2025.11.18

ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性

お客さんだけでなく多様なステークホルダーのウェルビーイング向上を目指すTSRの枠組みから見た、

私だけの花束プロジェクト😍


■TSR(Transformative Service Research(TSR))

受容者(顧客)だけでなく,提供者,コミュニティ,環境を含む多様なステークホルダーのウェルビーイング向上を目的とする.

TSR においては,変容(Transformation)とは,単なる満足や利便性の獲得ではなく,自己の意味・目標・価値の再構成を伴う深い経験である(Anderson&Ostrom,2015).

この視点は,教育現場における PBL など,内省と気づきを通じた自己変容の場と高い親和性をもつ.

TSR の特徴の 1 つは,サービスの「提供者」側にもポジティブな変容が生じうる点にある(Rosenbaum et al., 2011).


■私だけの花束プロジェクト

①まず受容者(顧客)は 26 種類の「わたしたちのウェルビーイングカード」(エントリー版)から,自分のウェルビーイングを実現するために重要だと感じる言葉を 3 つ選ぶ.

②次に,それを聞き出した学生が,それら言葉に対応した生花を選び出し,それらを束ねたオリジナルの花束をその場で作成する.

③同時に,受容者が選んだ言葉を反映させたレターを手渡す.このレターは,花束を愛でるたびにウェルビーイングについて考えてもらうことを願う内容である.


【目次】

■I .ウェルビーイングとサービス

1.背景と問題意識

2.本研究の目的と構成

■II .理論的背景

1.ウェルビーイング概念の多様性と構成要因

2.ウェルビーイング・コンピテンシーとその涵養

3.Transformative Service Research(TSR)の理論と広がり

4.理論的レビューの総括と本研究の立ち位置

■III .教育実践としてのサービス事例

1.サービス開発のプロセス

2.「私だけの花束」プロジェクトの概要

3.サービス設計の工夫とウェルビーイング要因

4.受容者と提供者の反応

■Ⅳ .考察

1.TSR の枠組みから見た本事例の意義

2.ウェルビーイング・コンピテンシー涵養の視点から

3.サービス設計と教育実践の可能性

(1) 真正の他者との関わりを通じた自己理解・他者理解の深化

(2) 「意味づけ」と「内省」のサイクルの促進

(3) ウェルビーイング中心の価値観の体得

■V .結論


ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性:大学のPBL教育における実践事例とTSRの視点から

横山 恵子先生, 渡邊 淳司先生

組織科学,2025/11

https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/59/1/59_20251108-5/_article/-char/ja

 本研究は,大学の産学連携 Project-based Learning(PBL)におけるサービス実践を通じて,ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養可能性を明らかにすることを目的とする.花と「わたしたちのウェルビーイングカード」を用いた事例の分析により,受容者と提供者の双方に意味変容が生じ,Transfor- mative Service Research(TSR)の枠組みを踏まえた教育・サービス接続の新たな設計可能性を示した.

図1 ウェルビーイング・コンピテンシーモデル(NTT-KIT 2024年度版) UNIVERSE I 自己の探求・理解 I-1 自己の調整 I-3 自己の開示 I-2 自己の受容・尊重 WE 相手の理解 W-1 相手の調整 W-3 相手の受容・尊重 W-2 協働活動 SOCIETY 社会集団の理解 S-1 社会集団における関係調整 S-3 社会集団の受容・尊重 S-2 主体的社会参画 U 地球人的視点の獲得と持続可能な未来に向けた行動
投稿者による補足(3件)
補足 1

NotebookLMに動画解説頂きました😊
https://youtu.be/Kz6oFznsBdA

補足 2

【背景】

■■ 1. ウェルビーイング概念の多様性と構成要因

▼ ウェルビーイングとは何か

ウェルビーイング(Well-being)は、人が「よりよく生きること」に関わる多面的な状態を指します。身体的・精神的健康だけでなく、人とのつながり、自己実現、社会的貢献といった側面を含みます。

  • Dodge et al. (2012)の定義
    ウェルビーイングを「人がその資源を用いて日々の課題に対処できるバランス状態」として定義。静的ではなく動的なプロセスとして捉える視点を提示しました。

▼ ウェルビーイングの構成要因をめぐる研究の展開

■ 主観的幸福(SWB:Subjective Well-being)のアプローチ

  • Diener (1984)の定式化
    「生活満足度」と「ポジティブ・ネガティブ感情」のバランスとしてウェルビーイングを捉えました。このアプローチは政策・医療・教育の領域で広く応用されてきました。

■ 心理的ウェルビーイングのアプローチ

  • Ryff (1989)の多次元モデル
    より構造的にウェルビーイングを捉え、以下の6次元で構成されるモデルを提唱:
  1. 自己受容
  2. 目的意識
  3. 個人的成長
  4. 環境制御力
  5. 自律性
  6. 積極的な他者関係
    このモデルでは、自己受容の重要性と、そのための自己認識の必要性が強調されています。

■ 政策レベルでのウェルビーイング指標

  • OECD (2011~)のBetter Life Index
    教育・健康・人間関係・環境など、生活の幅広い領域をウェルビーイング指標として取り上げています。
  • WHO (2021)の政策的枠組み
    「ウェルビーイング中心の社会への転換」を掲げました。

▼ ウェルビーイング概念の多様性
  • Linton et al. (2016)のレビュー研究
    99種類のウェルビーイング測定尺度をレビューし、それらを合計すると196の構成要因が見いだされたと報告。ウェルビーイングの多様性と理論的曖昧性を明らかにしました。
    この研究は、ウェルビーイングが一義的に定義できるものではなく、文化・文脈・目的に応じて構成される「構成概念(Construct)」であることを示唆しています。

▼ 自己認識とウェルビーイングの関係

論文では、「その時々で自分にとってのウェルビーイングの構成要因を意識することが、ウェルビーイングを高めるために不可欠」と強調されています。
この点について、以下の理論が引用されています:

  • Deci & Ryan (2000)の自己決定理論(SDT:Self-Determination Theory)
    ウェルビーイングは、3つの基本的心理欲求の充足によって促進されるとします:
  1. 自律性:自分の意思で行動できること
  2. 有能性:自分の能力を発揮できること
  3. 関係性:他者とつながっていること
    特に、自律性の欲求充足には自己の価値観や興味への認識が不可欠となります。
  • Sheldon et al. (2004)の研究
    自分の価値観や興味に合致した、自己一致的な目標の追求がウェルビーイングを高めることを示唆しています。

■■ 2. ウェルビーイング・コンピテンシーとその涵養

▼ ウェルビーイング・コンピテンシーとは

渡邊ほか (2024)が提唱した概念で、ウェルビーイングを実現する資質・能力の観点からアプローチします。
「コンピテンシー(Competency)」とは:
知識やスキルを実際の場面で活用できる実践的な資質・能力のことを指します。
ウェルビーイング・コンピテンシーには以下が含まれます:

  • 自分自身の状態に気づくメタ認知的能力
  • 感情の調整力
  • 他者との関係を築く力
  • 社会や自然とのつながりを認識する力

▼ コンピテンシーの構造

関係性の範囲に関する4つのカテゴリー:

  1. I(自分)
  2. WE(近しい他者)
  3. SOCIETY(社会)
  4. UNIVERSE(自然などより大きな存在)
    合計10のコンピテンシーが設定されています(図1参照)。
    主なコンピテンシーの例:
  • I-1:自己の探求・理解
  • I-2:自己の受容・尊重
  • I-3:自己の調整
  • W-1:相手の理解
  • W-2:相手の受容・尊重
  • W-3:相手との関係調整
  • S-1:社会集団の理解
  • S-2:社会集団の受容・尊重
  • S-3:社会集団における関係調整
  • U:地球人的視点の取得と持続可能な未来に向けた行動

▼ わたしたちのウェルビーイングカード

NTTの研究所が開発したカードツール(日本電信電話株式会社, 2024;渡邊淳司, 2025):

  • スタンダード版:32種
  • エントリー版:26種
    健康や収入など物理的な生活基盤を除いた、ウェルビーイングの心理的要因が記されています。
    使い方の例:
    その人のウェルビーイングの実現に重要な要因をカードから数枚選び、周囲の人と共有することで、自身のウェルビーイングの要因に気がつくことを促進できます(横山ほか, 2025)。

▼ 教育との関連:ウェルビーイング・リテラシー
  • Oades et al. (2021)の概念
    「ウェルビーイング・リテラシー(Well-being Literacy)」を提唱。
    これは、ウェルビーイングに関する言語的理解・活用能力を指し、学習者が自分の幸福を表現し、他者と共有する力として教育実践に組み込まれています。
  • Ryff (1989)との関連
    精神的健康を生まれつきの「固定された属性」としてではなく、日常の実践や学習を通じて高めていくことのできる「能力」として捉える視点が重視されるようになっています。
補足 3

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性
https://archive.happytech.co.jp/posts/2025-11-18-1763486105/

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