幸せの名言集
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活動への没頭(フロー)、仕事のやりがい・有意味感、天職感、ジョブ・クラフティング。
「世界の主要ウェルビーイング研究」の概念と代表的な論文です。名言の内容が実証されているという意味ではありません。
「千里の行も足下より始まる」 A journey of a thousand miles begins with a single step.
— 老子 『老子』第64章
遠大な目標も、目の前の一歩から始まる
心理学では この名言は、遠い目標を手の届く小さな下位目標(近接目標)に分け、目の前の一歩に集中する知恵である。Bandura & Schunk(1981)は、算数が苦手な子どもを対象に実験を行った。その結果、毎回の学習ごとに小さな目標を立てた子どもは、遠い最終目標だけを持った子どもより学習が速く進んだ。さらに、自己効力感(「自分にはできる」という感覚)や課題への興味も高まった。またAmabile & Kramer(2011)は、働く人の日誌を分析した。そして、小さな前進を実感できた日ほど、意欲や仕事への前向きな感情が高いことを見いだした。大きな仕事ほど、今日終えられる一歩を決めて手をつけることが、やりがいと熟達への道を開く。 参考:Bandura & Schunk(1981)「Cultivating competence, self-effic…」 /Amabile & Kramer(2011)「The progress principle」 ↗ 人物 古代中国の思想家。道家の祖 「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」 Genius is one percent inspiration, ninety-nine percent perspiration.
— トーマス・エジソン 1900年代初頭の発言と伝わる
「1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄」という日本での解釈は後付けの俗説
才能より努力の量と質が成果を決める
心理学では エジソンの言う「99%の努力」は、心理学でいう熟達化(ある分野で技能を高めていく過程)の考え方と重なる。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、評価の高い学生ほど、意図的練習(改善点に絞って集中的に取り組む練習)を長年にわたり多く積み重ねていたことを示した。さらにDuckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べ、グリット(長期目標への情熱と粘り強さ)の高い子どもほど意図的練習に多くの時間を割いており、それが好成績と結びついていたことを報告した。日々の仕事でも、苦手な部分を一つ選んで集中して磨く時間を確保することが、ひらめきを生かす土台になる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 出典に諸説あり
「成功とは、熱意を失わずに失敗から失敗へと進み続けることである」 Success is stumbling from failure to failure with no loss of enthusiasm.
— ウィンストン・チャーチル(とされる) 典拠不詳
※帰属に諸説あり(リンカーン説なども流通)
失敗の連続の中で意欲を保つことこそ成功
心理学では この名言は、心理学でいう楽観的説明スタイル(失敗の原因を一時的で限られたものと捉える考え方)と、能力より努力や工夫に目を向ける姿勢に重なる。Seligman & Schulman(1986)は、断られることの多い生命保険の営業職を追跡し、楽観的な説明スタイルの人ほど売上が高く、離職しにくいことを示した。またMueller & Dweck(1998)の子どもを対象にした実験では、能力ではなく努力をほめられた子どもは、難しい課題で失敗した後も課題を楽しみ、粘り強く取り組んだ。失敗したときは「今回はこの点がうまくいかなかった」と原因を具体的に区切り、次に試す工夫を一つ決める。それが熱意を保ったまま次の挑戦へ進む助けになる。 参考:Seligman & Schulman(1986)「Explanatory style as a predictor o…」 ↗ /Mueller & Dweck(1998)「Praise for intelligence can underm…」 ↗ 人物 英国の政治家(1874-1965)。第二次大戦期の首相。ノーベル文学賞 「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」 — イチロー 2004年、年間最多安打記録更新時の会見
偉業は日々の小さな積み重ねの先にしかない
心理学では この言葉は、熟達化(初心者が専門家へと育っていく過程)の核心をついている。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、上位の演奏者ほど「意図的練習」(弱点にねらいを定めて改善を重ねる練習)を長年にわたって多く積み重ねていたことを示した。またLallyら(2010)は、小さな行動を毎日くり返してもらう縦断研究で、行動の自動化(意識しなくてもできる状態)が少しずつ進むこと、そして一日休んでも大きくは崩れないことを見いだした。ただし、回数をこなすだけでなく、毎回ひとつ改善点を意識するとよい。今日の小さな一歩を記録し、続けること自体を目標にすることが、遠くへ行く力になる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ 人物 日本のプロ野球・MLB選手。日米通算4367安打 「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない」 — 王貞治 著書・発言
報われるまでやり続けることが努力の定義である
心理学では この名言は、心理学でいう「グリット」(長期目標への粘り強さと情熱)と「熟慮された練習」(弱点に狙いを定め、改善を重ねる練習)に重なる。Ericssonら(1993)は音楽家を対象にした研究で、熟達の度合いがこうした練習を積み重ねた量と関連することを示した。Duckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べ、グリットの高い子どもほど熟慮された練習に多くの時間を費やしており、それが好成績と結びついていたと報告している。報われるまでの努力とは、やり方を磨き続けることである。結果が出ないときは練習の中身を見直し、苦手な部分に一歩踏み込むことが次の成長につながる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 日本のプロ野球選手・監督。通算868本塁打 出典に諸説あり
「歩みを止めない限り、どれほどゆっくり進んでも構わない」 It does not matter how slowly you go as long as you do not stop.
— 孔子(とされる) 『論語』に該当句は見当たらない
※典拠不詳
速さよりも継続が重要
心理学では この名言は、心理学でいう「進捗の原理」(小さくても前に進んでいる実感が、仕事への意欲や喜びを支えるという考え方)や、習慣化(行動が意識しなくても続く状態になること)の知見と重なる。Amabile & Kramer(2011)は、知識労働者が毎日つけた日誌を分析し、ささやかでも前進を感じた日ほど、感情や仕事への意欲が前向きであることを見いだした。また、Lallyら(2010)は、人々が新しく始めた日常の行動を数か月にわたって追跡し、行動の自動性は一気にではなく少しずつ高まること、そして一度実行を逃しても習慣の形成に大きな支障はないことを示した。速さを競うより、今日の小さな一歩を書き留め、休んだ日があってもまた戻ってくることが、熟達への確かな道をつくる。 参考:Amabile & Kramer(2011)「The progress principle」 ↗ /Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ 人物 春秋時代の思想家(BC551-479)。儒家の祖 出典に諸説あり
「継続は力なり」 — 住岡夜晃(とされる) 『讃嘆の詩』とされる
※出典には諸説あり
続けること自体が力になる
心理学では この名言は、心理学でいう習慣化(意識しなくても行動が出るようになること)と、熟達の積み重ねを言い表している。Lallyら(2010)は、参加者が自分で選んだ新しい日課の自動性を数か月にわたって追跡した。その結果、繰り返すほど行動は自動的になり、たまに一日休んでも習慣の形成は大きく損なわれなかった。またEricssonら(1993)は音楽学生の練習歴を調べ、技能の高い演奏者ほど、目的をもった練習(意図的練習)を長く積み重ねていたことを報告している。ただし、漫然と続けるより、課題を少しずつ難しくする工夫と組み合わせるとよい。完璧を求めず、同じ時間と場所で小さく続けることが、確かな力につながる。 参考:Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 大正〜昭和期の宗教家・教育者(1895-1949) 「チャンスは、準備された心にのみ降り立つ」 Chance favors the prepared mind.
— ルイ・パスツール 1854年、リール大学での講演
原文はフランス語
幸運は準備した者だけが掴める
心理学では この言葉は、「スキーマ」(経験から作られた知識の枠組み)と「選択的注意」(何に目を向けるかの選別)の働きを言い当てている。Chase & Simon(1973)の実験では、チェスの熟達者は実戦の局面を一目見ただけで多く記憶できたが、駒をでたらめに並べた盤面では初心者との差が小さくなった。積み重ねた知識が、意味のある型を見抜かせるのである。またSimons & Chabris(1999)の実験では、別の作業に集中していた人の多くが、画面を横切るゴリラ姿の人物に気づかなかった。目の前の機会も、見る構えがなければ素通りしてしまう。関心のある分野で学びを積み、問いを抱えて日々を過ごすことが、偶然を発見に変える土台になる。 参考:Chase & Simon(1973)「Perception in chess」 ↗ /Simons & Chabris(1999)「Gorillas in Our Midst: Sustained I…」 ↗ 人物 フランスの細菌学者(1822-1895)。低温殺菌法・ワクチン 出典に諸説あり
「幸運とは、準備が機会に出会ったときに生まれるものだ」 Luck is what happens when preparation meets opportunity.
— セネカ(とされる) 典拠不詳
※帰属に諸説あり
運は「準備×機会」の積である
心理学では この名言は、キャリア心理学の計画的偶発性理論(予期せぬ出来事を、日ごろの行動によって好機に変えられるという考え方)とよく重なる。Mitchellら(1999)は、偶然をキャリアに生かす鍵として、好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・リスクをとる姿勢という五つの備えを挙げた。実際、Brightら(2005)が大学生を対象に行った調査では、多くの学生が、予期しない出来事が進路の決定に影響したと答えている。偶然は誰にでも訪れるものであり、差を生むのはそれを受け止める準備である。少しでも興味をひかれた分野をのぞき、学びを続けておくことが、思いがけない機会を幸運に変える土台になる。 参考:Mitchellら(1999)「Planned Happenstance: Constructing…」 ↗ /Brightら(2005)「The role of chance events in caree…」 ↗ 人物 古代ローマのストア派哲学者(BC4頃-AD65) 「私はキャリアで9000回以上シュートを外し、300試合近く負けた。人生で何度も何度も失敗してきた。だから私は成功したのだ」 I've missed more than 9,000 shots in my career... And that is why I succeed.
— マイケル・ジョーダン 1997年、ナイキのCM「Failure」
CM用スクリプトだが本人が語った言葉
膨大な失敗こそが成功の基盤
心理学では この言葉は、熟達が「意図的練習」(自分の弱点に挑み、失敗とフィードバックを繰り返す練習)の積み重ねから生まれることを示している。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、上位の奏者ほど、課題に集中して取り組む一人練習を長年にわたって多く積んでいたことを明らかにした。さらにKeith & Frese(2008)は、訓練中にあえて誤りを促す「エラーマネジメント訓練」の実験をメタ分析した。その結果、誤りを避けさせる訓練より、新しい課題への応用力を高める効果があった。失敗は熟達の材料になる。うまくいかなかった一回を「何が分かったか」と振り返る習慣が、次の成功につながる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Keith & Frese(2008)「Effectiveness of error management …」 ↗ 人物 米国のNBA選手。バスケットボール史上最高と称される 「誰よりも三倍、四倍、五倍勉強する者、それが天才だ」 — 野口英世 発言として伝わる
天才の正体は圧倒的な努力量である
心理学では この名言は、心理学でいう意図的練習(自分の弱点に狙いを定め、フィードバックを受けながら重ねる集中した練習)の考え方と重なる。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン学生を調べ、最も優れた学生ほど、それまでに一人で行ってきた練習の累積時間が長いことを示した。またDuckworthら(2011)は英単語のつづりを競う全米大会の出場者を調べ、粘り強い子ほど意図的練習に多くの時間を費やしており、その練習量が好成績と関連することを見いだした。ただし量を積むときは、苦手な部分に焦点を当てる工夫と組み合わせるとよい。日々の仕事でも、できない部分を一つ選んで繰り返し取り組む時間を確保することが、熟達への確かな道を開く。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 日本の細菌学者(1876-1928)。黄熱病研究 「積小為大(小を積んで大と為す)」 — 二宮尊徳 『二宮翁夜話』等
大きなことを成し遂げたいなら、小さなことを疎かにせず積み重ねよ、という教え。尊徳は荒廃した農村の再建を、田一枚・俵一俵という地道な改善の集積によって成し遂げた
心理学では この名言は、心理学でいう「スモール・ウィン(小さな成功の積み重ね)」の考え方と重なる。Weick(1984)は、大きすぎる問題も手に負える小さな単位に切り分け、確実な成果を一つずつ重ねることで、圧倒される感覚が和らぎ、次の行動への勢いが生まれると論じた。熟達の研究では、Ericssonら(1993)が音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、評価の高い演奏者ほど、「意図的練習(弱点を絞って改善する目的ある練習)」を長年にわたって多く積み重ねていたことを示している。大きな目標は、今日できる小さな一歩に分けて毎日記録していくと、着実に前へ進んでいる実感につながる。 参考:Weick(1984)「Small wins: Redefining the scale o…」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 江戸後期の農政家・思想家(1787-1856)。報徳思想 「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」 — 松下幸之助 著書・発言
成功するまで続ければ失敗は「過程」になる
心理学では この言葉は、失敗を終点ではなく途中経過と捉え直す認知的再評価(出来事の意味づけを変えること)と、長期目標をやり抜くグリット(粘り強さと情熱)を表している。Duckworthら(2007)は大学生や陸軍士官学校の候補生などを調べ、グリットの高い人ほど学業成績が高く、厳しい訓練を最後までやり遂げやすいことを示した。またHaimovitz & Dweck(2016)は、失敗を害とみなす親ほど、子どもが能力は伸びないと考えやすいことを報告している。ただし到底届かない目標では、Wroschら(2003)が示すように別の目標へ切り替える柔軟さも助けになる。つまずいた日は「まだ途中だ」と言葉にし、次の一手を一つ決める。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Haimovitz & Dweck(2016)「Parents’ Views of Failure Predict …」 ↗ /Wroschら(2003)「Adaptive Self-Regulation of Unatta…」 ↗ 人物 パナソニック創業者(1894-1989)。「経営の神様」 出典に諸説あり
「私は歩みは遅いが、歩んだ道を引き返すことはない」 I am a slow walker, but I never walk back.
— エイブラハム・リンカーン(とされる) 典拠不詳
※帰属に諸説あり
遅くても後退しなければ前進である
心理学では この名言は、心理学でいう「グリット(長期目標への情熱と粘り強さ)」と「進捗の原理(小さな前進の実感がやる気を支えるという考え)」に重なる。Duckworthら(2007)は大学生や陸軍士官学校の候補生などを対象とした研究で、グリットの高い人ほど学業や厳しい訓練で成果を上げやすいことを示した。またAmabile & Kramer(2011)は働く人々の日誌を分析し、意味ある仕事でわずかでも前進できた日ほど、意欲や前向きな気分が高いことを見いだした。熟達の土台は速さではなく、積み上げたものを手放さないことにある。その日に進んだ一歩を書き留めておくことが、次の一歩を踏み出す助けになる。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Amabile & Kramer(2011)「The progress principle」 ↗ 人物 米国第16代大統領(1809-1865)。奴隷解放宣言 「報われないかもしれないところで、同じ情熱を持って継続できる力こそが才能だ」 — 羽生善治 著書・インタビューでの趣旨
不確実な状況で継続できることが真の才能
心理学では 羽生の言う力は、心理学でいう「グリット」(長期的な目標への情熱と粘り強さ)にあたる。Duckworthら(2007)は陸軍士官学校の候補生などを対象とした研究で、グリットの高い人ほど、知能とは別に、厳しい訓練を最後までやり抜く傾向があることを示した。さらにDuckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べた。その結果、グリットの高い子ほど、楽しさは少ないが上達に効く「意図的練習」(弱点に絞った集中的な練習)に多くの時間を割いており、それが好成績と結びついていることを見いだした。結果が見えない時期こそ、課題を一つに絞って淡々と積み重ねることが、才能を育てる土台になる。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 将棋棋士。史上初の永世七冠 「石の上にも三年」 — 日本のことわざ
辛抱して続ければ成果が出る
心理学では 「石の上にも三年」は、心理学でいうグリット(長期的な目標への情熱と粘り強さ)や、熟達には長い積み重ねが要るという考え方に重なる。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、評価の高い演奏者ほど、上達を目的とした練習(意図的練習)を長年にわたって多く積み重ねていたことを示した。O'Keefeら(2018)の一連の研究では、興味は「見つけるもの」ではなく「育てるもの」と考える人ほど、内容が難しくなっても関心を保ちやすかった。ただし、ただ耐えるだけでなく、課題を絞って振り返りを重ねると上達につながりやすい。すぐに手応えがなくても、目の前の仕事に小さな工夫を重ね続けることが、やりがいを育てる助けになる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /O'Keefeら(2018)「Implicit Theories of Interest: Fin…」 ↗ 「初心忘るべからず」 — 世阿弥 『花鏡』
原義は「未熟さの自覚を忘れるな」であり「最初の志」とはややニュアンスが異なる
「最初の志を忘れるな」と読まれがちだが、原義は「未熟だった頃の芸(とその自覚)を忘れるな」。上達した後も、できなかった時代の感覚を保ち続けよという世阿弥の芸論
心理学では 世阿弥のいう初心とは、未熟だった頃の芸とその自覚である。これは熟達研究でいう「熟慮された練習」(自分の弱点を見すえ、上達のために工夫した負荷の高い練習)や、知的謙虚さ(自分の知識の限界を認める姿勢)に通じる。Ericssonら(1993)は音楽学生を調べ、一流の演奏者ほど、こうした練習を長い年月にわたって積み重ねてきたことを示した。一方、Hinds(1999)の実験では、熟達者ほど初心者が課題にかかる時間を短く見積もり、できなかった頃の感覚を忘れやすいことが分かった。慣れた仕事ほど、つまずいていた頃の記録を読み返し、新人の戸惑いに耳を傾けることが次の上達につながる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Hinds(1999)「The curse of expertise: The effect…」 ↗ 人物 室町時代の能楽師・能作者(1363?-1443?)。『風姿花伝』 「ローマは一日にして成らず」 Rome wasn't built in a day.
— 西洋のことわざ
大きな成果には長い時間がかかる
心理学では この言葉は、熟達が一瞬のひらめきではなく、熟慮された練習(弱点を意識して改善を重ねる練習)の積み重ねで築かれるという見方と重なる。Ericssonら(1993)はベルリンの音楽学校でバイオリンを学ぶ学生を調べた。その結果、評価の高い学生ほど、それまでに一人で集中して練習してきた時間の累計が多かった。またLallyら(2010)は、新しい行動を毎日続けてもらい、その経過を追う縦断研究を行った。行動の自動化(考えなくても自然にできる状態)は日を追ってゆるやかに進み、ときどき一日休んでも大きくは妨げられなかった。短い期間の手応えだけで判断せず、小さな練習を淡々と続けることが、やがて大きな成果を築く土台になる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ 「速やかならんと欲すれば則ち達せず」 — 孔子 『論語』子路第十三
早く成果を出そうと焦ると、手順を飛ばして、かえって目標に届かなくなる。「急がば回れ」と同じく、着実な段取りこそが結局いちばん早いという教え
心理学では この名言は、早く結果を出すことに目を奪われるより、「習熟目標」(できるようになること自体をめざす目標)をもつほうが遠くまで届くという知見に重なる。Grant & Dweck(2003)は、難しい化学の授業を受ける大学生を学期を通して追跡した。その結果、習熟をめざす学生ほど、つまずいた後も意欲を保ち、成績を立て直しやすいことを示した。Ericssonら(1993)も、上達した音楽学生ほど、弱点に絞った地道な「熟慮的練習」(課題を区切り、修正をくり返す練習)を長く積んでいたと報告している。焦りを感じたときほど、今日確かめる手順を一つ決めて進むことが、結局はいちばんの近道になる。 参考:Grant & Dweck(2003)「Clarifying Achievement Goals and T…」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 春秋時代の思想家 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」 — 松浦静山 剣術書『剣談』。野村克也の引用で有名
敗因には必ず理由がある。振り返りが上達を生む
心理学では この名言は、帰属理論(結果の原因を何に求めるかに注目する理論)の考え方と重なる。Weiner(1985)は、失敗の原因を努力ややり方のように自分で変えられる要因に求めると、次への期待と意欲が保たれると論じた。負けを運で片づけず理由を探る姿勢がこれにあたる。Ellis & Davidi(2005)は、兵士の地図読み訓練で事後レビュー(終了直後の振り返り)を行う実験をし、失敗だけでなく成功も振り返った部隊ほど、その後の成績がより伸びることを示した。勝った日にも「なぜ勝てたか」を問う価値がある。練習や仕事の後に数分、うまくいった点といかなかった点を書き出す習慣が、着実な上達につながる。 参考:Weiner(1985)「An attributional theory of achieve…」 ↗ /Ellis & Davidi(2005)「After-Event Reviews: Drawing Lesso…」 ↗ 人物 江戸後期の平戸藩主・剣術家(1760-1841) 出典に諸説あり
「我々は繰り返し行うことの結果である。ゆえに卓越とは行為ではなく習慣である」 We are what we repeatedly do. Excellence, then, is not an act, but a habit.
— アリストテレス(とされる) ウィル・デュラント『哲学物語』(1926)による要約
※『ニコマコス倫理学』の趣旨をデュラントが要約した文で、直接の言葉ではない
卓越性は日々の習慣に宿る
心理学では この名言は、習慣形成(同じ状況で繰り返した行動が、意識しなくても自然に出るようになる過程)による熟達を言い当てている。Lallyら(2010)は、新しい行動を毎日同じ場面で続けてもらう縦断研究を行った。その結果、繰り返すほど行動の自動性が高まり、たまに休んでも形成は大きく妨げられないことを示した。またEricssonら(1993)は音楽家を調べ、熟達した人ほど意図的練習(弱点に狙いを定めた集中的な練習)を長年積み重ねてきたことを明らかにした。ただし卓越を目指すなら、単なる反復に課題意識を組み合わせるとよい。毎日同じ時間と場所で小さな行動を続けることが、確かな力の土台になる。 参考:Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 古代ギリシャの哲学者(BC384-322)。『ニコマコス倫理学』 「習慣は第二の天性なり」 Consuetudo quasi altera natura.
— キケロ 『善と悪の究極について』ほか
ラテン語原文
習慣は生まれつきの性質と同等の力を持つ
心理学では キケロの言葉は、習慣の自動性(同じ場面で繰り返した行動が、意識して決めなくても状況を手がかりに自然に始まる性質)を言い当てている。Woodら(2002)の日記研究では、日常の行動の多くが決まった場所や時間に、別のことを考えながら自動的に行われていた。Lallyら(2010)は、新しい行動を毎日同じ場面で続けた人々を追った縦断研究で、繰り返すにつれて自動性が高まり、やがて定着することを示した。ただし定着までの期間は人や行動によって大きく異なるため、焦らず続けるとよい。練習や仕事の基本を「朝のコーヒーの後」など決まった場面に結びつけて繰り返すことが、熟達の土台になる。 参考:Woodら(2002)「Habits in everyday life: Thought, …」 ↗ /Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ 人物 古代ローマの政治家・哲学者(BC106-43) 「学問に王道なし」 There is no royal road to geometry.
— ユークリッド(伝) プロクロスの注釈書に伝わる逸話
プトレマイオス1世への返答と伝わる
学びに近道はない
心理学では この名言は、心理学でいう意図的練習(自分の弱点に狙いを定め、フィードバックを受けながら繰り返す練習)の考え方と重なる。Ericssonら(1993)は音楽院のバイオリン学生を調べ、評価の高い学生ほど、それまでに積み重ねた一人での練習時間が多いことを示した。またDuckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べ、やり抜く力の強い子ほど楽しいとは感じにくい地道な練習に多くの時間を割いており、その練習量が好成績と結びついていたことを示した。ただし練習は量だけでなく、課題を絞った質も伴わせるとよい。上達が遅く感じる日も、近道を探すより今日の一歩を積み重ねることが熟達につながる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 古代ギリシャの数学者(BC300頃)。『原論』 「いつか飛ぶことを学ぼうとする者は、まず立ち、歩き、走り、登り、踊ることを学ばねばならない」 One cannot fly into flying.
— ニーチェ 『ツァラトゥストラはこう語った』
飛躍には段階的な習熟が必要である
心理学では この名言は、心理学でいう「近接目標」(すぐ手の届く小さな目標)を一段ずつ積み上げる熟達の道筋を表している。Bandura & Schunk(1981)は、算数が苦手な子どもを対象にした実験で、学習を小さな段階目標に区切って取り組ませると、遠い最終目標だけを示す場合より、自己効力感(「自分はできる」という感覚)と実際の上達、課題への興味がそろって高まることを示した。また、Ericssonら(1993)は音楽家の研究から、意図的練習(弱点に狙いを定めた計画的な練習)を長く積んできた人ほど高い技能に達していることを報告している。大きな夢があるときこそ、今日越えられる一段を決めて確実にこなすことが、飛躍への近道になる。 参考:Bandura & Schunk(1981)「Cultivating competence, self-effic…」 /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 ドイツの哲学者(1844-1900) 出典に諸説あり
「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず」 — 徳川家康(とされる) 「東照公御遺訓」
※御遺訓は後世の編纂とされ、家康自身の言葉かは疑問視されている
人生は長期戦。焦らず着実に進め
心理学では この名言は、心理学でいう「グリット」(長期目標に向けた粘り強さと情熱)と、無理のないペース配分の大切さを言い表している。Duckworthら(2007)は、陸軍士官学校の候補生やスペリング大会の出場者などを調べ、グリットの高い人ほど長期の目標をやり遂げていることを示した。またEricssonら(1993)は音楽学生を対象とした研究で、熟達を支えるのは短期の猛練習ではなく、長年にわたる計画的な練習(課題を絞って取り組む練習)の積み重ねであることを示した。あわせて、優れた奏者ほど休息も十分にとっていたと報告している。毎日続けられる量を決め、休みも予定に組み込むことが、遠い道を歩き切る力になる。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 江戸幕府初代将軍(1543-1616) 「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」 — 宮本武蔵 『五輪書』水之巻
鍛錬とは千日・万日単位の稽古の積み重ねである
心理学では この言葉は、熟達研究でいう「意図的練習」(自分の弱点に狙いを定めて課題を立て、修正を重ねる質の高い練習)を、長い年月をかけて積み上げる過程を言い当てている。Ericssonら(1993)は音楽大学でバイオリンを学ぶ学生を調べ、評価の高い学生ほど、幼い頃から一人で行う意図的練習の累積時間が多かったことを見いだした。さらにDuckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べ、粘り強さ(グリット)の高い子ほど地道な練習に多く取り組んでおり、その練習量が好成績と関連することを示した。日々の仕事でも、苦手な一点を決めて毎日少しずつ磨き、その積み重ねを記録に残すことが、千日・万日の鍛錬への確かな一歩になる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 江戸初期の剣術家・兵法家(1584?-1645)。二天一流 出典に諸説あり
「私はまだ学んでいる」 Ancora imparo.(I am still learning.)
— ミケランジェロ(とされる) 晩年の言葉として伝わる
※帰属に諸説あり
87歳でもなお学び続ける姿勢
心理学では 「まだ学んでいる」という言葉は、心理学でいう熟達目標(人に勝つことより、自分の腕を磨くこと自体をめざす姿勢)を、生涯にわたって持ち続ける態度である。高齢期の学びについては、Parkら(2014)が高齢者を対象に実験を行っている。デジタル写真やキルトといった新しい技能を数か月かけて習得するグループと、なじみのある気楽な活動をするグループとを比べた。その結果、新しい技能に挑んだグループで記憶力が向上した。Hultschら(1999)の縦断研究でも、知的に手応えのある活動を続ける人ほど、認知機能の低下が小さい傾向が見られた。年齢や経験年数にかかわらず、少し難しい新しいことに手を伸ばし続けることが、心と頭の若さを保つ助けになる。 参考:Parkら(2014)「The Impact of Sustained Engagement…」 ↗ /Hultschら(1999)「Use it or lose it: Engaged lifesty…」 ↗ 人物 イタリア・ルネサンスの彫刻家・画家(1475-1564)。システィーナ礼拝堂天井画 「時分の花を、まことの花と知る心が、真実の花になお遠ざかる心なり」 — 世阿弥 『風姿花伝』(15世紀初頭)
「まことの花」は稽古と工夫によってのみ得られると説く
若さゆえの一時的な魅力(時分の花)を、鍛錬で得た本物の実力(まことの花)と勘違いした瞬間に、成長は止まるという警告。若い頃の成功体験への慢心こそ、熟達の最大の敵だとする
心理学では 一時の評価を本物の実力と思い込む心は、心理学でいう「固定的マインドセット」(能力は生まれつき決まっているという考え)に近く、伸ばす努力を遠ざける。Blackwellら(2007)は中学生を追跡した縦断研究を行い、能力は伸ばせると考える生徒ほど、その後の成績が上向く傾向にあることを示した。またEricssonら(1993)は音楽学校のバイオリン専攻生を調べ、上位の奏者ほど「意図的練習」(弱点を狙って負荷をかける練習)を長年積み重ねていたことを示した。うまくいった時こそ「これは時分の花か」と自分に問い、次に磨く一点を決める。その習慣が、歳を重ねても散らない花につながる。 参考:Blackwellら(2007)「Implicit Theories of Intelligence …」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 室町時代の能楽師・能作者(1363?-1443?) 「少しずつ、少しずつ、鳥は巣をつくる」 Petit à petit, l'oiseau fait son nid.
— フランス語圏・西アフリカで親しまれることわざ 仏語のことわざ
一度に完成させようとせず、小枝を一本ずつ運ぶ。あの精巧な巣も、微小な反復の積み重ね以外の方法では作れない ── 熟達と大事業についての普遍的なイメージ
心理学では このことわざは、心理学でいう「近接目標」(すぐ先に置く小さな目標)を積み重ねて熟達していく姿そのものである。Bandura & Schunk(1981)は、算数が苦手な子どもを対象にした実験で、教材全体を一度に目指すのではなく、一回ごとの小さな目標を立てて取り組んだ子どもほど上達が速く、自己効力感(やればできるという感覚)や課題そのものへの興味も高まることを示した。また、Ericssonら(1993)は音楽家を対象にした研究で、到達した熟達の水準が、長年にわたる意図的な練習の積み重ねと関連することを報告している。大きな仕事を前にしたときこそ、今日運べる「小枝一本」を決めて手を動かすことが、着実な前進につながる。 参考:Bandura & Schunk(1981)「Cultivating competence, self-effic…」 /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 出典に諸説あり
「アヒルは、水面では穏やかに滑っているように見える。だが水面下では、休みなく足を掻いている」 Smooth runs the water where the brook is deep... like a duck, calm on the surface, paddling like hell underneath.
— ジェイコブ・ブラウデ(とされる) 米国のスピーチ集(1960年代)に由来とされる
※definitive版の初出には諸説あり
優雅に見える人ほど、見えないところで膨大な努力をしている ── 成果だけを見て「あの人は楽々やっている」と比べることの錯覚を、アヒルの水掻きで示した比喩
心理学では この名言は、熟達の陰にある「意図的練習」(弱点に狙いを定めた地道な反復練習)と、その努力が他人からは見えにくいことを言い当てている。Ericssonら(1993)は音楽院のバイオリン学生を調べ、より優れた奏者ほど一人での練習時間を長く積み重ねていたことを示した。一方、Tsay & Banaji(2011)の実験では、同じ実績でも「生まれつきの才能型」と紹介された演奏家のほうが「努力型」と紹介された演奏家より高く評価され、人は努力を見落として才能のせいにしやすいことが分かった。誰かの軽やかな仕事ぶりに気後れしたときは、水面下の水掻きを想像し、自分の今日の一掻きに目を向けることが助けになる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Tsay & Banaji(2011)「Naturals and strivers: Preferences…」 ↗ 人物 米国の著述家(1896-1970)。スピーチ・ユーモア集の編者 出典に諸説あり
「象を食べるには、どうすればいい? ── 一口ずつ、だ」 How do you eat an elephant? One bite at a time.
— 英語圏の格言(アフリカ起源とされる) How do you eat an elephant? One bite at a time.
※アフリカのことわざとされるが起源は確認されていない
巨大すぎて手のつけようがなく見える課題も、分解すれば「一口」の連続にすぎない。圧倒されたときに問うべきは「どうやって全部やるか」ではなく「最初の一口は何か」である
心理学では この格言は、心理学でいう「近接目標」(すぐ手の届く小さな目標)の力を言い当てている。Bandura & Schunk(1981)は、算数が苦手な子どもを対象にした実験で、長い課題を「1回に数ページ」という小さな目標に区切って取り組んだ子どもは、最終目標だけを示された子どもより、算数の力も自己効力感(自分はできるという感覚)も課題への興味も高まることを示した。また、Amabile & Kramer(2011)は会社員の日誌を分析し、意味ある仕事で小さな前進を感じた日ほど意欲や前向きな気分が高いことを見いだした。大きな仕事に圧倒されたときは、今日かじれる一口を一つ決め、終えたら印をつける。その積み重ねが、やる気と自信を育てる。 参考:Bandura & Schunk(1981)「Cultivating competence, self-effic…」 /Amabile & Kramer(2011)「The progress principle」 ↗ 「一句の経も覚えられなかった弟子チューラパンタカは、「塵を払い、垢を除かん」と唱えて掃除を続け、ついに悟りに至った」 — 仏教説話「周利槃特(チューラパンタカ)」 『ダンマパダ・アッタカター』ほか
兄にも見放された「もの覚えの悪い」弟子に、ブッダは経典ではなく一枚の布と一句だけを与えた。彼は掃除という単純な行為を何年も続け、払っても払っても積もる塵に「心の塵」を見て、誰より深い悟りに至った ── 才能の物語ではなく、反復の物語
心理学では この説話は、単純な行為への持続的な注意であるマインドフルネス(いまの体験に評価を加えず気づくこと)と、作業の意味を自ら捉え直すジョブ・クラフティングの両面から読める。Hanleyら(2015)の実験では、皿洗いの感触や香りに注意を向けるよう教示された大学生は、対照群よりマインドフルネスの状態と前向きな高揚感が高まり、緊張感が下がった。Wrzesniewski & Dutton(2001)も、病院清掃員の事例などから、同じ作業でも役割を広く捉え直す人ほど仕事に意味を見いだすと論じた。日々の掃除や繰り返しの作業も、動作の一つひとつに意識を向け、自分なりの意味を重ねることで、深い体得への入り口になる。 参考:Hanleyら(2015)「Washing Dishes to Wash the Dishes:…」 ↗ /Wrzesniewski & Dutton(2001)「Crafting a Job: Revisioning Employ…」 ↗ 人物 初期仏教の説話。日本では落語「茗荷宿」や「みょうがの由来」の俗説とも結びついた 「根気があれば、煮込み料理にありつける」 — フィリピンのことわざ Kapag may tiyaga, may nilaga(タガログ語)
時間をかけてコトコト煮込んだ料理(ニラガ)は、待った者だけが味わえる ── 忍耐(ティヤガ)と煮込み(ニラガ)の韻で、努力の熟成を食卓の喜びに重ねたことわざ。石の上にも三年のフィリピン版
心理学では このことわざは、心理学でいう「グリット(長期的な目標に向けた粘り強さと情熱)」を言い表している。Duckworthら(2007)は、大学生や陸軍士官学校の候補生などを対象にした相関研究で、グリットの高い人ほど学業成績が高く、厳しい訓練を途中でやめずに続けやすいことを示した。さらにDuckworthら(2011)は全米スペリング大会の出場者を調べ、グリットの高い子どもほど地道な練習に多くの時間を費やし、その練習量が好成績と結びついていたことを報告している。成果がすぐに見えない時期も、鍋がじっくり煮えていく「仕込みの時間」と捉えれば、続ける力の支えになる。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 出典に諸説あり
「努力だ。勉強だ。それが天才だ。誰よりも、三倍、四倍、五倍勉強する者、それが天才だ」 — 野口英世(とされる) 発言として流通
※発言としての一次出典は特定が難しい
「天才」の定義を才能から努力量へ書き換えた言葉。手の障害と貧困から世界的細菌学者となった本人の来歴が、そのまま言葉の証明になっている ── ただし猛烈な努力の裏の破天荒な借金癖まで含めて、人間・野口は立体的である
心理学では この言葉は、心理学でいう「意図的練習」(弱点に狙いを定めて行う集中的な練習)の考え方と重なる。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン学生を調べ、最も優れた学生ほど、一人で行う集中練習を長年にわたって多く積み重ねていたことを示した。Duckworthら(2011)も全米スペリング大会の出場者を追跡し、意図的練習に多くの時間を割いた子どもほど好成績を収めたと報告している。ただしEricssonらの研究では、優秀な学生ほど休息や睡眠も多くとっていたため、努力の量は回復と組み合わせるとよい。日々の仕事でも、苦手な一点を決めて集中する時間を毎日つくることが、才能を育てる確かな道になる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Duckworthら(2011)「Deliberate Practice Spells Success」 ↗ 人物 日本の細菌学者(1876-1928)。黄熱病研究に殉じた。千円札の肖像 「「青春、全部懸けたって強くなれない?」「懸けてから言いなさい」」 — 原田先生(末次由紀『ちはやふる』) 『ちはやふる』(講談社)
「全部懸けても届かないかも」と怯える前に、まず全部懸けてみたのか ── 仮定の心配を現実の行動で上書きさせる、競技かるたマンガの名指導。努力の量を語る資格は、努力の後にしか生まれない
心理学では この言葉は、能力の上限を試す前に決めてしまう「固定的知能観(能力は生まれつき変わらないという信念)」を退け、「成長的知能観(能力は努力で伸びるという信念)」へと促すものである。Blackwellら(2007)は中学生を追った縦断研究で、能力は伸びると考える生徒ほど数学の成績が上向くことを示した。さらに、その考え方を教える介入が意欲を高め、成績の低下を食い止めることも報告した。Ericssonら(1993)も、優れた音楽学生ほど計画的練習(弱点に狙いを定めた練習)を長く積んでいたことを示している。「届かない」と言う前に、まず懸けてみる。その積み重ねが、自分の限界の本当の位置を教えてくれる。 参考:Blackwellら(2007)「Implicit Theories of Intelligence …」 ↗ /Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ 人物 末次由紀(1975-)は日本の漫画家 「努力した者が全て報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておる」 — 鴨川源二(森川ジョージ『はじめの一歩』) 『はじめの一歩』(講談社)
「努力すれば必ず報われる」という嘘をつかず、それでも努力の必要性を語り切る誠実な激励。必要条件と十分条件を区別した、スポーツマンガで最も引用される努力論
心理学では この名言は、努力を成功の「必要条件」(欠かせない条件)としつつ、「十分条件」(それだけで必ず成り立つ条件)とはしない点で、熟達研究の知見と重なる。Ericssonら(1993)は音楽学校のバイオリン学生を調べ、評価の高い学生ほど、弱点を絞って改善を重ねる「意図的練習」を長年多く積んでいたことを示した。一方、スポーツ分野の研究を統合したMacnamaraら(2016)のメタ分析では、練習量は成績と関連するが、成績の差は練習だけでは説明しきれないことが示されている。結果の保証を求めず、改善点を意識した練習を日々積み重ねることが、成功への土台をつくる。 参考:Ericssonら(1993)「The role of deliberate practice in…」 ↗ /Macnamaraら(2016)「The Relationship Between Deliberat…」 ↗ 人物 森川ジョージ(1966-)は日本の漫画家 「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」 — 高倉健(座右の銘) 清水寺・大西良慶師から贈られた言葉。健さんが生涯掲げた
大西良慶(1875-1983)は清水寺貫主
進む道はひたすらの精進であり、耐え忍んで終わるなら悔いはない ── 寡黙な演技一筋の俳優人生を、この一行が支えた。205本の映画に出た名優の楽屋には、常にこの言葉があったという
心理学では この言葉は、心理学でいう「グリット」(長期目標への情熱と粘り強さ)と重なる。Duckworthら(2007)は陸軍士官学校の新入生などを調べ、グリットの高い人ほど厳しい訓練を最後までやり遂げやすいことを示した。また、Gilovich & Medvec(1995)は後悔に関する研究を整理し、長い目で見ると人は「したこと」より「しなかったこと」を強く悔やみやすいと報告した。一つの道に打ち込みやり切る姿勢は、人生を振り返ったときの悔いの少なさにも通じる。ただし、耐えるだけでなく、その道への愛着を育てることも大切である。日々の仕事でも、今日の一歩を丁寧に積み重ねることが、悔いのない道のりをつくる。 参考:Duckworthら(2007)「Grit: Perseverance and passion for…」 ↗ /Gilovich & Medvec(1995)「The experience of regret: What, wh…」 ↗ 人物 日本の俳優(1931-2014)。『幸福の黄色いハンカチ』『鉄道員』 「道を知っていることと、実際にその道を歩くことは、違う」 There's a difference between knowing the path and walking the path.
— モーフィアス(映画『マトリックス』) ウォシャウスキー姉妹監督(1999)
知識と体得の区別を、救世主候補ネオに告げる師の言葉。概念として理解した瞬間に「できる」と錯覚する罠 ── 歩くことでしか得られない層がある、という熟達論をSFアクションの中に置いた一句
心理学では この名言は、宣言的知識(言葉で説明できる「知っている」)と手続き的知識(体で覚えた「できる」)の区別を言い当てている。Anderson(1982)は、技能の習得を、知識として覚えた手順をくり返し使ううちに、意識せずに実行できる手続きへと作り変えていく過程として理論化した。Kardas & O'Brien(2018)の実験では、ダーツ投げなどの手本動画をくり返し見ると「自分にもできる」という自信は高まったが、実際の成績は伸びなかった。見て分かった気になることと、実際にできることは別物である。新しいことを学ぶときは、理解した段階で満足せず、小さくても一度自分の手で試すことが上達の近道になる。 参考:Anderson(1982)「Acquisition of cognitive skill.」 ↗ /Kardas & O'Brien(2018)「Easier Seen Than Done: Merely Watc…」 ↗ 人物 哲学的な問いを大衆化した記念碑的SF 「共に発火するニューロンは、共に結びつく」 Neurons that fire together, wire together.
— ドナルド・ヘッブの学習則(定式化はカーラ・シャッツ) ヘッブ『行動の機構』(1949)の法則を要約した標語
標語の定型化は神経科学者カーラ・シャッツによる(ヘッブ本人の文言ではない)
同時に活動した神経細胞どうしは、つながりが強化される ── 練習が上達を生み、反すうが反すうを強め、感謝の習慣が感謝しやすい脳を作る。あらゆる「習慣」と「学習」の神経基盤を一行にした、神経科学で最も有名な標語
心理学では この標語は、ヘッブ則(同時に働いた神経細胞どうしの結合が強まる仕組み)を土台とする経験依存的可塑性(使い方に応じて脳が変わる性質)を表している。Draganskiら(2004)は、ジャグリングを練習した成人の脳をMRIで追跡し、動きの知覚にかかわる領域の灰白質が増え、練習をやめると減ることを示した。Maguireら(2000)も、ロンドンのタクシー運転手は一般の人より海馬後部が大きく、運転歴が長い人ほどその傾向が強いと報告した。ただし反すう(くよくよ考え続けること)も同じ仕組みで強まるため、繰り返す中身を選ぶことが大切である。伸ばしたい技能に毎日少しずつ触れることが、脳の配線を育てる。 参考:Draganskiら(2004)「Changes in grey matter induced by …」 ↗ /Maguireら(2000)「Navigation-related structural chan…」 ↗ 人物 ヘッブ(1904-1985)はカナダの心理学者。「神経心理学の父」 📮 毎週土曜の朝、メールで届きます その週にご紹介したウェルビーイング研究のダイジェストを無料でお届けします。
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名言の収集・分類・解説はAI(Claude)を活用し、はぴテックが確認したものです。「出典に諸説あり」の名言は、その人物の言葉として流通しているものの一次資料での確認が難しいもの、「要旨」は趣旨を短くまとめたものです。心理学の補足は、名言の知恵を心理学・幸福研究の知見で読み解いたもので、引用した論文は学術データベースで実在を照合しています。
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