慶應大学のリーダーシップ講座の効果を、ハーバードの「成人発達理論」で測った日本初の研究。
受講した学部生22名に、講座の前後でインタビュー調査。
使ったのは、キーガン教授(ハーバード大)の発達段階という物差し。
ざっくり言うと、
- 第2段階:自分の損得で動く(自己至上、レッド)
- 第3段階:周りの期待に応えて生きる(社会化、アンバー)※大人の大多数はここ
- 第4段階:自分の軸で決めて生きる(自己主導、オレンジ)
年齢を重ねれば自動的に上がる、というものではないのがポイント。
結果は、
- わずか4カ月で、22名中13名(59%)の発達段階が前進!
- 講座前はゼロだった第4段階(自分の軸で生きる)に、2名が到達。
成人の発達としてはかなり短期間なので、これは結構すごいこと。
学生の生の声が、段階の違いをよく表してます。
第3段階:「周りが就活していると焦る。周りの大多数に合わせられれば安心」
移行期:「オリジナリティを出したい。でも周りの影響を気にする自分がいや」
第4段階:「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。自分の軸で選べば満足できる」
同じ「進路」の話でも、意味付けが全然違う。
ただし面白いのは、
もともと発達段階が高い学生ほど、効果が大きかったこと。
(第2段階中心:33%、第3段階中心:56%、第4段階中心:100%が前進)
講座は演習・討議中心のアクティブラーニングだったので、
主体性の土台がある人ほど恩恵を受けやすかったのかも。
注意点としては、
- 比較対照群なしの22名の調査なので、あくまで第一歩。
- 面談時期が就活シーズンと重なっていて、就活経験が成長を後押しした可能性も著者ら自身が指摘。
それでも、
「リーダーシップ教育=スキルを教えること」ではなく、
「その人の世界の見方(意味付け)そのものが成熟すること」
を狙って、それを測ってみた、というのが面白いところ。
周りの期待に応える生き方から、自分の軸で選ぶ生き方へ。
大学の4年間(あるいは大人になってからの学び)って、
本来こういう変化のためにあるのかもしれませんね
対象は慶應の商学部、3・4年生。レッドの方もいて、アンバーが主流。というのも面白いです。
あくまで、1つの授業の参加者ですが。
添付エクセルに、生の声を書き起こしています😊
日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証:ハーバード大学ロバート・キーガン教授の成人発達理論の視点から
田村次朗・渡邊竜介・渡邊理佐子
法學研究(慶應義塾大学法学研究会)92(3), 1-29, 2019/3
https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00224504-20190328-0001
「リーダーの器」は科学的に大きくできるか? ハーバード大・キーガン教授の「成人発達理論」から紐解く、次世代リーダー育成の劇的な効果検証 Based on research from Keio University(日本の大学におけるリーダーシップ基礎教育の科学的効果検証) Cornell Notebook 現代のパラドックス:優秀だが、社会を変える自信がない若者たち 世界最高レベルの 教育水準 (PISA/TIMSS 調査結果より) 「社会を変えられる 確たる意識がない」 (内閣府 平成26年度 若者意識調査より) 知識やスキル(How to)を教える従来の教育では、VUCA時代(変動的で不確実な世界)を生き抜くリーダーは育たない。必要なのは「人間の内面」へのアプローチである。 リーダーシップ開発の「氷山モデル」 スキル・行動様式 (技術的知識、課題分析力など) 倫理・価値観 (目標設定、アイデンティティ) 意味付け・認識力 (自分や社会をどう認識するか) 「即効性はあるが、 時代に左右されやすい表層」 「持続性の高い本質的な リーダーシップ能力 =成人発達理論の領域」 真のリーダー育成は、水面下の最も深い層である 「精神面の成熟度」を高めることに注力すべきである。 Germick Notebook 人間の器はどう大きくなるのか? (主観と客観のメカニズム) 主観(Subject)- 支配されている状態 自分の一部であり、見えないため 疑う余地がない真実(盲点)。 客観(Object)- 制御している状態 枠組みを様々な角度から検証し、 自ら制御できる状態。 発達とは、「主観(無意識の思い込み)」を切り離し、「客観」へ変換していくプロセスである。 Genius Notebook 成人発達理論:精神的成熟の階段 第4段階【自己主導段階】(Self-Authored) 自分軸と独自の規範の世界(一部の成人) 第3段階【社会化段階】(Socialized) 他者の期待と所属の世界(大多数の成人) 第2段階【自己至上段階】(Imperial) 自身の欲求とルールの世界(一部の成人) (※第1段階は幼児期、第5段階「自己変容」は中年期以降の極く一部のため、大学生の焦点は第2~第4段階となる) 第2段階:自己至上段階(利害とルールの世界) 主観のメカニズム [行動] → [直接的報酬] 二者択一の思考(善か悪か、自分の利益か、他者を「自分の欲求を満たす味方か徹底か」で判断する。 「人に優しくすることが自分につながるのだと思った。別の人間たちもいつかくる見返りを考えているのかもしれない」 「高い収入を得て良い物を買い、色々な場所に旅したいので、稼ぎたい。そのために出世したい!」 © Gamified Notebook 第3段階:社会化段階(空気と期待の世界) 主観のメカニズム 家族 集団 社会 所属する組織や大切な人の期待を「自分のもの」として内面化する。慣慣的市民だが、価値観が衝突した時に決断を下す術を失う。 「自分の意思で大きな選択をした経験が少ない。敷かれたレールの上を走っている」 「周りが就活していると焦り不安になる。周りの大多数に合わせられば安心できるのだが」 「批判された時に自分の自信のなさが露呈した。組織に対する忠誠心が強い」 第4段階:自己主導段階(自分軸と信念の世界) 主観のメカニズム 周りの意見を客観的に考えしつつ、それに振り回されず独自の規範を定める。予言するシステムを調整し、決断する力を持つ。VUCA時代のリーダーの最低条件。 「社会が決めた軸に沿って生きる必要はない。周りの軸ではなく、自分の軸で選べば、自分が満足できる結果を得ることができる」 「『成功』というのは未来にいる言葉。過去にやったことに対して『あれは成功だった』と思うものではない」 「自分の信念や判断軸は保ちながら、各々の判断軸に柔軟になろうと思った」 発達段階の比較・診断マトリクス 第2段階(自己至上) 第3段階(社会化) 第4段階(自己主導) 強み 単純明快な目標への適進 組織への忠誠と高い協調性 予盾の統合と独自の使命感 盲点 他者への共感・抽象的概念の欠如 相反する期待の板挟みによる決断停止 自身の価値観への固執、異質な概念への寛容性不足 成長の鍵 他者の視点の理解 権威への絶対視をやめ、持論を持つ 自らの持論の限界を知り拡張する Gemini Notebook 慶應義塾大学の挑戦:パイロット講座「リーダーシップ基礎」 Target 大学生22名(事前・事後の主観・客観面談を実施) Duration 2015年秋学期(約4ヶ月間・全12回) Methodology ジョン・デューイの教育哲学に基づく「アクティブ・ラーニング」。一方的な講義を削り、演習、対話、コーチング、交渉などの「経験」と「概念」を組み合わせた実験室的環境。 果たして、たった4ヶ月の大学の授業で、 人間の「精神的成熟度(器)」は変化するのか? わずか4ヶ月で起きた劇的なパラダイムシフト 受講前 S=3: 32% 2<S<3: 32% 3<S<4: 36% S=4: 0% 受講後 3<S<4: 50% S=3: 23% 2<S<3: 19% S=4: 9% 59% (13/22名) 参加者の約6割が、成人発達の視点では極めて短期間(4ヶ月)で「頴慧な発達」を記録。第4段階(自己主導)へ到達する学生も出現。 Gemini Notebook 「能動的学習」と相性が良いのは誰か? 33% 第2段階グループ (1/3名が顕著な発達) 56% 第3段階グループ (9/16名が顕著な発達) 100% 第4段階グループ (3/3名が顕著な発達) アクティブ・ラーニング(主体性を持ち多様な人々と協働する能動的学習)は、発達段階がより高い(第3・第4段階へ足並み入れている)学生に対して、さらに強い成長のブーストをかける効果がある。 Gamba Notebook 日本の教育の未来へ:真のリーダーを育てる条件 スキルのインストールから、器の拡張へ。 表面的なテクニックではなく、複雑な世界を客観視できる 「自己主導段階(第4段階)」への到達を高等教育の最低目標とする。 安全な「実験室」を提供する。 他者の期待(第3段階)から抜け出し、自己の信念(第4段階)を形成す るためには、試行錯誤と対話が許される環境が不可欠である。 「リーダーシップとは教えられるものではない。自らの内なる 主観を脱ぎ捨てた時、初めて発揮されるものである。」 Cornell Notebook 【表4-6統合】 表4〜6 発達段階別の意味付け(強み、盲点、成長可能分野)と代表的な引用(統合版) 表 発達段階 項目 種別 内容 論文の注記 表4 第2段階(自己至上段階) 強み 意味付けの説明 単純明快な仕事をこなすことが重要である場合、自己至上段階の人はその本領を発揮できる。正解と不正解、善と悪などのはっきりとしたイメージがあり、外部からのルールや報酬や賞金というインセンティブで向かうべき方向性を指示されれば、前進できる。 レッド 表4 第2段階(自己至上段階) 強み 代表的な引用 「誰かに良いこと
【背景】
■1. 出発点:日本の若者は「学力は高いが、社会を変える自信がない」
■2. 米国のリーダーシップ教育と、その「うまくいっていない部分」
■3. 「持続するリーダーシップ能力」とは何か:3階層モデル
▼表層:技術的知識、課題分析力、決断力などのスキル・行動様式
▼中層:目標設定、倫理観・価値観などを掌るリーダーとしてのアイデンティティ
▼最深層:自分自身や所属組織・社会をどう意味付け、認識するかという「精神面の資質」
■4. 精神面の発達度とリーダーシップ能力の相関
■5. 成人発達理論(Adult Development Theory)の系譜
■6. キーガンの構成主義的発達理論(Constructive Developmental Theory)
▼構成主義(Constructivism):人は経験をありのまま受け入れるのではなく、自己の解釈に基づいて独自に意味付け(構成)するという考え
▼発達理論(Developmental Theory):その解釈力が、時間や意識によって、より複雑なレベルに段階的に発達するという考え
■7. 測定手法:主観・客観面談(Subject-Object Interview)
■8. 大学教育への示唆:ウェストポイントの縦断研究
■9. 講座設計の理論的裏付け
■まとめ:既存研究の論理の流れ
【研究内容】
■1. 研究の目的(おさらい)
■2. 調査方法
▼対象者
▼手法:主観・客観面談(Subject-Object Interview)
▼面談の進め方
■3. 検証対象となった講座「リーダーシップ基礎」
■4. 結果①:全体の分布の変化
▼受講前
▼受講後
■5. 結果②:個別学生の変化
■6. 結果③:受講前の発達段階別に見た効果の違い
▼自己至上グループ(第2段階の特徴が主体:3名)
▼社会化グループ(第3段階の特徴が主体:16名)
▼自己主導グループ(第4段階の特徴が主体:3名)
■7. 結果④:各段階の学生の「生の声」
▼第2段階(自己至上段階)の発言例
▼第3段階(社会化段階)の発言例
▼第3→第4段階の移行期の発言例
▼第4段階(自己主導段階)の発言例
■8. 考察:本調査の意義
■9. 考察:課題と限界(著者ら自身が指摘)
▼サンプルの課題
▼因果関係の課題
▼今後の方向性
■読む際の注意点(補足)
【講座内容】
■講座の基本情報
■全12回のスケジュールと担当講師
初回のみ土曜に2コマ連続、以降は月曜夕方の3時間枠が基本です。
■カリキュラムの設計思想
▼まず「リーダーシップ基礎とは何か」という大きな問いを自ら考えるところからスタート
▼論理的思考力、集団力学等の実践的な分析技術を学ぶ(クリティカルシンキング、グループダイナミックス等)
▼コーチングや交渉(ネゴシエーション)を実際に体験する
▼その中で総合的な問題解決能力を養う
▼最終的に、人々を動かすリーダーとなる上で最も重要となる、個々人の「リーダーシップ・コミットメント」の構築を目指す(パブリックナラティブがその集大成に位置づく構成)
■授業スタイル(アクティブラーニング)
会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:「周りに合わせちゃう自分」は卒業できるのか?の話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-15-1786767480/
動画形式での紹介はこちら
https://youtu.be/hX19sxOvKYM