2025.11.13

人事施策とウェルビーイング~施策の意図を明確に伝えることが大事~

基本的には、企業における人事施策は、その意図が伝わっていると効果が高まります。(HR帰属)

なのですが、ウェルビーイング志向の人事施策では、その意図や解釈が人や施策によってバラついている。

し、経営層や人事の意図と、働く人の解釈がズレていることも多かった。

※安全志向の人事施策では、そんなにバラつかないし、ズレていない。


例えば、長時間労働を減らす取り組みでも、

ワークライフバランスにつなげるためと思う人もいれば、

メンタル不調を防ぐ為と思う人もいれば、

社会課題への対応であると考える人もいる。

(個人的には、ウェルビーイング志向の人事施策は効果の種類が多いというのもある気はします😊

一つの施策で色んな効果があるが故に、その目的の認知がバラつく)


なので、

ウェルビーイング志向の人事施策を行う場合には、

経営層・人事・管理職が連携して施策の意図を明確に伝えることが重要。

また、意図を拡張・変更する場合は、ちょっと時間をかけて解きほぐすのが大事😊


例えば、これまでは病気を防ぐ予防的なアプローチとして健康施策を実施してきたが、

これからは全員が元気でいきいき働けるよう、積極的なアプローチとして健康施策を行っていく。

という場合は、元々の意図が浸透しているので、アンラーニングなどのプロセスも大事。


ウェルビーイング志向の人事施策に対する従業員のHR帰属

森永 雄太先生

組織科学,2025/11

https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/59/1/59_20251108-3/_article/-char/ja

本研究の目的は,ウェルビーイング志向のHR施策群に関するHR帰属の構造を明らかにした上で,日本企業で生じているウェルビーイング志向のHR施策に関するHR帰属の不一致の種類や影響を検討することである.A社B事業部に勤務する従業員に対する調査の結果,ウェルビーイング志向の人事施策に関するHR帰属の修正版の枠組みを提示するとともに,施策の意図に関する3つの不一致が生じていることを明らかにした.

組織科学 Vol.59 No.1:29-39(2025) 【招待論文】 ■ 特集/ウェルビーイング ウェルビーイング志向の人事施策に対する 従業員のHR帰属 本研究の目的は、ウェルビーイング志向のHR施策群に関 する HR 帰属の構造を明らかにした上で、日本企業で生じて いるウェルビーイング志向のHR施策に関するHR帰属の不 一致の種類や影響を検討することである。A社B事業部に勤 務する従業員に対する調査の結果、ウェルビーイング志向の人 事施策に関するHR帰属の多次元版の特徴を提示するとともに、 施策の意図に関する3つの不一致が生じていることを明 らかにした。 ■ 森永 雄太(早稲田大学 グローバル・エデュケーション ・センター 教授) ■ キーワード: 人的資源管理、HR帰属、ウェルビーイング
投稿者による補足(3件)
補足 1

【背景と先行研究】

■ 研究の背景

日本企業は優秀な人材の確保と多様な人材の活用が重要な経営課題となっています(守島, 2021)。この中で注目されているのが、従業員のウェルビーイングとそれを高める人事管理です(森永, 2022)。

ただし、先行研究は重要な点を指摘しています。それは「ウェルビーイングを重視した人事施策を導入するだけでは十分ではない」ということです。


■ 人事施策研究の2つの流れ

人事施策の先行研究は大きく2つに分けられます(Katou et al., 2014):

▼ 1. 施策の「内容」に注目する研究

これまで蓄積されてきたウェルビーイング志向の人事施策研究の多くはこちらです。

  • Guest(2017)の理論的枠組み
    従業員に対する5種類の人事施策群が、従業員のウェルビーイング向上と良好な雇用関係の形成を介して、組織と個人の成果に結びつくという枠組みを提唱しました。
    5種類の施策:
    ①従業員に対する投資
    ②魅力的な仕事の提供
    ③良好な社会的・物理的環境の創造
    ④発言機会
    ⑤組織的支援
  • Ngo et al.(2023)の実証研究
    ウェルビーイング志向の人事施策群が「心理的資本」を高めることを介して、ウェルビーイングを高めることを実証的に明らかにしました。
    ※心理的資本:自己効力感、希望、楽観性、レジリエンスなど、個人の心理的な資源のこと
▼ 2. 施策を「実践するプロセス」に注目する研究

こちらの探究は十分に行われていませんでした。今後は内容に関する研究成果を踏まえた、実践プロセスの探究が求められます。


■ HR帰属という鍵概念

人事施策の実践プロセスを解き明かすための鍵概念の1つが「HR帰属」です(Hewett, 2021)。

▼ HR帰属とは

「人事施策が実施されている理由について従業員が抱く認知」のことです。
※HR attribution(Human Resource attribution)の訳語

▼ なぜHR帰属が重要か

HR帰属が異なる場合、人事施策が従業員に与える効果が異なることが明らかにされています(Nishii et al., 2008)。

つまり、同じ施策でも「なぜこの施策があるのか」について従業員がどう解釈するかによって、その効果が変わってくるのです。


■ Nishii et al.(2008)の枠組み

HR帰属に関する研究は欧米で蓄積されつつありますが、その多くがNishiiらによって提唱された枠組みを採用しています。

▼ 5つのHR帰属カテゴリー

Nishii et al.(2008)は、社内の幅広い人事施策に適用できるHR帰属として、以下の5つを提示しました:
①サービスや品質を高めるため
②コスト削減のため
③従業員ウェルビーイングを高めるため
④従業員から搾取するため
⑤組合の要求に対応するため

▼ 内的帰属と外的帰属

帰属理論(Heider, 1958)の観点から、これらを2つに分類しました:

  • 内的帰属:物事の原因を自分自身(この場合は組織自身)によるものと認識
    → 上記の1~4が該当
  • 外的帰属:自身とは異なる存在(他者や環境)によるものと認識
    → 上記の5が該当
    ※帰属理論:人が出来事の原因をどのように推測・解釈するかを説明する理論

■ 関連研究の知見

▼ Dawson et al.(2023)

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)施策に対する従業員のHR帰属が、D&Iに対するモチベーションに与える影響を分析しました。

結果:帰属の違いによってモチベーションが変化することを明らかにしました。


■ 既存研究の課題

本研究に適用する際には、以下の課題があります:

▼ 課題1:外的帰属の分類が粗い

外的帰属に含まれる帰属が「雑駁な分類にとどまっている」と指摘されています(Hewett, 2021)。従業員が人事施策の実践において見出す組織外部の要因について、より精緻化していく必要があります。

▼ 課題2:日本企業への適用可能性が不明

Nishii et al.(2008)で提示された5つのカテゴリーは、米国における1社の調査をもとに提示されたものです。

特に「組合対応」は米国の産業別組合を想定していると考えられます。企業内労働組合が多いとされる日本の企業で働く従業員のHR帰属を捉えるには、日本企業での調査が必要です。


■ 本研究の2つの研究課題

これらの課題を踏まえて、本研究は以下を設定しました:

▼ 研究課題1

日本企業で働く従業員のウェルビーイング志向の人事施策に関するHR帰属には、どのような種類があり、どのように整理できるのか?

▼ 研究課題2

ウェルビーイング志向の人事施策に関するHR帰属について、組織内でどのような不一致が生じ、どのような影響を与えうるのか?


■ 関連する理論概念

▼ 「強い」HRM実践(Bowen & Ostroff, 2004)

経営者と人事、現場の管理職が一体となって人事施策を実践することの重要性を指摘した理論です。

▼ 制御焦点理論(Higgins, 1998)

個人が望ましい目標を達成するために自己制御する際の2つの動機付けプロセスに注目する理論:

  • 促進焦点:獲得を最大化するために接近志向の戦略を採用
  • 予防焦点:損失の最小化のために回避的戦略を採用
    本研究では、この理論を応用してHR帰属のカテゴリーを整理しています。

以上が本研究の前提となる既存研究の整理です。従来の研究は施策の「内容」に注目していましたが、本研究は施策の「実践プロセス」、特に従業員がその施策をどう解釈するか(HR帰属)に注目している点が新しいアプローチです。

補足 2

【研究内容詳細】

■ 調査対象企業の概要

▼ A社B事業部
  • 東京証券取引所プライム市場上場の日本の大手メーカー
  • B事業部はシステムの企画・構築・運営などを担当
  • 従業員数:258名(男性208名、女性50名)
  • 役職:課長職以上30名、課長職未満228名
  • 職種:技術職168名、その他(事務職・営業職など)90名
  • 年齢層:50代(32.2%)と20代(32.2%)が多い
▼ この企業・事業部を選んだ理由
  • A社が従業員のウェルビーイングを高める取り組みを推進している
  • B事業部はA社の中でやや異色(製造現場を持たず、全社的取り組みがフィットしないこともある)
  • 施策について多様な捉え方が存在する可能性が高い
補足 3

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:人事施策とウェルビーイング施策の意図を明確に伝えることが大事
https://archive.happytech.co.jp/posts/2025-11-13-1763077205/

論文紹介 ウェルビーイング経営・人的資本職場・働く幸せ

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