら、各々の判断軸に柔軟になろうと思った」 発達段階の比較・診断マトリクス 第2段階(自己至上) 第3段階(社会化) 第4段階(自己主導) 強み 単純明快な目標への適進 組織への忠誠と高い協調性 予盾の統合と独自の使命感 盲点 他者への共感・抽象的概念の欠如 相反する期待の板挟みによる決断停止 自身の価値観への固執、異質な概念への寛容性不足 成長の鍵 他者の視点の理解 権威への絶対視をやめ、持論を持つ 自らの持論の限界を知り拡張する Gemini Notebook 慶應義塾大学の挑戦:パイロット講座「リーダーシップ基礎」 Target 大学生22名(事前・事後の主観・客観面談を実施) Duration 2015年秋学期(約4ヶ月間・全12回) Methodology ジョン・デューイの教育哲学に基づく「アクティブ・ラーニング」。一方的な講義を削り、演習、対話、コーチング、交渉などの「経験」と「概念」を組み合わせた実験室的環境。 果たして、たった4ヶ月の大学の授業で、 人間の「精神的成熟度(器)」は変化するのか? わずか4ヶ月で起きた劇的なパラダイムシフト 受講前 S=3: 32% 2<S<3: 32% 3<S<4: 36% S=4: 0% 受講後 3<S<4: 50% S=3: 23% 2<S<3: 19% S=4: 9% 59% (13/22名) 参加者の約6割が、成人発達の視点では極めて短期間(4ヶ月)で「頴慧な発達」を記録。第4段階(自己主導)へ到達する学生も出現。 Gemini Notebook 「能動的学習」と相性が良いのは誰か? 33% 第2段階グループ (1/3名が顕著な発達) 56% 第3段階グループ (9/16名が顕著な発達) 100% 第4段階グループ (3/3名が顕著な発達) アクティブ・ラーニング(主体性を持ち多様な人々と協働する能動的学習)は、発達段階がより高い(第3・第4段階へ足並み入れている)学生に対して、さらに強い成長のブーストをかける効果がある。 Gamba Notebook 日本の教育の未来へ:真のリーダーを育てる条件 スキルのインストールから、器の拡張へ。 表面的なテクニックではなく、複雑な世界を客観視できる 「自己主導段階(第4段階)」への到達を高等教育の最低目標とする。 安全な「実験室」を提供する。 他者の期待(第3段階)から抜け出し、自己の信念(第4段階)を形成す るためには、試行錯誤と対話が許される環境が不可欠である。 「リーダーシップとは教えられるものではない。自らの内なる 主観を脱ぎ捨てた時、初めて発揮されるものである。」 Cornell Notebook 【表4-6統合】 表4〜6 発達段階別の意味付け(強み、盲点、成長可能分野)と代表的な引用(統合版) 表 発達段階 項目 種別 内容 論文の注記 表4 第2段階(自己至上段階) 強み 意味付けの説明 単純明快な仕事をこなすことが重要である場合、自己至上段階の人はその本領を発揮できる。正解と不正解、善と悪などのはっきりとしたイメージがあり、外部からのルールや報酬や賞金というインセンティブで向かうべき方向性を指示されれば、前進できる。 レッド 表4 第2段階(自己至上段階) 強み 代表的な引用 「誰かに良いこと
📊 慶應リーダーシップ_発達段階_意味付けと代表的引用.xlsx ダウンロード ↓
【背景】
■1. 出発点:日本の若者は「学力は高いが、社会を変える自信がない」
・PISA(15歳対象の国際学力調査)やTIMSS(小中学生対象の国際数学・理科調査)の結果から、日本人の教育水準は世界最高レベルにある(OECD, 2016;IEA, 2016)
・一方、内閣府の平成26年版子ども・若者白書(7カ国の13〜29歳への意識調査の分析)では、日本の若者は「役に立ちたい気持ちはあるが、どう関与すればよいか、社会を具体的に変えられるのかについて確たる意識を持てていない」ことが示された(内閣府, 2014)
・少子高齢化・人口減少の中で、限られた人材を効率よく発達させ、変革を生むリーダーとして育成する研究が急務——これが本研究の問題意識の起点
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■2. 米国のリーダーシップ教育と、その「うまくいっていない部分」
・米国ではビジネススクール、ロースクール、行政学大学院など、リーダー育成をミッションに掲げる高等教育機関が数多く存在する
・しかしマネジメント教育の研究では、こうしたプログラムが必ずしも成功してこなかった理由として、ソフトスキル(対人関係力や自己認識など、技術的知識以外の能力)を発達させる「ヒト中心の講座」の欠如が指摘されている。改善策として、学生相互のやりとりに着目した体験型授業や、構成主義的・対話ベースの講座が有効だと主張されている(O'Brien, 2016)
・対して日本では、リーダー育成をミッションに掲げる大学は極めて稀で、体系的なリーダーシップ育成を行う大学も少ない(泉谷・安野, 2015)。その結果、リーダーシップ基礎教育の学術的な効果検証も進んでいない
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■3. 「持続するリーダーシップ能力」とは何か:3階層モデル
・リーダーシップ教育の効果は、卒業後も持続するものでなければ意味がない。では持続する能力とは何か
・デイらは、リーダーシップ開発には3つの階層があると主張した(Day, Harrison & Halpin, 2009)
▼表層:技術的知識、課題分析力、決断力などのスキル・行動様式
▼中層:目標設定、倫理観・価値観などを掌るリーダーとしてのアイデンティティ
▼最深層:自分自身や所属組織・社会をどう意味付け、認識するかという「精神面の資質」
・表層ほど即効性は高いが時代や状況に左右されやすく、深層ほど継続性が高く本質的。従って大学教育では最深層の精神面の発達に注力すべき、という含意になる
・リーダーシップ開発会社Center for Creative Leadershipも、VUCAワールド(Volatility=流動化、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑化、Ambiguity=不透明感が増した現代)では、技術的スキルの修得だけでは不十分で、世の中を俯瞰して把握する精神面の発達が必要だと主張している(Petrie, 2014)
・ハーバード大学ケネディスクールのハイフェッツは、リーダーシップを「人々を難しい問題から目を背けさせるのではなく、皆でその難題に取り組めるよう導く実行力」と定義。その発揮には、対立を乗り越え共通解を導く高度な観察力と判断力——つまり精神面の成熟——が求められるとした(Heifetz, 1994;Heifetz & Laurie, 1997)
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■4. 精神面の発達度とリーダーシップ能力の相関
・実際に、精神面の発達度合いとリーダーシップ能力の相関は複数の論文で立証されている
・CEOの発達段階と組織変革の成否(Rooke & Torbert, 1998)
・発達レベルによるリーダーパフォーマンスの予測(Strang & Kuhnert, 2009)
・変革型リーダーシップと道徳的推論の関係(Turner et al., 2002)
・ここから「では成人の精神面の発達をどう理論化し、測定するか」という問いに進む
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■5. 成人発達理論(Adult Development Theory)の系譜
・子どもの発達が段階を経て進むのと同様、成人の精神面もある程度段階的に発達することが立証されている。ただし身体的変化を伴うことは少なく、年齢とともに全員が自動的に発達するのではなく、個人差が大きい(Kegan & Lahey, 2009)
・成人発達の理論は複数あり、多くは内面の一側面に焦点を当てる
・自我の発達:ロービンガー(Loevinger, 1976)
・倫理面の発達:コールバーグ(Kohlberg, 1981)
・認知面の発達:フィッシャー(Fischer, 1980)
・信仰面からの発達:ファウラー(Fowler, 1981)
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■6. キーガンの構成主義的発達理論(Constructive Developmental Theory)
・その中で、ハーバード大学の教育心理学者ロバート・キーガンの構成主義的発達理論は、最も包括的に成人の内面の発達を考察する理論として評価されている(Helsing & Howell, 2013)
・また、リーダーシップ・マネジメント研究において欧米で最も頻繁に活用され、成果を上げている成人発達理論でもある(McCauley et al., 2006;Day et al., 2013)
・理論の骨格は2つの考えの組み合わせ
▼構成主義(Constructivism):人は経験をありのまま受け入れるのではなく、自己の解釈に基づいて独自に意味付け(構成)するという考え
▼発達理論(Developmental Theory):その解釈力が、時間や意識によって、より複雑なレベルに段階的に発達するという考え
・キーガンの中核概念は「主観」と「客観」の境界線(Kegan, 1982;Berger, 2006)
・主観(Subject)=自分の一部で、見ることも検証することもできないもの。疑う余地のない真実であり、同時に盲点にもなる
・客観(Object)=様々な角度から観察・検証でき、制御し、責任を取れるもの
・主観を減らし客観を増やすほど、複雑な課題に客観的に対処できる。この境界線がどこにあるかで発達段階を判定できる
・発達は5段階で説明される(第1段階:幼児期の直感段階〜第5段階:ごく一部の成人が至る自己変容段階)。大学生に重要なのは第2段階(自己至上:自分の欲求中心)〜第4段階(自己主導:自分の価値観を確立し主導する)
・キーガンは、複雑化する現代のリーダーシップ課題に対処するには、最低限、第4段階(自己主導段階)のリーダー育成が不可欠と主張している(Kegan, 1994)
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■7. 測定手法:主観・客観面談(Subject-Object Interview)
・キーガンらが開発した、発達段階(精神的成熟度)を測定するための1対1の面談手法(Lahey et al., 1988)
・感情に関連する10のカード(成功・感動・怒り・不安など)から被験者が体験を語り、面談者がその体験の意味付け——主観と客観の境界——を探る質問を行う。録音・書き起こしのうえ、認定評価者2名の相互評価で段階を判定する
・5段階+各段階間の4つの移行段階、合計21段階の細かい評価が可能
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■8. 大学教育への示唆:ウェストポイントの縦断研究
・高等教育機関には、4年間で学生が第4段階へ発達できるよう支援する責務がある、という議論がある(Magolda, 2002)
・ただし現実には、米国陸軍士官学校(ウェストポイント)の長期調査によると、大学入学時点の学生の大半は第2段階もしくは第2→第3段階への移行期にあり、在学中に第3段階(社会化段階:所属集団の期待に応えて自己形成する段階)を完了することがまず当面の目標となる。そこからどれだけの学生が第3→第4段階への移行に進めるかが高等教育の重要課題とされる(Lewis et al., 2005)
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■9. 講座設計の理論的裏付け
・パイロット講座「リーダーシップ基礎」の授業スタイルは、「人は経験から学ぶ」というジョン・デューイの経験学習の教育哲学(Dewey, 1938)に基づくアクティブラーニング(演習・討議・プレゼン中心の参加型学習)を主軸とした
・日本における「リーダーシップ基礎」教育の普及に向けた検証としては、著者らの先行的な論考もある(田村・小林, 2017)
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■まとめ:既存研究の論理の流れ
・日本の若者は学力は高いが社会参画の自己効力感が低い(OECD, 2016;内閣府, 2014)
・→ 米国のリーダーシップ教育も技術偏重では失敗してきた(O'Brien, 2016)
・→ 持続する能力は最深層の「精神面(意味付け・認識力)」にある(Day et al., 2009;Petrie, 2014;Heifetz, 1994)
・→ 精神面の発達とリーダーシップの相関は実証済み(Rooke & Torbert, 1998ほか)
・→ 精神面の発達を最も包括的に扱うのがキーガンの構成主義的発達理論(Helsing & Howell, 2013)
・→ それを測定できるのが主観・客観面談(Lahey et al., 1988)
・→ ならば日本の大学でこの枠組みを使い、リーダーシップ基礎教育の効果を科学的に検証しよう——というのが本研究の位置付け
【研究内容】
■1. 研究の目的(おさらい)
・慶應義塾大学で2015年秋学期に開講されたパイロット講座「リーダーシップ基礎」の受講生を対象に、受講前後で精神面の発達(キーガンの発達段階)がどう変化したかを検証する
・キーガンの構成主義的発達理論とその測定手法である主観・客観面談を本格採用した、日本初の科学的な取り組み
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■2. 調査方法
▼対象者
・パイロット講座に参加した学生31名のうち、希望者22名(大学1年生1名、3年生15名、4年生6名)
▼手法:主観・客観面談(Subject-Object Interview)
・キーガンらが開発した1対1の個別面談による発達段階の測定手法。受講前(2015年9月末〜10月初)と受講後(2016年1月)の計2回、各回1時間程度実施
・面談内容は全て録音・書き起こしのうえ、認定評価者2名がそれぞれ独自に評価し、相互議論の後に最終評価を決定(評価者の主観による偏りを抑える手続き)
・評価は5段階+各段階間の移行段階4つずつ、合計21段階の細かさで判定
▼面談の進め方
・「成功」「感動」「大切なこと」「変化」「確信」「苦悩」「悲しみ」「別れ」「怒り」「不安」という感情に関する10枚のカードを提示
・被験者は関連する人生の大きな体験を想起してメモし(約10分)、その中から自由に選んで語る
・語り終えた後、面談者はその体験をどう意味付けているか——つまり主観(自分と一体化して疑えないもの)と客観(距離を置いて観察できるもの)の境界——を探る質問を行う
・1回の面談で通常数個〜7、8個程度の体験を扱う
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■3. 検証対象となった講座「リーダーシップ基礎」
・米国の高等教育で主流のリベラルアーツ型リーダーシップ基礎教育を目指し、世界各国でこの教育に携わってきた講師を招聘。12週間のオムニバス形式(毎回異なる講師・テーマで構成する形式)
・内容:リーダーシップ論(3回)→コーチング→クリティカルシンキング(2回)→レトリック→グループダイナミックス→ネゴシエーション→パブリックナラティブ(3回)
・「リーダーシップ基礎とは何か」という大きな問いを自ら考えるところから始め、論理的思考力や集団力学等の分析技術、コーチングや交渉の体験を経て、最終的に個々人のリーダーシップ・コミットメントの構築を目指す設計
・授業スタイルは、デューイの「人は経験から学ぶ」という教育哲学に基づくアクティブラーニング(一方的講義を最小限にし、演習・グループディスカッション・プレゼン・全体討議・即時投票システムを多用する参加型学習)が主軸
・経験学習型のため、特別な理由のない欠席は一切認めない方針。3年生には就活・インターンと重なる多忙期だったが、出席率は平均87%と高水準
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■4. 結果①:全体の分布の変化
▼受講前
・第2→第3段階への移行期(2<S<3):32%
・第3段階(S=3):32%
・第3→第4段階への移行期(3<S<4):36%
・第4段階(S=4):0%
・ほぼ3分の1ずつに分かれ、第4段階の学生は皆無だった
▼受講後
・第2→第3段階への移行期:18%に減少
・第3段階:23%に減少
・第3→第4段階への移行期:50%に大きく上昇
・第4段階:新たに2名(9%)が到達
・つまり分布全体が「上の段階」へシフトした。高等教育の最終目標を「学生の第4段階(自己主導段階)への成長支援」と仮定するなら、大変希望の持てる実績と言える
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■5. 結果②:個別学生の変化
・22名中13名(59%)が段階間の顕著な発達を示した
・4カ月未満というのは、成人発達の観点では大変短い期間。その間に6割近い学生に顕著な変化が見られたことは、大学時代のリーダーシップ基礎教育が学生の発達に資する可能性を示唆する
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■6. 結果③:受講前の発達段階別に見た効果の違い
・受講前の段階でグループ分けして発達率を比較すると、興味深いパターンが出た
▼自己至上グループ(第2段階の特徴が主体:3名)
・顕著な発達を示したのは1名(33%)
▼社会化グループ(第3段階の特徴が主体:16名)
・顕著な発達を示したのは9名(56%)
▼自己主導グループ(第4段階の特徴が主体:3名)
・3名全員(100%)が顕著な発達を示した
・つまり、発達段階が高い学生ほど、この講座からより大きな効果を得ていた
・著者らの解釈:本講座の主軸だったアクティブラーニングは、学生が主体性を持って多様な人々と協力し、問題を発見して解決策を見出す能動的学習。こうした学習形態は、もともと主体性の基盤がある(発達段階の高い)学生に対してより効果的なのではないか、と推察している
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■7. 結果④:各段階の学生の「生の声」
・論文では、各段階の意味付けの特徴(強み・盲点・成長可能分野)を、バーガーの解釈枠組みに基づいて説明し、実際の面談での代表的な発言を紹介している。一部を要約すると
▼第2段階(自己至上段階)の発言例
・「誰かに良いことをすると、その人たちにも良いことをしてもらえる」(他者への行動を損得・見返りで意味付ける段階の特徴)
・「入りたい組織の志望動機は、働いている人がかっこいいから、面白そうだから」(抽象的な目標ではなく具体的なニーズが優先)
▼第3段階(社会化段階)の発言例
・「自分の意思で大きな選択をした経験が少ない。敷かれたレールの上を走っている」
・「親の影響で進みたい業界を決めている」「大切な人に認めてもらえると嬉しい、必要とされると幸せ」(他者や所属集団の期待・評価が自己を形成している段階の特徴)
・「周りが就活していると焦り、本当に院に進んでいいのか不安になる。周りの大多数に合わせられれば安心できる」
▼第3→第4段階の移行期の発言例
・「自分のオリジナリティを出して主体的に行動したい。でも周りの影響をすごく気にする自分がいやだ」(新しい段階と前の段階の間で葛藤する様子)
▼第4段階(自己主導段階)の発言例
・「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。周りの軸ではなく、自分の軸で選べば満足できる結果を得られるのではないか」
・「『成功』は未来にいる言葉。自分がこういうふうにしたいと思い、導くことであって、過去にやったことに対して『あれは成功だった』と思うものではない」(他者の意見に関わらず独自の定義付けができる)
・「リーダーシップの授業を受ける前は、いつか結婚するだろうな、くらいにしか思わなかったけれど、自分の選択肢を広げるキャリアを積みたいと思うようになった。自分の手で進路を選び歩んでいきたいと思えたとき、目標/欲が生まれた」
・なお、第4→第5段階の移行中の該当者は被験者にいなかったため、第5段階の引用はない
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■8. 考察:本調査の意義
・日本の高等教育機関でのリーダーシップ教育の効果を、成人発達理論の視点から包括的に測定した日本初の科学的な取り組み
・特に、キーガンの構成主義的発達理論と主観・客観面談を本格採用した点で意義が大きい
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■9. 考察:課題と限界(著者ら自身が指摘)
▼サンプルの課題
・22名は統計的な優位性を示すには少ないサンプル数
・参加者の募集は「リーダーシップをテーマにした実験的講座」という前提での希望者制、調査参加も自主参加。結果として、リーダーシップへの関心・意識が高い学生が集まった可能性があり、サンプリングバイアス(偏った対象者選定により結果が歪む問題)が生じた可能性がある
▼因果関係の課題
・受講していない学生からなるコントロール群(比較対照群)を設けなかったため、観察された発達が講座によるものか、他の要因によるものか判定が難しい
・特に面談期間(9月〜翌1月)は、3年生にとって就活の最中。インターン、採用面談、OB訪問など、通常の学生生活では得られない幅広い社会経験を積む時期と重なっており、そうした社会経験が成長を後押しした可能性も考えられる
▼今後の方向性
・調査対象の学生数・講座数を増やした大規模調査
・定量分析に加え定性分析を組み合わせた混合研究法(数値データと記述データの両方を統合する研究アプローチ)によるデータ収集・分析
・コントロール群との比較検証
・成人発達は長期にわたって推移するため、長期的な追跡調査
・著者らは、本論文を足がかりに調査・分析が進展すれば、日本のリーダーシップ基礎教育は大きく発展し、より多くの優秀なリーダーを輩出する国へ変貌できると結んでいる
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■読む際の注意点(補足)
・本研究は事前事後比較のみでコントロール群がなく、統計的検定も行われていないため、「講座が発達を引き起こした」という因果関係の証明ではなく、あくまで探索的な第一歩と位置付けるのが適切
・発達段階の判定は認定評価者2名の相互評価という手続きを踏んでいるが、面談ベースの質的評価であることにも留意
【講座内容】
■講座の基本情報
・名称:パイロット講座「リーダーシップ基礎」
・開講:慶應義塾大学 2015年秋学期(10月3日〜12月21日)
・形式:12週間・全12回のオムニバス形式(毎回異なる講師・テーマで構成)
・受講生:学部生31名
・出席方針:経験学習型という性格上、特別な理由のない欠席は一切認めない。結果、就活期の3年生を多く含みながら全講義平均87%の出席率
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■全12回のスケジュールと担当講師
・第1回 10月3日(土) 13:00-15:00 リーダーシップ① 渡邊竜介
・第2回 10月3日(土) 15:30-18:00 リーダーシップ② 渡邊竜介
・第3回 10月5日(月) 16:30-19:30 リーダーシップ③ 渡邊竜介
・第4回 10月19日(月) 16:30-19:30 コーチング 富岡洋平
・第5回 10月26日(月) 16:30-19:30 クリティカルシンキング① 福原正大
・第6回 11月2日(月) 16:30-19:30 クリティカルシンキング② 福原正大
・第7回 11月9日(月) 16:30-19:30 レトリック 渡辺泰之
・第8回 11月16日(月) 16:30-19:30 グループ ダイナミックス 田村次朗
・第9回 11月30日(月) 16:30-19:30 ネゴシエーション 田村次朗
・第10回 12月7日(月) 16:30-19:30 パブリックナラティブ① 鎌田華乃子
・第11回 12月14日(月) 16:30-19:30 パブリックナラティブ② 鎌田華乃子
・第12回 12月21日(月) 16:30-19:30 パブリックナラティブ③ 鎌田華乃子
初回のみ土曜に2コマ連続、以降は月曜夕方の3時間枠が基本です。
ーー
■カリキュラムの設計思想
・米国の高等教育機関で主流となっている、リベラルアーツを中心に据えたリーダーシップ基礎教育の提供を目指した
・世界最先端のリーダーシップを学生が修得できるプログラムを目指し、世界各国でリーダーシップ基礎教育に携わってきた講師を招聘
・流れとしては、
▼まず「リーダーシップ基礎とは何か」という大きな問いを自ら考えるところからスタート
▼論理的思考力、集団力学等の実践的な分析技術を学ぶ(クリティカルシンキング、グループダイナミックス等)
▼コーチングや交渉(ネゴシエーション)を実際に体験する
▼その中で総合的な問題解決能力を養う
▼最終的に、人々を動かすリーダーとなる上で最も重要となる、個々人の「リーダーシップ・コミットメント」の構築を目指す(パブリックナラティブがその集大成に位置づく構成)
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■授業スタイル(アクティブラーニング)
・「人は経験から学ぶ」というジョン・デューイの教育哲学(Dewey, 1938)に基づき、アクティブラーニングの手法を主軸に、経験と概念の組み合わせに重きを置いたスタイル
・具体的には、
・旧来の講師による一方的な講義をできる限り少なくする
・演習、グループ・ディスカッション、プレゼンテーション、全体討議を多数盛り込む
・状況に応じて携帯電話を活用した即時投票システム(イマキク)も活用し、講師と学生、学生間の双方向コミュニケーションが活発になる授業形式を主体とする
・こうした学生参加型プログラムを多数用意することで、学生が試行錯誤を繰り返しながら学べる「実験室」のような学習環境の整備を狙った
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はぴテク相談室:「周りに合わせちゃう自分」は卒業できるのか?の話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-15-1786767480/
動画形式での紹介はこちら
https://youtu.be/hX19sxOvKYM