幸せの名言集

世阿弥の名言3選

室町時代の能楽師・能作者(1363?-1443?)。『風姿花伝』

「初心忘るべからず」

— 世阿弥 『花鏡』

原義は「未熟さの自覚を忘れるな」であり「最初の志」とはややニュアンスが異なる

「最初の志を忘れるな」と読まれがちだが、原義は「未熟だった頃の芸(とその自覚)を忘れるな」。上達した後も、できなかった時代の感覚を保ち続けよという世阿弥の芸論

心理学では
世阿弥のいう初心とは、未熟だった頃の芸とその自覚である。これは熟達研究でいう「熟慮された練習」(自分の弱点を見すえ、上達のために工夫した負荷の高い練習)や、知的謙虚さ(自分の知識の限界を認める姿勢)に通じる。Ericssonら(1993)は音楽学生を調べ、一流の演奏者ほど、こうした練習を長い年月にわたって積み重ねてきたことを示した。一方、Hinds(1999)の実験では、熟達者ほど初心者が課題にかかる時間を短く見積もり、できなかった頃の感覚を忘れやすいことが分かった。慣れた仕事ほど、つまずいていた頃の記録を読み返し、新人の戸惑いに耳を傾けることが次の上達につながる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗/Hinds(1999)「The curse of expertise: The effect…」 ↗
「時分の花を、まことの花と知る心が、真実の花になお遠ざかる心なり」

— 世阿弥 『風姿花伝』(15世紀初頭)

「まことの花」は稽古と工夫によってのみ得られると説く

若さゆえの一時的な魅力(時分の花)を、鍛錬で得た本物の実力(まことの花)と勘違いした瞬間に、成長は止まるという警告。若い頃の成功体験への慢心こそ、熟達の最大の敵だとする

心理学では
一時の評価を本物の実力と思い込む心は、心理学でいう「固定的マインドセット」(能力は生まれつき決まっているという考え)に近く、伸ばす努力を遠ざける。Blackwellら(2007)は中学生を追跡した縦断研究を行い、能力は伸ばせると考える生徒ほど、その後の成績が上向く傾向にあることを示した。またEricssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、上位の奏者ほど「意図的練習」(弱点を狙って負荷をかける練習)を長年積み重ねていたことを示した。うまくいった時こそ「これは時分の花か」と自分に問い、次に磨く一点を決める。その習慣が、歳を重ねても散らない花につながる。 参考:Blackwellら(2007)「Implicit Theories of Intelligence …」 ↗/Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗
「秘すれば花なり。秘せずば花なるべからず」

— 世阿弥 『風姿花伝』(15世紀初頭)

「花と、面白きと、めづらしきと、これ三つは同じ心なり」と続く

すべてを見せず、奥に秘めた部分を残すからこそ、観客の心に「花」(感動)が生まれるという演劇論。手の内を全部さらさない余白と奥行きが、芸の魅力の源泉だとする日本美学の代表的定式

心理学では
世阿弥の言葉は、心理学でいう「情報ギャップ理論」(知っていることと知りたいことの差が好奇心を生むという考え)と重なる。Loewenstein(1994)は好奇心の研究を整理し、手がかりの一部だけが示されて残りが見えない状態でこそ、人は強く引きつけられると論じた。Whitchurchら(2011)の実験では、女子大学生が男子学生のプロフィールを見たとき、相手が自分をどう評価したか分からない条件の人ほど相手のことを考え続け、より魅力を感じた。ただし親しい関係を深める場面では、適度な自己開示と組み合わせるとよい。発表や作品づくりでは、すべてを語り尽くさず、相手が思いをめぐらす余白を残すことが、心に残る表現につながる。 参考:Loewenstein(1994)「The psychology of curiosity: A rev…」 ↗/Whitchurchら(2011)「“He Loves Me, He Loves Me Not . . …」 ↗

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