2025.07.19

ポジティブ心理学の三つの波と第四の波の提案

というトルコのギョクメン・アルスラン先生の最新論文😊

ポジティブ心理学のこれまでの流れ整理と、今後の提案を頂いています😊

第四の波は、同様の提案をされている先生がかなり多く、個人的にもこの流れになっていくかなぁと思います。

第一の波(PP 1.0):強みと幸福の科学(1990年代後期~)

第二の波(PP 2.0):人間性の暗い側面の統合

第三の波(PP 3.0):複雑性とシステムへの拡張

第四の波(新興提案):グローバリティ(個人から世界へ)


【概要】

■第一の波(PP 1.0)- 1990年代後期

焦点:個人の強み、ポジティブ感情、主観的ウェルビーイング

特徴:西欧的認識論、量的研究手法が中心

創始者:マーティン・セリグマンが1998年に提唱

理念:「人の何が間違っているか」ではなく「何が正しいか」に注目

限界:複雑性、文化的多様性、倫理的配慮の軽視


■第二の波(PP 2.0)

焦点:ポジティブとネガティブな体験の弁証法的統合

特徴:逆境の変革的可能性を認識

発展:文脈的感受性、方法論的多元主義、異文化的配慮

理解:ウェルビーイングは光と影の相互作用から生まれる


■第三の波(PP 3.0)- 現在

焦点:システムレベルの学際的アプローチ

特徴:相互関連性、生態学的・文化的文脈を重視

統合要素:スピリチュアルな側面、社会正義

視点:ウェルビーイングを動的で関係性に基づく倫理的現象として捉える


■第四の波(提案段階)

方向性:持続可能性、公平性、公衆衛生などの地球規模課題との連携

理念:相互接続された世界における共有責任としての繁栄


【詳細】

第一の波(PP 1.0):強みと幸福の科学(1990年代後期~)

理論的基盤

ヒューマニスティック心理学のロジャースとマズローの哲学に根ざす

個人主義的世界観が基礎(主に西欧の心理学的伝統)

精神的病気や異常行動に焦点を当てた従来の心理学からのパラダイムシフト


主要概念

主観的ウェルビーイング(SWB):快楽的幸福

  • 認知的評価(人生満足度)

  • 感情的体験(ポジティブ・ネガティブ感情)

ユーダイモニア的ウェルビーイング:意味、目的、最適機能を重視

キャラクター・ストレングス(性格の強み)

ポジティブ感情、希望、感謝


研究手法の特徴

実証主義的認識論:客観的真実の探求

量的手法が圧倒的に優勢

実験・統計デザインによる因果関係の解明

自然科学モデルに基づく厳密な科学的手法

−

主要研究者と理論

マーティン・セリグマン:PERMA理論(Positive emotions, Engagement, Relationships, Meaning, Achievement)

ミハイ・チクセントミハイ:フロー理論

バーバラ・フレドリクソン:拡張・構築理論

ソニア・リュボミルスキー:幸福度向上の介入研究


批判と限界

概念的明確性の欠如と理論化の不十分さ

測定と方法論的問題

再現性の問題と証拠の不十分性

新規性の欠如と主流心理学からの孤立

脱文脈化された新自由主義イデオロギー

WEIRD文脈(Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic)に偏重

文化的多様性と倫理的配慮の軽視


第二の波(PP 2.0):人間性の暗い側面の統合

理論的発展

弁証法的原理(陰と陽)の採用

ポジティブとネガティブの相互作用を重視

苦悩、喪失、実存的関心の心理的成長への役割を認識


主要な洞察

文脈的感受性:心理的構成概念は普遍的ではなく文化的・状況的に束縛される

例:

許しは健康な関係では治癒を促進するが、虐待的関係では有害

自尊心は西欧では重視されるが、集団主義文化(トルコ、中国)では問題となる場合

複雑性と曖昧性:善悪の硬直した二分法からの脱却


研究手法の変化

構成主義的・解釈的手法の採用

質的研究と従来の量的手法の組み合わせ

混合手法の積極的活用

認識論的・メタ理論的前提の転換


主要理論家と枠組み

ポール・ウォン:二重システム理論

ティム・ロマスとイヴタン:LIFE モデル

カシュダンとビスワス=ディーナー:暗い側面の肯定的価値


特徴のまとめ

ポジティブとネガティブ体験の弁証法的視点

ウェルビーイングを形成する文化的・状況的・言語的文脈への注目

人間の繁栄の全体的・多次元モデル

方法論的多元主義

複数の世界観と心理科学の価値負荷性の認識


第三の波(PP 3.0):複雑性とシステムへの拡張

パラダイムの転換

個人的・心理的状態から多層的・関係的・システム的現象へ

ウェルビーイングは生態学的、精神的、文化的、政治的力によって形成される

相互関連性と文脈主義の重視


中核概念

複雑性への取り組み:生物学的、心理学的、社会的、環境的、精神的領域の統合

社会正義、生態学的持続可能性、精神性/超越性、ケアの倫理の統合

ポストモダン・関係論的存在論


学際的アプローチ

哲学、社会学、環境学、神学、公衆衛生との協働

トランスディシプリナリー(学際を超えた)協力

参加型・アクション研究の採用


研究手法の多様化

方法論的多元主義

質的手法、混合手法の積極活用

認識論的謙虚さ

ポストディシプリナリー協力


主要特徴

システムレベルの理解:個人、コミュニティ、制度、生態系を包含

精神性と超越性の中核的次元としての統合

倫理的・文脈的・関係的世界観への転換

多分野・学際・超学際アプローチの提唱

方法論的多様性と認識論的謙虚さの強調


第四の波(新興提案):グローバリティ

ユルゲン・マンゲルスドルフの提案


「グローバリティ」を定義テーマとする

地球規模の課題との橋渡し:生態学的、健康的、人道的危機

国連持続可能な開発目標(SDGs)との連携

内的発達目標(IDGs)の統合


方向性

個人追求から地球変革のレバーとしてのウェルビーイング

持続可能性志向

社会的責任重視

倫理的基盤の強化


将来への提言

この論文は、ポジティブ心理学が以下の方向に進むべきだと提言しています:


「どうすれば幸せになれるか?」から「どうすれば持続可能に、共に繁栄できるか?」への転換

複雑性、システム、謙虚さ、ケアを受け入れる拡張されたレンズ

マイノリティ世界からマジョリティ世界(西欧諸国以外の人口)への焦点移動

文脈的設定での理解とグローバルな視点

幸福とウェルビーイングの測定と促進のより包括的で微妙な理解の発展

この進化は、不平等、不確実性、生態学的脆弱性に特徴づけられる世界において、より包括的で文化的に敏感で、時代のグローバルな課題に調和した成熟した科学への道筋を示しています。


Beyond Happiness: The Three Waves of Positive Psychology and the Future of Wellbeing

Gökmen Arslan

Journal of Happiness and Health,2025/7/13

https://journalofhappinessandhealth.com/index.php/johah/article/view/121

DL用↓

https://www.researchgate.net/publication/393647873_Beyond_Happiness_The_Three_Waves_of_Positive_Psychology_and_the_Future_of_Wellbeing

本論説は、ポジティブ心理学の発展過程を3つの主要な波を通して辿り、第4の波の可能性に向けた新たな議論を概説することで、その変遷を探ります。

1990年代後半に始まった第一波は、個人の強み、ポジティブな感情、そして主観的な幸福感を重視しました。これは主に西洋の認識論によって形作られ、定量的かつ実証的な方法論が主流でした。この波は、この分野の基礎を築いた一方で、複雑性、文化的多様性、そして倫理的な懸念を軽視していると批判されてきました。

これに対し、第二波は、幸福感に対するより弁証法的理解を導入し、肯定的な経験と否定的な経験の両方を統合し、逆境が持つ変革の可能性を認識しました。この段階では、文脈への感受性、方法論的多元性、そして異文化への配慮が重視され、人間の繁栄に対するより繊細な視点が育まれました。

これらの初期の発展を踏まえ、ポジティブ心理学の第三波は、システムレベルかつ学際的なアプローチを採用しています。それは、相互接続性、生態学的・文化的文脈、精神的な側面、そして社会正義を重視しています。この波は、ウェルビーイングを、個人の心理状態を超越する、動的で関係性に基づいた、倫理的に根拠のある現象と捉えています。

研究者は、個人、コミュニティ、そして生態系全体にわたって繁栄がどのように展開していくかを理解するために、多様な手法を用いて、学際的な共同研究にますます積極的に取り組んでいます。論説ではまた、持続可能性、公平性、公衆衛生といった地球規模の課題とウェルビーイング科学を連携させ、相互につながった世界における共有責任として繁栄を捉える第四の波の初期提案も取り上げています。最終的に、この論説は、ポジティブ心理学を個人の幸福だけでなく、集団的かつ持続可能なウェルビーイングの科学として再考することを求めています。複雑性、謙虚さ、そしてグローバルな視点を受け入れることで、この分野の将来の方向性は、人類の多様なニーズにより良く応え、個人レベルと社会レベルの両方で繁栄を促進することができるでしょう。

The First Wave PP 1.0 The Second Wave PP 2.0 The Third Wave PP 3.0 The Fourth Wave (Proposed)
投稿者による補足(4件)
補足 1

PP2.0

■ポール・ウォン(Paul T. P. Wong):二重システム理論

●理論の核心
ウォンの二重システム理論は、人間のウェルビーイングがポジティブとネガティブの両方の体験システムによって構成されるという考えに基づいています。
二つのシステム
システム1:ポジティブシステム
快楽的要素:喜び、楽しさ、満足
ユーダイモニア的要素:意味、目的、自己実現
従来のポジティブ心理学が焦点を当ててきた領域

システム2:ネガティブシステム
苦悩の意味:苦痛、失敗、死への恐怖
実存的課題:人生の限界、不確実性、孤独
成長の触媒:逆境を通じた人格的発達

●統合的視点
「意味のある人生」は両システムの統合から生まれる
逆境や苦悩は排除すべきものではなく、成長と意味発見の源泉
レジリエンスは困難を通じて育まれる能力

●実践的応用
意味中心療法(Meaning-Centered Therapy)の発展
ポスト・トラウマティック・グロース(心的外傷後成長)の概念
実存的ポジティブ心理学の提唱

補足 2

PP2.0

■ティム・ロマス(Tim Lomas)とイヴタン(Itai Ivtzan):LIFEモデル

●LIFEモデルの構成要素

  • L - Loving(愛すること)
    他者との関係性:家族、友人、恋人との深いつながり
    自己愛:自己受容と自己思いやり
    普遍的愛:人類や自然への愛
    具体的要素:共感、思いやり、親密性、所属感

  • I - Inhabiting(住まうこと)
    身体性:身体との調和的関係
    環境との関係:自然や住環境との結びつき
    現在への存在:マインドフルネス、今ここへの気づき
    具体的要素:身体感覚、場所への愛着、環境意識

  • F - Functioning(機能すること)
    心理的機能:認知、感情、行動の健全な働き
    社会的機能:対人関係や社会での役割遂行
    創造的機能:才能や能力の発揮
    具体的要素:自律性、有能感、創造性、達成

  • E - Evolving(発展すること)
    個人的成長:継続的な学習と発達
    精神的進化:意識の拡張と深化
    変化への適応:柔軟性と変容能力
    具体的要素:学習欲求、自己超越、適応性、変化受容

●モデルの特徴
統合的アプローチ:快楽的・ユーダイモニア的要素の統合
動的プロセス:静的状態ではなく継続的変化
多次元性:個人、関係、環境、時間軸を包含
文化的感受性:異文化間での適用可能性

補足 3

PP2.0

■カシュダン(Todd Kashdan)とビスワス=ディーナー(Robert Biswas-Diener):暗い側面の肯定的価値

「The Upside of Your Dark Side」理論
●暗い感情の適応的機能
怒り:不正への対処、境界設定、行動への動機
悲しみ:喪失の処理、他者からのサポート獲得、内省促進
不安:危険の察知、準備行動、慎重な判断

羨望:目標設定、向上心、社会的学習


●従来の「ポジティブ偏重」への批判
感情の抑制は心理的健康に有害
過度の楽観主義はリスク判断を誤らせる

常にポジティブであろうとする圧力はストレス源


●統合された自己(Whole Self)概念
真正性(Authenticity)の重要性
→全ての感情を受け入れる能力
→状況に応じた適切な感情表現
→内的体験と外的行動の一致
感情的柔軟性(Emotional Flexibility)
→文脈に応じた感情調整
→多様な感情レパートリーの活用

→感情と行動の分離能力


●実践的戦略
マインドフル・アクセプタンス
→判断せずに感情を観察
→体験への開放性
→価値に基づく行動選択
感情的知性の発達
→感情の識別と理解
→感情の適切な表現
→他者の感情への共感

補足 4

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:ポジティブ心理学の三つの波と第四の波の提案
https://archive.happytech.co.jp/posts/2025-07-19-1752893311/

論文紹介 ポジティブ心理学介入主観的幸福・幸福測定研究方法論・指標

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