人が世界をどう捉えるかの枠組み(自我発達段階)についての、オーストラリアの研究。
成人58名を対象にした実験です。
まず前提として。
人の「ものの見方」の複雑さには段階があって、
上がるほど、自分と他人への気づきが細やかになり、
物事を単純化せずに捉えられるようになる、とされています。
ところが、大人の大多数はけっこう手前の段階で止まってしまう。
92研究・12,000人超のメタ分析でも、これは一貫して確認されています。
じゃあ、止まった後は動かないのか?何があれば動くのか?
これを調べたのがこの研究です。
研究者たちは、発達が起きる経験には
4つの条件が必要だと考えました。
**①今の自分の枠組みでは処理しきれない(揺さぶられる)
②自分にとって切実なテーマである
③感情が動く
④人との関わりの中で起きる**
そしてこの4つを全部満たす研修を作って、
本当に段階が上がるか実験した。
週1回90分×10回、合計15時間です。
研修の中身は、こんな感じ。
- 1〜2回目:感情の識別
感情の種類(最初に湧く感情/その感情に対して湧く感情/相手を動かすために出す感情)を学ぶ。
リラクセーション、音楽を聴く、日記を書く。
感情の感じ方には個人差があると知る。
- 3〜5回目:アイデンティティの明確化
自分をコラージュで表現する。
2人組で自分の性格について語り合う。
自分では気づいていない自分について、友人にフィードバックをもらう。
自分の「中核」と「周辺」を仕分ける。
- 6〜7回目:人間関係のパターン
関係のタイプごとの親密さ、期待、ニーズ、そして恐れを整理する。
誰かに惹かれる/反発する、その心理的な理由を考える。
今の仕事とプライベートの関係を振り返る。
- 8〜10回目:コミュニケーション
積極的傾聴、効果的な伝え方、対立の解決。
共感の練習。
自分の実際の場面に当てはめて議論する。
内容だけ見ると、
わりとよくある対人スキル研修です。
実は、ここがこの研究のポイント。
仕掛けは「どのレベルで教えるか」。
参加者の段階より1〜2段階上の枠組みから教える設計にした。
つまり、今のままでは飲み込めない高さに、わざと置いた。
結果。
研修を受けた人のうち、
段階が下の方だった25人中20人が、1段階上がった。
4ヶ月後も維持されていました。
何もしなかった比較グループは、ほぼ動かず。
そして面白いのがここ。
もともと研修より上の段階にいた10人は、
ほとんど上がらなかった。
彼らにとっては「揺さぶり」にならなかったから。
同じ研修が、ある人には効いて、ある人には効かない。
しかもそれが事前の予測どおりだった。
これが、4条件という考え方の裏づけになっています。
まとめると、
- 大人の見方の枠組みは、変わる。少なくとも一段は。
- ただし条件つき。揺さぶられて、自分事で、感情が動いて、人との間で起きること。
- そして「今の自分にちょっと届かない高さ」に置かれること。
研修を作る側としては、
中身をどう作るかより、
「誰に、どの高さで置くか」が効いている、というのが刺さります。
全員に同じ研修をやっても、届く人と届かない人が出るのは、たぶん当たり前のこと。
個人としては、
ちょうどよく揺さぶられる場所に、自分から出ていく。
それも、心の準備ができているタイミングで。
研究者たちは最後に、
参加者が自分から申し込んできた人たちだったこと、
つまり変化の機が熟していたことにも触れています。
なお、研究では、Loevinger先生の段階でいうE5→E6への向上が見られました。E6,7くらいのプログラムだったので。
キーガン先生の段階にバックリ合わせると、アンバーとオレンジの間(S3環境順応とS4自己主導)から、オレンジ(S4自己主導)への向上ですね。(厳密には対応しませんが。)
Promoting Advanced Ego Development Among Adults
成人における高次自我発達の促進
John Manners & Kevin Durkin(西オーストラリア大学)、Andrew Nesdale(グリフィス大学)
Journal of Adult Development, Vol.11, No.1, 2004/1, pp.19-27
https://verticaldevelopment.com/wp-content/uploads/2018/05/5.-Manners-Durkin-_-Nesdale-2004-Measuring-Advanced-Development.pdf
大人の自我はどこまで発達するのか? 心理的成熟を促す「4つの条件」と実証的アプローチ Based on the research by Manners, Durkin, & Nesdale (2004) Promoting Advanced Ego Development Among Adults Genuis Notebook The Bottom Line: 大人の成長に関する3つの結論 1. 成長の停滞 (The Ceiling) 多くの大人は、人生の早い段階で自我の発達を止め、「自己認識的(Self-Aware)」なレベルで安定化してしまう。 2. 突破口 (The Catalyst) しかし、適切な「場造的揺さぶり」と感情的・対人的な環境が備え、大人になってからのさらなる自我発達は十分に可能である。 3. 実証されたメカニズム (The Proof) 10週間の介入実験により、科学的アプローチが成人の自我ステージを確実に、そして永続的に引き上げることが証明された。 Corridor Notebook 現状の課題:E5(自己認識的)段階の壁 Loevinger の自我発達理論に基づく 92 の研究、12,000 人以上のデータを統合した Cohn(1998)のメタ分析は、衝撃的な事実を示しています。 「大多数の成人は、初期の成人期までに E5(Self-Aware)以下の段階で成長を止める」 E5(Self-Aware/自己認識的)~大半の大人の終着点 E4(Conformist/順応的) E6(Conscientious/良心的)以上~少数派の領域 E1-E4 E6-E9 Genius Notebook E5の壁の向こう側:高度な自我発達がもたらすもの もし大人が発達の壁を越えられるとしたら、それは何をもたらすのでしょうか? 研究が示す 高度な自我ステージ(E6以上)の利点: 優れたマネジメント力 不確実性の高い状況下での効果的な問題定義と、協働的な意思決定能力(Bushe & Gibbs, 1990; Merron, 1986)。 育児と関係性の深化 子どもへのより高いレベルの共感、サポート、および青年期の自律性の促進(Hauser et al., 1991)。 夫婦関係と自己管理 健全で有能なパートナーシップの構築と、加齢に伴う高いレベルの身体的セルフケア能力。 E5の壁 Cornelius Notebook 発達の現在地を知る:自我ステージ比較マトリクス E4: 順応的 (Conformist) E5: 自己認識的 (Self-Aware) [Modal Adult Level] E6: 良心的 (Conscientious) [Advanced] E7: 個人的 (Individualistic) [Advanced] 意識の焦点: 外見・社会的承認 | 感情・一般的な目標 | 内面的な動機・達成 | 個性・役割の葛藤 複雑性の捉え方: 黒か白か | 例外を認め始める | パターンと全体像を見る | 矛盾やパラドックスを許容する 対人関係: 帰属への固執 | 表面的な相互作用 | 相互の責任と尊敬 | 他者の自律性の尊重 Cornell Notebook 成長の4輪:発達を強制する「触媒」の条件 時間が経てば自動的に成長するわけではありません。自我の構造を次の次元へ引き上げるのは、以下の4要素が同時に作用する「時定の人生経験」のみです。 構造の揺さぶり (Structurally Disequilibrating) 現在の自我構造では処理しきれない複雑な課題への遭遇。 個人的な重要性 (Personally Salient) 参加者自身の人生や仕事に直接関連し、切実であること。 自我の高次化 (Ego Evolution) 感情的な関与 (Emotionally Engaging) 単なる知的興味ではなく、感情的な覚醒や内省を伴うこと。 対人的な性質 (Interpersonal) 他者との関係性の交流、または他者との対話を通じて行われること。 Cornelius Notebook 必須条件1:「構造的揺さぶり」とは何か? 人は、心地よい環境にいる限り既存の枠組み(パラダイム)を手放しません。 n(現状) 現在の処理能力(例:E5段階)。 このレベルの情報の入力では、既存の枠組みに 「同化」されるだけで成長は起きない。 「調節(Accommodation)」の強制: この枠組みでは理解できない情報や葛藤に直面させることで、枠組み自体の 再構築を引き起こします。 n+1/n+2(介入) 1~2段階上の複雑な視点 (例:E6~E7段階)への 強制的な曝露。 Cornelius Notebooks 必須条件2~4:理屈だけでは人は変わらない 構造的課さぶり(知的な負荷)だけでは、防衛機制が働き反発を招きます。 発達には、人間的・感情的な営みが不可欠です。 個人的重要性 感情的関与 対人的性質 心理的変容の温床 (The Crucible of Transformation) 「自発的な参加」と「自分の日常とのリンク」。他人にやらされている状態では変容は起こらない。 既存の自分を慰う「痛み」や、新たな気づきの「喜び」など、情動的体験を伴う深い省。 新しい視点を磨のように映し出し、他者との安全な対話とフィードバックのループ。 Cornell Notebook (文字なし) 実証実験:10週間の介入プログラム 提案された「4つの触媒」を全て組み込んだプログラム(Building Better Relationships)を実施し、真の実験計画法(無作為割付)で効果を測定しました。 介入群1&2(N=36): 1回90分×10週間のプログラムを受講。 対象:社会人および一般成人(N=58、平均年齢32~37歳) 統制群(N=22): 待機リスト(介入なし)。 Pre-test Post-test Follow-up (開始直前) (終了直後) (4ヶ月後) ※測定エラーを防ぐため、WUSCT(ワシントン大学文完成テスト)の貴ある短縮版を使用。 Cornell Notebook 理論から実践への変換:プログラムの構造 プログラムはE5(自己認識的)段階の参加者に揺さぶりをかけるため、意図的にE6(良心的)・E7(個人的)段階の構造で設計されました。 S1-2: 感情の識別 (Emotional Discrimination) 複雑な一次感情・二次感情の識別。文化的・個人的な感情抑圧の理解。 S3-5: アイデンティティの定義 (Identity Definition) 核心的(Core)な自己と周辺的(Peripheral)な自己の区別と統合。 S6-7: 関係性パターンの理解 (Relationship Patterns) 親密さの度合いに応じた期待と恐れの分析。 S8-10: コミュニケーション (Communication Skills) 能動的傾聴と、効果的な葛藤解決の原則の適用。 ※全てにダイダクティック(講義)、ディスカッション、体験的エクササイズを統合し、感情的・対人的関
【背景】
■Manners, Durkin & Nesdale (2004)「成人の高次自我発達を促進する」
この論文は、成人の自我発達(ego development=自分と他者をどう捉えるかという、パーソナリティの枠組みそのものの発達)が、大人になってからでも先へ進むのか、進むとしたら何がそれを引き起こすのか、を介入実験で確かめたものです。
その問いが立ち上がるまでには、はっきりした流れがあります。順に追っていきます。
■1 出発点:レヴィンジャーの自我発達理論
▼ 理論の骨格
E1 前社会的 / E2 衝動的 / E3 自己保護的 / E4 順応的 / E5 自己意識的 / E6 良心的 / E7 個別的 / E8 自律的 / E9 統合的
▼ 理論の妥当性は繰り返し検証されてきた
■2 しかし、大人の大半は途中で止まる
▼ 繰り返し見つかってきた事実
▼ 決定打となったメタ分析
■3 なぜその問いが重要なのか(高次段階の利点)
理論的には、もし成人期にそれ以上発達しないのなら、自我発達理論を「生涯発達の理論」と呼ぶこと自体が揺らぎます。
実践的には、高次段階には次のような利点が報告されているため、そこへ進める人を増やせるかどうかが問題になります。
■4 ところが「何が発達を起こすのか」は分かっていなかった
▼ 理論の側の空白
▼ 発達が起きること自体は分かっていた
■5 先行する4つの介入研究と、その限界
成人の自我発達を促進しようとした介入研究は、本研究以前に4件しかありませんでした。
▼ 共通する欠落
■6 本研究が土台にした概念枠組み(Manners & Durkin, 2000)
▼ 4領域の知見を統合して作られた枠組み
▼ そこから導かれた2つの要点
▼ その「特定のタイプの経験」の4条件
▼ 「揺さぶり」をどう作るか
■7 方法論上の批判にどう応えたか
過去の介入研究に向けられた批判を踏まえ(認知発達領域: Wohlwill, 1973 / 道徳性発達領域: Lawrence, 1980 / 自我発達領域: Loevinger, 1976, 1993)、次の設計が採られました。
■8 考察で援用される「タイミング」の議論
なぜ30代が中心の参加者たちは、これまでの人生で揺さぶられる経験をしてきたはずなのに、今回はじめて段階移行したのか。この問いに対して、著者らは2つの先行研究の考え方を引きます。
■ここまでのまとめ
【研究内容】
■Manners, Durkin & Nesdale (2004)
研究の内容(方法・結果・考察)
前回整理した「4条件(構造的不均衡・自分事・情動的関与・対人性)を満たす経験が段階移行を起こす」という枠組み(Manners & Durkin, 2000)を、実際の介入プログラムに落とし込んで検証したのがこの研究です。設計から順に見ていきます。
■1 仮説
同じプログラムが、ある人には効き、ある人には効かないことを事前に予測している。ここがこの研究の設計上の要です。効果があること自体より、「予測どおりのパターンで効くこと」が枠組みの検証になります。
■2 方法
▼ 参加者の集め方
▼ 群分け
▼ 3群は揃っていたか
▼ 測定:WUSCT
▼ 実施の手続き
■3 介入プログラムの中身
▼ 4つの内容領域
レヴィンジャー理論(Loevinger, 1976)に照らして自我発達に関連する4領域が選ばれました。
▼ 4条件はどう埋め込まれたか
▼ 念のための統制
■4 結果
▼ 全参加者の平均自我段階の変化
▼ 事前の段階別:1段階上がった人の割合
▼ 標的グループ(E5の30名)に絞った分析
▼ 準・追試としての統制群
■5 考察
▼ 結果の要約(著者らによる3点)
▼ 論点1:成人期に高次段階への発達は可能か
▼ 論点2:どんな経験が発達を引き起こすのか
▼ 論点3:なぜ彼らは今まで発達してこなかったのか
▼ 結論
■6 読むときに留意したい点
■全体のまとめ
【研修内容】
■スキル研修「Building Better Relationships」の内容
▼ 全体の枠組み
▼ 依拠した理論的背景
■領域1:情動の識別(第1〜2回)
▼ 3つのねらい
一次感情は状況に対する最初の直接的な反応(悲しみ、恐れなど)、二次感情はその一次感情に対して起こる反応(悲しんでいる自分への怒りなど)、道具的感情は他者に何らかの影響を与えるために表出される感情を指します。この区分はGreenberg & Safran (1987) の枠組みに沿ったものです
▼ 方法
■領域2:アイデンティティの明確化(第3〜5回)
▼ 3つのねらい
「内的な参照点」とは、周囲の期待や役割ではなく自分の内側にある基準を指します。順応的段階(E4)から自己意識段階(E5)、さらにE6へ移る過程で起きる変化そのものです
▼ 方法
■領域3:関係のパターン(第6〜7回)
▼ 3つのねらい
▼ 方法
■領域4:コミュニケーション技能(第8〜10回)
▼ 3つのねらい
▼ 方法
一次レベルの共感(primary-level empathy)とは、相手が明示的に表現している感情と意味を正確に汲み取って返すこと。相手が言外に抱えているものまで踏み込む高次の共感と区別されます(Egan, 1990 の枠組み)
■内容についての留意点
動画解説はこちら😊
https://youtu.be/u51TAKnzZjU
会話形式での紹介は、こちら😊
はぴテク相談室:研修を何回受けても、何も変わらない話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-14-1786730160/