はぴテク相談室:「なんとなく普通」の日は、ダメな日なのか
最近、ちょっと悩んでるんです。特に嫌なことがあったわけじゃないんですけど、毎日「なんとなく普通」で。SNSを見ると、みんなキラキラしてて、いつもハッピーそうで。自分はテンション低いままで、なんか人としてダメなのかなって。
なるほど。「なんとなく普通」の日が続いていて、それが物足りないというか、不安になっている感じですね。ちょっと聞いてみたいんですが、その「普通」って、マイナスなんですか?ゼロなんですか?
えーと……マイナスではないですね。ゼロ、というか、まあ、ぼんやり悪くない、くらい?
「ぼんやり悪くない」。それ、実は人間の標準設定なんですよ。
標準設定?
幸福研究の大御所、エド・ディーナーという人たちが2015年に出した論文があって。テーマがまさに「なぜ人は概して良い気分でいるのか」。良いことも悪いことも起きていない時、人はどんな気分でいるのか、を調べたんです。
何もない時の気分、ですか。それって調べられるんですか?
大学生に6週間、1日に何度も「今どんな気分?」って聞き続けたデータがあるんです。3,500回分くらい。それで、ネガティブな感情がゼロだった瞬間だけを取り出してみたら、その99.5%で「ちょっとした幸福感」があった。
えっ、ほぼ全部じゃないですか。
そうなんです。何も起きていない時、人は「ゼロ」じゃなくて「ちょっとプラス」にいる。これを「ポジティブ気分オフセット」って呼びます。オフセットっていうのは、基準点のずれのこと。人間の気分のゼロ点は、最初から少しプラス側にずれてるんですよ。
じゃあ、私の「ぼんやり悪くない」は……
まさにそれです。異常どころか、人類の標準。しかも大学生だけじゃなくて、160カ国、94万人の世界調査でも同じで、82%の人が「昨日はポジティブな気分の時間が多かった」って答えてる。一番低い国でも57%。
でも、私はキラキラしてないですよ。SNSの人たちみたいに。
ここが面白いところで。この論文、「ちょっとプラス」がちょうどいい、って言ってるんです。めちゃくちゃハイテンションな人は、逆にリスクを軽く見たり、仕事の成果が「ほどほどに幸せな人」より落ちたりする、という研究もあって。
えっ、幸せすぎると仕事の成果が落ちる?
そう。人間は「軽い上機嫌」の時が一番、人と仲良くなれて、新しいことを思いつけて、先のことを計画できるようにできてる。強すぎるプラスも、マイナスも、そのバランスを崩すんです。だから進化の過程で「ちょっとプラス」が選ばれたんじゃないか、というのがこの論文の仮説です。
なるほど……。でも、落ち込む日もあるんですよ。この前も会議で失敗して、午前中ずっとどんよりしてました。ああいうのも、ダメじゃないですか?
それ、午後はどうでした?
……あ、そういえば、昼ごはん食べて同僚と話したら、普通に戻ってました。
それも論文にデータがあって。午前中にネガティブな気分だった人の80%は、同じ日の午後にはポジティブに戻ってたんです。逆に、午前中プラスで午後マイナスになったのは、42人中1人だけ。人間には「勝手に戻る仕組み」が最初から入ってる。
落ち込むのは普通で、戻るのも普通なんですね。
そうです。落ち込まない人が強いんじゃなくて、戻れる人が普通。というか、ほとんどの人は戻れる。それを研究では「レジリエンス」って呼びますけど、特別な能力じゃなくて標準装備なんですよ。
じゃあ、私はこのままでいいってことですか?なんか拍子抜けというか。
「このままでいい」に、ひとつだけ足すなら。せっかく「ちょっとプラス」でいるなら、その状態を使ってあげるといいです。論文だと、気分がいい時は「人と一緒にいたい」と思う確率が13倍、「退屈」より「興味がある」と思う確率が30倍になってた。
気分がいいと、人に会いたくなる。
そう。だから「なんとなく悪くない日」に、ちょっと誰かに声をかけてみる、ちょっと新しいことを試してみる。それが人間関係や健康や、将来の資源になっていく。論文はそれを「ポジティブ気分が資源を作る」って言ってます。キラキラしなくていいから、ぼんやり悪くない日を、ちゃんと使う。
「なんとなく普通」って、ダメな日じゃなくて、元手がある日なんですね。
いい言い方ですね。幸せは頑張って手に入れるものというより、もともと少しだけ持って生まれてくるもの。それをどう使うかだけ、考えればいいんです。
なんか、肩の力が抜けました。今日はこのあと、久しぶりに友達に連絡してみます。
それ、いちばん論文どおりの使い方です。
■ 今日のまとめ
- 何も起きていない時、人は「ゼロ」ではなく「ちょっとプラス」でいるのが人類の標準設定。「なんとなく悪くない」は正常
- 落ち込んでも、多くの人は同じ日のうちに自然に戻る。「戻る仕組み」は特別な能力ではなく標準装備
- 幸せは「強く」より「軽く」がちょうどいい。ぼんやり悪くない日は、人とつながる・新しいことを試す元手として使う
■ 出典・注意事項
- Diener, E., Kanazawa, S., Suh, E. M., & Oishi, S. (2015). Why people are in a generally good mood. Personality and Social Psychology Review, 19(3), 235–256. https://doi.org/10.1177/1088868314544467
- 本対話は論文の内容をもとにした創作であり、実在の相談ではありません
- 論文の「進化的適応」という主張は著者ら自身も仮説段階としています
- 「戻る仕組み」は多くの人に見られる傾向についての話です。気分の落ち込みが長く続く、生活に支障が出ている、といった場合は、医師やカウンセラーなど専門家に相談してください
論文の紹介はこちら😊
人は「何もない時」でも、ちょっと幸せ〜ポジティブムーブオフセット〜
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-25-1787633340/