2026.08.14
発達段階を高める経験の4原則と、高める研修
人が世界をどう捉えるかの枠組み(自我発達段階)についての、オーストラリアの研究。
成人58名を対象にした実験です。
ー
まず前提として。
人の「ものの見方」の複雑さには段階があって、
上がるほど、自分と他人への気づきが細やかになり、
物事を単純化せずに捉えられるようになる、とされています。
ところが、大人の大多数はけっこう手前の段階で止まってしまう。
92研究・12,000人超のメタ分析でも、これは一貫して確認されています。
ー
じゃあ、止まった後は動かないのか?何があれば動くのか?
これを調べたのがこの研究です。
ー
研究者たちは、発達が起きる経験には
4つの条件が必要だと考えました。
①今の自分の枠組みでは処理しきれない(揺さぶられる)
②自分にとって切実なテーマである
③感情が動く
④人との関わりの中で起きる
ー
そしてこの4つを全部満たす研修を作って、
本当に段階が上がるか実験した。
週1回90分×10回、合計15時間です。
ー
研修の中身は、こんな感じ。
・1〜2回目:感情の識別
感情の種類(最初に湧く感情/その感情に対して湧く感情/相手を動かすために出す感情)を学ぶ。
リラクセーション、音楽を聴く、日記を書く。
感情の感じ方には個人差があると知る。
・3〜5回目:アイデンティティの明確化
自分をコラージュで表現する。
2人組で自分の性格について語り合う。
自分では気づいていない自分について、友人にフィードバックをもらう。
自分の「中核」と「周辺」を仕分ける。
・6〜7回目:人間関係のパターン
関係のタイプごとの親密さ、期待、ニーズ、そして恐れを整理する。
誰かに惹かれる/反発する、その心理的な理由を考える。
今の仕事とプライベートの関係を振り返る。
・8〜10回目:コミュニケーション
積極的傾聴、効果的な伝え方、対立の解決。
共感の練習。
自分の実際の場面に当てはめて議論する。
ー
内容だけ見ると、
わりとよくある対人スキル研修です。
実は、ここがこの研究のポイント。
ー
仕掛けは「どのレベルで教えるか」。
参加者の段階より1〜2段階上の枠組みから教える設計にした。
つまり、今のままでは飲み込めない高さに、わざと置いた。
ー
結果。
研修を受けた人のうち、
段階が下の方だった25人中20人が、1段階上がった。
4ヶ月後も維持されていました。
何もしなかった比較グループは、ほぼ動かず。
ー
そして面白いのがここ。
もともと研修より上の段階にいた10人は、
ほとんど上がらなかった。
彼らにとっては「揺さぶり」にならなかったから。
ー
同じ研修が、ある人には効いて、ある人には効かない。
しかもそれが事前の予測どおりだった。
これが、4条件という考え方の裏づけになっています。
ー
まとめると、
・大人の見方の枠組みは、変わる。少なくとも一段は。
・ただし条件つき。揺さぶられて、自分事で、感情が動いて、人との間で起きること。
・そして「今の自分にちょっと届かない高さ」に置かれること。
ー
研修を作る側としては、
中身をどう作るかより、
「誰に、どの高さで置くか」が効いている、というのが刺さります。
全員に同じ研修をやっても、届く人と届かない人が出るのは、たぶん当たり前のこと。
ー
個人としては、
ちょうどよく揺さぶられる場所に、自分から出ていく。
それも、心の準備ができているタイミングで。
研究者たちは最後に、
参加者が自分から申し込んできた人たちだったこと、
つまり変化の機が熟していたことにも触れています。
ー
なお、研究では、Loevinger先生の段階でいうE5→E6への向上が見られました。E6,7くらいのプログラムだったので。
キーガン先生の段階にバックリ合わせると、アンバーとオレンジの間(S3環境順応とS4自己主導)から、オレンジ(S4自己主導)への向上ですね。(厳密には対応しませんが。)
ーーー
Promoting Advanced Ego Development Among Adults
成人における高次自我発達の促進
John Manners & Kevin Durkin(西オーストラリア大学)、Andrew Nesdale(グリフィス大学)
Journal of Adult Development, Vol.11, No.1, 2004/1, pp.19-27
https://verticaldevelopment.com/wp-content/uploads/2018/05/5.-Manners-Durkin-_-Nesdale-2004-Measuring-Advanced-Development.pdf
大人の自我はどこまで発達するのか? 心理的成熟を促す「4つの条件」と実証的アプローチ Based on the research by Manners, Durkin, & Nesdale (2004) Promoting Advanced Ego Development Among Adults Genuis Notebook The Bottom Line: 大人の成長に関する3つの結論 1. 成長の停滞 (The Ceiling) 多くの大人は、人生の早い段階で自我の発達を止め、「自己認識的(Self-Aware)」なレベルで安定化してしまう。 2. 突破口 (The Catalyst) しかし、適切な「場造的揺さぶり」と感情的・対人的な環境が備え、大人になってからのさらなる自我発達は十分に可能である。 3. 実証されたメカニズム (The Proof) 10週間の介入実験により、科学的アプローチが成人の自我ステージを確実に、そして永続的に引き上げることが証明された。 Corridor Notebook 現状の課題:E5(自己認識的)段階の壁 Loevinger の自我発達理論に基づく 92 の研究、12,000 人以上のデータを統合した Cohn(1998)のメタ分析は、衝撃的な事実を示しています。 「大多数の成人は、初期の成人期までに E5(Self-Aware)以下の段階で成長を止める」 E5(Self-Aware/自己認識的)~大半の大人の終着点 E4(Conformist/順応的) E6(Conscientious/良心的)以上~少数派の領域 E1-E4 E6-E9 Genius Notebook E5の壁の向こう側:高度な自我発達がもたらすもの もし大人が発達の壁を越えられるとしたら、それは何をもたらすのでしょうか? 研究が示す 高度な自我ステージ(E6以上)の利点: 優れたマネジメント力 不確実性の高い状況下での効果的な問題定義と、協働的な意思決定能力(Bushe & Gibbs, 1990; Merron, 1986)。 育児と関係性の深化 子どもへのより高いレベルの共感、サポート、および青年期の自律性の促進(Hauser et al., 1991)。 夫婦関係と自己管理 健全で有能なパートナーシップの構築と、加齢に伴う高いレベルの身体的セルフケア能力。 E5の壁 Cornelius Notebook 発達の現在地を知る:自我ステージ比較マトリクス E4: 順応的 (Conformist) E5: 自己認識的 (Self-Aware) [Modal Adult Level] E6: 良心的 (Conscientious) [Advanced] E7: 個人的 (Individualistic) [Advanced] 意識の焦点: 外見・社会的承認 | 感情・一般的な目標 | 内面的な動機・達成 | 個性・役割の葛藤 複雑性の捉え方: 黒か白か | 例外を認め始める | パターンと全体像を見る | 矛盾やパラドックスを許容する 対人関係: 帰属への固執 | 表面的な相互作用 | 相互の責任と尊敬 | 他者の自律性の尊重 Cornell Notebook 成長の4輪:発達を強制する「触媒」の条件 時間が経てば自動的に成長するわけではありません。自我の構造を次の次元へ引き上げるのは、以下の4要素が同時に作用する「時定の人生経験」のみです。 構造の揺さぶり (Structurally Disequilibrating) 現在の自我構造では処理しきれない複雑な課題への遭遇。 個人的な重要性 (Personally Salient) 参加者自身の人生や仕事に直接関連し、切実であること。 自我の高次化 (Ego Evolution) 感情的な関与 (Emotionally Engaging) 単なる知的興味ではなく、感情的な覚醒や内省を伴うこと。 対人的な性質 (Interpersonal) 他者との関係性の交流、または他者との対話を通じて行われること。 Cornelius Notebook 必須条件1:「構造的揺さぶり」とは何か? 人は、心地よい環境にいる限り既存の枠組み(パラダイム)を手放しません。 n(現状) 現在の処理能力(例:E5段階)。 このレベルの情報の入力では、既存の枠組みに 「同化」されるだけで成長は起きない。 「調節(Accommodation)」の強制: この枠組みでは理解できない情報や葛藤に直面させることで、枠組み自体の 再構築を引き起こします。 n+1/n+2(介入) 1~2段階上の複雑な視点 (例:E6~E7段階)への 強制的な曝露。 Cornelius Notebooks 必須条件2~4:理屈だけでは人は変わらない 構造的課さぶり(知的な負荷)だけでは、防衛機制が働き反発を招きます。 発達には、人間的・感情的な営みが不可欠です。 個人的重要性 感情的関与 対人的性質 心理的変容の温床 (The Crucible of Transformation) 「自発的な参加」と「自分の日常とのリンク」。他人にやらされている状態では変容は起こらない。 既存の自分を慰う「痛み」や、新たな気づきの「喜び」など、情動的体験を伴う深い省。 新しい視点を磨のように映し出し、他者との安全な対話とフィードバックのループ。 Cornell Notebook (文字なし) 実証実験:10週間の介入プログラム 提案された「4つの触媒」を全て組み込んだプログラム(Building Better Relationships)を実施し、真の実験計画法(無作為割付)で効果を測定しました。 介入群1&2(N=36): 1回90分×10週間のプログラムを受講。 対象:社会人および一般成人(N=58、平均年齢32~37歳) 統制群(N=22): 待機リスト(介入なし)。 Pre-test Post-test Follow-up (開始直前) (終了直後) (4ヶ月後) ※測定エラーを防ぐため、WUSCT(ワシントン大学文完成テスト)の貴ある短縮版を使用。 Cornell Notebook 理論から実践への変換:プログラムの構造 プログラムはE5(自己認識的)段階の参加者に揺さぶりをかけるため、意図的にE6(良心的)・E7(個人的)段階の構造で設計されました。 S1-2: 感情の識別 (Emotional Discrimination) 複雑な一次感情・二次感情の識別。文化的・個人的な感情抑圧の理解。 S3-5: アイデンティティの定義 (Identity Definition) 核心的(Core)な自己と周辺的(Peripheral)な自己の区別と統合。 S6-7: 関係性パターンの理解 (Relationship Patterns) 親密さの度合いに応じた期待と恐れの分析。 S8-10: コミュニケーション (Communication Skills) 能動的傾聴と、効果的な葛藤解決の原則の適用。 ※全てにダイダクティック(講義)、ディスカッション、体験的エクササイズを統合し、感情的・対人的関
【背景】
■Manners, Durkin & Nesdale (2004)「成人の高次自我発達を促進する」
この論文は、成人の自我発達(ego development=自分と他者をどう捉えるかという、パーソナリティの枠組みそのものの発達)が、大人になってからでも先へ進むのか、進むとしたら何がそれを引き起こすのか、を介入実験で確かめたものです。
その問いが立ち上がるまでには、はっきりした流れがあります。順に追っていきます。
ーー
■1 出発点:レヴィンジャーの自我発達理論
▼ 理論の骨格
・Loevinger (1976) は、人のパーソナリティが生涯を通じてどう発達するかを、9つの段階として描き出しました
・段階が上がるにつれて、自己と対人関係への気づき、自己調整、自律性、概念的な複雑さ、統合の度合いが高まっていく、という構成になっています
・段階には番号が振られています(Hy & Loevinger, 1998)
E1 前社会的 / E2 衝動的 / E3 自己保護的 / E4 順応的 / E5 自己意識的 / E6 良心的 / E7 個別的 / E8 自律的 / E9 統合的
▼ 理論の妥当性は繰り返し検証されてきた
・この理論と測定尺度については、概念的な健全さと妥当性を支持する研究が厚く積み上がっています(Hauser, 1976, 1993; Loevinger, 1979, 1993; Manners & Durkin, 2001; Novy, 1993; Novy et al., 1994; Novy & Francis, 1992; Westenberg & Gjerde, 1999)
・つまり「理論として使えるかどうか」はすでに決着がついている領域だ、という前提から本研究は出発しています
ーー
■2 しかし、大人の大半は途中で止まる
▼ 繰り返し見つかってきた事実
・成人期の自我発達研究で繰り返し見つかってきたのは、高次段階まで進む人はごく少数だ、という所見でした
・一般成人の大多数は、成人期初期までに自己意識段階(E5)かそれ以下で安定してしまう(Holt, 1980; Loevinger et al., 1985; McCrae & Costa, 1980; Novy, 1993; Redmore, 1983)
・自己意識段階(E5)というのは、自己と他者への気づきが芽生えはじめ、物事を複雑に捉える力が出てきたばかりの、いわば入り口の段階です
▼ 決定打となったメタ分析
・Cohn (1998) は92本の研究・のべ12,000人超を統合するメタ分析(複数の研究結果を統計的にまとめ直す手法)を行い、この「大半がE5以下で止まる」というパターンが、幅広いサンプルで一貫して再現されることを示しました
・ここから、本研究の中心的な問いが生まれます。安定してしまった後にさらに発達することは可能なのか。可能なら、何がそれを起こすのか
ーー
■3 なぜその問いが重要なのか(高次段階の利点)
理論的には、もし成人期にそれ以上発達しないのなら、自我発達理論を「生涯発達の理論」と呼ぶこと自体が揺らぎます。
実践的には、高次段階には次のような利点が報告されているため、そこへ進める人を増やせるかどうかが問題になります。
・夫婦関係:相互作用のスタイルがより有能で健全になる(Zilbermann, 1984)
・母親:乳幼児への養育・支援・理解の水準が高い(Biekle, 1979; Dayton, 1981)、思春期の娘の情緒的な成長を後押しできる(Hauser, Powers, & Noam, 1991)
・管理職:有能さの水準が高く、問題の定義がより的確で、協働的な意思決定をよく用いる(Bushe & Gibbs, 1990; Merron, 1986; Smith, 1980)
・高齢者:身体的なセルフケアの水準が高い(Gast, 1984; Michaelson, 1985)
ーー
■4 ところが「何が発達を起こすのか」は分かっていなかった
▼ 理論の側の空白
・Loevinger (1994) 自身が、自我発達の進行を説明する一般に受け入れられた理論は存在しない、と認めています
・この「段階移行のプロセスを説明する首尾一貫した理論の不在」は、レヴィンジャー理論に対する批判の一つでもありました(Broughton & Zahaykevich, 1988)
▼ 発達が起きること自体は分かっていた
・中年期の重要なライフイベントの影響を扱った研究(Bursik, 1990:離婚への適応 / Helson & Roberts, 1994)から、成人期にも段階発達が起こりうることは明らかでした
・介入プログラムの研究(Alexander et al., 1990; Hurt, 1990; Lasker & Strodtbeck, 1975; MacPhail, 1989; White, 1985)からも同様です
・不明のまま残っていたのは二つ。高次段階まで持続的に発達できるのか、そしてその具体的なプロセスは何か
ーー
■5 先行する4つの介入研究と、その限界
成人の自我発達を促進しようとした介入研究は、本研究以前に4件しかありませんでした。
・White (1985):高次段階への移行を一部の参加者ではっきり示した唯一の研究。ただし統制群(介入を受けない比較グループ)がなく、介入も2年間にわたる広範な看護研修だったため、何が移行を引き起こしたのかが特定できない
・Hurt (1990):共感訓練を含んでいたため、結果的に情動的に関与を促し、対人的な性質を備えていた
・MacPhail (1989):成人受刑者への道徳教育アプローチ
・Alexander et al. (1990):12ヶ月間の超越瞑想(TM)の実践。後述する概念枠組みの要素を一つも含んでいなかった
▼ 共通する欠落
・4件はいずれも発達を促進すること自体には成功した
・しかし、プログラムを参加者にとって「構造的に揺さぶる」ように設計した研究は一つもなかった
ーー
■6 本研究が土台にした概念枠組み(Manners & Durkin, 2000)
▼ 4領域の知見を統合して作られた枠組み
・レヴィンジャー自身の成人期の段階移行に関する理論的考察と関連研究
・成人の自我発達を促進しようとした介入プログラム
・成人期の道徳性発達の理論と研究
・成人期の一般的なパーソナリティ変化の理論と研究
▼ そこから導かれた2つの要点
・第一に、成人期にも段階移行は起こりうる
・第二に、成人期の段階移行は、特定のタイプのライフ経験に対する調節的(accommodative)な反応として起こる。つまり、既存の枠組みでは処理しきれない経験に出会ったとき、枠組みの側が作り替えられる
▼ その「特定のタイプの経験」の4条件
・構造的に不均衡を起こす(structurally disequilibrating):今いる段階の認識の枠組みでは処理しきれず、揺さぶられる
・自分事である(personally salient):自分にとって切実な意味を持つ
・情動的に巻き込まれる(emotionally engaging)
・対人的である(interpersonal)
▼ 「揺さぶり」をどう作るか
・道徳性発達や認知発達の研究で用いられてきた原理を援用し、対象者の段階より1〜2段階上のレベルで内容を構成する(Blatt & Kohlberg, 1975; Turiel, 1966)
・逆に、構造的な揺さぶりだけでは自我発達は起きないことも先行研究から示されていました(Adams & Fitch, 1983; Loevinger et al., 1985)。だからこそ、残り3条件(自分事・情動・対人)が同時に必要になる、という論理です
ーー
■7 方法論上の批判にどう応えたか
過去の介入研究に向けられた批判を踏まえ(認知発達領域: Wohlwill, 1973 / 道徳性発達領域: Lawrence, 1980 / 自我発達領域: Loevinger, 1976, 1993)、次の設計が採られました。
・真の実験デザイン:参加者を介入群か統制群かにランダムに割り付ける
・段階変化が起こるのに十分な介入期間を確保する
・変化が持続するかを見るためのフォローアップ評価を行う
・測定にはWUSCT(ワシントン大学文章完成テスト:文の書き出しに続きを書いてもらい、その内容から自我段階を判定する尺度。Loevinger, 1985)の代替短縮版を用い、事前・事後・追跡で別々の版を使う。同じテストを短期間に繰り返すと生じる測定誤差を避けるためです(Redmore & Waldman, 1975)。2つの短縮版の相関は.96、元の36項目版との相関は各.95と確認されています(Novy & Francis, 1992)
・介入の内容と形式を、自我発達理論そのものと結びつけて設計する(Loevinger, 1976 の指摘に沿う)
ーー
■8 考察で援用される「タイミング」の議論
なぜ30代が中心の参加者たちは、これまでの人生で揺さぶられる経験をしてきたはずなのに、今回はじめて段階移行したのか。この問いに対して、著者らは2つの先行研究の考え方を引きます。
・「社会的時計(social clock)」との同期の度合い、つまりその人の人生の時間割と経験のタイミングが合っているかどうかが変化を左右する(Helson & McCabe, 1994; Helson, Mitchell, & Moane, 1984)
・自分自身・人生・人間関係について、それまで見過ごしたり否認したりしてきた不満が結晶化(crystallization of discontent)するタイミングがある(Baumeister, 1994)
ーー
■ここまでのまとめ
・レヴィンジャーの自我発達理論は、生涯発達の理論として妥当性の裏づけを持っている(Loevinger, 1976 ほか)
・しかし実際には、大人の大半はE5(自己意識段階)以下で止まる。92研究12,000人超のメタ分析でも一貫して確認されている(Cohn, 1998)
・高次段階には夫婦・子育て・管理職・健康行動の面で利点が報告されており、そこへ進めるかどうかは実践的にも重要
・ところが「何が発達を起こすのか」を説明する定説は存在せず(Loevinger, 1994)、先行する4件の介入研究も、構造的な揺さぶりを設計していなかった
・そこで本研究は、4条件(構造的不均衡・自分事・情動的関与・対人性)を満たすよう設計した枠組み(Manners & Durkin, 2000)を、統制群つきの実験で検証した
【研究内容】
■Manners, Durkin & Nesdale (2004)
研究の内容(方法・結果・考察)
前回整理した「4条件(構造的不均衡・自分事・情動的関与・対人性)を満たす経験が段階移行を起こす」という枠組み(Manners & Durkin, 2000)を、実際の介入プログラムに落とし込んで検証したのがこの研究です。設計から順に見ていきます。
ーー
■1 仮説
・事前の自我段階が自己意識段階(E5)以下の参加者では、介入群のほうが統制群より自我段階の上昇が有意に大きい
・一方、良心的段階(E6)以上の参加者では、上昇はごくわずかにとどまる
・E6以上の人にとっては、このプログラムは「揺さぶり」として機能するように作られていないため、移行は予測されない
同じプログラムが、ある人には効き、ある人には効かないことを事前に予測している。ここがこの研究の設計上の要です。効果があること自体より、「予測どおりのパターンで効くこと」が枠組みの検証になります。
ーー
■2 方法
▼ 参加者の集め方
・自己意識段階(E5)にいる人が一定割合含まれ、かつ研修プログラムに関心を持ちそうな2つの母集団が選ばれた
・第一は大学のGSM(経営大学院)のメーリングリスト。企業セクターで働く男女で、マネジメント講座に関心を持ちそうな層
・第二は近隣の教会。年齢・学歴・性別構成がGSMリストと近いと考えられた層
・約500人にチラシを送付。プログラム名は「Building Better Relationships(よりよい人間関係を築く)」で、自己理解、コミュニケーション、対立解決スキル、ストレス管理、目標設定の訓練を提供すると告知された
・参加費は15ドル。通常の相場よりかなり安く、その理由は「研究の一環として評価質問紙に回答してもらう手間への相殺」と説明された。修了証も完遂の誘因として用意された
▼ 群分け
・88名が申し込み(GSM 65名、教会 23名)
・ランダムに割り付け。介入群は集団介入として適正規模になるよう2つに分けられた(Yalom, 1985)
・介入群1(GSMから):開始31名 → 最終21名
・介入群2(教会から):開始22名 → 最終15名
・統制群は「順番待ち(wait-list)」方式:開始34名 → 最終22名。順番待ち統制群とは、待っている間は介入を受けず、研究終了後に同じプログラムを受けられる比較グループのこと
・脱落(プログラム未完了または質問紙の不備)を除いた最終サンプルは58名、年齢は22〜53歳
▼ 3群は揃っていたか
・性別構成、学歴、年齢、事前の自我段階でマッチングされた
・一元配置分散分析(複数グループの平均値の差を検定する方法)で、平均年齢に有意差なし F(2, 57) = 1.53, ns、事前の平均自我段階にも有意差なし F(2, 57) = 0.27, ns
・3群とも平均は自己意識段階(E5)。介入群1は平均5.2、介入群2は5.2、統制群は5.4
・事前の段階分布は、介入群1がE4:3名/E5:11名/E6:6名/E7:1名、介入群2がE4:1名/E5:10名/E6:4名、統制群がE4:3名/E5:9名/E6:9名/E7:1名
・脱落者と最終サンプルの間にも、年齢・自我段階で有意差はなかった
・職業と学歴は多様。26%が専門職、50%が大学の学位を持っていた
▼ 測定:WUSCT
・ワシントン大学文章完成テスト(WUSCT)の代替短縮版2種を使用(Loevinger, 1985)。文の書き出しに続きを自由に書いてもらい、その内容から自我段階を判定する尺度です
・2版は事前・事後・追跡で使い分けた。同じテストを短期間に繰り返すと生じる測定誤差を避けるため(Redmore & Waldman, 1975)。事前と追跡で第1版、事後で第2版
・採点は2名の独立した採点者が、レヴィンジャーらのマニュアルに従って実施
・評定者間一致度は、参加者の10%を無作為抽出して算出。事前で一致率.91(カッパ係数κ=.81)、事後で.93(κ=.83)、追跡で.92(κ=.86)。カッパ係数は偶然の一致を差し引いた一致度の指標で、.81以上は非常に高い水準とされます
・食い違いは話し合いで解消し、最終得点とした
▼ 実施の手続き
・週1回90分、全10回
・進行役は第一著者。ただし参加者の自我段階を知らされていない(ブラインド)状態で実施された
・測定は3時点:プログラム直前、直後、そして終了4ヶ月後
・全参加者が3時点すべてで回答した
ーー
■3 介入プログラムの中身
▼ 4つの内容領域
レヴィンジャー理論(Loevinger, 1976)に照らして自我発達に関連する4領域が選ばれました。
・情動の識別(第1〜2回):感情が生活の各側面で果たす役割を理解する、一次・二次・道具的感情を複雑なまま識別し記述し伝えられるようになる、感情反応の個人差に気づく。方法は講義、進行つきディスカッション、体験的エクササイズ(リラクセーション、音楽を聴く、日記)。他者の感情経験への傾聴の基礎も扱う
・アイデンティティの明確化(第3〜5回):アイデンティティが明確であることの重要性、パーソナリティと内的な参照点にもとづく自己理解、自己を内省的で概念的に複雑かつ一貫した仕方で表現できること。方法はガイド付きイメージ、アイデンティティ・コラージュの作成、2人組での対話、自分では気づいていない特性について友人からフィードバックをもらう。中核的な部分と周辺的な部分の区別も扱う
・関係のパターン(第6〜7回):関係の多様なタイプの理解、親密な関係における自分の恐れとニーズの特定、関係における自分の態度と反応の特定。方法は講義と集団・2人組の対話、体験的エクササイズ
・コミュニケーション技能(第8〜10回):積極的傾聴、効果的なコミュニケーション、対立解決の原理を理解し適用できること。一次レベルの共感の練習を含む
▼ 4条件はどう埋め込まれたか
・自分事であること:参加者は、仕事と私生活の人間関係に役立つスキル訓練として告知されたプログラムに、自発的に申し込んでいた
・情動的な関与:教えられる内容に認知的にも感情的にも関与することを求める体験的エクササイズ。加えて、それが自分と他者の見方にどう当てはまり、どんな含意を持つかを考えさせた
・対人性:内容面では「参加者が異なるタイプの関係をどう捉え、どう振る舞っているか」に焦点化。形式面では、他の参加者との個別・集団のやりとりを組み込んだ
・構造的な揺さぶり:これが最も重要な設計です。E5の人にとって不均衡を起こすよう、内容を1〜2段階上のレベルで構成した(Turiel, 1966)。つまり4領域すべてを、良心的段階(E6)と個別的段階(E7)の枠組みから教えた
・この構造レベルは、自我発達理論に精通しWUSCT採点訓練を受けた別の研究者が独立に評定。プログラムの50%がE6水準、50%がE7水準と判定された
▼ 念のための統制
・アプローチは人間性心理学、実存主義、認知行動、精神力動の各学派から折衷的に構成された
・プログラムでは自我発達理論そのものは一切教えていない。WUSCTの項目への対策指導も行っていない。つまり「答え方を学習しただけ」という説明を排除する設計になっています
ーー
■4 結果
▼ 全参加者の平均自我段階の変化
・介入群1:事前5.24(SD .77, n=21) → 事後5.76(.54) → 追跡5.75(.64, n=20)
・介入群2:事前5.20(.56, n=15) → 事後5.87(.52) → 追跡5.92(.29, n=12)
・統制群:事前5.36(.79, n=22) → 事後5.32(.65)。上昇なし
・共分散分析(事前の段階を統計的に揃えたうえで事後を比較する方法)の結果、群の主効果が有意 F(2, 55) = 13.31, p < .0001, η² = .39。η²(イータ二乗)は効果量の指標で、.39は大きい部類に入ります
・多重比較(Tukey b法, p < .05)では、2つの介入群それぞれが統制群と有意に異なり、介入群1と2の間には差がなかった。別々の母集団(企業層と教会)から集めた2群で同じ結果が出たことになります
・介入群1の上昇は半段階分、介入群2は半段階分以上で、いずれも4ヶ月後も維持されていた
▼ 事前の段階別:1段階上がった人の割合
・順応的段階(E4)から:介入群1が3/3、介入群2が1/1、統制群が1/3
・自己意識段階(E5)から:介入群1が8/11、介入群2が8/10、統制群が0/9
・良心的段階(E6)から:介入群1が0/6、介入群2が1/4、統制群が0/9
・個別的段階(E7)から:介入群1が0/1、統制群が0/1
・E4の参加者は全員が上昇し、追跡でも維持。E5から上がった人のうち、追跡で維持できなかったのは1名だけ
・対照的に、事前にE6以上だった11名のうち上昇したのは1名のみ。統制群で移行を示したのは1名だけ
▼ 標的グループ(E5の30名)に絞った分析
・介入群1に11名、介入群2に10名、統制群に9名
・事前はいずれも5.00
・事後は介入群1が5.73(.47)、介入群2が5.80(.42)、統制群は5.00(.00)で全く動かず
・追跡は介入群1が5.64(.50)、介入群2が6.00(.00)
・一元配置分散分析で群の主効果が有意 F(2, 29) = 13.15, p < .0001, η² = .43
・多重比較でも同じパターン。2つの介入群はそれぞれ統制群と有意差があり、介入群同士には差がない
・上昇幅はおよそ4分の3段階分で、追跡でも維持された
▼ 準・追試としての統制群
・順番待ち統制群のうち15名が、その後実際にプログラムを受けた。これが小規模な追試になります
・事前にE5だった8名では有意な上昇 (t = −2.65, p = .03)。ただしサンプル全体では有意にならず (t = −1.78, ns)
・E5の8名のうち4名がE6へ移行、残り4名は変化なし
・E6だった7名では、3名がE7へ移行、2名は変化なし、2名はE5へ後退した
ーー
■5 考察
▼ 結果の要約(著者らによる3点)
・両介入群で平均自我段階が有意に上昇し、統制群では上昇なし。上昇は追跡時も維持された
・この上昇の実体は、E5以下だった25名のうち20名が1段階上がったこと。その大半は追跡時も維持していた
・介入群でE6だった10名のうち上昇したのは1名のみで、それも追跡時には維持されなかった
▼ 論点1:成人期に高次段階への発達は可能か
・参加者はおそらく開始時点ですでに段階が安定していたはずだが、E4とE5の人は次の段階へ進めた
・著者らはこれを、自己意識段階(E5)を超える持続的な段階移行が成人期に可能であることを示した、初めての明確な実証的証拠だと位置づけています
・これは、成人期初期の段階安定が自我発達に内在する特性だとする見方、そして成人期のパーソナリティはほとんど変化しないとする見方(Caspi & Bem, 1990; Costa & McCrae, 1980)に疑問を投げかけます
・同時に、自我発達理論を生涯にわたる段階理論として支持する経験的根拠にもなります
▼ 論点2:どんな経験が発達を引き起こすのか
・効果が最も大きかったのは、介入が既存の構造を最も強く揺さぶった人たちだった。E5以下の人にとって、プログラムの全内容が自分の段階の1〜2段階上に位置していた
・逆に、E6の人には効かなかった。彼らにとってはプログラムとの構造的な差が小さかったからです
・つまり「効かなかったこと」も予測どおりで、これが枠組みの支持材料になっています。単に何かをすれば発達する、という話ではないことを示している点が重要です
・ただし、この効果は内容面の設計と切り離せません。内容のすべてと形式の大部分が、自分事であること・情動的関与・対人性を備えていました
・構造的に揺さぶるだけでは自我発達を引き起こすのに十分でないことは先行研究で示されています(Adams & Fitch, 1983; Loevinger et al., 1985)。段階移行には、構造的な不均衡に加えて、自分事であり、情動的に巻き込まれ、対人的な経験であることが必要だ、というのが著者らの結論です
・なお、4つの要素のうちどれがどの程度効いたのかは、この研究のデザインでは分けられません。著者ら自身がそう明記しています
▼ 論点3:なぜ彼らは今まで発達してこなかったのか
・平均年齢30代のサンプルなら、それまでに揺さぶられる出来事をいくつも経験してきたはずです。ではなぜ、過去の経験では動かず、今回動いたのか
・説明の一つは、これが「構造的な揺さぶり以外の3条件(自分事・情動・対人)」を同時に備えた経験との、初めての出会いだったという可能性
・もう一つは、これが「変化の準備ができている時期」に訪れた初めての経験だったという可能性
・タイミングの重要性は、その人の「社会的時計」との同期という観点(Helson & McCabe, 1994; Helson, Mitchell, & Moane, 1984)、そして自分・人生・関係についてそれまで見過ごしたり否認したりしてきた不満が結晶化するという観点(Baumeister, 1994)から論じられてきました
・参加者たちは、人間関係を改善するプログラムの広告に自発的に応じた人たちでした。その時点で、変化の機が熟していた可能性がある、というのが著者らの見立てです
▼ 結論
・段階の安定は成人の自我発達に内在する性質ではなく、さらに先へ進む発達は可能である
・自己意識段階を超える発達は、十分に揺さぶりがあり、自分事で、情動的に巻き込まれ、対人的な経験に触れ、かつ本人が変化の準備ができている時期に起きたとき、高い確率で生じる
・構造的側面と非構造的側面の両方が、段階移行の成立に必要である
ーー
■6 読むときに留意したい点
・「高次段階(advanced stages)」という表現の中身は、実際にはE5からE6への移行が大半です。E7以上への移行を示したのは準・追試の3名にとどまり、E6の参加者は基本的に動きませんでした。理論上の最上位段階(E8・E9)への発達を示した研究ではありません
・脱落が大きい。88名から58名へ、約3分の1が抜けています。最後まで続けられた人だけが残った可能性は残ります
・参加者は「人間関係を改善する講座」に自発的に応募し、参加費を払った人たちです。変化への準備が整った層に偏っている可能性があり、これは著者ら自身も考察で認めています
・追跡は4ヶ月後まで。より長期に維持されるかは分かりません
・進行役は第一著者本人です。参加者の段階は知らされていませんでしたが、研究者と実施者が同一である点は考慮に入れる必要があります
・準・追試(順番待ち群のその後)はランダム割付を伴わず、サンプルも小さいため、補足的な情報として読むのが適切です
・後退した参加者も2名いました。段階は一方向に進むだけのものとして測定されているわけではない、という点は押さえておく価値があります
ーー
■全体のまとめ
・週90分×10回、計15時間の対人スキル研修が、参加者の自我段階を1段階押し上げ、4ヶ月後も維持された
・ただし押し上げられたのは、プログラムの構造レベル(E6〜E7水準)より下にいた人だけだった
・効いた人と効かなかった人の分かれ目が事前の予測どおりだったことが、「構造的不均衡+自分事+情動的関与+対人性」という枠組みを支持している
・成人期のパーソナリティは変わらない、という長く支配的だった見方に対して、条件が揃えば変わりうることを実験デザインで示した点に、この研究の意義があります
【研修内容】
■スキル研修「Building Better Relationships」の内容
▼ 全体の枠組み
・週1回90分、全10回、合計15時間
・進行役は第一著者(Manners)ひとり。2つの介入群を同時期に、同一プログラム・同一進行役で実施
・進行役は参加者の自我段階を知らされていない状態で実施(ブラインド)
・4つの内容領域はレヴィンジャー理論(Loevinger, 1976)に照らして自我発達に関連するものとして選定された
・毎回、3つの形式を組み合わせる:進行役からの講義的インプット、グループディスカッション、体験的エクササイズ。エクササイズはセッション中だけでなくセッション間(宿題)にも課された
・全4領域を、良心的段階(E6)と個別的段階(E7)の構造的枠組みから教えた。別の研究者による独立評定で、プログラムの50%がE6水準、50%がE7水準と判定
・自我発達理論そのものは教えていない。WUSCT項目への対策指導もしていない
▼ 依拠した理論的背景
・人間性心理学、実存主義、認知行動、精神力動の4学派から折衷的に構成
・具体的に挙げられている文献は、ゲシュタルト・カウンセリング(Clarkson, 1989)、対人関係の心理学(Duck, 1991)、援助技法(Egan, 1990)、フロム(Fromm, 1956)、心理療法における感情(Greenberg & Safran, 1987)、ユング(Jung, 1954)、認知療法(Kuehlwein & Rosen, 1993)、実存的心理療法(May & Yalom, 1989; Yalom, 1980)、気づきのワーク(Stevens, 1971)、対立解決(Wertheim, Love, Littlefield, & Peck, 1992)
ーー
■領域1:情動の識別(第1〜2回)
▼ 3つのねらい
・感情が生活のさまざまな側面で果たす重要な役割を理解すること
・複雑な一次感情・二次感情・道具的感情を、識別し、記述し、伝えられるようになること
一次感情は状況に対する最初の直接的な反応(悲しみ、恐れなど)、二次感情はその一次感情に対して起こる反応(悲しんでいる自分への怒りなど)、道具的感情は他者に何らかの影響を与えるために表出される感情を指します。この区分はGreenberg & Safran (1987) の枠組みに沿ったものです
・感情反応には個人差があると気づくこと
▼ 方法
・講義的インプット:一次・二次・道具的感情の性質と成り立ちの説明
・ディスカッション:これらの感情が生活の各側面とどう相互作用するか。また、感情の抑圧や否認が文化的・個人的にどう働くか
・体験的エクササイズ:リラクセーション、音楽を聴くこと、日記をつけること。ねらいは、さまざまな複雑な感情を「識別する」「どう体験するか」「どう伝えるか」の3点
・加えて、他者の感情経験に対する傾聴と応答(attending and reflective listening)の初歩が説明された
ーー
■領域2:アイデンティティの明確化(第3〜5回)
▼ 3つのねらい
・アイデンティティが明確であることの重要性を理解すること
・パーソナリティと内的な参照点にもとづいて、自分のアイデンティティを理解すること
「内的な参照点」とは、周囲の期待や役割ではなく自分の内側にある基準を指します。順応的段階(E4)から自己意識段階(E5)、さらにE6へ移る過程で起きる変化そのものです
・自分のアイデンティティを、自己内省的で、概念的に複雑で、首尾一貫した仕方で表現できるようになること
▼ 方法
・講義とディスカッション:健全なアイデンティティ感覚の特徴と、それがもたらす効果
・体験的エクササイズ
・ガイド付きイメージ(guided imagery:誘導に沿って心の中で情景を思い描くワーク)
・自分のアイデンティティをコラージュとして作る
・2人組で自分のパーソナリティ特性について語り合う
・自分では気づいていないかもしれない性格特性について、友人にフィードバックを求める
・アイデンティティの中核的な部分と周辺的な部分を見分け、区別する作業が、これらの議論とエクササイズに組み込まれた
・中核的な自己を日常生活でどう表現していくかというプロセスが、探索され議論された
ーー
■領域3:関係のパターン(第6〜7回)
▼ 3つのねらい
・関係にはさまざまなタイプがあることを理解すること
・親密な関係における自分の恐れとニーズを特定できるようになること
・関係における自分の態度と反応を特定できるようになること
▼ 方法
・講義と、グループおよび2人組でのディスカッション。扱われたのは
・関係の多様なタイプ
・それぞれのタイプにおける親密さの度合いの違い
・それぞれのタイプに伴いうる期待、ニーズ、恐れ
・特定の人に惹かれたり反発したりすることの心理的な基盤
・体験的エクササイズ:上記の各領域について、自分自身の経験を特定することを促す設計
・現在の私生活・仕事上の関係についての振り返り
・ガイド付きイメージ
・個人差への気づきを促すための2人組の対話
ーー
■領域4:コミュニケーション技能(第8〜10回)
▼ 3つのねらい
・積極的傾聴の原理を理解し、実践できるようになること
・効果的なコミュニケーションの原理を理解し、実践できるようになること
・効果的な対立解決の原理を理解し、実践できるようになること
▼ 方法
・効果的なコミュニケーション、対立解決、一次レベルの共感、積極的傾聴の原理を教え、実際に練習する
一次レベルの共感(primary-level empathy)とは、相手が明示的に表現している感情と意味を正確に汲み取って返すこと。相手が言外に抱えているものまで踏み込む高次の共感と区別されます(Egan, 1990 の枠組み)
・これらの原理を、参加者自身の具体的な状況にどう当てはめるかが議論された
ーー
■内容についての留意点
・論文の付録にあるのは「brief outline(簡潔な概要)」であり、詳細版は第一著者に問い合わせて入手する形になっています。上記は付録から読み取れる限りを整理したものです
・各エクササイズの具体的な進め方、時間配分、配布資料の内容までは論文に記載がありません
・したがって、この内容をそのまま再現することはできません。再現するなら、著者に詳細版を請求するか、記述されている4領域とその構造レベル(E6〜E7水準で教える)という設計思想を手がかりに組み直すことになります
・逆に言えば、内容そのものは特別なものではありません。感情の言語化、アイデンティティの明確化、関係の理解、傾聴と対立解決。一般的な対人スキル研修とほとんど変わらない構成です
・この研究が主張しているのは、内容の新奇性ではなく「どの段階の人に、どの段階の枠組みで教えるか」という構造的な設計が効果を分けた、という点です。同じプログラムがE5には効き、E6には効かなかったという結果が、その主張の根拠になっています
動画解説はこちら😊
https://youtu.be/u51TAKnzZjU
会話形式での紹介は、こちら😊
はぴテク相談室:研修を何回受けても、何も変わらない話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-14-1786730160/