はぴテク相談室:最初の感情はそのままでいい。変えられるのは「その後」
はぴテクさん、ちょっと聞いてもらえますか。私、小学校の先生をしているんですけど、最近しんどくて。授業中に子どもに強く言いすぎたり、保護者対応でカチンときたりすると、その日の夜ずっと引きずるんです。布団に入っても「なんであんな言い方しちゃったんだろう」って、ぐるぐる考えてしまって。
それは疲れますね。教えるって、頭も体も使うけど、いちばん使うのは感情ですもんね。ちなみに布団の中のぐるぐるって、中身はどんな感じですか。
最初は「保護者のあの言い方はないよな」なんですけど、だんだん「でも私が余裕なかったのが悪い」「なんで私はいつもこう感情的なんだろう」「先生向いてないのかも」って、自分を責める方向にいきます。
今、すごく大事なことをおっしゃいました。最初は保護者への腹立ちだったのが、途中から「感情的な自分」への責めに変わっている。実は、ここに今日のポイントがあるんです。
え、そこですか。
はい。2026年にアメリカのイェール大学のチームが、学校で働く人3,000人以上を調べた研究があって。テーマが「自分の感情は変えられると思っているか、それとも湧いてくるものだからどうしようもないと思っているか」なんです。
私は完全に後者です。感情って勝手に湧くものだし、私はもともと激しいタイプなんで、これは性格だと思ってます。
その研究では、「感情は変えられる」と信じている人のほうが、2か月後に感情的な消耗感が少なく、共感疲労、つまり人を支えることで心がすり減る感じも少なく、仕事の満足度が高かったんです。最初の時点の幸福度をそろえて比べても、差が出ました。
でも、感情が穏やかな人だから「変えられる」って思えるだけじゃないですか。
そこが誤解されやすいところなんですけど、この研究は「感情の激しさ」ではなく「信念」を見ているんです。激しい人でも「変えられる」と信じている人はいるし、穏やかでも「変えられない」と思っている人はいる。そして幸福度と関係していたのは激しさより信念だった。
じゃあ、私も腹が立たないようにできるってことですか。それは無理な気がします。
それは無理でいいんです。ここが一番お伝えしたいところで。「変えられる」というのは、最初に湧く感情を止めるという話じゃないんです。保護者にカチンとくる、これは誰にでも起こる最初の反応。研究が見ているのは、その「あと」なんです。
あと、というと。
さっきの布団の話に戻ると、最初の腹立ちの上に「余裕がなかった私が悪い」「なんでいつも感情的なんだ」という、いわば「感情についての感情」が積み上がっていましたよね。研究で一番はっきり出たのが、まさにこの層なんです。反すう、つまり嫌な出来事や感情を何度も頭の中で繰り返すこと。
反すう。まさに布団の中のぐるぐうですね。
研究者の説明がこうなんです。「感情はどうにもできない」と思っている人は、感情の問題に直面したとき「自分には無理だ」という無力感がわく。すると、感情そのものと「どうにもできない自分」について考え続ける。それがまた嫌な気分を呼んで、さらに考え続ける。この循環が、仕事のあとの大事な回復の時間を食いつぶしていく、と。
最初の腹立ちより、その上に乗っかったやつのほうが長いですね、たしかに。腹立ち自体は10分で終わってる気がします。
そうなんです。一方で「変えられる」と信じている人は、感情の問題を「扱える課題」として見るので、「今、腹が立ってるな。どう扱おう」と眺められる。上に積み上がる層が薄い。結果として反すうに入りにくいし、物事を別の角度から捉え直す「再評価」も多かった。
気持ちは分かってきました。でも「変えられる」って、急には信じられないですよ。
急に信じなくていいと思います。むしろ順番としては、まず最初の感情を「そりゃ腹も立つよね」と認める。これを飛ばして「変えなきゃ」に行くと、感情を押し込めるほうに近づいて逆効果になりえます。認めたうえで、「この感情、どう扱おうか」を考える。変えるのは感情そのものじゃなくて、感情への自分の反応のほうです。
「私は感情的な人間だ」って責めるのは、まさに反応の層ですね。
それを「私は感情が大きく動きやすくて、まだ扱い方を練習していない人間だ」に言い換えてみるのはどうでしょう。もうひとつ、この研究で大事な結果があって。「変えられる」という信念は、感情を扱うスキルが平均以上の人でとくによく効いていたんです。信じる気持ちだけでは反すうは減らなくて、信じる気持ち×扱う技術、の掛け算だった。
じゃあ、スキルも要るんですね。ハードル上がった気がします。
私は逆に希望だと思います。スキルは練習で身につくものですから。研究でも、感情を扱うスキルは職場の内外で訓練できると書かれています。「性格だから無理」ではなく「まだ練習していないだけ」。幸せの観点で言うと、これは「なんとかなる」因子、前向きさと自己受容の話なんです。
具体的には、何から練習すればいいですか。
三段階で。一つ目、腹が立ったら「そりゃそうだ」と一度認める。二つ目、布団でぐるぐるが始まったら「あ、今、反すうしてるな」と気づく。気づけた時点で、感情を眺めている自分がいます。三つ目、「あの場面、他にどんな見方があるだろう」と一つだけ探してみる。これが再評価の練習です。
一つだけでいいんですね。
一つで十分。うまくいかない日があってもいい。「変えられる」と信じている人は、失敗からも学んで次に活かす、と研究者は言っています。失敗は「やっぱり無理」の証拠じゃなくて、練習の一部です。
なんだか、私の悩みって「感情が激しいこと」じゃなくて、「感情的な自分を責めて、それを夜まで抱えていたこと」だったんですね。
私もそう思います。最初の感情は、子どもたちに本気で向き合っている証拠でもある。それはそのままでいい。変えられるのは、その感情に自分がどう反応するか。夜のぐるぐるが短くなったら、それが最初の合図です。
ありがとうございます。今夜、ぐるぐるが来たら「今、反すうしてる」って言ってみます。
■ 今日のまとめ
- 「感情は変えられる」と信じている人ほど、感情的な消耗や共感疲労が少なく、仕事の満足度が高い。カギは感情の激しさではなく、感情についての「信念」。
- 「変えられる」のは最初に湧く感情ではなく、その上に積み上がる「感情についての感情」の層。無力感や自己嫌悪からの反すうが回復時間を奪う。最初の感情は認め、上の層を育てない。
- 信念はスキルとセットで効く。「性格だから無理」ではなく「まだ練習していないだけ」。認める、気づく、別の見方を一つ探す。それだけで練習になる。
■ 出典・注意事項
- Luo, P., Floman, J. L., Brackett, M. A., & Ponnock, A. R. (2026). Emotion Mindsets at Work: Emotion Malleability Beliefs, Emotion Regulation, and Employee Well-Being in Two National Studies. PsyArXiv preprint, September 22, 2026. イェール大学感情知能センターほか。Journal of Applied Psychology に投稿中。
- 査読前のプレプリントです。結果や解釈は今後変わる可能性があります。
- 相関研究であり、「信念を変えれば幸福度が上がる」という因果関係が確定したわけではありません。対象は米国の教育従事者で、他の職種や国に当てはまるかは未検証です。
- 「最初の感情」と「感情についての感情」という整理は、論文そのものの用語ではなく、感情マインドセット研究と感情受容研究(Ford et al., 2018など)をつなぐための解説上の枠組みです。
- この対話は研究内容を分かりやすく伝えるための創作です。相談者は架空の人物で、つらさが強い場合は専門家への相談をおすすめします。
論文の紹介はこちら😊
「感情は変えられる」と信じている人は、仕事で疲れにくい
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-09-30-1790702160