はぴテク相談室:「給料も上がって昇進もしたのに、なんか空しい」の話
はぴテクさん、ちょっと聞いてもらえますか。去年転職して、給料は上がったし、この春には主任にもなったんです。周りからは「順調だね」って言われるんですけど、なんか、空しいんですよね。
それは大事なサインですね。「うまくいっているのに空しい」って、実はすごく多い相談なんです。ちなみに、今の仕事は何のために働いていますか?
うーん、正直に言うと、給料と、あとはスキルアップですかね。次の転職でもっと良い条件を狙えるように、実績を積みたいっていうのはあります。
なるほど。すごく正直で良いと思います。実はちょうど、その「何のために働いているか」と「人生の充実度」の関係を調べた研究があって、今日はそれを紹介させてください。世界の働く人536人を調べたスペインとアメリカの研究です。
お、聞きたいです。
この研究では、仕事の捉え方を4つに分けているんです。①「単なる職」=お金や生活のため。②「キャリア」=スキル、承認、昇進のため。③「天職」=誰かの役に立つため、世の中を良くするため。④「精神的な天職」=自分より大きな何かとのつながりの中で働く、というやつです。
僕は完全に①と②ですね。特に②かな。
ですよね。で、この研究が面白いのは、4つのタイプが「人生全体の充実度」とどう関係するかを調べたところなんです。幸福、健康、人生の意味、人格、人間関係、この5つを合わせた「フローリッシング」っていう指標を使っています。
で、どうだったんですか。
①の「お金のため」は、人生の充実と関係なし。ここまでは予想どおり。でも②の「キャリア」も、関係なしだったんです。研究者たちは「キャリア志向は充実につながるはず」と予想していたのに、外れた。
えっ。スキルアップして昇進しても、人生は充実しないってことですか?
「それだけでは」届かない、ということですね。逆に③の「誰かの役に立つため」は、4つの中で一番強く人生の充実と結びついていました。④の「精神的な天職」もそれに続いて、しっかり関係あり。
なんか、僕の空しさの正体が分かった気がします。ずっと「自分のため」の枠の中で走ってたんですね。
まさにそこです。お金も成長も承認も、全部「自分に入ってくるもの」なんですよね。この研究の元になった理論では、動機を「受け取る」「達成する」「与える」「返す」の4方向に分けていて、①と②は「受け取る」と「達成する」だけ。③から初めて「与える」が入ってくるんです。
でも、僕は営業なんで、別に誰かを救ってるわけじゃないですよ。医者とか先生とかなら分かりますけど。
そこ、よく誤解されるところなんです。この研究の考察でも、天職は「見つけるもの」というより「今の仕事の中で育てるもの」だと書かれています。営業なら、お客さんの困りごとが解決した瞬間ってありますよね?
あー、あります。この前、お客さんの社長さんに「おかげで現場が楽になったよ」って言われて、あれはちょっと嬉しかったですね。
その「ちょっと嬉しかった」が、③の入口です。同じ営業の仕事でも、「数字を上げるため」と捉えるか、「あの社長の現場を楽にするため」と捉えるかで、脳の中では別の仕事になる。研究では、この捉え直しだけで人生の充実に近づく余地がある、と言っています。
捉え方を変えるだけでいいんですか?なんか、気の持ちようみたいで。
気の持ちようというより、「注目する先を変える」ですね。幸せの4つの因子でいうと、②のキャリアは「やってみよう因子」(成長と自己実現)だけが動いている状態。そこに「ありがとう因子」(つながりと感謝)が加わると、幸せの土台が2本になる。一本足で立っていたのが、二本足になるイメージです。
一本足、たしかにグラグラしてました。じゃあ、具体的には何をすれば。
おすすめは3つ。一つ目は、週に一回でいいので「今週、自分の仕事で誰が助かったか」を書き出すこと。二つ目は、お客さんや同僚の「助かった」の声を、聞き流さずにちゃんと受け取ること。三つ目は、主任になったなら、部下の仕事が「誰の役に立っているか」を言葉にして伝えてあげること。これ、部下の幸せにも効きます。
三つ目は盲点でした。自分の空しさばっかり考えてて、部下も同じかもしれないですね。
そうなんです。研究でも、会社が「うちの仕事は誰を幸せにしているか」を語れることが大事だと書かれていました。給料や昇進制度を整えるだけじゃ、社員の人生は豊かにならない。あなたが主任として、それを語る側に回れるチャンスでもあります。
なんか、昇進の意味がちょっと変わりました。「自分の実績」じゃなくて「誰かの役に立つ範囲が広がった」って考えると、空しくないですね。
それです。給料も昇進も、捨てる必要はまったくないんです。この理論では、天職の人は「お金も成長も含んだうえで、さらに誰かのためがある」という入れ子構造になっています。今あるものに、一段足すだけ。
分かりました。まずは今週、誰が助かったかを書いてみます。ありがとうございました。
ぜひ。書いてみて、意外と多くて驚くと思いますよ。
■ 今日のまとめ
- 「お金のため」「キャリアのため」だけの仕事は、それだけでは人生の充実に届かない。一番効くのは「誰かの役に立っている」感覚(道徳的な天職感)
- 天職は特別な職業にあるものではなく、今の仕事の中で「誰が助かったか」に注目することで育てられる
- 幸せの4つの因子でいえば、「やってみよう因子」の一本足に「ありがとう因子」を足して二本足にするイメージ。給料も成長も捨てず、一段足すだけでいい
■ 出典・注意事項
- Jácome, R., Aldas-Manzano, J., & Lee, M. T. (2026). Motivations and Meaningful Work: A Core Foundation of Virtuous Fulfillment in Life, or Flourishing. Humanistic Management Journal. https://doi.org/10.1007/s41463-026-00230-9
- 回答者は人間中心リーダーシップ研修の参加者536人(ヨーロッパ44%、中南米35%、北米15%、アジア2%)で、無作為抽出ではありません。日本でも同じ結果になるかは今後の研究が必要です
- 1時点の調査に基づく相関研究であり、「天職感が幸せの原因である」という因果関係を証明したものではありません
- 「幸せの4つの因子」(前野隆司)との対応は、本記事による解釈です
- この対話はフィクションです。相談内容や解決の流れは、研究内容を分かりやすく伝えるために創作したものです
論文の紹介はこちら😊
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-09-02-1788326940/