はぴテク相談室:「周りに合わせちゃう自分」は卒業できるのか?の話
はぴテクさん、聞いてください。私、就活中なんですけど、周りが動き出すと焦って、本当は大学院も考えてるのに「みんなが就活してるから就活しなきゃ」ってなっちゃうんです。
なるほど。「自分がどうしたいか」より先に、「周りがどうしてるか」が目に入ってくる感じですね。
まさにそれです。周りの大多数に合わせられれば安心なんですけど、これでいいのかなって…。こういう性格って、もう直らないんですかね?
実は、それ「性格」というより「発達の段階」かもしれません。ハーバード大学のキーガン教授の「成人発達理論」という考え方があるんです。
成人発達理論?大人になっても発達するんですか?
するんです。子どもが段階を経て成長するように、大人の「心の成熟」もいくつかの段階を経て進むことが分かっています。ただし、年を取れば自動的に進むわけではない、というのがミソで。
へえ…。どんな段階があるんですか?
大学生や社会人に関係が深いのは3つ。第2段階は「自分の損得で動く」段階。第3段階は「周りの期待に応えて生きる」段階。第4段階は「自分の軸で決めて生きる」段階です。
うっ…私、完全に第3段階です…。それってダメな段階なんですか?
いえいえ、実は大人の大多数が第3段階なんですよ。しかも、周りの気持ちを理解して、チームに貢献できるのはこの段階の立派な強みです。ダメどころか、社会はこの力で回っています。
ちょっと安心しました。でも弱点もあるんですよね?
あります。他人の評価が自分の判断基準になっているので、大切な人たちの意見がぶつかると、引き裂かれて決められなくなる。あと、まさにあなたの悩みのように「周りと違う選択」に強い不安を感じます。
分かりすぎます…。ちなみに、この段階って変われるものなんですか?
いい質問です。ちょうど日本で面白い研究があって。慶應大学で「リーダーシップ基礎」という講座を受けた学部生22名を、キーガン理論の面談で講座の前後に診断したんです。日本初の試みです。
どうなったんですか?
たった4カ月で、59%の学生の段階が前進していました。講座前はゼロだった第4段階に到達した学生も2名。成人の発達としてはかなり短い期間なので、驚きの結果です。
えっ、授業で心が成熟するんですか?何を教わったんですか?
面白いのは、「答え」を教わったわけじゃないところ。講義は最小限で、演習、グループ討議、交渉の体験、プレゼン…と、学生同士がぶつかりながら試行錯誤する「実験室」みたいな授業だったそうです。
知識じゃなくて、経験なんですね。
そうなんです。「人は経験から学ぶ」というデューイの哲学がベースでした。多様な人と協力して、意見の対立を乗り越える経験そのものが、心の成熟を促した可能性があります。
私もその講座受けたい…。でも、受けた人がどう変わったのか気になります。
学生の生の声が残っています。ある学生は講座の後、就職先について「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。周りの軸ではなく、自分の軸で選べば満足できる結果を得られるのではないか」と語っています。
かっこいい…。私とは大違いです。
でもね、その手前の「移行期」の学生はこう言っています。「オリジナリティを出して主体的に行動したい。でも周りの影響をすごく気にする自分がいやだ」って。
…それ、今の私です。
そう、実はそれが大事なポイントで。「周りに合わせてる自分がモヤモヤする」という感覚は、第3段階に安住している人には出てこないんです。モヤモヤは、次の段階への移行が始まっているサインとも読めます。
えっ、この悩み自体が成長の証なんですか?
その可能性が高い。キーガン理論では、今まで「自分と一体化して疑えなかったもの」…あなたの場合は「周りの目」ですが…それを一歩引いて眺められるようになることが、発達そのものなんです。「周りに合わせちゃうな、私」と気づけている時点で、もう眺め始めています。
なるほど…。じゃあ私は今、何をすればいいんでしょう?
研究から言えるヒントは2つ。1つ目は、安全に試行錯誤できる場に飛び込むこと。ゼミでも、部活でも、意見の違う人と本音で対話する経験が発達の材料になります。
2つ目は?
小さな選択から「自分の軸」で決める練習をすること。いきなり進路で「周りを無視」は無理です。ランチでも、履修でも、「みんなが選ぶから」ではなく「自分はこうしたいから」で決めてみる。周りの意見は、無視するんじゃなくて「参考資料」に格下げするイメージです。
参考資料に格下げ、いいですね(笑)。ちなみに周りの期待に応えてきた今までの自分は、否定しなくていいんですか?
むしろ否定しちゃダメです。キーガン理論では、次の段階は前の段階を「含んで超える」もの。周りの気持ちが分かる力はそのまま持ったうえで、最後の決定権だけ自分に取り戻す。それが第4段階です。
含んで超える、かぁ。なんだか、焦りが少し楽しみに変わってきました。
いいですね。ひとつだけ正直に言うと、この研究は22名と少人数で、比較対象のグループもいない探索的な第一歩です。就活時期の社会経験が成長を後押しした可能性も著者自身が指摘しています。ただ「大人の心は、経験によって何歳からでも成熟しうる」という視点は、あなたの今のモヤモヤを捉え直す道具になるはずですよ。
■ 今日のまとめ
- 大人の心も段階的に成熟する。「周りの期待に応えて生きる」第3段階は大人の大多数であり、欠点ではなく強みも持つ立派な段階
- 「周りに合わせる自分がモヤモヤする」は、次の「自分の軸で生きる」段階への移行が始まっているサインかもしれない
- 発達を促すのは知識より経験。対話や試行錯誤の場に身を置き、小さな選択から「自分の軸」で決める練習を
■ 出典・注意事項
- 田村次朗・渡邊竜介・渡邊理佐子 (2019). 日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証:ハーバード大学ロバート・キーガン教授の成人発達理論の視点から. 法學研究, 92(3), 1-29.
- 本研究は受講生22名・比較対照群なしの探索的研究であり、講座と発達の因果関係が証明されたわけではありません。発達段階に優劣はなく、個人の価値を測るものでもありません。
論文紹介はこちら😊
リーダーシップの授業で、大学生は発達段階が高まるのか?
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-15-1786767240/