身内を大事にする人は、よそ者にも優しい
〜日本は世界一、外と内への協力度が一致していた〜
身内びいきと、よそ者への親切の関係についての、オランダの最新研究
世界121の社会・74万人のデータから調査されました。
よく「身内愛は、よそ者への敵意とセット」と言われます。
でも、それって「身内か、よそ者か、どっちかを選べ」という状況での話。
今回は、身内とよそ者、それぞれに別々に親切にできる状況で、
その2つへの愛がどう関係するかを調べました。
使ったデータは6種類。
- 家族や隣人 vs 外国人や初対面の人への「信頼」
- 同じ民族 vs 違う民族への「寛容さ」
- 同じ国 vs 違う国の人との「協力ゲーム」
- 同じ宗教 vs 違う宗教の人への「お金の分配」
など、親切の種類も、グループの分け方もバラバラ。
結果としては、
①どのデータでも、どの国でも、
身内に親切な人ほど、よそ者にも親切。(相関は0.4〜0.8でかなり強い)
②ただし、よそ者への親切は身内よりちょっと控えめ。
③つまり「身内愛とよそ者への憎しみ」ではなく、
「身内愛とよそ者への愛」がセットだった。
ちなみに日本、
協力ゲームのデータでは42カ国中トップ。
身内に協力する人は、外国人にもほぼ同じくらい協力してました。
(相関0.91。すごい)
日本は、外面は良いが身内には厳しい、みたいなイメージがありましたが、
それは少数派っぽいです。
では、なぜ「身内愛=よそ者への敵意」と思われがちなのか。
それは、戦争や選挙みたいに「どっちかが得すると、どっちかが損する」場面ばかり見てきたから。ゼロサム。
そういう構造さえなければ、人は両方に親切になれる。
しかも人は、実際は奪い合いじゃないのに「奪い合いだ」と思い込みがち(ゼロサムバイアス)なんだそう。
幸せの観点で言うと、
- 「ありがとう」と「つながり」を大事にする人は、相手が身内かどうかであまり切り替えてない。親切は一つの性格なんですね。
- 身内を大事にすることを「内向き」と責める必要はなさそう。むしろそこが外への優しさの土台。
- ギスギスする場面があったら「本当に奪い合いなのか?」を一回疑ってみる。だいたい思い込みらしい。
という感じでしょうか。
いずれにせよ、人への優しさは、線引きせずに広がっていくもの。という、ちょっと希望のある結果ですね。
The co-occurrence of ingroup and outgroup prosociality across 121 societies
121の社会における内集団・外集団向社会性の共起
Kasper Otten(WODC研究データセンター/エラスムス大学ロッテルダム、オランダ)
PNAS, 2026/1/13
https://doi.org/10.1073/pnas.2517013123
内集団への愛は外集団への愛と共存する:121社会・74万人調査が明かす「不完全な普遍的親社会性」 主要な研究結果(発見と実践) 121社会すべてで「内集団」と「外集団」への親社会性に強い正の相関 従来の社会科学研究では「内集団の利己が外集団の利他」と「内集団いる」と外集団所が最重一体である」されていたが、両者を同時に考察できる環境はなかった。74万人・121社会のデータを分析した結果、身内に親切な人ほど他者にも親切である傾向が判明。 内集団 (IN-GROUP) 外集団 (OUT-GROUP) 信頼・寛容さ・協力ゲームなどを通じで、身内と他者の両方に親切な傾向が認定された。 人類の平均的性質は 「不完全な普遍的親社会性」 社会の影響と実践的インプリケーション 個人主義や高い経済水準が 「親社会性」の過動」を調める やや優先 (やや優先) Individualism & Prosperity 身内●やや優先(ひいき) するものの、基本的に 親社会性は外集団へも 拡張 拡張 「ゼロサム思考」の解消が 多様性を保った協調を生む Stronger Prosocial Link 一方がネポティズム(親族島 間)や温血が血縁児係が いち役では相補が低下する。 Nepotism & Strong Norms ー方が得をすれば他方が損するという固定観念を取り除くことが対立回避 の鍵となる。 ー方が譲をすれば 他方が得をする。 Weaker Link Diversity & Cooperation © Cosmos Notebooks 私たちは本当に 『よそ者』を 憎むのか? 121の社会、74万人以上の データが証明する 人類の『普遍的利他性』 内集団 (仲間) 身内には優しく、 協力的に振る舞う 外集団 (よそ者) 外部の人間には 冷たく、排他的 になる 従来の社会科学では、『仲間への愛(Ingroup Love)』と『よそ者への憎しみ(Outgroup Hate)』は 表裏一体であるとされてきました。しかし、この常識には重大な欠陥がありました。 過去の研究に潜んでいた『ゼロサムの罠』 過去の実験:強要されたトレードオフ 現実の選択:独立した選択肢 給付が減少 仲間 よそ者 『ヒト者を助けるには、仲間を傷性にしなければならない』という極端な状況下でのみ測定されていました。 現実世界の多くは、仲間とよそ者の両方に優しくできる『非ゼロサム』の状況です。 選択を強制されるだければ、人間はどのように振る舞うのでしょうか? 仲間 よそ者 過去最大規模のグローバル調査が真実を暴く 121 の社会 6 つの巨大データセット 743,402 人の個別の意思決定 『家族 vs 外国人』『同国人 vs 他国人』『同じ宗教 vs 違う宗教』など、 あらゆる境界線(国籍、人種、宗教、地域)を越えた行動を測定しました。 結論:「仲間への愛」は「よそ者への愛」と連動する やさしさの抱握 仲間への優しさ 人間は、選択を迫られなければ、「両方に優しい」のがデフォルトの姿です。仲間を大切にする人ほど、外部の人にも協力的であることが証明されました。 Gemini Notebook 状況や相手が変わっても、この法則は揺るがない 1. 信頼 境界:家族/同人 vs 外国人 r = 0.40 2. 寛容性 境界:同一民族 vs 他民族 r = 0.69 3. 協力 境界:同国人 vs 他国人 r = 0.83 4. 分配 境界:同じ宗教 vs 異なる宗教 r = 0.65 5. 寄付 境界:同国人 vs 他国人 r = 0.59 6. 貢献 境界:地元住民 vs 外部の人間 r = 0.56 宗教、人種、国籍ーどの境界線を引いても、矢印は常に「右肩上がり」を示しています。 121のすべての社会で共通する人類の普遍的真理 日本 アメリカ ペルー パキスタン オランダ ルワンダ : すべての社会で相関関係は『プラス(正)』でした。『他間への愛』と『よそ者への憎しみ』がセットになっている国は、世界に一つもありません。 『不完全な』普遍的利他性という現実 仲間への優しさ 内集団バイアス よそ者への優しさ 私たちは完全に平等なわけではありません。身内を少しだけ『えこひいき』する傾向は確かに存在します。しかし重要なのは、身内への愛が高まれば、よそ者への愛も確実に連動して高まるということです。 社会を構成する『3つの行動タイプ』 普遍的利他主義者 偏狭的利他主義者 利己主義者 マジョリティ 部族主義 個人主義 高/高 高/低 低/低 境界を超えて誰にでも協力す 身内のみを助け、 誰に対しても協力的に る。この層が多い社会ほど、 外部は助けない。 振る舞わない。 全体の相関関係が高まる。 (※平均的な人間の差ではない) データの平均的傾向は、間違いなく『普遍的利他主義』に近いことを示しています。 何が社会の『境界を越えた寛容さ』を育むのか? 阻害要因 ・強い血縁主義 ・身内びいきの慣行 ・心理的距離の遠さ 促進要因 ・個人主義的な文化 ・高い経済水準 ・法治や制度の整備 集団間の『心理的な距離』を縮め、身内びいきのシステムを減らすことで、人類のデフォルトである『協力』を引き出すことができます。 争いを生む元凶:『ゼロサム・バイアス』の正体 現実(非ゼロサム・豊富な資源) 錯覚(ゼロサム・バイアス) 認識(バイアの奪い合い・散対) 錯覚 私たちの脳・メディアは、しばしば『限られた資源』に注目し「誰かが得をすれば、私たちが損をする」と思い込みます。 (例:移民問題、選挙、領土問題) 真実 しかし実際には、人約91に作られた『ゼロサム闘争』を取り除けば、人間は自然と協力し合います。 問題は「人間の本性」ではなく、 『状況の構造』と『思い込み』にあります。 © Gemba Notebook 多様性を撤性にせず、平和を築く これまで『社会の調和』を生むには、全員を一つの巨大なグループに同化させる(退屈な均質化)しないといけないと考えられがちでした。しかし、この研究は違う未来を提示します。 私たちは、自分たちのアイデンティティ(違い)を保ったまま、外部の人々と深く協力し合う能力を持っています。 競争から共創へのパラダイムシフト 構造を変える 職場、政治、国際関係において、『どちらかが勝てば、どちらかが負ける』というシステム(負の相互依存)を解体しましょう。 本性を信じる 人間は本来、普遍的な協力者です。強制的な対立構造さえなければ、『件間への愛』はそのまま『世界への愛』へと拡張されます。 『よそ者』を恐れる必要はありません。私たちの心は、最初から境界線を越えるようにできているのですから。 Gemini Notebook
動画での解説はこちら😊
https://youtu.be/h8FBfdYXRIU
本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:「身内びいき」は悪いこと? 仲間への優しさと、よその人への優しさ
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-11-1791654061/
【研究背景】
■ この研究が問い直す「常識」
社会科学・行動科学には、「内集団への愛(ingroup love)は外集団への憎悪(outgroup hate)とセットになっている」という広く共有された前提があります。Otten (2026) の論文は、この前提を大規模データで検証したものです。その前提がどのように形づくられ、どこに穴があったのかを、先行研究に沿って順に見ていきます。
用語の整理をしておくと、
■ 前提その1:人は内集団をひいきする(確立された事実)
まず、人が外集団より内集団に対してより向社会的にふるまうこと自体は、膨大な研究で確認されています。
これらを背景に、人間行動は「高い内集団向社会性と低い外集団向社会性」で特徴づけられる、という見方が広まりました(Gross & De Dreu (2019)、Hammond & Axelrod (2006)、Choi & Bowles (2007))。
■ 前提その2:なぜ「内集団愛=外集団憎悪」と考えられたのか(進化理論の論争)
▼ 偏狭な利他性の進化モデル
Choi & Bowles (2007) は、祖先の時代に集団間の競争や戦争があったことで、内集団への向社会性と外集団の貶めがセットで選択された、と論じました。内集団を有利にするには、内集団に尽くす方法と外集団を害する方法の両方があるため、この2つは「一緒に生じる」と言われることがあります(Brewer (1999))。
▼ それへの反論
一方で、祖先の集団間戦争の頻度や激しさは誇張されているという指摘もあります。Fry & Söderberg (2013) は移動型採集民の致死的攻撃を分析し、Dyble (2021) は戦争を通じた利他性の進化が人口構造や死亡率に非常に敏感であることをモデルで示しました。この立場からは、内集団向社会性と外集団への敵意は独立しているという含意が出てきます。
▼ 「協力的表現型」という第三の見方
さらに別の立場として、進化は普遍的な「協力的表現型(cooperative phenotype)」を生んだという主張があります。Peysakhovich, Nowak & Rand (2014) は、人の協力性が領域をまたいで一般的で、時間的にも安定していることを示しました。Mosleh, Stewart, Plotkin & Rand (2020) は、独裁者ゲームでの向社会性が、偏狭性の低さや集団間の妥協への投票意欲の高さと関連することを報告しています。この見方では、内集団と外集団への向社会性は正の関係にあると予想されます。
つまり理論レベルでは、負の関係・無関係・正の関係という3つの予想が並立していたわけです。
■ 見落とされてきた論点:「びいき」と「関係」は別の問い
Otten (2026) が強調するのは、内集団びいきが確立していても、それだけでは内集団向社会性と外集団向社会性が「どう関係しているか」は分からない、という点です。内集団びいきは次の3つのいずれでも生じます。
したがって、内集団びいきは負・無・正のどの関係とも両立しうる。この関係を知ることは、集団の境界を越える接触の課題と機会を理解するうえで重要だ、というのが論文の問題設定です。
■ 先行研究のデザイン上の限界
論文は、既存研究を実験デザインの観点から3つに整理しています。
▼ 負の相互依存があらかじめ組み込まれた研究
内集団と外集団の向社会性に負の関係があるという証拠の多くは、内集団に尽くすには外集団を犠牲にするか害するしかない状況から得られています。Abbink, Brandts, Herrmann & Orzen (2012) の集団間葛藤実験、Bornstein & Ben-Yossef (1994) の集団間社会的ジレンマ、Wit & Kerr (2002) の入れ子型社会的ジレンマなどです。こうした研究は、人間の「内集団愛と外集団憎悪」の傾向を示すものとしてしばしば解釈されてきました(Brewer (1999)、Weisel & Böhm (2015)、Halevy, Bornstein & Sagiv (2008)、Halevy, Weisel & Bornstein (2012))。
▼ 外集団を害するかどうかを選べる研究
Halevy, Bornstein & Sagiv (2008) や Halevy, Weisel & Bornstein (2012) が導入したゲームや、Aaldering, Ten Velden, van Kleef & De Dreu (2018) の研究では、内集団への貢献を「外集団を害する形」と「害さない形」から選べます。これらの研究では、多くの人が外集団を害さない形を選ぶことが示され、「内集団愛」は必ずしも「外集団憎悪」と一致しないことが示唆されました。ただし、デザイン上、内集団愛と外集団愛の「正の関連」を検出することはできません。
▼ 両方に独立に向社会的になれる研究(ごく少数)
正の関連を検出するには、負の相互依存なしに、内集団と外集団の双方に向社会的にふるまう機会を与える必要があります。そうした研究は Thielmann & Böhm (2016) や Yamagishi & Mifune (2009) など少数で、内集団と外集団の向社会性が正に関連しうるという暫定的な証拠を示していますが、少数の社会の大学生の小サンプルに頼っていました。
このギャップを、複数社会・複数領域の大規模データで埋めることが Otten (2026) の狙いです。
■ なぜこの問いが重要か:介入の方向性にかかわる
▼ 内集団を広げるという発想
もし内集団向社会性と外集団向社会性が負の関係にあるなら、向社会性を増やすには内集団をできるだけ大きくすればよい、ということになります。この論理は、内集団への包摂を広げる試み(Gaertner & Dovidio (2014) の共通内集団アイデンティティモデル、McFarland, Webb & Brown (2012) の「全人類が私の内集団」尺度、Dovidio, Gaertner & Saguy (2007))や、上位集団(superordinate group)を作る試み(West et al. (2009)、Wenzel, Mummendey & Waldzus (2007)、Dare & Jetten (2022))の背後にあります。
▼ 多様性との緊張
しかし内集団の拡張は多様性とその利益を減らすリスクがあります。Wenzel, Waldzus & Steffens (2016) は「退屈な画一性で社会的調和を買う」ことへの警告を発しています。多様性は、複雑な問題解決やイノベーションに利益をもたらすことが示されています(Aminpour et al. (2021)、Baggio et al. (2019)、Ellemers & Rink (2016))。もし両者が正の関係なら、多様性を犠牲にせずに集団の境界を越える向社会性を実現できる可能性が開ける、と論文は位置づけています。
■ 関連する理論枠組み:行動類型と社会的価値志向
論文の追加分析や考察で参照される枠組みも、先行研究に根ざしています。
■ 社会差を説明しうる要因についての先行研究
社会ごとの違いを探る分析では、集団間行動に関わると理論化されてきた要因が参照されています。
また考察で触れられる「ゼロサム・バイアス」(実際にはゼロサムでない状況をゼロサムと判断すること)についても、Davidai & Tepper (2023)、Meegan (2010)、Esses, Dovidio, Jackson & Armstrong (2001)、Sherif (1958) の上位目標研究などが先行研究として挙げられています。
■ 本研究が再利用する既存データセット
Otten (2026) は、新たに実験するのではなく、すでに公開されている6つのデータセットを組み合わせます。いずれも「同じ人が内集団と外集団について別々に回答・決定している」という共通点を持ち、これまで内集団びいきの研究などには使われてきましたが、両者の共起を調べる目的には使われていませんでした。
■ まとめ:研究背景の流れ
こうした背景のうえで、Otten (2026) は121社会・74万人超の既存データを用いて、両者の関係を直接検討しています。
【研究内容】
■ この研究が取り組んだ問い
社会科学・行動科学では「自分の所属集団(内集団)への愛は、他の集団(外集団)への憎しみと一緒に生じる」という前提がよく置かれています。
しかし、「人は内集団に対して外集団よりも親切にふるまう(内集団ひいき)」という事実が確立していても、それだけでは「内集団への向社会性と外集団への向社会性がどう関係しているか」は分かりません。
著者のOttenは、内集団ひいきは次の3つのどのパターンとも両立しうると整理します。
理論的にも立場が分かれています。
▼ 先行研究の限界
負の関係を支持してきた研究の多くは、「内集団を助けるには外集団を犠牲にするしかない」という負の相互依存があらかじめ組み込まれた設計でした(Abbink et al. (2012)、Bornstein & Ben-Yossef (1994)、Wit & Kerr (2002) など)。
外集団を害するかどうか選べる設計の研究(Halevy et al. (2008)、Halevy et al. (2012)、Aaldering et al. (2018))では、多くの人が外集団を傷つけない形の内集団協力を選ぶことが示されましたが、設計上「内集団愛と外集団愛の正の関係」は検出できません。
両方に別々に向社会的にふるまえる状況を扱った研究(Thielmann & Böhm (2016)、Yamagishi & Mifune (2009))は正の関係を示唆していますが、少数の社会の大学生の小さなサンプルに限られていました。
■ 方法:6つの大規模・多社会データセット
著者は、(1) 複数の社会を含み、(2) 同じ人が内集団と外集団について別々に回答・決定しているデータを選びました。合計743,402人、121社会です。各データで「内集団」「外集団」の定義も、測っている向社会性の種類も異なります。
▼ WVS(世界価値観調査)
▼ ESS(欧州社会調査)
▼ PD(囚人のジレンマ)
▼ DGRAG(独裁者ゲームとランダム配分ゲーム)
▼ LANA(中南米・北米の独裁者ゲーム)
▼ MPG(多層公共財ゲーム)
■ 結果1:文脈を超えて見られる正の関係
6つすべてのデータセットで、内集団向社会性と外集団向社会性のあいだに強い正の相関が見られました。内集団に親切な人は外集団にも親切であり、その逆も成り立ちます。関係はおおむね直線的で、向社会性が全体に低い人でも高い人でも同様に成り立っていました。
WVS 0.40/ESS 0.69/PD 0.83/LANA 0.59/MPG 0.56/DGRAG 0.65
相関の強さはデータセット間で異なり、国籍を分ける囚人のジレンマ(PD)と民族を分ける寛容(ESS)で最も強く、家族・隣人・知人 対 外国人・他宗教・見知らぬ人という区分の信頼(WVS)で最も弱くなっています。ただし、データセット同士は指標・社会・集団区分・手法が同時に異なるため、どの要因が差を生んでいるかは特定できないと著者は述べています。
図1 6つのデータセットすべてで、内集団に親切な人ほど外集団にも親切という正の相関が見られた。相関は国籍を分けた囚人のジレンマ(PD)で最も強く、信頼を測ったWVSで最も弱かった。
Otten(2026)の本文 Results「The Coexistence of Ingroup and Outgroup Prosociality Across Contexts」の節(いずれもP < 0.001)の数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Otten (2026). Proceedings of the National Academy of Sciences, 123. https://doi.org/10.1073/pnas.2517013123
▼ 同時に「内集団ひいき」も存在
先行研究と同様に、外集団より内集団への向社会性の方が高いことも確認されました。差の大きさ(Cohen's d:2群の平均差を標準偏差で割った指標。0.2が小、0.5が中、0.8が大の目安)は、
で、いずれも統計的に有意でした(DGRAGはP = 0.01、他はP < 0.001)。
つまり「内集団に親切な人は外集団にも親切だが、外集団に対してはやや低い水準」という像です。
図2 どのデータでも外集団より内集団への向社会性が高かった(内集団ひいき)。ただし差の大きさはデータによって大きく異なり、信頼(WVS)では大きく、ゲーム課題(PD、DGRAG)ではごく小さい。
Otten(2026)の本文 Results の節(t検定の結果。DGRAGはP = 0.01、他はP < 0.001)の数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Otten (2026). Proceedings of the National Academy of Sciences, 123. https://doi.org/10.1073/pnas.2517013123
▼ 因子分析:一つの傾向にまとまる
内集団・外集団への各決定に探索的因子分析(複数の変数の背後にある共通の「因子」の数を調べる手法)を行いました。2因子(内集団向社会性と外集団向社会性が別の傾向)になるのか、1因子(一つの普遍的な向社会性)になるのかを調べたところ、6データすべてで固有値1を超える因子は1つだけで、第2因子の固有値は第1因子のごく一部にとどまりました(固有値の判断基準については Zwick & Velicer (1986)、Braeken & van Assen (2017) に従っています)。
決定が2つしかないESSでは2因子とも固有値1超はあり得ないため、2つの因子の固有値の差で判断し、やはり1因子解が最も適合しました。
■ 結果2:121社会すべてで正の相関
社会ごとに相関を計算すると、6データセットに含まれる121社会すべてで、相関は正かつ統計的に有意でした(DGRAGのSamburuはN = 39で推定できないため除外)。
図3 121社会すべてで相関は正かつ有意だったが、強さには幅がある。たとえばWVSではパキスタン0.17からオランダ0.55、PDではパキスタン0.73から日本0.91まで社会によって異なる。
Otten(2026)の本文 Results「The Coexistence of Ingroup and Outgroup Prosociality Across Societies」の節(Fig. 2の記述)の数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Otten (2026). Proceedings of the National Academy of Sciences, 123. https://doi.org/10.1073/pnas.2517013123
社会間でも強さは異なります。オランダは3つのデータで上位(WVS 95位中1位、PD 42位中9位、ESS 39位中4位)、パキスタン(WVS 95位中95位、PD 42位中42位)やトルコ(WVS 83位、PD 41位)は下位でした。何がこの差を生むかの特定は本研究の範囲外ですが、著者は「これだけ多様な社会のすべてで正の相関が出る」点を重視し、現代の人間社会に普遍的な特徴である可能性を示唆しています。
■ 結果3:メカニズムの手がかり(補足分析)
以下は相関に基づく探索的な分析で、因果を示すものではありません。
▼ 行動タイプ別の構成
関連文献(Hammond & Axelrod (2006)、Gross et al. (2023)、Aaldering & Böhm (2020))に沿って、人を3タイプに分類しました。
社会の相関は、普遍的向社会者の割合が大きいほど高く、偏狭な向社会者の割合が大きいほど低く、利己的行為者の割合とは関連しないという結果でした。
▼ 内集団と外集団の心理的な近さ
LANAとDGRAGには、内集団・外集団それぞれへの心理的近さの測定があります。両者の近さの差が小さい参加者ほど、内集団・外集団向社会性の相関が高い傾向がありました。
▼ 社会レベルの特徴
社会ごとの相関と、集団間行動に関わると理論化されてきた社会特性との関連を調べました。
さらに、社会レベルの相関は、集団の境界を越えた現実の向社会行動の一つである「家族以外への自発的献血」の社会的普及度を予測しました。
■ 考察
▼ 「不完全な普遍的向社会性」
結果は、向社会性が内集団に限られ外集団への敵意と共進化したとする Choi & Bowles (2007) の理論とも、向社会性が内集団に限られ外集団とは無関係だとする Yamagishi et al. (1999) の「限定された一般化互恵性」の理論とも合いません。むしろ、人は他者一般への向社会性の程度で個人差があるとする「協力的表現型」や社会的価値志向(Peysakhovich et al. (2014)、Bogaert et al. (2008)、Van Lange (1999))の見方に近い結果です。先行研究でも、向社会的志向の人は難民支援(Böhm et al. (2018))や災害被災者支援(Manesi et al. (2019))でも向社会的であることが示されています。
ただし外集団への水準は内集団よりやや低いため、著者は平均的傾向を「不完全な普遍的向社会性(imperfect universal prosociality)」と呼んでいます。これは、他者の協力に応じて協力するがその水準をやや下回る「不完全な条件付き協力者」(Fischbacher & Gächter (2010)、Fehr & Schurtenberger (2018))になぞらえた表現です。個人レベルでは利己的行為者・偏狭な向社会者・普遍的向社会者が混在していますが、平均像は偏狭な向社会性より普遍的向社会性に近い、というのが著者の整理です。
▼ 限界
▼ 含意
戦争の領土や選挙の票のような「一方の得が他方の損」というゼロサム状況では、内集団愛と外集団憎悪は共に生じえます。本研究は、そうした負の相互依存がない状況では内集団向社会性と外集団向社会性が共に生じることを示しており、著者はゼロサム状況を非ゼロサムに変えることが普遍的向社会性を促すと論じています。正の相互依存にする必要すらなく、負の相互依存を取り除けばよい、という指摘です。
構造を変えるには第三者の関与(Schelling (1980)、Halevy & Halali (2015))が必要なこともありますが、人は実際以上に集団間の目標が対立していると知覚しがちです。これは「ゼロサム・バイアス」と呼ばれます(Davidai & Tepper (2023)、Meegan (2010))。たとえば、現実に基づかない移民との競争認識が否定的な移民態度と関連することが示されています(Esses et al. (2001))。正確な情報提供や共有目標の強調によってこうした認識を変えられれば、知覚された負の相互依存を減らせる可能性があるとされています(Chernyak-Hai & Davidai (2022)、Sherif (1958)、Gómez et al. (2008)、Weisel & Zultan (2021))。
■ まとめ
前野夫妻の幸福学Tipsにも紹介いただきました😍
https://r.voicy.jp/Gw9rEd6nRmj