はぴテク相談室:「人にはやさしいのに、自分には厳しい」のはなぜ?
はぴテクさん、こんにちは。私、週末に実家の母の様子を見に行くのが日課なんですけど、これがけっこう楽しくて。母の昔話を聞いたり、一緒にお茶したり。
でもね、たまに疲れてイライラしちゃう日があるんです。そのあと「私ってダメだな」って自分を責めちゃって。友だちが同じ話をしたら「そんなの当たり前だよ」って言ってあげられるのに、自分には言えないんですよね。
こんにちは。お母さまと過ごす時間を楽しめているの、素敵ですね。そして「人にはやさしく言えるのに、自分には言えない」というの、とてもよく分かります。
実は、同じように高齢の家族などを介護している人210人を対象にした香港の研究があって、まさに「やさしさの向き」について調べているんです。
やさしさの向き、ですか?
はい。この研究では、思いやり(コンパッション)を3つの「流れ」に分けて考えています。
一つ目は「他人への思いやり」、二つ目は「他人から受け取る思いやり」、三つ目は「自分への思いやり」。
あなたの場合、一つ目はとても豊かなのに、三つ目がちょっと細くなっている、という感じかもしれませんね。
あ、まさにそれです! でも、自分への思いやりって、どうやって育てればいいんでしょう。「もっと自分を大事に」って言われても、ピンとこなくて。
そこがこの研究の面白いところなんです。研究チームは、「自分をどういう存在として捉えているか」という見方と、思いやりの関係を調べました。
ざっくり言うと、「自分は自分、という独立した感覚」が強い人と、「自分は周りの人との関係の中にいる、というつながりの感覚」が強い人、どちらの傾向もみんなの中に多少ずつあるんですね。
私はたぶん「つながりの感覚」が強いタイプだと思います。母のこともそうだし、周りの期待に応えなきゃって思いがち。
なるほど。研究の結果では、「つながりの感覚」が強いことは、「他人への思いやり」の高さとは関連していました。でも、「自分への思いやり」とは関連が見られなかったんです。
一方で、「自分は自分」という独立した感覚が強いことは、「他人への思いやり」とも「自分への思いやり」とも関連していました。
えっ、意外です。周りを大事にする人のほうが、やさしい人なんだと思ってました。
もちろん「つながりの感覚」も他人へのやさしさとつながっていたので、どちらが良い悪いではないんです。ただ、自分へのやさしさに関しては、「自分の気持ちや限界を自分のものとして認める」感覚が関係しているのかも、という見方ですね。
そして研究では、その間をつなぐものとして「弁証法的思考」というものに注目しています。
べ、弁証法的……? 難しそう……。
言葉は難しいですが、中身はシンプルです。「矛盾することが同時にあってもいい」と受け止められる考え方のこと。
たとえば「母といるのは楽しい」と「母といると疲れる」。この二つ、矛盾しているようで、どちらも本当ですよね。それを「どっちかが本音で、どっちかはウソ」と決めつけず、「両方あるのが自然」と思える力です。
研究では、この「矛盾を受け止める態度」が、「自分への思いやり」と一番強く関連していて、「他人への思いやり」ともほどほどに関連していました。
なるほど……。私、「イライラした」=「母を大事に思ってない」って、自分で勝手に結論づけてたかも。
そうなんです。「イライラもするし、大事にも思っている」。その両方を抱えたままでいられると、自分を責める必要が減ってきますよね。
研究チームも、自分への思いやりを育てるには「矛盾に耐えること、いろいろな見方を考えること、難しい経験にバランスよく向き合うこと」が役に立つかもしれない、と述べています。
ちょっと気が楽になりました。あ、でも「他人から受け取る思いやり」はどうだったんですか? 私、人に頼るのも苦手なんです。
いいところに気づきましたね。実は「他人から受け取る思いやり」は、自分の捉え方とも、矛盾を受け止める態度とも、はっきりした関連が見られなかったんです。
研究チームは、受け取る思いやりは「自分がどう考えるか」より、「助けを求める気持ちがあるか」「周りの雰囲気はどうか」「実際に支えてくれる人がいるか」といった別の要素が関係しているのでは、と考えています。
だから、自分へのやさしさと、人から受け取るやさしさは、別々に育てていくものなのかもしれませんね。
へえ〜。じゃあ、まずは「楽しいし疲れる、両方OK」って自分に言ってみて、そのうえで「ちょっと手伝って」って誰かに言ってみようかな。
それ、とても良い一歩だと思います。もちろんこの研究は「こういう傾向の人はこうだった」という関連を見たもので、「こうすればこうなる」と証明したわけではありません。でも、やさしさの向きを一度整理してみると、自分の中の「細くなっている流れ」が見えてきますよ。
お母さまとの楽しい時間も、疲れる日も、どちらもあなたの大事な日常。両方まるごと、大切にしてあげてくださいね。
■ 今日のまとめ
- 思いやりには「他人へ」「他人から」「自分へ」の3つの流れがある。自分がどの流れが細いか眺めてみるのが第一歩。
- 「楽しい」と「疲れる」のように矛盾する気持ちを両方認める態度は、「自分への思いやり」と最も強く関連していた(因果ではなく関連)。
- 「他人から受け取る思いやり」は自分の捉え方とは関連が見られず、助けを求める気持ちや周りの支えなど、別の要素が関わる可能性がある。
■ 出典・注意事項
- Leung, D. K. Y., Chan, C. H. C., & Chan, K. K. K. (2027). Self-construal and the three flows of compassion: The role of dialectical thinking. Personality and Individual Differences, 265, 114116. https://doi.org/10.1016/j.paid.2026.114116
- 本研究は香港の高齢者介護者210名(女性75.2%)を対象とした一時点のオンライン調査(横断研究)です。見られたのは「関連」であり、原因と結果(因果関係)を断定することはできません。また、自己報告式の質問紙に基づいており、弁証法的思考は「矛盾への態度」の一側面のみを測定している点など、測定上の限界も論文で指摘されています。
- この対話はフィクションです(内容を分かりやすく伝えるための創作)。
研究自体の紹介はこちら😊
自分に優しくできる人は「白黒つけない人」
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-20-1792447920/