サウナと心の健康についての、イギリス・エクセター大学の最新研究。
フィンランド式サウナの常連11人に、1時間近くじっくりインタビューして、その体験の中身を掘った質的研究です。
これまでのサウナ研究は、ほぼ身体の話でした。
炎症が下がる、心臓に良い、認知症リスクが66%下がる(週4〜7回の人)。
数字はかなり出そろっている。
メンタルの研究も最近出てきましたが、数値での分析がほとんど。
今回は、
「サウナに入っている人が、実際に何を感じているのか」を、
インタビューを元にIPA(解釈的現象学的分析)で分析した研究。
出てきた大きなテーマは2つ。
①錨(アンカー)としてのサウナ
②つながりの場としてのサウナ
①が興味深く、
参加者が口をそろえて言うのが、
「サウナはいつも同じ」ということ。
スパでも、公共施設でも、森の小屋でも、
熱があって、汗をかいて、裸で、時間が止まる。
何も変わらない。
「他に何が起きていようと、サウナは常に同じ。何を期待できるか分かっている」
つまり、
環境がまったく変わらないからこそ、
その中で自分がどんどん変われる。
「安全な器」として機能している、と。
②のつながりは、3方向に分かれていました。
- 自分とのつながり
- 他者とのつながり
- 自然とのつながり
自分とのつながりで印象的だったのは、
「静けさに耐えられる場所」という側面。
先行研究では、人は静かに考える時間を避けがちで、
実は退屈や孤独に耐えるのが苦手だと分かっています。
それなのにサウナでは、みんな座って何もしない。
「体験があまりに強烈で、たくさん考えるのがほぼ不可能になる」
という語りがありました。
熱で強制的に「今ここ」に引き戻される。
瞑想がうまくいかない人にとって、これは大きいですね。
あと、全員が言っていたのが「達成感」。
熱に耐えた、水風呂に入った、というやり切った感。
さらに深いのが、この発言。
「自分の不安は、常に生産的でなければという感覚から来ている。
だから自分のケアのために時間を取れたこと自体に、達成感を感じる」
セルフケアそのものが達成になる、という逆転。
他者とのつながりで新鮮だったのが、
「話さない社交」に価値があったこと。
「ただ座って人の話を聞いていられるのが好き。
何も言わなくていい。話す義務なしに会話の一部でいられる」
これは公共的孤独(public solitude)と呼ばれる概念で、
直接関わらなくても、そばに人がいるだけで孤独は和らぐ、
という研究とも一致します。
社交って、
「参加する」か「しない」かの二択じゃないんですね。
あともうひとつ、平等性。
「サウナでは全員が同じ高さで出会う」
「億万長者と並んで座っても、サウナの中ではただの普通の一人」
肩書きも服も持ち込めない場所は、
現代にはほとんど残っていない。
まとめると、
- 変わらない環境は、変化のための土台になる
- 強い身体感覚は、強制的に「今ここ」を作る
- セルフケアに時間を使えたこと自体を、達成として数えていい
- そばにいるだけの社交にも、ちゃんと効果がある
- ただし「誰にとっても安全な場」は、自然にはできない
という感じでしょうか。
サウナが良いという話というより、
「変わらない場所を持っている人は強い」
という話として読むと、応用が効きそうです。
別に、それはサウナでなくてもいいので。
森とか焚き火っぽくもありますね😊
最近サウナに行けてなかったんですが、久々に行きたくなる研究でした。
メンタルウェルビーイングと定期的なサウナ浴:心理的体験と認識された影響についての現象学的研究
Mental Well-Being and Regular Sauna Bathing: A Phenomenological Study of Psychological Experiences and Perceived Impact
Nina Magatova, David Francis Hunt & Jennifer Lay(エクセター大学、イギリス)
Qualitative Health Research, 2026/7/21
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10497323261462404
サウナの心理学 熱と静寂がもたらす「ととのいい」の現象学的アプローチ Based on the research by Nina Magatova, David Francis Hunt, and Jennifer Lay (2026) University of Exeter, Department of Psychology 現代の危機と、サウナ文化の世界的再興 深刻化するメンタルヘルス危機 1.5倍人 ヨーロッパの6人に1人(1.5倍人)が精神疾患を 抱えている(WHO,2022) 46% 46%が過去1年間に感情的・心理社会的問題を経験 (CEU, 2023) Key Insight: 「孤独(Loneliness)」が深刻な公衆 衛生上の課題として浮上。しかし、治療へのアクセ スには長期待機や診断の選別という壁が存在する。 ウェルネスとしてのサウナ需要 1,945億ドル 世界のサウナ・スパ市場は2029年までに1,945億ド ルに成長予測(Mordor Intelligence, 2024) 毎年倍増 イギリスではモバイル/ポップアップサウナが2018 年以降、毎年倍増(IBISWorld, 2024) Key Insight: 単なるレジャーから、アウフグース (Aufguss)などの「儀式」を通じた心身のケア 実践へと文化的なシフトが起きている。 身体的効果から、心理的「体験」の解明へ 既知の身体的効果 (Physical Benefits) ・心血管機能の向上:反応性 タンパク質(CRP)の低下に よる慢性炎症の抑制。 ・神経変性疾患の予防:週4~ 7回の利用でアルツハイマー 病リスク65%低下 (Laukkanen et al., 2017) ・脳内麻薬の分泌:ベータエン ドルフィンの放出による頭痛 と気分の高揚。 本研究の焦点 (Psychological Experience) ・定期的利用者はサウナ空間で 何を考え、どう感じているのか? ・サウナはなぜ、ストレスや孤 独感の緩和に寄与するのか? The Missing Link ~これまでの研究は「身体的効果」に偏っており、利用者の主観的な心理 的体験(Lived Experience)や、それが 日常のメンタルヘルスにどう影響す るかという「交点」が落ちていた。 質的アプローチ: 解釈的現象学分析(IPA) 対象者 (Participants) ・11名の定期的なサウナ利用者 (週1回以上、1ヶ月以上の継 続利用) ・多様な背景:22~49歳、ヨーロ ッパ在住、様々な職業(学生 からフルタイム勤務まで) 環境 (Environment) ・フィンランド式サウナ: フィンランド式サウナ:70~ 110℃のドライビーティング空間、 ロウリュ(蒸気)、および冷却 サイクル。 ・形態の多様性:伝統的サウナか ら、音楽と香りを伴うアウフグ ース(Aufguss)まで包含。 分析手法 (Methodology) ・Interpretative Phenomenological Analysis (IPA) ・個人の「生きた体験」と、その 人が体験に与する「意味づけ」 を深く掘り下げる二重解釈プロ セス。 Notebooklm テーマ1:心の錨(アンカー)としてのサウナ空間 境界的空間(Liminal Space) サウナは、日常の役割やプレッシャーから一時的に逃脱できる「移行空間(Transitional Space)」。外部の環境がどれほど不確実で混沌としていても、サウナ室内の要素(熱、汗、静寂)は常に一貫している。 The Phenomenology of Consistency(一貫性がもたらす安全): • 普遍性:スパ、森の中、コミュニティ施設など、場所を問わず「予測可能」な環境。 • 安全な器:利用者のモチベーションや精神状態が変動しても、サウナは常に変わらぬ「器(Container)」として感情の再調整をサポートする。 「サウナはいつも同じです。外で何が起きていようと、そこで何が待っていているか私は知っています。」—(Participant 1) 現代社会 vs. サウナ環境:なぜ心理的変容が起きるのか? 心理的・社会的次元 | The Outside World (現代の外部社会) | The Sauna World (熱のサンクチュアリ) 装い (Attire) | 衣服による武装 社会的マスクの着用 | 物理的・心理的な無防備さ 社会的構造 (Hierarchy) | 階層的・ステータス重視 | 平等主義(富豪と学生が隣り合う) 情報処理 (Stimulus) | デジタル過多 絶え間ない通知とタスク | 感覚的・身体的 今ここの瞬間への集中 対人関係 (Social) | 孤立感 表面的なつながり | パブリック・ソリチュード (共有された孤独) 時間感覚 (Time) | ペースが速い 常に生産性を求められる | 時間の停止 圧倒的な静寂 サウナは単なる「熱い部屋」ではなく、現代のストレス要因を構造的に排除する環境的介入(Environmental Intervention)として機能する。 テーマ2:つながりの3本柱(The 3 Pillars of Connection) 木材の香り 自然とのつながり (Connection to Nature) 共有された機能性 触と水 他者とのつながり (Connection to Others) 受動的な社交 座屈的な グラウンディング 社会的エネルギー の港失 自己とのつながり (Connection to Self) マインドフルネス 過度な浴浴による 感情の劣化 自己肯定感の回復 座屈的な グラウンディング 現象学分析により、サウナ体験は単一の健康法ではなく、 「自己」「他者」「自然」という3つの次元で断絶されたつながりを 修復するプロセスであることが明らかになった。 Notebook1M Pillar 1: 自己とのつながり (Connection to Self) 心理的メカニズム 意図的なセルフケア空間: 日常の気晴らしから切り離され、自分の内面に意識を向けるための「神聖な空間」。 圧倒的なプレゼンス(今ここへの集中): 極限の熱と冷水の刺激が強制的なマインドフルネス状態を作り出し、雑念を強制終了させる。 達成感とレジリエンス: 身体的な不快感(極度の熱)に耐え抜く経験が、自己効力感(Self-efficacy)を高め、心理的回復力を構築する。 Pull-Quotes 「仕事のパフォーマンスが上がります。なぜなら、頭の中にある『ゴミ』をすべてクリアにできるからです。」ー(Participant 11) 「サウナのセッションに行けないと、喜びを感じるキャパシティが減ってしまうことに気づきました。」ー(Participant 8) 温冷交代浴の認知的メカニズム:The Resilience Curve Phase 1: 思考の反芻 (Rumination) Phase 2: 認知的オーバーライド (Cognitive Override) Phase 3
【背景】
▼ そもそもの問題意識(なぜ今サウナなのか)
この研究は、西洋社会で深刻化するメンタルヘルスの危機を出発点にしています。
こうした背景のもとで、サウナが「身体だけでなく心の健康も支える手段」として注目され始めた、というのが論文全体の入り口です。
▼ これまでの研究は「身体」に偏っていた
サウナ研究の多くは、心臓や血管など身体面の効果を扱ってきました(Biro et al., 2003; Kihara et al., 2002, 2004; Kukkonen-Harjula & Kauppinen, 1988; Luurila, 1992; Nurmikko & Hietaharju, 1992)。
一方で近年、ストレス・うつ・不安の軽減や、アルツハイマー・認知症など神経変性疾患(脳の神経細胞が徐々に壊れていく病気)のリスク低下といった、より広い「心の健康」への可能性が指摘されるようになってきました(Engström et al., 2024; Hitsuwari et al., 2024; Hussain et al., 2019; Laukkanen et al., 2017; Zestcott et al., 2024)。
なお、この論文が使う「メンタルウェルビーイング(心の健康)」の定義は次の2つを組み合わせたものです。
▼ 既存研究(1) ── 「炎症」を切り口にした身体と心のつながり
まず論文は、サウナが体の中の「炎症(inflammation)」を抑えるという研究から入ります。炎症とは、体を守るための反応ですが、慢性的に続くと様々な不調の原因になります。
つまり「サウナ→炎症を下げる→うつのリスクにも関わる」という橋渡しの論理です。
▼ 既存研究(2) ── 全身温熱療法とうつ病の治療
炎症の話をさらに一歩進めたのが、次の研究です。
▼ 既存研究(3) ── βエンドルフィンと気分・痛み
さらに、熱にさらされること自体が脳内物質を出すという研究群があります。
ここまでで論文は「定期的な熱への曝露が、心の健康に良い影響を与える生理学的な土台がある」ことを示しています。
▼ 既存研究(4) ── 大規模・長期研究が示す予防効果
身体・生理の話に加えて、フィンランドの大規模かつ長期の追跡研究が紹介されます。
ここから、サウナは薬に頼らない予防策(non-pharmacological intervention)として、心血管・神経変性・メンタルの各リスクを下げる可能性がある、と位置づけられます。そして「だからこそ、心理面への効果をもっと研究する必要がある」という流れにつながります。
▼ ここが「研究の隙間(リサーチギャップ)」
ここまでの研究は充実しているものの、論文はある不足を指摘します。
この隙間を埋めようとする近年の研究も、順に検討されます。
Zestcott et al.(2024)(米国):定期的なサウナ利用で、自己申告のうつ・不安が有意に減少。ただし事前・事後テスト(pre-post。利用の前後で測って比べる方式)に依存し、短期的な効果が中心。「時間をかけて、その人にとってどう意味を持つのか」までは分からない
Hitsuwari et al.(2024):混合研究法(数値データと言葉のデータを両方使う手法)で、サウナが「今この瞬間への気づき」や体を通した感情の内省を高め、マインドフルネスに似た効果を持つことを発見。ただし事前・事後アンケート中心で、生きられた文脈のある体験までは踏み込めていない
Engström et al.(2024)(スウェーデン):頻繁な利用者は、全般的・精神的な健康、生活満足度が高く、ストレスが低いと報告。ただし、利用者の「生きられた体験」の深い部分までは捉えきれていない
Hussain et al.(2019)「Global Sauna Survey」:世界のサウナ利用者を対象にしたオンライン調査(482人)。回答者の100%が「リラクゼーション/ストレス軽減」を利用理由かつサウナ中の体験として挙げた。ただし選択肢があらかじめ決められた調査のため、「そのリラクゼーションという言葉の下に何があるのか」という深さやニュアンスまでは探れない
▼ まとめ ── だからこの研究は「体験の中身」を掘る
既存研究を通して見えてくる構図はこうです。
この空白を埋めるために、本研究はフィンランド式サウナの常連利用者11名にじっくりインタビューし、解釈的現象学的分析(IPA。個人が自分の体験にどう意味を与えているかを丁寧に読み解く質的研究の手法)で、その体験の「中身」に迫ろうとしています。
【研究内容】
▼ 研究デザイン ── なぜ「混合研究法」なのか
この研究は混合研究法(数値データと言葉のデータを組み合わせる手法)を採用しています。
第1段階:事前アンケート
参加資格のスクリーニング(条件に合う人を選別すること)と、人口統計・行動・背景情報の収集が目的。5つのセクション(参加資格、属性、生活習慣と健康、女性の健康、サウナ利用パターン)で構成
これにより目的的サンプリング(研究テーマに合う人を意図的に選ぶ方法)が可能になり、インタビューの質問も個々に合わせて調整できた
この戦略は、混合研究法における「参加者の絞り込みと予備データ収集」としてのアンケートの有用性を指摘した研究に依拠(Povee & Roberts, 2015)
第2段階:半構造化インタビュー
半構造化とは、大枠の質問は決めつつ、話の流れに応じて自由に掘り下げる方式。深く、柔軟で、参加者主導の会話が可能になり、複雑な個人の語りを探るのに適している
▼ 参加者 ── 33人から11人へ
参加者の内訳(Table 1)
募集方法
▼ 参加条件 ── 誰を入れ、誰を外したか
含める条件(inclusion criteria)
除外条件(exclusion criteria)── いずれも参加者の安全確保のため
▼ この募集戦略を、先行研究の文脈に置くと
論文はここで、自分たちのサンプリングの意味を先行研究と対比して説明しています。
そこで本研究は、特定の国籍を優先せずヨーロッパ全域から参加者を募集。フィンランド人を排除したわけではなく、文化的バイアスを最小化し、異なるヨーロッパ文脈でサウナがどう体験され理解されているかを広く探ることを狙いました。
▼ 手続き ── 実際の流れと、起きたトラブル
ここで論文は、研究上のトラブルを正直に開示しています。
当初、不適格者を自動除外するスキップロジック(回答内容に応じて質問を分岐させる設定)を組んでいたが、技術的エラーにより全員が誤って「不適格」と判定されてしまった
結果として、適格だった回答者の一部を意図せず失った
対応として、以後は提出のたびに手動で適格性を判定した
適格者はCalendlyでインタビューを予約
インタビューはZoomで40〜60分、形式と大まかなトピックは事前に案内。どの質問もスキップ可能と伝えられた
第一著者が実施し、インタビューガイドに沿って進行。同意のうえ音声と映像を記録
エクセター大学心理学倫理委員会の承認を取得(Ref: eCLESPsy001431 v1.0、2023年4月24日承認)
インタビュー後3週間はデータ撤回可能。その後は個人識別情報を完全削除し、復元不可能な形で匿名化
▼ 分析手法 ── IPA(解釈的現象学的分析)とは
体験の主観的で個人的な性質を扱うため、IPA(Interpretative Phenomenological Analysis)が選ばれました。
IPAの特徴「二重の解釈学(double hermeneutic)」
▼ 研究者自身の位置づけ(リフレクシビティ)
IPAは研究者を「能動的な解釈者」とみなすため、自分自身の前提を振り返り続けることを求めます(Smith et al., 2009)。論文はこれを明示しています。
▼ データのコーディング ── 6ステップ
Moustakas(1994)、Smith et al.(2009)、Creswell(2013)、Alase(2017)の手法に基づく6段階を採用。分析ソフトNVivoを使用。
読み込みと再読 ── 逐語録を繰り返し読み、内容に没入して初期理解を得る
初期メモ ── 気になるパターン、重要な言い回し、洞察を探索的に書き留める(Alase, 2017)
実験的ステートメントの作成 ── 初期メモから、参加者がどう意味づけているかの本質を捉える解釈的要約をつくる(Creswell, 2013)
テーマの群化と接続 ── ステートメント同士を意味のつながりで束ね、対比・比較しながらテーマにまとめる(Smith et al., 2009)
個人テーマの特定 ── 参加者一人ひとりの体験の核を抽出する(Alase, 2017)
ケース横断分析 ── 全参加者のテーマを比較し、共通点と差異から全体像を描く(Smith et al., 2009)
▼ 分析前の整理 ── 「サウナ」と「アウフグース」
■ 結果 ── 2つの大テーマ
結果は2つの包括的テーマに整理されました。
▼ テーマ1:錨としてのサウナ
領域1:一貫性が生む安全さ
領域2:感情の変化のための安全な器
参加者はサウナを、日常の圧力から切り離された場として描いた。習慣的な役割から一歩外に出て、内省・回復・つながりに向かえる場所
これはTurner(1969)のリミナリティ(通過儀礼の途中にある「どちらでもない状態」。構造がありながら境界のない空間に入ることで、通常の日常が一時停止し、心理的な変容が可能になる)という概念と重なる
またWinnicott(1971)の移行空間(内的な現実と外的な現実のあいだを行き来することを支える中間領域)の考えとも響き合う。感情の再調整の機会が生まれる
ある参加者は、何が起きていてもサウナは常に同じで、何を期待できるか分かっている、と語った(P1)。この安定感が、予測不能な人生のなかの「土台となる聖域」として働いた
一方、環境が安定している反面、参加者自身は動的だった ── 人生の状況の変化に応じて、動機や体験は移り変わる
屋外、共同、アウフグース、女性専用など、感情的なニーズに応じて特定のタイプを好む人もいた
この「環境の安定性」と「個人の可変性」の二重性こそが、サウナの安全な器としての役割を際立たせた。一貫した背景が、多様で移ろう内的な旅を支える
▼ テーマ2:つながりの場としてのサウナ
つながりは3つの相互に関連する領域で語られました ── 自己へ、他者へ、自然へ。
領域1:自己とのつながり
(1)セルフケアの実践
サウナは、心の健康を育て、他では得がたい静けさをもたらす場として語られた(P5)
外的な刺激から離れ、内側に集中できる。自分と自分のプロセスだけがある内的空間(P2)
「自分を大切にすること」「自分を優先すること」として位置づける声(P8、P3、P11)
困難な時期を支える存在にもなっていた。週のなかで唯一の良いことだった、サウナのセッションだけが自分を持ちこたえさせた、といった語り(P1)
都市のなかの「神聖な場」と表現する人も(P9)
効果はセッション後にも及ぶ ── 定期的に通えない時期は、喜びを感じる力が落ちる(P8)
またサウナは単なる身体活動ではなく、より広い「意味のあるルーティン」の一部として語られた。準備、そこへ向かう道のり、全体の儀式性が重要(P4)
一方で柔軟さを好む人もおり、決まったパターンを持たない人もいた(P6)。ルーティンは個別化されつつ、多くの人にとって構造と安寧の中心にあった
(2)存在と解放の体験
(3)自己成長と安全な場
(4)感情のバランス
(5)達成感
領域2:他者とのつながり
(1)社会的な結びつきと交流
気軽でありながら深い交流の場になっていた。見知らぬ人に思わず打ち明けてしまい、少し軽くなって出てくる(P7)
社交のために通う人、いつもと違う環境で人と話すことを楽しみにする人(P1)、新しい友人と出会う良い方法(P3)
孤立の時期にその重要性が際立った。パンデミック中、一人暮らしで強い孤独を感じていたときの支えになった(P4)、年齢を重ねて渇望していた社会的つながりを取り戻せた(P7)
一方で、全員が社交を求めたわけではない。サウナでは社交しない、自分の時間だ(P5)、静けさを好む、内なる自分とつながる神聖な場(P9)
文化的背景も影響。フィンランドでそう学んだ、という語り(P5)
孤独を優先する人も「受動的なつながり」は評価していた。ただ座って人の話を聞いていられる、話す義務なしに会話の一部でいられるのが心地よい(P1)
つまりサウナは、多様な社会的ニーズに柔軟に応えうる場だった
(2)脆弱性と信頼
信頼と開放性は対人的な関わりにも及んだ。物理的にも比喩的にも裸で、余計なものを省いて意味のある会話に入れる。精神的にも少し開ける(P4)
非審判的(相手を評価・批判しない)な雰囲気が安全な場としての鍵。誰もが警戒を解いているようだ(P7)、抑制を取り払う良い遊び場(P2)、現代では稀な環境(P7)、社会的な仮面を被らなくていい安全な場(P11)
ただし、ジェンダー力学や女性の性的対象化に関する異なる体験も報告された
女性の身体はより性的に見られ、対象化され、恐れられているという指摘(P11)
安全への懸念は女性に共通していた。サウナは癒しの聖域であり、だからこそ性的な目的のサウナは安全に感じられず強い抵抗がある(P8)
過去につらい経験を持つ参加者にとって、女性専用の空間は特に価値が高かった。男性がいないことを重視する語りが複数あった(P8)。男女混合の空間は「許容はできるが理想的ではない」と位置づけられていた
(3)平等主義とコミュニティの結束
領域3:自然とのつながり
(1)屋外サウナの体験
(2)感覚的な体験
■ 考察
▼ まず前提の確認 ── どんな人たちの語りなのか
論文は解釈にあたり、参加者の特性を踏まえるよう促しています。
同時に、より広い文献の中に位置づける必要があるとも述べています。
▼ 錨としてのサウナ ── リミナルな空間としての意味
▼ 自己とのつながり ── 「静けさに耐えられない現代」への処方
本研究と既存研究は、サウナが意図的なセルフケアの環境として機能しうることを示唆する。とりわけ、現代人が「静けさや孤独と向き合うことの難しさ」を抱えている点において(Chang et al., 2023; Engström et al., 2024; Hussain et al., 2019; Hatano et al., 2022; Lindsay & Creswell, 2017; Wilson et al., 2014)
Wilson et al.(2014)やHatano et al.(2022)は、人が孤独な時間に広く不快を感じ、メンタルヘルス上の利点があるにもかかわらず静かな内省を避けがちであることを示した
過剰刺激の世界(Maté & Maté, 2022)において、参加者はサウナをマインドフルネスと感情調整を育む稀な場として捉えていた
これはKohut(1977)の「健康な自己」概念とも重なる ── 感情的に養われる環境が、自己をなだめること、自己理解、内的状態の統合を可能にする
参加者の語り(地に足がつき、マインドフルである/頭の中のゴミを片づける)は、マインドフルネス実践のメカニズムと並行する。意図的に内的状態と関わることで認知的な明晰さと感情的レジリエンスが高まる(Lindsay & Creswell, 2017)
これを裏づける神経生理学的研究として、Chang et al.(2023)は、サウナ曝露がアルファ波・シータ波(リラックスした注意状態や内受容感覚 ── 自分の身体内部の感覚に気づく力 ── の高まりと関連する脳波)を増加させることを示した。同研究の参加者も気分の改善と落ち着きを報告しており、本研究の主観的体験を補完する
レジリエンスと達成感について
臨床・公衆衛生への含意
冒頭で述べた治療のギャップ(長い待機リスト、心理サービスへのアクセス制限)を踏まえると、サウナは補完的で非臨床的な感情サポートのツールになりうる
正式な治療の代替ではなく、自己調整と心理的ケアに自ら取り組めるようにする、参入障壁の低い実践として位置づけられる
Engström et al.(2024)の大規模混合研究法でも、定期利用者は睡眠の改善、活力の増加、内省の明晰さの向上を報告 ── メンタルレジリエンスと自己認識の向上に近い
国際調査でも、気分の改善、ストレス軽減、睡眠の改善が報告されている(Hussain et al., 2019)
質的な傍証として、Sorri(1988)はサウナ浴を、攻撃的な衝動を和らげ感情の解放を促す文脈 ── 開放性とリラックスを支える心理的に「包み込む」空間 ── として概念化した
Woo et al.(2025)は、韓国の中年女性においてサウナが「巣のような」空間として機能し、コミュニティと感情的な安心を育むことを示した。本研究の帰属・信頼・社会的ウェルビーイングのテーマと響き合う
自分をなだめ、感情を処理し、内省的な孤独を得られる一貫した場として、サウナはより形式的な介入の有用な補助になりうる。とりわけ、制度的・物理的な障壁で従来のメンタルヘルスケアにアクセスしにくい人にとって
ただし著者は、有望ではあるものの、どう体系的に統合できるかにはさらなる研究が必要だと明記している
そのうえで、軽度〜中等度の不安・うつ・ストレス関連の不調に対して、薬物療法の補助または代替として専門家が処方する可能性、対話療法やマインドフルネスと組み合わせた統合的な治療計画への組み込みにも言及している
▼ 他者とのつながり ── 孤独への公衆衛生的アプローチ
サウナ環境は強い社会的結びつき、コミュニティ、平等の感覚を育てており、冒頭で挙げた公衆衛生課題である孤独への有望な介入になりうる
従来の社会的階層が溶け、熱の中での共有された脆弱性が包摂と社会的結束の雰囲気を生む
テクノロジーと外的な中断がない空間が、自分自身と他者への真正なつながりを可能にし、共有体験の感覚を深めた
ここで有用なのが「受動的な社交」あるいは「公共的な孤独(public solitude)」という概念
Stavrova & Ren(2023):直接関わらなくても、他者のそばに存在するだけで孤独が和らぎ、帰属感が育ちうる。積極的な参加のプレッシャーなしに感情的な利益が得られる
Nguyen et al.(2017):共有空間での孤独は、感情の自己調整の一形態として機能しうる。共同的な環境の心理的安全性の恩恵を受けながら自己内省ができる
参加者はまさに、静かな自分の時間と、参加義務なしに会話を聞く心地よさの両方を享受していた。この二重性がサウナの包摂性を示し、能動的にも受動的にも社会的交流に対応できる
西洋社会の公共空間は、ヘッドフォンやスマートフォン、本に没入した個々の孤立で特徴づけられがち(Humphreys & Hardeman, 2021)
参加者はサウナを、その対極 ── 存在とコミュニティ構築の稀な機会 ── として体験していた
公衆衛生の観点では、サウナは非薬物的な戦略として、心の健康を高め社会的孤立を減らしうる。孤独への対処、健康的なルーティンの促進、アクセスしやすいウェルネスの選択肢の提供につながる
学校、ユースセンター、サウナ運営者の協働により、若年層を対象としたウェルネス教育プログラムへの統合も考えられる
▼ 包摂性と多様性 ── 誰が入れて、誰が入れないのか
しかし論文は、包摂には構造的な障壁の認識が必要だと強調します。
▼ 限界と今後の研究
限界
今後の方向性
男性・女性・ノンバイナリーの人々がサウナ空間をどう歩くかの差異を調べれば、包摂的な設計の指針になる
アウフグースに焦点を当てた研究は、固有の心理的・社会的効果を明らかにしうる
子宮内膜症、不眠、不安、うつなど特定の状態に対するサウナ利用の研究は、治療的な可能性の検証につながる
孤独・ストレス・社会的孤立への長期的な役割の検討は、コミュニティのウェルビーイングにおける価値を示しうる
本研究は主観的・体験的な意味に焦点を当て、測定可能な生理的アウトカムは扱わなかった。今後はサウナの温度、時間、コントラストのサイクル(冷水浴など)といった変数が心理体験をどう形づくるかを探れる
参加条件は「週1回以上を1か月」だったが、実際には全参加者がそれ以上に持続的な関与を語り、典型的には週1〜2回を長期にわたり継続していた
参加者は概して、子ども時代からサウナと強い関係を持っていたわけではなく、人生の後の段階で定期的な実践を築いたと語った
関与の期間や深さの違いは正式には分析しておらず、今後の研究課題
▼ 結論
■ 参加者インタビューの発言・全整理
▼ 前提:参加者の概要
▼ P1 ── 「週のなかで唯一の良いこと」
(サウナの一貫性について)
(セルフケア・支えとして)
(社交について)
(平等性について)
▼ P2 ── 「自分と自分のプロセスだけがある内的空間」
(自己とのつながり)
(自己成長)
(裸と親密さ)
(達成感・レジリエンス)
(信頼と脆弱性)
▼ P3 ── 「全員が同じ高さで出会う」
(セルフケア)
(存在感・今この瞬間)
(裸と自己受容の変化)
(全体的な変化)
(達成感)
(社交)
(平等主義)
(コミュニティ)
(自然)
▼ P4 ── 「全体の体験そのものが大きな要素」
(ルーティン・儀式性)
(思考が止まる感覚)
(パンデミック期の社交)
(脆弱性と対話の深さ)
(自然)
▼ P5 ── 「他では得られない静けさ」
(静けさ)
(気分)
(達成感とセルフケア)
(社交をしない立場)
(文化的背景)
(感覚)
▼ P6 ── 「決まったパターンはない」
(柔軟なスタイル)
(気分)
▼ P7 ── 「見知らぬ人に打ち明けて、少し軽くなって出てくる」
(浄化の感覚)
(裸と文化)
(不安の軽減)
(達成感)
(社交・打ち明け)
(非審判的な雰囲気)
▼ P8 ── 「サウナは癒しの聖域」
(セルフケア・自己愛)
(効果の持続)
(感情のバランス)
(安全性への懸念)
(女性専用空間の価値)
▼ P9 ── 「都市のなかの神聖な場」
(神聖さ)
(解放)
(静寂の選好)
▼ P10 ── 「木の香りが瞑想的な状態を引き起こす」
(動機)
(屋外サウナ)
(感覚)
▼ P11 ── 「これはメンタルヘルスの衛生習慣」
(自己とのつながり)
(認知の明晰さ)
(裸と文化)
(コントラスト浴と感情の調整)
(コストパフォーマンス)
(安全な場)
(ジェンダーの問題)
(自然)
■ 発言全体を横断して見える構図
▼ 全員に共通していたこと
▼ 意見が分かれたこと
(1)社交するか、しないか
(2)ルーティンを持つか、持たないか
(3)混合空間か、女性専用か
▼ 語りが集中したテーマ(登場人数の多い順の印象)
対話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:がんばって整えようとするほど、整わない話〜サウナと幸せ〜
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-07-23-1784791200/
動画形式での紹介はこちら😊
https://youtu.be/VhLRsPXty5s