未来が予測できない時代の新しい希望のかたちを「実存的希望」という
新しい概念で整理してくれた、オランダの最新論文。
これまでの心理学の「希望」は、
- 目標がはっきりしていて
- そこへの道筋が描けて
- 自分で進んでいける
という前提で考えられてきました。
でも、気候変動とか、社会の分断とか、
「未来がどうなるか全然読めない」時代には、
この前提がそもそも崩れちゃう。
目標が描けないんだから、従来型の希望は持ちようがない。
●実存的希望とは
そこでこの研究が提案するのが「実存的希望」。
今がどんなに不穏でも、
「それでも未来に良い人生はありうる」と信じられる心の構え。
中身は3つ。
- 実存的信頼:どんな未来かはまだ分からなくても、関わる価値のある未来はある、という信頼
- 意味:バラバラの経験の中からでも、意味を紡ぎ直していく力
- 主体性:結果が読めなくても、良い方向に動く。時には「待つ」ことも行動のうち
●育てるプロセス
じゃあどうやって育てるの?というと、
- 不確実さを受け入れる(分からないのはみんな一緒)
- 自分の価値観を言葉にする(先が見えない時こそ、何を大事にしたいか)
- ありえない未来まで想像してみる
- 一人で抱えず、人とのつながりの中で向き合う
の4つのプロセスが提案されています。
面白いのが、「なんとかなるっしょ」というナイーブな楽観は、
むしろ社会への関わりを減らすという先行研究。
実存的希望は逆で、現実の厳しさを認めた上での希望なので、
ウェルビーイングも社会参加も高めると予想されています。
先が見えないから希望が持てない、のではなく、
先が見えない時のための希望がある。
不安を消すことより、
不安を抱えたまま、大事にしたい価値に沿って動けること。
そして、それが幸せにつながる😊
Toward an integrative psychological framework of existential hope: navigating uncertain futures
実存的希望の統合的心理学的枠組みに向けて:不確実な未来を航行する
Ernst Bohlmeijer(トゥエンテ大学、オランダ)ら
Frontiers in Psychology, 2026/9/10
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1850611
予測不能な未来を生き抜くための心理学: 「実存的希望」という羅針盤 気候変動や社会不安の中で、私たちはどう前を向くのか Based on the integrative psychological framework by Bohlmeijer et al. (2026) Gemma Notebook なぜ今、従来の「希望」が 通用しないのか? 気候変動と環境破壊 予測可能な未来の消失 政治的・社会的な分断 経済的な先行きの不透明さ 目標や道筋が明確な状況を前提とする従来の心理学的な「希望」は、 これらが崩壊した未知の領域では機能しません。 2つの「希望」のモデル 目標達成型の希望 実存的希望 前提 未来は予測・統制可能である 未来は根本的に不確実である 有効な状況 目標への道筋が明確な時 既存の枠組みが崩壊し、先が見えない時 焦点 期待する「結果」の達成 「価値」と「意味」の維持 アクション 既知の道筋を辿る 不確実性の中で意味を構築する 実存的希望(Existential Hope)とは何か? 「未来がどうなるか分からなくても、 人生には意味がある。 より良く生きるための行動をとる覚悟。」 ◆◆◆ 単なる楽観主義ではなく、不確実性や脅威の中でも「生の可能性」を信じ、 価値ある未来へ向けた姿勢を保つための心理的基盤。 Gemini Notebook 「実存的希望」を支える3つの柱 実存的希望 1. 実存的信頼 根源的な「生の肯定」 2. 意味 逆境の中で「意味」を再構築する 3. エージェンシー 未知の状況下で「行動」を遂ぶ これら3つの要素が統合されることで、初めて不確実な未来に向き合う力が生まれます。 © Gemesis Notebook 柱1:実存的信頼 根源的な「生の肯定」 「希望への恐怖」を乗り越える 結果が分からないからといって期待を避けるのではなく、不確実な世界であっても「関わる価値のある未来」が存在するという基本的な安心感を持つこと。 Not blind optimism, but a courageous openness to possibility. 柱2:意味 逆境の中で「意味」を再構築する 意味は「見つける」ものではなく「創る」もの 気候変動や社会的危機によって今までの価値観(前提)が打ち砕かれた時、私たちは経験を再解釈し、新たな物語(ナラティブ)を紡ぎ出す必要があります。 現状の「次如」や「痛み」に向き合うことが、より良い未来への切望と意味の源泉になります。 柱3:エージェンシー 未知の状況下で「行動」を選ぶ ケアと連帯 他者や環境への思いやりと許しの実践。 抗議 現状の不条理に対し、倫理的な声を上げる行動。 積極的な忍耐 無理に結果を急がず、機が熟すのを待つという「前向きな柔容」。 結果が予測できなくても、自らの価値観に従って意図的に行動することと自体が、希望の体現です。 絶望を「希望」に変える4つのプロセス Step 1 不確実性の受容 Step 2 価値観の明確化 Step 3 フューチャリング Step 4 関係性の構築 これは単なる順序ではなく、相互に補強し合う実践のサイクルです。 Gemelas Notebook 霧を受け入れ、羅針盤を見る(Steps 1 & 2) Step 1: 不確実性の受容 未知への恐怖や苦痛(エゴ不安など)を避けず、正当な反応として受け入れる。 コントロールを手放す。 Step 2: 価値観の明確化 計画が崩れた時、「自分は何を大切にして生きるか?」という内発的な価値観(成長、ケア、見なおど)を再定義する。 Care Growth Justice Gemma Notebook Step 3: フューチャリング 「予測」を手放し、「想像力」を広げる 予測 フューチャリング 実践法:「未来からの手紙」 望ましい未来がすでに実現したと想像し、そ の未来から現在の自分に向けて手紙を書く。 これにより、既望のナラティブ(物語)を書 き換え、新たな行動のヒントを得る。 確率の高い未来を予測するのではなく、 あり得る複数の未来を想像し、探索する力。 Step 4: 関係性の構築 孤立から「共創」へ 弱さの共有 先が見えない不安を一人で抱え込まず、他者と自己開示し合う。 共通の人間性 苦しみは自分だけの失敗ではなく、人類に共通の体験であると認識する。 連帯と共創 予測不可能な状況下では、個人の能力よりも、互いの存在と繋がりを信じ合う「関係性の力」が希望を支える。 「実存的希望」がもたらす3つの恩恵 1. 心 (Emotional Hope) 前向きな感情、ポジティブな感情が視野を広げ、柔軟な思考と行動を引き出す。 2. 人生 (Psychological Well-being) 心理的ウェルビーイング。危機の中にあっても、人生の目的感、自己成長、自律性を保ち、力強く生きる。 3. 社会 (Civic Engagement) 市民参加と社会貢献。現実逃避せず、仲間と共に環境保護や社会課題解決に向けた行動を起こす。 Genius Notebook 希望は循環する:全体像 漂霧 (不確実性) 信頼 意味 エージェンシー 前向きな感情 ウェルビーイング 社会貢献 関係性 関係性 フューチャリング 好循環 実存的希望は一直線のゴールではありません。行動を起こし、他者と繋がり、社会に関わることで、さらなる「忍耐」と「信頼」が生み出される持続可能なエンジンです。 霧の中で羅針盤を持つということ 「未来がどうなるか、誰にも予測はできない。 しかし、私たちは希望を持って 行動することを選ぶことができる。」 あなたの持つ価値観という羅針盤は、どんな深い霧の中でも、 決してその光を失うことはありません。 Gemini Notebook
【背景】
■1. 出発点:従来の心理学における「希望」理論
▼スナイダーの希望理論(Snyder, 2002)
▼希望がもたらす効果のエビデンス
希望の高さは、以下のような幅広い良い結果と関連することが示されてきました。
この枠組みでは、希望は楽観性(optimism)や自己効力感(self-efficacy:自分はやれるという感覚)と近い概念として位置づけられます(Gallagher and Lopez, 2009)。
■2. 希望を「感情」として捉える流れ
▼感情としての希望(Miceli and Castelfranchi, 2015; Lazarus, 1999)
▼希望と人生の意味(Edwards et al., 2025)
▼多次元的な生命力としての希望(Herth, 1992; Nayeri et al., 2020)
■3. 問題提起:従来理論が通用しない「根源的不確実性」
▼従来理論の隠れた前提
▼根源的不確実性(radical uncertainty)とは
▼エコ不安(eco-anxiety)の研究
▼実存的な希望概念の提案
こうした状況を受けて、研究者たちは新しい希望概念を提唱してきました。
■4. 枠組みの土台となる思想的・心理学的系譜
▼ラディカルホープの原点(Lear, 2006)
▼実存心理学・人間性心理学の系譜
▼実存的ポジティブ心理学(PP 2.0)
■5. 補足:希望の脆さに関する最新研究
▼希望への恐れ(fear of hope)(Harber et al., 2026)
■まとめ:既存研究から見えるギャップ
【研究内容】
■1. 方法:ナラティブレビューによる理論構築
▼存在論的希望の定義
▼「ラディカルホープ」との使い分け
■2. 結果その1:中核となる3要素
▼(1)実存的信頼(existential trust)
▼(2)意味(meaning)
▼(3)主体性(agency)
▼3要素の関係
■3. 結果その2:4つの適応プロセス
根源的不確実性や実存的脅威の経験を、存在論的希望へと変換する心理プロセスとして、4つが提案されます。
▼(1)不確実性を受け入れる(embracing uncertainty)
▼(2)価値の言語化(value-articulation)
▼(3)未来する(futuring)
▼(4)関係的方向づけ(relational orienting)
▼4プロセスの相互関係
■4. 結果その3:期待される3つの帰結
▼(1)感情としての希望(emotional hope)
▼(2)心理的ウェルビーイング(psychological well-being)
▼(3)市民的関与(civic engagement)
■5. 考察
▼枠組みの動的な性格
▼学際性と文化的多様性への留保
■6. 今後の実証研究への3つの道筋
▼(1)尺度開発
▼(2)枠組み全体の実証的検証
▼(3)介入の開発と検証
■7. 結論
動画解説はこちら
https://youtu.be/kef_YOaKzrI
ショート動画での解説はこちら
https://youtube.com/shorts/Kwrmm48O2Hc
会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:先が見えない不安と、それでも希望を持つ話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-09-13-1789314360/