2026.10.02

「自分らしさ」は、誰かと一緒にいる時に感じやすい

「自分らしさ」を感じる瞬間と、人と一緒にいることの関係についての、アメリカの最新研究

294人の調査と、52人に1日6回×7日間スマホで「今どう?」を聞き続けた調査から調べて頂きました。


今回のテーマは「個人表現性(Personal Expressiveness、PE)」。
「これをしてる時って自分らしいなぁ」と感じる感覚のこと。

まさに、ありのままに因子であり、幸せにも効いてきます😊


そんな自分らしさは、
一人の時に感じやすいのか、

みんなといるときに感じやすいのか。という研究。


まず1つ目の調査。
「あなたらしさを表す活動を1つ教えて」と聞いて、
それが「ひとりでやるもの」か「みんなでやるもの」かで比べたところ、
なんと、差なし。
ひとりの趣味も、チームの活動も、自分らしさの点では同じくらい。
年齢でも差なし。
大人は平均18年もその活動を続けていて、

もう活動が自分の一部になってるからかも、とのこと。


でも2つ目の調査で面白いことが。
1日6回スマホで
「今、自分らしいと感じてる?」「今、誰といる?」
を聞き続けたところ、
「いつもより自分らしいなぁ」と感じてる瞬間は、

ひとりでいる時より、誰かと一緒にいる時のほうが1.5倍くらい多かった❗


さらに面白いのが、
自分らしさの感覚の揺れの76%は
「人による違い」じゃなくて「同じ人の中での瞬間ごとの違い」だったこと。
自分らしさって、性格みたいに固定されたものじゃなくて、

その場その場で上がったり下がったりするものなんですね。


というわけで、

  • 「自分探し」で何をやるかを探すより、「誰とやるか」「誰といるか」を大事にした方が、自分らしさは見つかりやすいかも。
  • 「私は一人が好きなタイプだから」と思っていても、意外と、人といる時のほうが自分らしくいられているかも。(ただし調査では、親しい人か知らない人かまでは区別していないので、そこは要注意)
  • 会社視点で言えば、仕事の中身を工夫するのと同じくらい、「誰と一緒にやるか」が社員の「自分らしく働けてる感」を左右するのかも。
    という感じでしょうか。

自分らしさって内側にあるものと思いがちですが、

「人と一緒にいる時こそ、より自分になれる」というのが論文のタイトルで、まさにですね😊


感想ですが、自分らしさって複雑で、
一人で自分と向き合って自分を探していく、のが自分らしさっぽいイメージもありますが、
実際の自分らしさって人や周りを知る過程でも気づいていくなぁと感じる所です。
例えばですが、自分とミドリムシしかいない世界だったら、手があることとかデカいこととかが自分らしさですが、

自分と熊しかいない世界だったら、喋れるとかが自分らしさになりますからね。


なお、因果関係(人といるから自分らしいのか、自分らしい活動だから人が集まるのか)はまだ分からない、かつアメリカでの研究ではあります。


With Others, More Myself: Personal Expressiveness as Identity Enactment in Adult Daily Life
他者と共にいると、より自分らしく:成人の日常生活におけるアイデンティティの表現としての個人表現性
Eli A. Waxler(クレアモント大学院大学、アメリカ)
Journal of Adult Development, 2026/9/26
https://link.springer.com/article/10.1007/s10804-026-09579-5

「他者と共にいる時、私はより自分らしくなる」:成人の日常における自己実現と社会的つながり 成人期において「自分らしさの実感」が、日々の「他者と共にいる時間」に肯定的に引き出されるプロセス。 Research Context: Waxler, 2026 ミクロ視点:日常の「他者との時間」が自ららしさを増幅させる 他者と一緒にいる間は、直感的な「自分らしさ」が高まる 4.79 4.31 4.79 4.31 他者と同居している時の日のリアルタイム生態系的(ESM)における自己表現実感スコア マクロ視点:活動の種類だけでは「自分らしさ」は決まらない 個人活動 集団活動 自己実現の感受度に独占約な差は見られていない 活動形式による「自分らしさ」の定義的差異はない 年齢段階を問わず、活動レベルでの「自分らしさ」は一貫して安定している 「自分らしさ」の実感が、さらなる社会的つながりの継続を促す 親密的な高い自己表現の実感 その後の時間に他者と共に行動するモチベが増加 双方向的社会的ネットワークに対する リアルタイムの連鎖:データが示す社会的つながりへの影響経路 同時共起 (PE→構造と関連) (時間的継続) 間接効果 (PE→一般的側面) (PE→誘発効果) 1.53 3.42 1.80 オッズ比 (OR) オッズ比 (OR) オッズ比 (OR) 自分らしさを感じた翌時間は、 他者と共にいた翌の時間帯へと継続しやすい 動機的実現行動が、 他者と共にいる確率が 確率が 親密的な社会交流先へとつながり、 1.53倍高まる 3.42倍高まる 能動的につながる 誰かといるとき、 もっと「私」になる 心理学データが明かす、 「本当の自分」と「つながり」の意外な関係 Eli A. Waxler(Claremont Graduate University)の研究に基づく Gemini Notebook 「本当の自分」でいるという感覚 心理学における「ウェルビーイング(本来の自分の開花)」の重要な指標に、 「個人的拡張性(Personal Expressiveness)」があります。これは単なる「楽しさ」ではありません。 内なる可能性/あなたの本質 日々の活動 しっくりくる感覚 (自分に合っている) 本質的な自分らしさの発揮 「これこそが、私のやるべき ことだ」という確信 私たちは、「自分探し」は孤独な旅だと信じてきた 現代社会では、本当の自分を見つけるためには「一人になる時間」が必要だと思われがちです。 Myth List ✗ 一人旅に出る ✗ 誰にも邪魔されないソロキャンプ ✗ 部屋での深い内省 「自分らしさ」は、 他者から切り離された場所にあるのでしょうか? Gemma Notebook あなたが「もっとも自分らしい」と感じるのは、どちらですか? 発達心理学と動機づけの研究は、人間関係がウェルビーイングに不可欠であることを示しています。 しかし、大人の日常生活において、「自分らしさ」が誰かといる時にどう変化するのかは、これまで謎に包まれていました。 「一人でいるとき」 「誰かといるとき」 © Gimenez Notebook 視点1:マクロ(人生の広い活動から見る) まず、294人の大人(平均年齢40歳)を対象に、彼らが長年(平均18年間)続けている「自分らしい活動」を調査しました。 個人活動 (趣書、個人の嗜好) グループ活動 (スポーツチーム、合唱) 両方 (仕事、ボランティア) Gemmas Notebook 何をするかは、決定的な差を生まない 結果は意外なものでした。一人で行う活動も、グループで行う活動も、 「自分らしさ(Personal Expressiveness)」のスコアに有意な差はありませんでした。 Data Highlight Box 個人活動のスコア:5.43 グループ活動のスコア:5.42 (※7点満点中、大人の活動はすでに生活に深く根付いているため、活動の「種類」だけでは違いが出ない) Geminas Notebook 「どんな活動か」ではなく、「その瞬間に何が起きているか」 大人のアイデンティティは、特定の趣味や仕事の種類というより、日の繰り返される役割や関係性の中で発揮されます。 大きく分類するのではなく、日常の「瞬間」「瞬間」にズームインして観察する必要があります。 7:00 9:00 12:00 12:00 15:00 18:00 21:00 Gemesis Notebook 視点2:ミクロ(日常の瞬間を切り取る) 52人の大人を対象に、「経験サンプリング法(ESM)」を実施。1日6回、7日間にわたって スマートフォンの通知を鳴らし、その瞬間の「自分らしさ」と「誰と一緒にいるか」をリアル タイムで記録しました。 【スマートフォンの通知】 「今、この瞬間、あなたは自分らしく生きていますか?」 「今、誰かと一緒にいますか?」 朝 (Morning) 夜 (Night) Gemesis Notebook 「私」の感覚が高まる瞬間、そこには他者がいる 日常の中で「いつもより自分らしい」と感じている瞬間、人は「誰かと一緒にいる」確率が有意に高いことが判明しました。 他者 (Others) 私 (Self) 1.53倍(OR) 自分らしさのスコアが平均を上回る瞬間、誰かと共にいる確率は1.53倍に跳ね上がります。 Genova Notebooks 「自分らしさ」が、つながりの連鎖を生む 統計モデル(マルチレベル媒介分析)が明らかにしたのは、ポジティブな連鎖反応であった。 3. 継続:次の調査タイミングでも、そのまま他者とのつながりを維持し続ける(OR: 3.42) 2. 共有:その隣間、他者と一緒にいる(OR: 1.53) 1. 実感:「今、私はとても自分らしい」と感じる (Personal Expressiveness) Gemesis Notebook なぜ、他者が「本当の自分」を引き出すのか? 心理学理論(自己決定理論)によれば、人間が最も力を発揮するには3つの欲求が満たされる必要があります。本当の自分を表現しているとき、私たちは同時に「関係性」の欲求も満たし、社会的な絆を強めているのです。 本当の自分 自律性 (自分で選んでいる) 関係性 (他者と深く結びついている) 有能感 (能力を発揮できている) © Gumma Notebook 「本当の自分」に対するパラダイムシフト これまでの考え方 データが示す新しい事実 性質:目的地(見つけて到達するもの) 性質:隣間のプロセス(日々の生活で発揮されるもの) 環境:孤独の中で深まる 環境:社会的つながりの中で際立つ 条件:活動の「種類」に依存する(例:一人旅、特別な趣味) 条件:その隣間の「状況と文脈」に依存する Gemini Notebook 日常のデザイン:より「自分らしく」生きるために 「何をするか」より 「誰とするか」 趣味や仕事を変えなくても、そこに誰を招き入れるかで、活動の意味合いは大きく変わります。 ありのままを 共有する 自分がわかっていない瞬間や、得難なことを している瞬間ごと、他者と時間を共有してみましょう。 つなが
投稿者による補足(4件)
補足 1

【研究背景】

■ この研究の前提となる【研究背景】

本論文(Waxler, 2026, Journal of Adult Development)は、「自分らしさを感じる体験」が、成人の日常生活の中で「誰といるか」とどう結びつくかを調べたものです。その土台となっている既存研究を、話の流れに沿って整理します。


■ 1. 出発点:エウダイモニアと「パーソナル・エクスプレッシブネス(PE)」

▼ エウダイモニアとは
  • エウダイモニアは、心理学の中でさまざまに定義されてきましたが、どの立場でも「真正性(authenticity:本当の自分であること)」「意味と目的」「アイデンティティの発達」「個人的成長」に関わるプロセスを含む点で共通しています(Huta & Waterman, 2014)。
  • 快楽や楽しさを中心とする「ヘドニア」と区別される、「よく機能して生きること」としての幸福観です。
▼ パーソナル・エクスプレッシブネス(PE)とは
  • PE(personal expressiveness)は、エウダイモニアの体験的な指標のひとつで、「今やっていることが本当の自分を映している」「自分の持って生まれた潜在的な力(能力・強み・関心)にぴったり合っている」と感じる状態を指します(Waterman, 1990, 2011)。
  • PEは当初アイデンティティ理論の中で論じられてきましたが、その後の研究で自律性、フロー(活動に没頭して時間を忘れるような状態)、ポジティブ感情などとの関連が示されています(Waterman, 1993; Waterman et al., 2008, 2024)。

■ 2. 理論的枠組み:エウダイモニック・アイデンティティ理論(EIT)

▼ EITの基本的な考え方
  • PEは、エウダイモニック・アイデンティティ理論(EIT)の中で発展してきました。これはアイデンティティ発達研究とウェルビーイング研究をつなぐ理論です(Waterman, 2011; Waterman & Schwartz, 2013)。
  • EITはエリクソンの流れをくむ「ネオ・エリクソニアン」の立場で、アイデンティティは「本当の自分」を反映する活動に参加することで発達し、意味のある役割や活動への継続的な関与を通じて潜在的な力が発見・実現されると考えます(Schwartz et al., 2015)。
  • 哲学的にはアリストテレスに由来し、自分の「ダイモン(daimon)」、つまり生まれ持った潜在力と能力に沿って生きることが発達の中心的な目標だとされます(Waterman, 2011)。
  • PEが特徴的なのは、楽しさやポジティブ感情といった幅広い幸福指標と違い、「活動と自分の潜在力が合っている」という主観的な感覚そのものを捉える点です。
▼ EITを支える実証研究
  • PEは、アイデンティティ・コミットメント(Waxler, 2026b)やアイデンティティ達成(Schwartz, 2006)といったアイデンティティ関連の構成概念と関連しています。
  • また、楽しさ(Waterman, 1993; Waterman et al., 2008)、フロー(Waterman, 1993)、自律性や興味(Waterman et al., 2008, 2024)といった、関連はあるが区別される幸福指標とも結びついています。
  • ただし、これらの相関はおおむね中程度(r ≈ 0.30〜0.60; Waterman et al., 2008)で、PEが「関連はするが別個の」体験指標であることを示しています。
  • 特定の活動が個人にとって特別な意味を持つというEITの視点は、意味に関する研究(Steger et al., 2008)や目的に関する研究(McKnight & Kashdan, 2009)とも整合的です。

■ 3. 「人とのつながり」の重要性を示す理論群

本論文が「社会的文脈」に注目する根拠として、以下の理論が挙げられています。

▼ 動機づけと発達の理論
  • 自己決定理論(Self-determination theory)は、「関係性(relatedness:他者とつながっている感覚)」を、自律性・有能感と並ぶ基本的心理欲求のひとつと位置づけます(Ryan & Deci, 2000)。
  • 所属欲求仮説(belongingness hypothesis)は、社会的な絆を形成・維持することが人間の根本的な動機であると提案しています(Baumeister & Leary, 1995)。
  • エリクソンの生涯発達の枠組みでは、アイデンティティは内面で体験されるだけでなく、社会的役割や関係への参加を通じて「演じられ、確認される」ものだと強調されています(Erikson, 1980)。
▼ 成人期・加齢に関わる理論
  • 社会情動的選択性理論(socioemotional selectivity theory)は、人は残された時間が限られていると感じるほど、情緒的に意味のある交流や関係を優先するようになると提案しています(Carstensen et al., 1999)。
▼ 目標とポジティブ体験に関する理論
  • 自己一致目標(self-concordant goals:自由に選ばれ、自分の価値観に沿った目標)の研究では、こうした目標が動機づけを持続させ、時間とともに関係的なつながりを育むことが示されています(Sheldon & Elliot, 1999)。本論文では、PEを「自己一致目標への関与を知らせる現象学的なシグナル」と解釈しています。
  • 拡張–形成理論(broaden-and-build theory)は、ポジティブな体験が一時的に思考と行動のレパートリーを広げ、長期的には社会的資源の形成を促すと提案しています(Fredrickson, 2001)。
  • また、Waterman (2011) は、個人に固有の潜在力だけでなく、人間に広く共有された生得的な潜在力もあると述べており、本論文は社会的関与がそのひとつである可能性を指摘しています。

■ 4. どんな活動がPEを生みやすいか:年齢層ごとの先行知見

▼ 大学生を対象とした研究
  • 大学生の研究では、スポーツ、仕事、人助け、宗教的実践、友人と過ごす時間などが一貫して高いPEを持つと評価されてきました(Waterman, 2004, 2005)。
  • あらかじめ決められた活動カテゴリーを評価させた場合、子どもと過ごす時間、恋人との関わり、人助け、友人との交流といった関係志向の活動が、PEの最上位に入りました。
  • これを受けて Waterman (2004) は、「パーソナル・エクスプレッシブと体験される活動は、他者とのつながりを伴う可能性が高い」(p. 225)と結論づけています。
  • 近年の大学生研究でも、家族、友人、宗教、地域活動といった社会的・価値関連の領域でPEが最も高いというパターンが確認されています(Waterman et al., 2024)。
▼ 青年期(adolescents)を対象とした研究
  • 複数の国の青年を対象にした研究では、ボランティア、組織化されたクラブ活動、宗教活動、スポーツ、舞台芸術といった、構造化された・関係的な・向社会的な活動が、パーソナル・エクスプレッシブな活動として最もよく挙げられました(Coatsworth & Sharp, 2013)。
  • なお本論文の研究1では、この Coatsworth & Sharp (2013) の活動分類枠組みを成人向けに改変して、活動のコーディングに用いています。
▼ ここまでのまとめ
  • これらの知見は、発達段階を問わず、パーソナル・エクスプレッシブな関与は関係的な文脈に埋め込まれていることが多い、ということを示唆しています。

■ 5. 成人期のアイデンティティ:なぜ「大人」で問い直す必要があるのか

▼ 成人期のアイデンティティの特徴
  • 成人期のアイデンティティ・コミットメントは、青年期に特徴的な「探索」よりも、比較的安定した役割、関係、長期的な活動を通じて表現されることが多いとされています(Kroger, 2015; Lodi-Smith & Roberts, 2010; Meeus et al., 2010)。
  • そのため、成人期のPEを理解するには、活動の内容だけでなく、その活動が行われる「関係的な場」にも注意を向ける必要がある、というのが本論文の問題意識です。
▼ 成人期のPEに関する既存の知見
  • 成人サンプルの研究では、パーソナル・エクスプレッシブな関与が成人期を通じて重要であり続けること、またPEの感覚が成人の発達段階を通じてかなりの連続性を示すことが報告されています(Waterman & Schwartz, 2024)。
  • 中年期には、子育てといった関係的な役割が特にパーソナル・エクスプレッシブに体験される可能性も示されています(Waxler & Nakamura, 2026)。
  • しかし、関係志向の活動と単独の活動のPEを成人で直接比較した研究はほとんどなく、ここが本論文のギャップのひとつです。
▼ 成人期の区分に用いられた先行研究
  • 研究1では、成人を以下の区分で分析しています:23〜30歳=成人形成期(emerging adulthood; Arnett, 2000)、31〜45歳=確立期成人(established adulthood; Mehta et al., 2020)、46〜60歳=中年期(Lachman et al., 2015)、61歳以上=後期成人期(Baltes & Smith, 2003)。

■ 6. 測定法と方法論に関する先行研究

▼ PEの測定
  • PEは従来、個別活動のレベルでは「パーソナル・エクスプレッシブ活動質問紙(PEAQ)」(Waterman, 1993)で、人のレベルでは「エウダイモニック・ウェルビーイング質問紙(QEWB)」(Waterman et al., 2010)で測定されてきました(Waterman & Schwartz, 2013 の整理による)。
  • PEAQでは、項目平均が6以上の活動を「パーソナル・エクスプレッシブな活動」とみなす慣例的な基準があります(Waterman & Schwartz, 2013)。
  • 研究2では、PEAQおよびその短縮版PEAQ-B(Waterman, 1993; Waterman & Schwartz, 2024)から3項目を改変した瞬間的なPE測定が用いられています。瞬間的なPE尺度の妥当性検証は Waxler & Nakamura (2026) で報告されています。
▼ 経験サンプリング法(ESM)
  • ESMは、スマートフォンなどで1日に複数回、その瞬間の体験を報告してもらう方法です。ウェルビーイング研究やポジティブ心理学、特にフロー研究の基盤となってきました(Hektner et al., 2007)。
  • 本論文では、プロンプトが偏らないように時間帯内でランダムに信号を送る「準ランダム」プロトコル(Scollon et al., 2009)を用いています。
  • この伝統は、全体的・回顧的な測定では見逃されがちな、日々の関与・感情・最適な機能の変動を捉えられることを示してきました。
  • 一方、アイデンティティ研究は通常、数か月〜数年にわたる縦断デザインに依拠してきました(Crocetti et al., 2023)。本論文は、より微細な時間単位でアイデンティティ関連体験を捉えようとする点で、この流れを補完する位置にあります。
▼ 日常のエウダイモニック活動に関する先行研究
  • Steger et al. (2008) は2つの日誌法研究で、感謝、ボランティア、価値ある目標への粘り強い取り組みといったエウダイモニックな活動への関与が、翌日のより高い意味感と人生満足度を予測することを示しました。本論文はこれを「上昇スパイラル」的なプロセスの先行例として参照しつつ、自身の研究が対人的な結果ではなく「社会的文脈」に焦点を当てる点で異なると位置づけています。

■ 7. 既存研究の限界と、本論文が埋めようとしたギャップ

  • これまでのPE研究の多くは、回顧的な報告や横断的なデータに依拠しており、「どの活動がPEとして体験されるか」に主眼が置かれてきました。「その体験が日常の中でどう展開するか」はあまり調べられていません。
  • 特に成人期において、社会的文脈とPEの関係を直接検討した証拠は限られています。
  • 成人の生活は繰り返される役割や社会的ルーティンを中心に組み立てられているため、「人と一緒にいるかどうかで、その瞬間のPEは変わるのか」「PEの体験は短期的な社会的関与のパターンに埋め込まれているのか」という問いが重要になります。
  • 本論文はこれに応えるため、研究1(活動レベル・横断調査、成人294名)と研究2(瞬間レベル・経験サンプリング、成人52名)という2つの補完的な研究を行いました。

■ 補足:研究1のデータの出所

  • 研究1のデータは、著者が先に報告した2つの横断研究のうち2つ目(Waxler, 2026b)から引き出されたもので、本来の調査にはアイデンティティ・コミットメント、パーソナリティ、アイデンティティ脅威の操作などの測度も含まれていましたが、本論文では分析されていません。
  • また、将来の研究の方向として、生涯発達の視点から「選択・最適化・補償(SOC)」のプロセスを通じて活動関与が変化する可能性が言及されています(Rathunde, 2025; Waxler, 2026a)。
補足 2

【研究内容】

■ この研究が扱うテーマ:「自分らしさを感じる瞬間」と「人と一緒にいること」

この論文(Waxler, 2026, Journal of Adult Development)は、「パーソナル・エクスプレッシブネス(personal expressiveness、以下PE)」と社会的な場面との関係を、成人を対象に2つの研究で調べたものです。

  • PEとは:ある活動をしているときに「これは本当の自分を表している」「自分がやるべきことをしている」と感じる体験のこと。Waterman (1990, 2011) が提唱した概念で、「ユーダイモニア(eudaimonia:快楽ではなく、自分の可能性を生かして生きることとしての幸福)」の体験的な指標とされています。
  • PEはアイデンティティ理論の中で発展した概念ですが、自律性、フロー(没頭)、ポジティブ感情などとも関連することが示されてきました(Waterman, 1993; Waterman et al., 2008, 2024)。
▼ なぜ社会的文脈に注目するのか
  • 自己決定理論では「関係性」は基本的心理欲求のひとつ(Ryan & Deci, 2000)、所属欲求仮説では人とのつながりは基本的動機づけとされます(Baumeister & Leary, 1995)。
  • Erikson (1980) の理論でも、アイデンティティは社会的役割や関係への参加を通じて「演じられ、確認される」ものとされています。
  • 若い世代の先行研究では、友人や家族と過ごす、人を助ける、宗教活動など、人と関わる活動がPEが高いと評価されやすいことが報告されています(Waterman, 2004, 2005; Coatsworth & Sharp, 2013; Waterman et al., 2024)。
  • しかし成人期では、アイデンティティは探索よりも、比較的安定した役割・関係・長期的な取り組みを通じて表現されます(Kroger, 2015 など)。成人でこのパターンが当てはまるかは、十分に調べられていませんでした。
  • また既存研究の多くは、回顧的・横断的な報告に頼っており、「日常の中で、瞬間ごとにPEがどう変動するか」は不明でした。

そこで本研究は、

  • 研究1:活動レベルで「人と関わる活動は、一人でする活動よりPEが高いか」を横断データで検証
  • 研究2:経験サンプリング法で「その瞬間のPEと、誰かと一緒にいるかどうか」の関係を検証
    という二段構えで調べています。

■ 研究1:どんな活動が「自分らしい」と感じられるか(横断調査)

▼ 仮説
  • 仮説1:グループ・チームで行う活動は、個人で行う活動よりPEが高い。
  • 仮説2:他者志向のカテゴリー(社交、宗教・利他活動)は、それ以外よりPEが高い。
  • 仮説3:PEおよび活動特徴との関連は、成人の発達段階(年齢層)によってほとんど違わない。
▼ 方法
  • データは Waxler (2026b) で報告された2つの横断研究のうち2つ目を再分析したもの。
  • 参加者:米国の成人294名(23〜78歳、平均40.19歳)。MTurk(Cloud Research経由)で募集。
  • 参加者は「重要で、意味があり、自分を表す活動」を1つ挙げ、その活動についてPEを評定。活動が主に「個人」「グループ/チーム」「両方」のどれかも回答。
  • PEの測定:Personally Expressive Activities Questionnaire(PEAQ;Waterman, 1993)の「PEの感覚」下位尺度6項目(例「この活動をしているとき、これが自分のすべきことだと感じる」)、7件法。信頼性係数α=0.92。
  • 活動のカテゴリー分け:挙げられた活動を著者が、Coatsworth & Sharp (2013) の枠組みを成人向けに改変した11カテゴリー(受動的活動、社交、生産的活動、スポーツ・身体・屋外、芸術・音楽、文芸、宗教・利他、その他の構造化活動、生活維持、ライフスタイル・物質使用、その他)に分類。コーダーは1名のみで、コーディングの信頼性は算出されていません。
  • 分析:一元配置分散分析(ANOVA)と事後比較、分布の偏りを考慮した非パラメトリック検定(Kruskal-Wallis、Mann-WhitneyのU)、他者志向 vs 非他者志向の比較はWelchのt検定(効果量Hedges' g)。
  • 年齢層:23〜30歳(成人形成期)、31〜45歳(確立期)、46〜60歳(中年期)、61歳以上(後期成人期)に分けて比較。
  • さらに、PEAQの慣例的基準(平均6点以上)で活動を「個人的に表現的」と分類し、カイ二乗検定で社会的形式・他者志向との関連を調べ、年齢層ごとにも繰り返しました。
  • 事前の検出力分析では、中程度の効果を検出するために必要なサンプルサイズを満たしていましたが、少数カテゴリーの比較は慎重に解釈するとしています。
▼ 結果
  • 参加者は、その活動に平均約18年間従事していました。
  • 活動形式(個人:n=185、グループ:n=33、両方:n=76)によるPEの差はなし。F(2, 291)=0.02、p=.98、η²<0.001。平均はいずれも約5.4。非パラメトリック検定でも同様に差なし。
  • 他者志向の活動(社交+宗教・利他、n=20)のPE平均は5.81、それ以外は5.39。記述的には他者志向のほうが高いものの、統計的に有意ではありませんでした(t(20.81)=−1.94、p=.066、g=0.38)。Mann-WhitneyのU検定も同様(p=.087)。他者志向の活動が20件と少ないことが検出力を制限した可能性が指摘されています。
  • 年齢層によるPEの差もなし(F(3, 290)=0.64、p=.59、η²=0.007)。
  • 「表現的」と分類された活動が社会的形式と関連するかも有意でなく(χ²(2)=1.23、p=.54)、他者志向との関連も有意ではありませんでした(χ²(1)=2.43、p=.12、V=0.09)。年齢層ごとに分けても同じ結果でした。
▼ 研究1の考察
  • 若年サンプルで見られたパターン(Coatsworth & Sharp, 2013; Waterman, 2004)とは異なり、仮説1は支持されませんでした。成人では、活動を一人でするか誰かとするかによって、PEの体験があまり区別されないことが示唆されます。
  • 仮説2についても、方向は理論と一致するものの、有意差には届きませんでした。
  • 仮説3は支持され、PEの水準や活動特徴との関連は成人期を通じて一貫していました。これはWaterman & Schwartz (2024) が示したPEの成人期における連続性と整合します。
  • 著者は、成人のPEは大まかな活動カテゴリーによってはあまり構造化されておらず、むしろ状況や瞬間ごとの条件に左右されるのではないかと考え、研究2の経験サンプリングへとつなげています。

■ 研究2:日常の瞬間ごとのPEと「誰かと一緒にいること」(経験サンプリング)

▼ 仮説
  • 仮説4:その瞬間のPEが(本人の平均より)高いことは、同時点で誰かと一緒にいることと関連する。
  • 仮説5:その瞬間のPEは、同時点の社会的存在を介して、次の時点でも誰かと一緒にいることと間接的に関連する。
▼ 方法
  • 経験サンプリング法(ESM):参加者のスマートフォンに1日6回、7日間、ランダム(ただし時間帯内で分散)に通知を送り、その場で短い質問に答えてもらう方法。回顧ではなく「今」の体験を捉えられるのが特徴です(Hektner et al., 2007)。配信にはSurveySignal(Hofmann & Patel, 2015)を使用。
  • 参加者は自分の睡眠リズムに合わせて14時間の回答ウィンドウを選択。通知から30分以内の回答を有効としました。
  • 2,184回の通知のうち1,478回に回答(回答率67.67%)。
  • 参加者:南カリフォルニアの私立大学のESM授業を受講する大学院生が募集した成人。最終サンプルは52名(22〜68歳、平均40.46歳)。男性14名、女性34名、未回答5名。
  • PEの測定:PEAQおよびPEAQ-B(Waterman, 1993; Waterman & Schwartz, 2024)から改変した3項目(「活動との特別なフィット」「本当の自分という強い感覚」「自分のするべき活動だという感じ」)、7件法。信頼性係数ω=0.82(個人内)、0.89(個人間)。
  • 社会的文脈:各通知時に「誰と一緒にいるか」を複数選択(一人、パートナー、親、子ども、友人、同僚、他人、その他)。分析では「一人=0」「誰かと一緒=1」の二値に変換。
  • 分析:ラグ付きマルチレベル媒介モデル。これは、回答(レベル1)が参加者(レベル2)の中に入れ子になった構造を考慮しつつ、「時点tのPE → 時点tの社会的存在 → 時点t+1の社会的存在」という経路を推定するものです。brmsパッケージ(Bürkner, 2017)によるベイズ推定を使用。
  • PEは個人平均中心化(各参加者の平均からのズレ)し、個人内の変動を捉えました。個人の平均PEは個人間の共変量として投入。a経路とb経路にランダム切片とランダム傾きを設定。
  • 結果はロジット(対数オッズ)とオッズ比(OR:1より大きいほど「誰かと一緒にいる」確率が高いことを意味する)で報告。95%信用区間(CrI)が0(ORでは1)をまたがなければ、効果があると解釈されます。
▼ 結果
  • 有効回答1,455件、ラグを作ると1,105件が分析対象。1人あたり平均28.42回答。
  • 全体のPE平均は4.55(SD=1.25)。一人のとき(M=4.31)より誰かと一緒のとき(M=4.79)のほうがPEが高く、Hedges' g=−0.39(小〜中程度の差)。
  • PEの分散のうち76%は個人内(瞬間ごとの変動)、24%が個人間でした。つまりPEは同じ人の中でも時間によって大きく変動していました。
  • a経路:その瞬間のPEが本人平均より高いほど、同時点で誰かと一緒にいる確率が高い(a=0.42、95%CrI [0.23, 0.62];OR=1.53)。
  • b経路:時点tで誰かと一緒にいると、次の時点でも一緒にいる確率が高い(b=1.21、95%CrI [0.83, 1.61];OR=3.42)。
  • 間接効果(a×b):PE → 同時点の社会的存在 → 次時点の社会的存在、という経路は正(ab=0.57、95%CrI [0.26, 0.99];OR=1.80)。効果が0より大きい事後確率は0.99超。
  • 直接効果:PEから次時点の社会的存在への直接の経路はほぼゼロ(c'=−0.07、95%CrI [−0.21, 0.07];OR=0.93)。
  • 総合効果は正(c=0.49;OR=1.67)。
  • モデルの収束に問題はありませんでした(R̂<1.01、ESS>1,000)。
▼ 研究2の考察
  • 仮説4・5は支持されました。
  • ただし著者は、直接効果がほぼゼロであることから、観察された間接効果は「その瞬間のPEと社会的存在の同時的な関連」と「社会的関わりが隣接する時点で続きやすい傾向」の組み合わせを反映しており、PEそのものが後の社会的行動を独立に動かしているわけではない、と慎重に解釈しています。
  • 研究1で大まかな活動カテゴリーでは差が見えなかった一方、瞬間レベルで見ると、PEは同時点の社会的存在と密接に結びつき、短期的な社会的関わりのパターンの中に埋め込まれている、という形で2つの研究がつながります。

■ 全体の考察

▼ 活動レベルで差が出なかった理由についての解釈
  • 成人では、内発的に動機づけられた活動は長年続けられ、自己に深く統合されている(研究1では平均18年以上)。そのため、「一人でするか誰かとするか」という大まかな分類よりも、「その状況の中でどう体験されているか」でPEが変動するのではないか、と著者は述べています。
  • PEが年齢層で違わなかったことは、Waterman & Schwartz (2024) の知見と一致し、成人期の連続性がPEの構造だけでなく活動レベルの分布にも当てはまることを示唆します。
  • 一方で、他者志向の活動が記述的には高いPEを示したことから、より細かい、あるいは瞬間レベルの分析に意味のある変動がある可能性があるとしています。
▼ 経験サンプリングの意義
  • 著者の知る限り、PEをリアルタイムで測定した研究はほとんどなく、本研究はその初期の試みのひとつです。従来PEは活動レベル(研究1のように)か、個人レベル(Questionnaire for Eudaimonic Well-Being;Waterman et al., 2010)で測られてきました(Waterman & Schwartz, 2013)。
  • フロー研究(Hektner et al., 2007)で培われた経験サンプリングの伝統をPEに拡張し、アイデンティティに関わる体験がミクロなレベルで展開する様子を捉えられることを示しました。アイデンティティ研究は通常、数か月〜数年の縦断研究が中心でした(Crocetti et al., 2023)。
▼ 理論との接続
  • PEは「本当の自分との一致」を示すだけでなく、社会的つながりの高まった瞬間と共起する傾向がありました。
  • この方向性は決められないものの、拡張-形成理論(broaden-and-build theory;Fredrickson, 2001)——ポジティブな体験が思考・行動のレパートリーを広げ、社会的資源の形成につながるという理論——と広く整合します。
  • Steger et al. (2008) の日誌研究では、ユーダイモニックな活動が翌日の意味感や生活満足を予測しましたが、本研究は個人内の結果ではなく社会的文脈との関係を扱った点で異なります。
  • 自己決定理論(Ryan & Deci, 2000)の観点では、PEが自律性・有能感(Waterman et al., 2008, 2024)に加えて関係性とも結びつくことで、3つの基本的心理欲求の体験的な統合を反映している可能性が示唆されます。

■ 限界と今後の課題

  • 研究1は、本研究の問いのために設計されたデータではなく、1人1活動の回顧的報告に限られていました。複数活動の指名や、オープンエンド・混合法のデザインが望まれます。他者志向カテゴリーのサンプルが小さく、検出力が限られました。
  • 研究2はサンプルが小さく(52名)、授業の受講生による便宜的募集のため一般化に限界があります。回答率は中程度で、没頭中や多忙時の通知が見逃された可能性があります。
  • 社会的文脈を「一人/誰かと一緒」の二値にしたため、親しい相手か否か、構造化された交流か否かといった違いは捉えられていません。
  • 経験サンプリングは生態学的妥当性が高い一方、データは相関的であり、因果の推論はできません。社会的存在の時間的な連続性が強いため、間接経路は主にその連続性を反映していると著者自身が述べています。
  • 今後は、実験・介入デザインによる因果の方向の検討、より大規模で多様な(異文化を含む)サンプル、社会的パートナーの種類や交流の質の区別、さらに成人期を通じた長期的変化(選択・最適化・補償(SOC)の観点;Rathunde, 2025; Waxler, 2026a)の検討が提案されています。

■ まとめ

  • 成人では、「自分らしい」と感じる活動のPEは、その活動を一人でするか誰かとするかという大まかな分類では、はっきり違わなかった(研究1)。
  • 一方、日常の瞬間レベルで見ると、本人の平均よりPEが高い瞬間は、誰かと一緒にいる確率が高く、その社会的関わりは次の時点にも続きやすかった(研究2)。
  • 著者はこれらから、成人期のPEは「特定の活動の属性」というより、「確立したアイデンティティが日常の中で社会的に演じられる、瞬間ごとのプロセス」として機能している可能性を指摘しています。ただし関連の方向や因果は本研究では確定できず、今後の検証が必要です。
補足 3

動画解説はこちら😊
https://youtu.be/YUBkw5xtHC8

補足 4

会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:「ひとりの時間が一番わたし」…でも誘われちゃった
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-02-1790898781/

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