2026.09.25

推しがいると、幸せは「4段階」で育っていく 〜BTSファンの心理的ウェルビーイング研究〜

大人のBTSファンの幸せについての、韓国の最新研究(韓国語です)

30〜60代のファン14人に、1人1〜2時間じっくりインタビューした調査です。


「推し活で幸せになる」って、
なんとなく分かるけど、
実際どういう順番で幸せになっていくの?

を、当事者の語りから丁寧に描いた研究。


結果としては、大きく4段階。
①音楽とメッセージに慰められる
抗がん治療中に「ひとりじゃない」と思えた、
「傷跡さえ星になる」の歌詞で自分の傷を受け入れられた、など。
②ファン仲間とつながる
「病気の時、家族より先に連絡くれたのはARMYの友達だった」
「20代も60代もいるけど、年齢は全く意識しない」
③へこんでも立ち直る力がつく
チケット落選や活動休止でへこんでも、音楽で気持ちを整理して日常に戻る。
「コンサートの日まで健康に生きようという目標ができる」
④人生そのものが変わる
「ただ生きるのが目標だったのが、どんな人間として生きるか考えるようになった」

「私も誰かの慰めになる人になりたい」


面白いのは、
推し活が「いいことばかり」じゃないと正直に書いてあるところ。
ファン同士の対立でストレスを感じたり、
「のめり込みすぎでは?」と自分で不安になったり。
それでも、その気持ちを自分で調整して戻ってくる、

その繰り返し自体が「立ち直る力」になっている、と。


というわけで、
推し活は単なる娯楽や消費じゃなくて、
慰め→つながり→立ち直り→人生の意味、
と幸せが育っていくプロセスである。という結果。
幸せの4つの因子で言えば、

  • 「ありのままに」(自己受容)
  • 「ありがとう」(仲間)
  • 「なんとかなる」(立ち直る力)
  • 「やってみよう」(生きる目標)
    が上から順に揃っていく感じですかね。
    そう考えると、ありのまま、について歌っている歌手の方を推すのが良いかもデスね。(ありのままだけ歌詞から学んでいるので)

推しがいない人も、
「慰められるもの」と「それを一緒に語れる仲間」があれば、
同じ回路が動きそうですね。
※14人・全員女性・熱心な長期ファンの語りなので、

「誰でもこうなる」ではなく「こういう流れがありうる」という研究です。


Exploring the process of Psychological Well-Being Formation Among Adult Fans Through BTS Fandom Activities
BTSファンダム活動経験に見られる成人ファンの心理的ウェルビーイング形成過程の探索
Jung-Khil Kang(韓国歌唱学会、韓国)、Rohan Kim(国民大学校)、Hee-Jung Seo(ソウル科学技術大学校)
Journal of the Edutainment(에듀테인먼트연구)Vol.8 No.4, 2026/8/23
https://doi.org/10.36237/koedus.8.4.295

癒やしと成長の星座 大人の「心理的ウェルビーイング」はいかにして形成されるのか? ―BTSファンダム活動に見る、社会的つながりとレジリエンスのメカニズム 「エデュテインメント研究」(2026) 論文ベース分析レポート Cornelis Notebook パラダイムシフト:受動的消費から「能動的な文化療法」へ 旧求の視点 (Traditional) | BTSモデル (BTS Model) 動機 (Motivation) | 現実逃避、単なる娯楽 | 🌟現実への適応力強化、自己受容 共同体 (Community) | 閉鎖的なオタク文化 | 🌟国境と世代を越えたグローバル・デジタル共同体 影響 (Impact) | 時間と資源の消費 | 🌟心理的回復と利他的成長のインフラ Gemmai Notebook 誰が、なぜ救いを求めているのか? 日常の重圧(Pain) ・病気(抗がん剤治療など) ・家族の問題 ・喪失のトラウマ ・職場での過労やストレス 解毒剤(Antidote) ・音楽とメッセージ ・ファンとの連帯 ・プロジェクトへの参加 データハイライト:研究参加者14名(30~60代)。専門職、自営業、公務員など、社会的中核を担う「大人たち」のリアルな姿。 点から面へ広がる「ウェルビーイング」の設計図 1. 感情的癒めと 自己受容 (Catalyst) 2. 社会的つながり (Ecosystem) 3. レジリエンスの強化 (Shock Absorber) 4. 心理的ウェルビー イングの拡張 (Destination) Core Insight: これは単発の「癒やし」ではない。4つの段階を経て個人の 内面から社会への還元へと連結する「心理的成長プロセス」である。 Gemini Notebook Step 1: 「心の防波堤」としての音楽 介入点:BTSの音楽 現実の苦難のどん底で、音楽が 感情の底打ちを防ぎ、日常を 維持する力となる。 「抗がん剤治療中… 一人ではないと感じました。」 「セウォル号のトラウマがひどかった時、『春の日』を聴いて… 生者と死者が繋がる感覚でした。」 単なる慰めから「自己受容(Love Yourself)」への認知変容 白己否定 (Self-Denial) LOVE YOURSELF 自己受容 (Self-Acceptance) 「傷跡さえも星になるという歌詞で、自分の傷も人生の一部として受け入れられました。」 「自分自身の価値を知っている人間になりました。」 BTSのメッセージは、ファン自身の欠点と傷を人生の一部として肯定する視線へと、自己認識のフィルターを書き換える。 Step 2: 国境と世代を超越する「共感のエコシステム」 人生の伴侶 共感と支持 同じ趣味の人 BTS 単なるファンクラブではない。 年齢(20代~60代)や言語の 壁を超越し、「ARMY」という 共通のアイデンティティの下で、 家族以上に感情を共有できる 連帯が形成される。 「家族より頻繁に連絡する。 お互い辛いことがあれば 一番に話す仲になった。」 © Cerebral Notebook 競争社会に対する「対抗空間(カウンター・スペース)」 競争 (Competition) 社会的評価 (Social Evaluation) 社会的評価 (Social Evaluation) 孤立 (Isolation) 「私もそうだったよ」 という無条件の共感 弱さを隠すべき現実社会とは対照的に、ここでは共感が循環する。 この安全圏(Safe Haven)が、強固な社会的つながりの基盤となる。 Gemini Notebook Step 3: レジリエンスの強化 ―現実に立ち向かう「ショックアブソーバー」 人生の衝撃・ストレス (Life's Shocks) ファンダムリソース (音楽、共同体の支持) ファンダムリソース (音楽、共同体の支持) 日常への適応と跳ね返り (Rebound to Daily Life) 因難から逃避するのではなく、 因難を受け止め、再び日常の バランスを取り戻すための心 理的ハネとして機能する。 「辛いことが起きると自然に 音楽を探す。聴き終えると、 再び心を整理できる。」 Genralist Notebook 未来への期待が「現在」の行動を変える 単調な日常に「未来の明確な目標」が設定されることで、 そこに向かって「健康に生きよう」「活動を楽しもう」 という積極的な現在への生存動機が生まれる。 無気力な日常の反復 コンサート/ファン活動 (明確な目標) 現在の活力と態度への刺激づけ 「コンサートの日程が決まると、 その日まで健康に生きようと いう目標ができる。」 🄬 Gemini Notebook ユートピアではない:摩擦を包み込む「自己調整機能」 「否定的な感情に埋没しないようマインドコントロールする。」 過度な没入・チケット落選の絶望 現実生活の維持 自己調整とマインドコントロール (Self-Regulation) ファンダム活動は常に肯定的な感情だけをもたらすわけではない。挫折や不安という負の感情を認識し、適切な心理的距離を保つ自律性こそが、大人のレジリエンスを証明している。 Step 4: 最終到達点 — 心理的ウェルビーイングの拡張 心理的ウェルビーイングの拡張 幸福感の 増加 人生の意味 の再発見 他者への 肯定的な態度 個人の「楽しみ」を超越、 自身の人生を肯定的に再解釈し、 他者を尊重し、社会に良い 影響を与えたいという利他的な 生き方への昇華。 BTSファンダム活動 © Gemini Notebook 概念の統合:受信から発信へ循環する「巨大なエコシステム」 受信(Input) 音楽の思め/自己受容 統合 (Integration) 発信(Output) 共鳴/共同体への支持 利他的行動 レジリエンス /動機づけ 全ては独立した変数ではなく、連鎖している。音楽から「受け取った」自己受容が、コミュニティへの「発信」となり、それが社会に「還元」されていく持続可能なサイクル。 新たな地平:「エデュテインメント」としての生涯学習 フォーマル教育(Classroom) • 構造化されたカリキュラム • トップダウンの知識伝達 • 義務的な参加 インフォーマル学習(Fandom) • 情熱に突き動かされた自発的探求 • ピア(仲間)主導の相互学習 • 語学、多様性の理解、社会参加(寄付等) 大衆文化は、もはや単なる消費対象ではない。自身の価値観の省察が自発的に行われる、極めて高度な「非形式的学習」の場である。 Geeked Notebook 文化消費の再定義 「ファンダムとは、成人の日常において 『情緒・関係・回復・成長』が相互作用する、 現代の重要な社会文化的インフラである。」 メンタルヘルスケアや文化福祉プログラムへの応用可能性。 孤立する大人たちに必要なのは、臨床的な介入だけでなく、 自発的に「癒やしと成長の星座」に参加できる環境である。
投稿者による補足(5件)
補足 1

【背景】

■1. 出発点:ファンダムは「消費」ではなく「参加」である

▼大衆音楽の位置づけの変化
  • 現代社会で大衆音楽は、単なる娯楽コンテンツではなく、個人の感情・社会関係・人生観の形成に影響する文化的経験になっている(文献[1])
  • YouTube、Weverse、X、TikTokなどのデジタルプラットフォームが、ファンの参加のしかたを変え、ファン活動を日常的な文化実践に広げた(文献[2])
▼Jenkinsの「参加文化」論
  • Jenkins(文献[3])は、ファンダムを「受け身の消費者集団」ではなく「積極的に文化を生産し参加する主体」として説明した
  • 参加文化(participatory culture):ファンがコンテンツを受け取るだけでなく、二次創作、コミュニティ活動、社会参加キャンペーンなどを通じて、自ら意味や文化をつくり出していく状態を指す
  • この考え方が、本研究が「ファン活動=個人の情緒的経験・社会関係・人生の意味づけに関わる社会文化的現象」として扱う根拠になっている

■2. なぜBTSなのか:影響力とメッセージ性

▼世界的な影響力の根拠
  • 国際レコード産業連盟(IFPI)は、BTSを「グローバル・レコーディング・アーティスト」1位に選出(文献[4])
  • 米ビルボードのメインチャートでも主要な成果を記録(文献[5])
  • 音楽活動だけでなく、文化・社会貢献領域にも活動範囲を拡大(文献[6][7])
  • 2026年FIFAワールドカップ決勝の公式ハーフタイムショーへの参加も、影響力がスポーツイベントや社会的メッセージの領域まで広がっている例として挙げられている(文献[8][9][10])
  • BTSファンダムは、デジタルネットワーク・共同体参加・社会的実践が結びついた文化現象になっている(文献[11])
▼メッセージ性
  • BTSは、青春・自己受容・慰め・成長・メンタルヘルスといったメッセージを継続的に発信してきた
  • UNICEFと共同の「LOVE MYSELF」キャンペーンは、若者への暴力防止と自尊心の価値を訴え、世界のファンの共感を得た(文献[12])
  • Time誌は、BTSを「世界で最も影響力のある人物」の一人に選び、その音楽とメッセージがファンに心理的な慰めと社会的連帯感を与えていると評価(文献[13])
  • 海外メディアでは、親子で一緒にコンサートに行く事例や、幼いファンがBTSの音楽から慰めや自信を得ている事例が多数報じられている(文献[14])
▼ファンダム「ARMY」に関する研究
  • Nam, Kim, Kang & Kim(2024)は、X(旧Twitter)上のBTSファンダムを分析し、ARMYを「世界的につながったデジタル共同体」と評価した(Telematics and Informatics誌)
  • 백영경(2023)は、BTS現象から韓流文化コンテンツの成長を分析した博士論文で、ARMYを代表的なグローバルファン共同体と位置づけた
  • 권오성(2026)は、BTSファン層が初期の10〜20代中心から、30〜50代以上の成人層へ広がっていることを報じた(CBCニュース)
  • 박소영・엄진주(2023)は、BTS ARMYを「相互文化有機体」として捉え、ファンが「ARMY」というアイデンティティを共有しながら相互支持と連帯の経験をつくっていると論じた

■3. 社会的背景:大人のストレスと孤立の増加

  • 韓国統計庁の「地域社会健康調査」(文献[15])によると、成人のストレス認知率とうつ気分の経験率は継続的に増加している
  • 特にコロナ19以降、社会的孤立感と情緒的消耗の問題が深刻化した
  • WHO(文献[16])は、コロナ19以降、世界的にうつ病と不安障害が約25%増加したと発表
  • 정은혜(2024)は、コロナ19拡大期の高齢者の社会的孤立感が生活満足に及ぼす影響を、単身世帯と多人数世帯で比較した研究で、孤立と感情・自尊心の関係を示している(보건사회연구)
    → こうした状況の中で、個人の心理的ウェルビーイングが重要な生活の質の指標として注目されている、という流れになる

■4. 中心概念①:心理的ウェルビーイング(Ryff)

  • 心理的ウェルビーイング(psychological well-being):単に「嫌な感情がない状態」ではなく、自分の人生を肯定的に受け止め、意味のある人生を生きている状態
  • Ryff(文献[17])は、これを次の6次元からなる多次元的な概念として説明した
  • 自己受容:自分の良い面も悪い面も含めて肯定的に受け入れること
  • 肯定的な対人関係
  • 自律性:自分の判断で行動できること
  • 環境統制力:周囲の状況を自分でうまく扱えるという感覚
  • 人生の目的
  • 個人的成長
  • 本研究では、この枠組みが「ファン活動を通じて何が形成されるのか」を見るときの最終的な参照軸になっている
▼ファン活動とウェルビーイングをつなぐ先行研究
  • 文化芸術活動や余暇活動は心理的ウェルビーイングの向上に寄与し、音楽活動は感情調節とストレス緩和に効果的だと報告されている
  • BTSファンは音楽とメッセージを通じて慰めと共感を経験し、生活満足感と肯定的感情を形成している(백영경, 2023)
  • 김민주・이은경(2025)は、青少年のファン活動タイプを潜在集団分析で分類し、ファン活動が自尊心・アイデンティティ形成・人生の意味の認識に影響しうると報告した(인지발달중재학회지)

■5. 中心概念②:社会的つながり感(Lee & Robbins)

  • 社会的つながり感(social connectedness):自分が他者と情緒的につながっていると感じる心理状態。所属感・親密感・連帯感を含む
  • Lee & Robbins(1995)は、この概念を測る尺度(社会的つながり尺度と社会的保証尺度)を開発し、他者や社会との「所属と絆」の経験として定義した(Journal of Counseling Psychology)
  • ポイントは「人と一緒にいる状態」ではなく「心理的につながっていると認識していること」である点
  • 現代社会ではデジタルメディアの拡大と個人主義的な社会構造の強まりにより社会的孤立が増えており、オンラインコミュニティやファン活動が新しい関係形成の場として注目されている
  • ファン活動は共通の関心事を軸に人同士の相互作用を促し、社会的つながり感の形成に寄与する(백영경, 2023)

■6. 中心概念③:レジリエンス(Masten)

  • レジリエンス(resilience/回復弾力性):ストレスや困難な状況の中でも、それを乗り越えて適応していく心理的な力。単に耐える力ではなく、肯定的な適応と成長のプロセスを含む
  • Masten(2001)は、"Ordinary magic"(ありふれた魔法)という有名な論文で、レジリエンスを特別な人だけが持つ資質ではなく、逆境の中で現れる「肯定的適応のプロセス」として説明した(American Psychologist)
  • 本研究が「レジリエンスは固定的な性格特性ではなく、経験の積み重ねの中で現れる回復のプロセス」と解釈するのは、この視点に基づく
▼音楽と回復をつなぐ先行研究
  • 이현아(2025)は、国内外の喪失経験者を対象にした音楽介入(音楽療法など)の文献を統合的にレビューし、音楽経験が情緒的安定と心理的回復の資源になりうることを示した(인간행동과 음악연구)
  • 本研究はこれを受けて、ファン活動における音楽経験と共同体的な関係経験が、個人の心理的回復とどう関係するかを、因果関係を前提とせずに探索する立場をとっている

■7. ファン活動そのものに関する先行研究と「研究の隙間」

▼ファン活動の肯定的効果を示した研究
  • Click et al.(文献[18]):ファン活動は個人に所属感とアイデンティティ形成の機会を提供する
  • Duffett(2014):音楽ファンダムは感情的交流とアイデンティティ形成の場として機能し、情緒的な癒しと社会関係形成に寄与する(Popular music fandom, Routledge)
  • 김수정(2021):K-POPファン活動が成人ファンの社会的支持とストレス緩和に肯定的影響を与えることを国内研究で報告(대중문화연구)
▼これまでの研究に足りなかったもの
  • 既存のファンダム研究は、ファンのアイデンティティ、消費行動、参加文化、オンラインコミュニティ活動など、ファンダムの「個別の特徴」を説明することに関心が偏っていた
  • 成人ファンが経験する「情緒的な慰め」「社会的つながり」「心理的回復」が、どのような意味の流れを経て心理的ウェルビーイングへ広がっていくのかを、ひとつのプロセスとして探った研究は少ない
  • 本研究は、社会的つながり感とレジリエンスを「ウェルビーイングに影響する独立した変数」として検証するのではなく、成人ファンの経験の中で相互に結びついて現れる「関係的・心理的プロセス」として理解しようとしている点で、先行研究と区別される

■8. 概念的分析枠組み:4つの理論を一本の流れにつなぐ

論文の図1は、上記の先行研究を次のように並べて分析の枠組みにしている

  • ファンダム活動経験(きっかけ):Jenkins・Duffett
     → 音楽・メッセージ、公演・コンテンツ参加、SNS・コミュニティ活動、ファンプロジェクト・社会参加
  • 情緒的慰めと自己受容(心理的反応)
     → 慰めと共感、自己受容と肯定的認識、情緒的安定と癒し
  • 社会的つながり経験(関係形成):Lee & Robbins
     → 共同体への所属感、共感と支持の関係、情緒的絆と連帯
  • 心理的回復と生活の活力(プロセス的変化):Masten
     → 困難への対処と回復、ストレス緩和、日常の活力と動機
  • 心理的ウェルビーイングの形成と拡張:Ryff
     → 自己受容と満足、肯定的関係、人生の意味と成長
    つまり「ファン活動の理論(Jenkins)→ つながりの理論(Lee & Robbins)→ 回復の理論(Masten)→ ウェルビーイングの理論(Ryff)」という順番で、先行研究が一本の道筋として組み立てられている

■9. 研究方法を支える先行研究

  • Patton(2015):質的研究(数字ではなく語りや経験の意味を深く理解する研究方法)の設計と、目的的サンプリング(研究テーマに豊かな情報を持つ人を意図的に選ぶ方法)の根拠
  • Glaser & Strauss(1967):継続的比較分析(constant comparative analysis)の原点。集めた語りを繰り返し比べながら、共通点と違いを見つけてカテゴリーを精緻化していく分析法
  • Lincoln & Guba(1985):質的研究の「真実性」(trustworthiness:量的研究の信頼性・妥当性に相当する質的研究版の基準)の基準。本研究は、録音・逐語録・フィールドノートの照合、共同研究者3人の相互検討、外部専門家レビュー、否定的事例(ファン内部の対立、チケット取得失敗、活動休止への不安、過度な没入への自己警戒など)の検討によってこれを担保している

■まとめ:先行研究から見た本研究の位置

  • ファンダムを「参加文化」と捉えるJenkinsの視点を出発点に
  • BTSの影響力とメッセージ性、ARMYのグローバル共同体性に関する研究で対象の妥当性を示し
  • コロナ以降の成人のストレス・孤立の増加という社会背景の上に
  • Ryffの心理的ウェルビーイング、Lee & Robbinsの社会的つながり感、Mastenのレジリエンスという3つの心理学理論を並べ
  • これらを「変数」ではなく「経験の流れ」として質的に再構成することを、既存ファンダム研究との差別化点にしている

■出典・注意事項

  • Kang, J.-K., Kim, R., & Seo, H.-J.(2026). BTS 팬덤 활동 경험에 나타난 성인 팬의 심리적 안녕감 형성과정 탐색. 에듀테인먼트연구, 8(4), 293-317.
  • Jenkins(参加文化)、Ryff(心理的ウェルビーイング)、Click et al.、IFPI、Billboard、UNICEF、Time、統計庁、WHOなど文献[1]〜[18]については、参考文献リストの該当ページ(p.316)が本PDFに含まれていなかったため、本文中の番号と著者名のみを記載しています。年号が必要な場合は原論文の参考文献リストをご確認ください
  • 以下は本PDFの参考文献リストで確認できたもの
  • Duffett, M.(2014). Popular music fandom: Identities, roles and practices. Routledge.
  • 김수정(2021). 대중문화연구, 29(2), 77-101.
  • Nam, K., Kim, H., Kang, S., & Kim, H.(2024). Telematics and Informatics, 91, 102143.
  • 백영경(2023). 조선대학교 박사학위논문.
  • 권오성(2026). CBC뉴스, 5月31日付.
  • 정은혜(2024). 보건사회연구, 44(4), 220-248.
  • 김민주・이은경(2025). 인지발달중재학회지, 16(3), 137-160.
  • Lee, R. M., & Robbins, S. B.(1995). Journal of Counseling Psychology, 42(2), 232-241.
  • 박소영・엄진주(2023). 글로컬 어문학 문화 연구, 13(13), 23-104.
  • Masten, A. S.(2001). American Psychologist, 56(3), 227-238.
  • 이현아(2025). 인간행동과 음악연구, 22(1), 55-81.
  • Patton, M. Q.(2015). Qualitative research & evaluation methods (4th ed.). Sage.
  • Glaser, B. G., & Strauss, A. L.(1967). The discovery of grounded theory. Aldine.
  • Lincoln, Y. S., & Guba, E. G.(1985). Naturalistic inquiry. Sage.
  • 本研究は14人・全員女性・長期の熱心なファンという限られた対象の質的研究であり、BTSファン全体や他のK-POPファンダムへの一般化には限界があると著者自身が明記しています
補足 2

【研究内容】

■研究の問い

この研究は、次の4つの問いを立てています

  • 問い1:成人ファンはBTSファン活動を通じてどのような情緒的経験をするのか
  • 問い2:BTSファン活動は成人ファンの社会的つながり感の形成にどんな意味を持つのか
  • 問い3:成人ファンはファン活動の過程で心理的回復とレジリエンス(困難から立ち直る力)をどう経験するのか
  • 問い4:成人ファンはファン活動を通じて心理的ウェルビーイングをどう経験し、どう解釈しているのか
    ポイントは「影響があるか」を検証するのではなく、「どういう流れで形づくられるのか」を当事者の語りから描くことにあります

■方法

▼研究デザイン
  • 質的研究(数値ではなく、語りや経験の意味を深く理解する研究方法)
  • 半構造化深層インタビュー(あらかじめ大枠の質問は決めておくが、相手の答えに応じて自由に掘り下げていく面接法)が中心
▼調査の枠組み(表1)
  • 4つの探索領域それぞれに、質問づくりの理論的根拠が対応している
  • ファン活動経験(Jenkins・Duffett):音楽鑑賞、公演、グッズ、SNS、ファンコミュニティ、ファンプロジェクト
  • 関係経験=社会的つながり感(Lee & Robbins):ファン同士の関係、所属感、共感、支持、連帯感
  • 回復経験=レジリエンス(Masten):つらいことに耐える力、日常の回復、自己激励、生きる動機
  • 人生の変化=心理的ウェルビーイング(Ryff):人生の満足、情緒的安定、自己受容、肯定的関係、人生の意味
▼参加者(表2)
  • 目的的サンプリング(研究テーマについて豊かな語りができる人を意図的に選ぶ方法)
  • 選定基準:満20歳以上/ファン活動歴1年以上/音楽鑑賞だけでなく公演参加・コミュニティ・SNS・グッズ・プロジェクトなどの活動経験あり/自発的に同意
  • 当初15人を予定、最終14人
  • 全員女性、30代2人・40代4人・50代7人・60代1人
  • 職業は自営業、専門職、文化芸術・フリーランス、公務員、教育・講師、生産技術職、サービス販売職、市民活動など多様
  • ファン歴は最短5年〜最長約14年と長期の人が多数
  • 全員が公演参加(オンラインまたはオフライン)とファンコミュニティ利用の経験あり
  • 限界として、全員女性のため性別による経験の違いは反映できていないと明記
▼データ収集
  • 2026年のBTS FESTA期間(6月4〜13日)に実施
  • 対面またはオンライン面接、1人あたり約60〜120分、必要に応じて追加面接(電話含む)
  • 録音とClova Note(音声の自動文字起こしツール)を併用し、録音と照合して修正
  • 非言語的表現や雰囲気を記録するためフィールドノート(現場での観察メモ)も作成
  • 質問項目は、質的研究・大衆文化・社会科学の博士級専門家3人の検討を経て修正
  • 主な質問領域:ファン活動経験/社会的つながり/レジリエンス/心理的ウェルビーイング/BTSコンテンツのエデュテインメント的意味(教育と娯楽が融合した価値)

■分析方法

▼継続的比較分析(constant comparative analysis)
  • Glaser & Strauss(1967)に由来する方法で、データ収集と分析を並行しながら、意味の単位やカテゴリーを繰り返し比較し、共通点と違いを確認してカテゴリーを精緻化していく
▼手順
  • 第1段階:共同研究者3人が逐語録を繰り返し読み、参加者ごとにファン活動経験と情緒的・関係的・心理的変化の全体的文脈を把握。あらかじめ決めた概念にデータを当てはめるのではなく、参加者の表現から立ち上がる意味を中心に検討
  • 第2段階:研究の問いに関わる文章や経験を「意味単位」として抽出。情緒的慰めと自己受容、関係形成と支持、困難への対処と回復、人生の意味と態度の変化などの繰り返し現れる表現を比較
  • 第3段階:意味単位を相互に比較し、似たものをまとめて暫定的な下位カテゴリーを構成。重複は統合し、意味が不明確なものは元データに戻って文脈を再確認
  • 第4段階:3人で下位カテゴリーの名称・意味・区分の妥当性を相互検討。解釈が分かれた場合は元データに戻って議論し修正。専門家レビューも受け、最終的に11の下位カテゴリーに
  • 第5段階:11の下位カテゴリーを包括する4つの上位カテゴリーを導出
  • 第6段階:上位・下位カテゴリー間の関係を総合的に検討し、経験が「どういう意味の流れ」として現れるかを解釈。各カテゴリーを独立した変数や固定的な因果段階としてではなく、参加者の経験から繰り返し確認された変化のプロセスとして理解することに焦点
▼分析の偏りを防ぐ工夫
  • 肯定的経験だけでなく、否定的事例(negative cases:解釈に合わない、あるいは反対方向の事例)も検討
     → ファン内部の対立、チケット取得失敗、活動休止への不安、過度な没入への自己警戒など
  • 結果には各カテゴリーを代表する参加者の語りを直接引用して根拠を示す

■真実性と倫理

▼真実性(trustworthiness:質的研究における信頼性・妥当性の基準)
  • Lincoln & Guba(1985)の基準を参照
  • 録音・逐語録・フィールドノートの相互照合
  • 共同研究者3人の相互検討、専門家による外部レビュー
  • 否定的事例の検討による分析のバランス確保
▼倫理
  • 研究目的と手続きを十分説明したうえで自発的同意を取得
  • いつでも中断可能、目的外利用なし、匿名化、研究終了後にデータ廃棄
  • 研究者の再帰性(reflexivity:自分の先入観や立場が解釈に及ぼす影響を自覚し点検すること)
     → 研究者自身がファンダム現象に関心と理解を持っているため、経験を肯定的に解釈しがちな可能性を認識し、中立的態度を維持。解釈と一致しない語りも排除せず分析に含めた

■結果:4つの上位カテゴリーと11の下位カテゴリー(表3)

  • 上位1:音楽とメッセージによる情緒的慰めと自己受容
  • 人生の困難を慰める音楽
  • 自分を受け入れさせるメッセージ
  • 上位2:ファン共同体による社会的つながり感の形成
  • 新しい関係の形成
  • 共同体への所属感
  • 情緒的支持の経験
  • 上位3:ファン活動によるレジリエンスの強化
  • 心理的回復
  • 生活の活力の回復
  • 肯定的自己認識
  • 上位4:心理的ウェルビーイングの拡張
  • 幸福感の増加
  • 人生の意味の発見
  • 肯定的な人生の態度
    これらは、BTSファン活動が単なる文化消費を超え、情緒的慰めと自己受容→社会的関係の形成→心理的回復→心理的ウェルビーイングへと広がるプロセスを示すものと解釈されています

■結果1:音楽とメッセージによる情緒的慰めと自己受容

▼人生の困難を慰める音楽
  • 参加者はBTSの音楽を「鑑賞の対象」ではなく「人生の困難を耐えさせる情緒的資源」として経験していた
  • がん治療、家族の病気、セウォル号事故(2014年の韓国の旅客船沈没事故)によるトラウマ、職場のストレスなど、さまざまな危機の中で心理的安定と慰めを得ていた
  • 参加者A「抗がん治療を受けていた時期にBTSの音楽を聴いて耐えられました。ひとりじゃないという感覚がありました」
  • 参加者B「セウォル号のトラウマがひどかった時、『春の日(봄날)』を聴いてもっと悲しくなったけれど、同時に大きな慰めになりました。生きている人と亡くなった人がつながる感じでした」
  • 参加者C「がんなどで体がとてもつらかったけど、写真を見て、楽しい歌を聴いて、『走れバンタン』を見てまた笑えました」
  • 「春の日」「Love Yourself」「Magic Shop」などの曲が、孤独・喪失・自己否定の感情を受け止める媒介として機能していた
▼自分を受け入れさせるメッセージ
  • 「Love Yourself」「Love Myself」のメッセージを自分の人生に結びつけて解釈
  • 最初は歌詞への共感レベルだったが、時間とともに自分の人生の見方や自己理解にも変化が現れた
  • 参加者C「自分を愛し、周りも愛せというメッセージが私の人生を大きく変えました」
  • 参加者D「『傷跡さえも星になる』という歌詞を聴いて、自分の傷も人生の一部だと受け入れられるようになりました」
  • 参加者A「自分自身も褒めるようになりました。自分の価値を知っていく人になりました」
▼解釈
  • BTSのメッセージは慰めにとどまらず、弱点や傷も人生の一部として肯定的に受け入れる新しい視点を提供していた
  • これはRyffが心理的ウェルビーイングの核心要素とした「自己受容」に相当する
  • Duffettの「音楽ファンダムの情緒的交流機能」と結びつければ、音楽的嗜好を超えた自己理解・自己受容を形成する情緒的経験と解釈できる

■結果2:ファン共同体による社会的つながり感の形成

▼新しい関係の形成
  • 「同じ歌手が好きな人に会った」だけでなく、日常を共有し互いを理解する新しい人間関係を形成
  • コンサート、ファンカフェ、Weverse、SNSで始まった関係が、日常生活や個人的な悩みまで共有する関係へ発展
  • ファン同士の関係を「友達」より「家族」「人生の同伴者」「私の味方」と表現
  • 参加者D「コンサートで初めて会ったのに、今は家族より頻繁に連絡する人になりました。つらいことがあると最初に話す間柄です」
  • 参加者G「BTSがいなければ絶対に会えなかった人たちです。今は旅行にも一緒に行き、誕生日も祝う一生の友達になりました」
  • オンラインで始まった関係がオフラインに続き、日常の社会的支持体系として発展していた
▼共感と支持が存在する共同体
  • ファンダムを単なるファンクラブではなく、互いを理解し支える共同体として認識
  • 自分の困難を率直に話すことができ、他のファンも似た経験を共有することで自然に共感と慰めが生まれた
  • 参加者A「私が病気の時、先に連絡して心配してくれたのは家族よりARMYの友達でした」
  • 参加者E「つらい話をしても『私もそうだった』と言ってくれる人がいるだけで慰めになりました」
  • 参加者C「誰かと競争する場所ではなく、一緒に応援する雰囲気です。心から祝い合い、一緒に泣いて一緒に笑います」
▼国境と世代を超える連帯経験
  • 国籍と年齢を超えた関係形成が、BTSファンダムの最大の特徴として語られた
  • 海外ファンと交流し、異なる文化や言語を理解する中で世界を見る視野が広がった
  • 10代から中高年まで一緒に活動する中で、世代間の壁も自然に崩れた
  • 参加者I「20代も60代もいますが、年齢をまったく意識しません。みんなARMYという名前で友達になります」
  • 参加者L「英語ができなくても翻訳機を使って話しました。BTSのおかげで世界中に友達ができました」
▼解釈
  • Lee & Robbinsの「他者や社会との所属と絆の経験」という観点から、「家族」「味方」「一生の友達」といった関係は、社会的つながり感が具体的に形成される経験と解釈できる
  • ファンが共通の関心を軸に関係と意味を能動的に形成する点は、Jenkinsの参加文化の視点とも一致する

■結果3:ファン活動によるレジリエンスの強化

▼困難を耐えさせる心理的資源
  • 病気、家族の問題、職場のストレス、抑うつ気分、社会的孤立などの困難の中で、BTSの音楽とコンテンツに触れて感情を整理し、日常に戻る経験をしていた
  • 先の「情緒的慰め」との違いは、慰めにとどまらず、困難に対処し日常を維持しようとする「行動と態度」につながっていた点
  • 参加者F「つらいことがあると自然にBTSの音楽を探します。聴き終わるとまた心を整理できます」
▼否定的な経験と、その調節
  • ファン活動から生じる挫折を受け入れ調節する過程にも回復の経験が見られた
  • チケット取得失敗や活動休止といった状況で失望感や抑うつ気分を経験したが、その感情にとどまり続けるのではなく、自分で感情を調節し日常のバランスを取り戻そうとしていた
  • 参加者I「否定的な感情に飲み込まれないようにマインドコントロールしているところです」
  • この相反する経験は、ファン活動が常に肯定的な感情をもたらすのではなく、ファン活動の過程で生じる挫折や否定的感情を認識し自分で調節する過程も回復経験の一部であることを示す
  • つまりBTSの音楽とファン活動は、現実から逃避する手段ではなく、感情を整理し、挫折を調節し、日常に復帰するために活用される心理的資源として意味づけられていた
▼生きる動機と活力の回復
  • コンサート参加、ファンプロジェクト、誕生日イベント、寄付活動、ファン同士の集まりなどが、単調だった日常に新しい目標を与え、これからの人生を計画し期待する動機になった
  • 参加者G「コンサートの日程が決まると、その日まで健康に生きようという目標ができます」
  • 参加者I「以前は退勤したら何もしたくなかったのに、今はファンプロジェクトを準備しながら毎日が楽しくなりました」
  • 参加者J「BTSを好きになって旅行にも行き、人にも会い、新しい経験をするようになりました。以前の自分とは全く違う人生を生きています」
  • 単にストレスを克服しただけでなく、新しい人生の意味と目標を形成し、積極的に日常を生きるようになったことを示す
▼肯定的自己認識の形成
  • 自己受容と希望のメッセージが、弱点や傷を否定的に見るのではなく人生の一部として受け入れるよう影響し、自分への肯定的認識につながっていた
  • 参加者A「以前は自分の短所しか見ていなかったのに、今は私もまあまあいい人間だと思えるようになりました」
  • 参加者C「『Love Yourself』を聴きながら、自分を憎まなくなりました」
  • 参加者E「ファンになってから、私も他の人に良い影響を与える人になりたいと思うようになりました」
▼解釈
  • Mastenは、レジリエンスを逆境やストレス状況で現れる肯定的適応のプロセスとして説明した
  • 音楽で感情を調節し、ファン活動での挫折を受容し、日常のバランスと生きる動機を回復する経験は、レジリエンスが実生活の中で現れる「プロセス的経験」と解釈できる
  • 音楽経験が情緒的安定と心理的回復の資源になるという先行研究(이현아, 2025)とも整合する

■結果4:心理的ウェルビーイングの拡張

▼幸福感と生活満足の増加
  • ファン活動を始めてから、日常で感じる幸福感と生活満足度が以前より大きく向上した
  • コンサートやファンミーティングを待つ過程、新しいコンテンツを共有する経験、ファンとの交流が日常に活力を与え、人生をより肯定的に見る契機になった
  • 参加者G「以前は毎日がただ繰り返しのように感じていましたが、今は毎日楽しみなことができました。人生がずっと楽しくなりました」
  • 参加者I「笑う日が増えました。以前より幸せだという言葉を自分でよく言うようになりました」
▼人生の意味の再発見
  • 自分の人生を振り返り、これからどんな人生を生きるのかを考えるようになった
  • BTSの成長過程と音楽のメッセージが、自分の人生を新しい視点で見るきっかけになり、困難を乗り越える過程でも人生の意味を再び見つける契機になった
  • 参加者C「バンタンが成長する姿を見て、私も遅すぎると諦めなくなりました」
  • 参加者D「以前はただ生きることが目標だったなら、今はどんな人間として生きるかを考えるようになりました」
▼肯定的な人生の態度の形成
  • 自分だけでなく周囲の人に対する態度にも変化
  • BTSが発信する希望・共感・配慮・多様性の価値を自分の人生に適用しようと努め、以前より他者を理解し尊重する態度を持つようになった
  • 参加者A「私も他の人に良い影響を与える人になりたくなりました」
  • 参加者H「人を少し温かく見るようになりました。私も誰かの慰めになる人になりたいです」
▼過度な没入への自己警戒(否定的事例)
  • 一部の参加者は、ファン活動への高い没入が自分の感情に過度な影響を及ぼす可能性を自分で警戒していた
  • 活動休止のニュースの後に2日間抑うつ気分を経験した参加者は、「深く入り込みすぎたのではないか」と自分の状態を振り返り、その後はファン活動が自分の日常に肯定的な影響を与える範囲内で続いてほしいと語った
  • これは、成人ファンの心理的ウェルビーイングが無条件の没入から形成されるのではなく、ファンとしてのアイデンティティと個人の日常の間で適切な心理的距離を調節する過程とも関係していることを示す
▼解釈
  • Ryffが心理的ウェルビーイングの要素とした自己受容、肯定的対人関係、人生の目的、個人的成長に対応する経験が確認された
  • 心理的ウェルビーイングは単なる幸福感や満足感にとどまらず、人生の意味・関係・成長の次元へと拡張していた

■考察

▼全体像:4つの経験は「変数」ではなく「連続したプロセス」
  • 参加者の経験は、情緒的慰めと自己受容→社会的つながり感の形成→レジリエンスの強化→心理的ウェルビーイングの拡張という連続的なプロセスとして現れた
  • これは社会的つながり感やレジリエンスをウェルビーイングに影響する独立変数として確認したのではなく、成人ファンがファン活動を経験し意味を構成する過程で現れる関係的・心理的経験として解釈したもの
▼第1の論点:慰めから自己受容への拡張
  • 音楽は現実を回避させる手段ではなく、現実を受け入れ日常を生き直すための情緒的基盤として働いていた
  • Duffettの「音楽ファンダムの情緒的治癒機能」と一致するが、既存研究が慰めそのものに焦点を当てたのに対し、本研究は参加者が音楽を自分の人生に適用し再解釈する過程を通じて自己受容へ拡張していることを確認した
  • 参加者は職業、家族関係、健康、社会的役割など成人期特有の課題の中でファン活動を続けており、音楽とコンテンツは現実の代替物ではなく、日常の困難を解釈し感情を調節する文化的資源として経験されていた
  • したがって情緒的慰めは一時的な肯定的感情ではなく、自己受容と心理的回復へつながる「経験の出発点」と解釈できる
▼第2の論点:共同体経験は自動的にウェルビーイングを保証しない
  • 参加者はファンダム内で出会った人を「家族」「味方」「一生の友達」と表現し、強い所属感を経験していた
  • ファンはコンテンツを消費する受け身の存在ではなく、共同体を形成し意味を共につくる積極的参加者として機能していた(Jenkinsの参加文化)
  • 社会的つながり感は「人と一緒にいる状態」ではなく「心理的につながっているという認識」であり(Lee & Robbins)、参加者は共同体の中で自分が理解されている経験を繰り返し語った
  • 年齢や国籍の異なるファンとの交流により、既存の生活圏では出会えなかった新しい関係を経験していた
  • ただし、共同体経験が常に肯定的とは限らず、一部の参加者はファン内部の意見衝突や対立によって新たなストレスを経験していた
  • この否定的事例は、ファン共同体そのものがつながり感やウェルビーイングを保証するのではなく、共同体の中でどんな関係を形成しどう調節するかが重要であることを示す
  • 社会的つながり感はファン参加の自動的な結果ではなく、共感・相互支持・関係の持続を通じて形成される経験的プロセスとして理解する必要がある
▼第3の論点:レジリエンスは「個人の能力」ではなく「関係的・文化的資源」とともに現れる
  • 参加者は困難な状況で音楽を聴き、ファンと経験を共有し、新しい目標を設定する過程を繰り返し経験していた
  • これはストレスを減らすだけでなく、人生を再計画し肯定的に再構成する過程につながっていた(Mastenの視点)
  • レジリエンスは個人に固定的に存在する性格特性ではなく、音楽とメッセージ、ファン共同体の支持、日常のファン活動といった経験が蓄積される過程で現れる心理的回復経験として観察された
  • 回復を個人内部の能力だけで説明するのではなく、個人を取り巻く関係的・文化的資源とともに理解する必要があることを示唆する
  • チケット取得失敗、活動休止への不安、過度な没入の可能性など、ファン活動自体から生じる挫折や否定的感情も経験していたが、参加者は自分の感情状態を点検し、否定的感情に過度に飲み込まれないよう自分で調節しようとしていた
  • したがって本研究のレジリエンスは「ファン活動がレジリエンスを高めた」という単線的な因果関係ではなく、情緒的慰めと関係的支持を経験し、ファン活動で生じる肯定的・否定的状況に対応しながら人生のバランスを再構成していくプロセスとして理解するのが適切
▼第4の論点:心理的ウェルビーイングは「結果」ではなく「形成プロセス」
  • 参加者は幸福感と生活満足を経験しただけでなく、自分の人生を再解釈し、未来を計画し、他者を尊重する人生の態度を形成していた
  • 心理的ウェルビーイングは一時的な肯定的感情ではなく、人生の意味と目的を持続的につくり続けるプロセスであることを示す
  • Ryffの要素(自己受容、肯定的関係、人生の意味と目的、成長)に対応する経験は確認されたが、本研究の差別化点はこれらの要素の有無を個別に確認したことにはない
  • 情緒的慰めと自己受容の経験が関係形成につながり、関係の中の共感と支持が心理的回復を助け、これらの経験が蓄積されて自分の人生をより肯定的に解釈する過程が現れた点にある
▼重要な但し書き:これは因果モデルではない
  • 「情緒的慰め→社会的つながり→レジリエンス→心理的ウェルビーイング」という流れは、統計的因果モデルや固定された段階として検証したものではない
  • 参加者の経験に繰り返し現れた「意味の流れ」を質的に再構成したものであり、各経験は相互に連携しながら、個人の人生の中で心理的ウェルビーイングの形成と拡張に意味を与えるものと解釈できる
  • 既存研究が参加文化、アイデンティティ、社会関係、消費行動など特定の側面を中心にファン経験を説明してきたのに対し、本研究は成人ファンの実生活の中でこれらがどう結びつくかをひとつの経験的プロセスとして探索した点に意義がある
▼エデュテインメントの視点
  • 一部の参加者は、ファン活動を通じて外国語や異文化に関心を持ち、寄付や社会参加に加わり、自分の価値観や人生の態度を省察する経験を語った
  • ファン活動は教育目的で設計された公式の学習活動ではないが、音楽とコンテンツを楽しみファンと自発的に相互作用する過程で、文化理解・価値の省察・社会参加といった非形式的学習(意図的に設計されていない日常の中での学び)が発生する可能性を示す
  • 成人ファンにとってこの経験は一回限りの知識習得ではなく、日常の文化享受と関係活動を通じて持続的に行われる点で、生涯学習や文化教育の視点と結びつけて検討できる
  • ただし本研究はエデュテインメント効果そのものを分析した研究ではないため、この解釈は「拡張の可能性」に限定して理解する必要があると著者は明記
▼核心的な発見
  • ファン活動が心理的ウェルビーイングに「影響を及ぼす」という単線的な関係を示したのではなく、成人ファンが音楽とメッセージを通じて慰めと自己受容を経験し、共同体の中で関係と支持を形成し、肯定的経験だけでなく挫折や対立も調節しながら、心理的回復と人生の意味を構成していく経験的プロセスを確認した
  • ファン活動は消費行動や余暇活動としてだけでなく、成人の日常の中で情緒・関係・回復・成長が相互作用する社会文化的経験として理解する必要がある

■結論と提言

▼結論
  • 心理的ウェルビーイングはファン活動の単純な結果ではなく、情緒的慰め、社会的つながり感、レジリエンスを経て形成される経験的プロセスである
  • 既存のファンダム研究が消費行動や文化産業的価値に焦点を当てていたのに対し、成人の心理的ウェルビーイングが形成される過程を質的に示した点に学術的意義がある
  • 教育的・文化的な拡張可能性も示唆されるが、これは中心的結果ではなく拡張的意味として理解し、今後の研究で検証する必要がある
▼限界
  • 14人、全員女性、比較的長期の熱心なファンという構成のため、BTSファン全体や他のK-POPファンダムへの一般化には限界がある
  • 回顧的な語り(過去を振り返って語ったもの)を中心にデータを収集しており、カテゴリー化と解釈の過程で研究者の視点が入り込む可能性を完全には排除できない
  • したがって結果は「特定の文脈で現れた成人ファンの経験的意味」として理解する必要がある
▼提言
  • 第1:ファン活動が社会的つながりと心理的回復に肯定的な役割を果たす点から、文化芸術とファン共同体活動を活用した文化福祉プログラムの拡大が必要。特に社会的孤立や情緒的困難を経験する成人に対して、ファン共同体のような自発的文化活動を支援するプログラムを
  • 第2:さまざまな文化コンテンツとファン活動が個人のメンタルヘルスと心理的回復に及ぼす影響を比較分析する研究を
  • 第3:多様なK-POPファンダムと年齢層を対象にした比較研究と、質的・量的研究を連携させた後続研究により、ファン活動がウェルビーイング形成に及ぼす過程をより体系的に検証する必要がある
補足 3

■論文に出てきた曲

▼Answer : Love Myself(アンサー:ラブ・マイセルフ)
  • 基本情報:2018年リリースのアルバム「LOVE YOURSELF 結 'Answer'」収録曲で、「自分を愛そう」と語りかける歌詞が特徴。同アルバムの16曲目にあたり、Love Yourselfシリーズ全体の締めくくりとして位置づけられる曲
  • 論文での登場箇所:結果1-2「自分を受け入れさせるメッセージ」(歌詞の引用)、および結果1-2・序論(「Love Myself」というメッセージ名として)
  • 参加者D「『傷跡さえも星になる』という歌詞を聴きながら、自分の傷も自分の人生の一部だということを受け入れられるようになりました」
  • 参加者C「ラブマイセルフ、自分を愛して周りも愛しなさいというメッセージが、私の人生を大きく変えました」
  • 良い理由(語りから)
  • 傷や失敗を「消すべきもの」ではなく「自分を形づくる一部」として見直せた
  • 「自分を愛する」と「周りを愛する」が一続きのメッセージになっていて、自分への態度と他者への態度が同時に変わった
  • 論文の解釈:Ryffのいう「自己受容」(良い面も悪い面も含めて自分を肯定的に受け入れること)が、この曲のメッセージを通じて具体的な経験として形成されている

▼Love Yourself(ラブ・ユアセルフ)
  • 基本情報:2017〜2018年にかけて展開された連作アルバムシリーズの名称(Her→Tear→Answer)。「仮面を外し、自分の弱さを受け入れてこそ愛し、生きることができる」という自己発見のテーマを持つ
  • 論文での登場箇所:結果1-1、1-2、3-3
  • 参加者C「『Love Yourself』を聴きながら、自分を憎まなくなりました」
  • 良い理由(語りから):自己嫌悪から抜け出すきっかけになった

▼春の日(봄날 / Spring Day)
  • 基本情報:2017年2月13日リリース、リパッケージアルバム「You Never Walk Alone」のタイトル曲。RMとSUGAが共作し、大切な人を強く恋しく思い、その人に届こうとする歌
  • 論文での登場箇所:結果1-1「人生の困難を慰める音楽」
  • 参加者B「セウォル号のトラウマがひどかった時、『春の日』を聴いてもっと悲しくなったけれど、同時に大きな慰めになりました。生きている人と亡くなった人がつながる感じでした」
  • 良い理由(語りから):悲しみを消すのではなく、悲しみを抱えたまま「亡くなった人とつながっている」感覚を与えてくれる。喪失の感情を否定せず受け止めさせてくれる

▼Magic Shop(マジック・ショップ)
  • 基本情報:2018年のアルバム「Love Yourself: Tear」の7曲目。同アルバムは別れの痛みや悲しみをテーマにしたコンセプトアルバムで、Magic Shopはその中でファンに向けて書かれた曲として知られる
  • 論文での登場箇所:結果1-1(論文の解釈部分のみ。参加者の直接の語りは引用なし)
  • 論文の解釈:「春の日」「Love Yourself」と並んで、孤独・喪失・自己否定の感情を受容させる媒介として機能した曲

▼走れバンタン(달려라 방탄 / Run BTS)
  • 基本情報:メンバーが出演する自主制作のバラエティ番組(2015年開始)。曲ではない
  • 論文での登場箇所:結果1-1
  • 参加者C「抗がんなどで体がとてもつらかったのですが、防弾少年団の写真を見て、楽しい歌を聴いて、『走れバンタン』を見て、また笑うことができました」
  • 良い理由(語りから):闘病中に「また笑える」瞬間をくれた
  • 補足:慰めの源が歌詞の深さだけでなく「単純な楽しさ・笑い」にもあることを示す事例。日本のファン投票でもRun BTSは上位(4位)に入っており、楽曲とは別の親しまれ方をしているコンテンツ

■整理して見えること

  • 論文に出てくる音楽コンテンツは、実質的に「Love Yourselfシリーズ(Answer : Love Myself、Magic Shop)」と「春の日」の2系統に集約される
  • 「良い理由」は3つの型に分けられる
  • 受け止める型:悲しみや傷を消さずに抱えたまま前に進ませてくれる(春の日、Answer : Love Myselfの傷跡の一節)
  • 自分を許す型:自己嫌悪から抜け出し、自分を認める方向へ導く(Love Yourself/Love Myself)
  • 笑わせる型:深い意味ではなく純粋な楽しさで回復させる(走れバンタン)
  • 興味深いのは、「傷跡が星になる」という一節が、Ryffの「自己受容」の定義(良い面も悪い面も含めて自分を受け入れる)とほぼ同じ構造をしていること。歌詞がそのままウェルビーイング理論の教科書的な内容になっている
  • ただし論文の主張の中心は「どの曲か」ではなく「メッセージを自分の人生に引きつけて解釈し直す過程」にあり、曲名の分析自体は本研究の主目的ではない
補足 4

動画解説はこちら😊
https://youtu.be/QH3w3lGLlCA

補足 5

会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:推し活って、現実逃避なんでしょうか?
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-09-25-1790306400/

論文紹介 やってみようありがとうなんとかなるありのままに 主観的幸福・幸福測定人間関係・恋愛意味・目的・スピリチュアリティ

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