マスクを着ける動機と幸福感・孤独感についての、日本の最新研究
学習院大学の宮崎先生が、約2,500人を週1回×4週間追いかけて調査されました。
コロナ禍で、日本人は本当によくマスクをしていました。
一方で、寄付や人助けの国際調査だと、日本人の利他的な行動は少なめに出ることが多い。
利他的な行動は幸せにつながるはずですが、マスクは利他的な行動では無いのか?
この研究では、マスクを着ける動機を3つに分けています。
①人のため(うつさないように、周りを安心させたい)
②自分のため(自分がうつりたくない)
③人の目が気になるから(着けてないと何か言われそう)
結果としては、
①人のため
の気持ちが強い人ほど、翌週の「人とつながっている感覚」が高く、
それを通じて、前向きな気持ちが増え、孤独感が減る。
②自分のため
は、幸せにも孤独感にもほぼ影響なし。
③人の目が気になるから
は、職場のマスクを調べた調査で、逆につながりの感覚を下げて、孤独感を高める方向に。(なんと。。。)
ただし、効果はかなり小さめ。
そして、「同じ人が気持ちを切り替えたら、翌週幸せになる」という変化までは確認されませんでした。
どちらかというと、普段から人のためを思ってマスクをする「人」が、つながりを感じやすくて幸せ、という話。
幸せな人ほど人のためを思いやすい、という逆向きの流れも出ています。
同じ「マスクをする」という行為でも、動機によって幸せへの影響が違う。というのが面白いですね😊
- どうせ着けるなら「周りの人のため」と思って着ける。(ありがとう因子)
- 「何か言われそうだから」で着けている自分に気づいたら、ちょっと視点を変えてみる。(ありのままに因子)
という感じでしょうか。
小さな差でも、毎日繰り返す行動だからこそ積み重なる。
日常の何気ない行動に「誰かのため」をちょっと乗せる、ことが幸せにつながりそうですね
Prosocial motivation for mask-wearing and its impact on subjective well-being and loneliness: Evidence from two short-term longitudinal studies
マスク着用の向社会的動機と主観的幸福感および孤独感:2つの短期縦断調査による検討
宮崎 弦太先生(学習院大学、日本)
心理学研究 ,2026/8/25公開
https://doi.org/10.4992/jjpsy.97.25005
マスクの裏側で交差する 「心の矢印」 なぜ「誰かを思いやる」と、 自分自身の幸福感が高まるのか? 「同じ行動」の裏にある、まったく違う「心の色」 パンデミックを経て、マスク着用は私たち の「日常風景」の一部になりました。 しかし、同じようにマスクを着けている 人たちでも、心の中にある「なぜ着ける のか?」というベクトルは 異なります。 この目に見えない「動機」が、 実は私たちの幸福感に大きな 影響を与えていることが分 かってきました。 © Gemesis Notebook あなたのマスクはどのモード?(3つの動機マトリクス) 自分へ 誰に意識が向いているか? 他者へ 守る・ボディ 目的は何か? 避ける・ネガティブ 【自己防衛モード】 (自己利益志向的動機) 「自分が感染しないため」。 自分を守るためのシールド。 【利他モード】 (向社会的動機) 「誰かを守るため」 「周りを安心させるため」。 他者の福利を促進する温かい矢印。 【同調モード】 (他者の評価の懸念) 「誰かといっしゃいと周りの目が気になるから」。 批判を避けるための防御壁。 今日のあなたは、どのモードで家を出ましたか? © Goleman Notebook 心の変化を追跡した「4週間のタイムライン調査」 「着ける理由」が「心の状態」をどう変えるのか? 日本の成人約2,500名を対象に、4週間にわたって心の変化を追跡する縦断調査が行われました。 動機 (着ける理由) Week 1 (1週目) Week 2 (2週目) Week 3 (3週目) Week 4 (4週目) 幸福感の向上/ 孤独感の低下 Data source: 宮崎 (2026) 心理学研究 幸福を生み出す「心の3段階ドミノ」 【動機】 誰かのために (利他モード) 【変換】 人とのあたたかい繋がり感 (関係性欲求の充足) おもいを気にかけ、支え合う感覚 【結果】 日々の幸福感の向上・ 孤独感の低下 活気、やる気、前向きな気持ち 逆効果を生む「世間体ルート」 「周りの目が気になるから」というネガティブな同調モードは、人との繋がり感をすり減らし、結果的に孤独感を高めてしまうことがデータで示されました。 世間体を気にする 繋がり感の減少 孤独感の増加 幸福を達れてくる「思いやりルート」 逆に、「他者を安心させるため」という利他モードは、他者との良好な関係性を築き、結果としてポジティブな感情(活気や誇り)を引き出します。 他者を思いやる → 良好な関係性の構築 → ポジティブ感情の増加 幸福は「即効薬」ではなく、「遅れて育つ種」 調査が明らかにしたもう一つの真実。それは、思いやりを持ったその日にすぐハッピーになるわけではない、ということです。「先週の思いやり」が「今週の緊がり感」を育てます。 Time 1 (Past Week) Time 2 (Current Week) Time 3 (Future Week) 利他モードでの行動 繋がり感の芽生え 幸福感の開花 THE INVISIBLE FEEDBACK LOOP 物理的なマスクは「飛沫を防ぐフィルター」ですが、心理的には「思いやりの失印」を放つ装置になり得ます。他者向けたポジティブな失印は、巡り巡って自分の心を満たすループを作り出します。 向社会的な動機 (他者を思いやる) 関係性欲求の充足 (繋がり感) 自分 (Self) 他者/社会 (Others) 主観的幸福感/ 孤独感からの脱却 Genius Notebook 日常の小さな行動を、心を満たす習慣へ 感染対策のためのマスクを、 「日常に隠れた『利他行動』」のトレーニング へとリフレーミングしてみませんか。 明日マスクを着けるとき、 少しだけ「誰かの安心のため」を意識する。 その小さなベクトルの変化が、 あなた自身の心を温かく包み込むはずです。 (ロゴ)Cosmos Notebook
【背景】
■1. 出発点:コロナ禍と心の健康
▼パンデミックが幸福と孤独に与えた影響
※系統的レビュー=決まった手順で関連研究を網羅的に集めて整理する方法
※メタ分析=複数の研究結果を統計的にまとめて、全体としての傾向を出す方法
▼そこから生まれた新しい問い
※主観的幸福感=本人が自分の生活や気分をどう感じているかで捉える幸せ
■2. 感染予防行動の「2つの顔」
▼自分のため、であり、他人のため、でもある
※向社会的動機=他者の利益や幸せのために行動しようとする気持ち
▼なぜ「動機」に注目するのか
■3. 初期の研究と、食い違った結果
▼日本の日誌法研究(宮崎他, 2021)
※日誌法=毎日など短い間隔で繰り返し回答してもらい、日々の変動を捉える調査法
▼米国の横断研究(Nelson-Coffey et al., 2021)
※横断研究=1時点だけで測定する調査。関連は分かるが、どちらが原因かは分からない
▼なぜ食い違ったのか
※妥当性=その尺度が測りたいものを本当に測れているかどうか
■4. ちゃんと測れる尺度をつくる
▼マスク着用の動機尺度の開発(宮崎, 2024)
▼分かったこと
※協調的幸福感=周囲の人との調和や人並みであることを重視する、関係志向的な幸せ
※偏相関=他の変数の影響を取り除いたうえでの2変数間の関連
▼孤独感への展開(宮崎, 2025)
■5. なぜ幸せにつながるのか:関係性欲求という鍵
▼自己決定理論(Ryan & Deci, 2017)
▼欲求が満たされると何が起きるか
※媒介変数=AがCに影響するとき、その途中に入って橋渡しをするBのこと
▼マスク研究でも確認されていた
■6. 残されていた課題
▼「どちらが先か」が分からない
※縦断研究=同じ人を複数時点で追跡する調査。時間の前後関係から影響の方向を検討できる
■7. 影響の方向を調べるための分析手法
▼交差遅延パネルモデル(CLPM)
▼ランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)
▼RI-CLPMにも弱点がある
▼だから両方を使う
■8. まとめ:今回の研究の位置づけ
■出典
▼今回の論文
▼本文で紹介した主な既存研究
▼注意事項
【研究内容】
■1. この研究が確かめたかったこと
▼問い
▼これまでの限界
※縦断調査=同じ人を複数の時点で繰り返し調べる方法。時間の前後から影響の方向を検討できる
▼2つの「関係」を分けて考える
■2. 研究1の方法
▼参加者
※DQS=「この質問には○○と回答してください」と指示する項目。読まずに答えている人を見つけるためのもの
▼手続き
▼測ったもの
※PANAS=ポジティブ感情とネガティブ感情を測る世界的に使われている尺度(Watson et al., 1988)
▼仮説
※媒介=AがCに影響するとき、途中でBが橋渡しをしていること
■3. 分析の準備:尺度は4回とも同じものを測れていたか
▼測定不変性の確認
※測定不変性=時点が変わっても、その尺度が同じものを同じように測れていること。これが崩れていると時点間の比較ができない
※α係数=尺度の項目どうしがまとまって同じものを測れているかの指標。1に近いほど良い
■4. 研究1の結果
▼RI-CLPM(1人の中での変化を見るモデル)
※CFIは1に近いほど、RMSEAは0に近いほど、モデルがデータによく合っている
※有意=偶然とは考えにくいと統計的に判断できること
▼ただし、特性どうしの相関はあった
▼CLPM(個人間と個人内が混ざった形で見るモデル)
※調査の間隔が1週間と短いので、2週前の状態も影響すると考えるのは妥当、という判断
▼CLPMで分かったこと
※間接効果=媒介変数を経由して伝わる効果
※95%信頼区間が0を含まない=効果がゼロではないと統計的に言える
■5. 研究2の方法:条件をそろえて再現を試みる
▼研究1からの改善点
※事前登録=データを取る前に仮説や分析方法を公開登録しておくこと。後付けの解釈を防ぎ、研究の信頼性を高める
▼参加者
※交絡=調べたい関係に、別の要因が紛れ込んで結果を歪めること
▼手続きと測度
▼仮説
■6. 研究2の結果
▼RI-CLPM:研究1と同じ結果が再現された
▼CLPM:今度は直接の効果も確認された
▼媒介の検証
▼事前登録との違い
■7. 考察:2つのモデルの結果をどう読むか
▼1人の中での変化としては確認できなかった
▼人と人との違いとしては意味がありそう
▼理論とのつながり
■8. 著者が挙げている注意点
▼効果はとても小さい
▼関係は双方向かもしれない
※フィードバックループ=AがBを高め、BがまたAを高めるという循環
▼「人の目が気になるから」は逆効果の可能性
■9. 限界と今後の課題
■10. 結論
■読むときのポイント(整理)
■出典
▼今回の論文
▼本文で触れた関連文献
▼注意事項
会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:「人の目が気になって」着けるマスクと、つながりと、孤独感の話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-09-20-1789888620/
動画での紹介はこちら😊
https://youtu.be/OQw6EDNkPuE