2026.10.03

仕事に「楽しさ」と「ちょい競争」を混ぜると、幸せに成果が出る😊

〜ノルウェー海軍でのプレイフルワークデザイン〜

裁量のない仕事での遊び心と幸福度についての、オランダ・ノルウェーの最新研究

帆船で大西洋を渡るノルウェー海軍の士官候補生57人に、20日間毎日アンケートに答えてもらったデータから調査頂きました。


舞台は帆船。
帆を張る、マストに登る、甲板を磨く、夜の見張り。
何を・いつ・誰とやるかは完全に決まっていて、自分で選べることはほぼない。
そんな環境でも「どうやるか」だけは自由なので、
①楽しさを混ぜる(作業にユーモアを探す、みんなが楽しくなる工夫をする)
②競争を混ぜる(作業を挑戦と捉える、自分と勝負する)

をした日に、ワクワク度・疲れ・仕事の出来がどう変わるかを調べました。


結果としては、
①楽しさを混ぜた日は、
ワクワクが増えて、疲れも減って、仕事の出来も良かった。
②競争を混ぜた日は、
ワクワクは増えたけど、疲れは減らなかった。

(自分にハードルを課すわけなので、それはそう。)


そして一番面白かったのが、両方やった日。
ワクワクが増えて、疲れもかなり減って、仕事の成果も良かった。
つまり、楽しさと競争は別々の効果じゃなくて、

掛け算で効く。


ただし、効くのはその日限り。
翌日には持ち越されないので、毎日ちょっとずつやる必要がある。
あと、上から「遊べ!」と押しつけられた遊びは逆効果、

というのも著者が強調していました。自分で始めるから遊びになる。


物語(楽しさ)とステージ(挑戦)が両方あるから、人はハマる。

  • やらされ仕事でも「どうやるか」は自分のもの。そこに小さな遊びを足すだけで、その日の幸せは変わる。
  • ただし「競争」は自分との勝負に限定。人と比べ始めると、たぶん話が変わってくる。
  • 会社視点で言えば、ゲーム化を制度にするより、「やり方の自由や裁量」を渡す方が効きそう。
    という感じ。
    いずれにせよ、幸せは状況が変わるのを待つものじゃなくて、
    目の前の作業の捉え方を少し変えるだけで動く😊

ジョブクラフティング+プレイフルワークデザインの合わせ技とか、さらに効きそうな気がしました😊今度やってみようかな。


The duality of playful work design: A diary study of designing fun and competition
遊び心のある仕事デザインの二重性:楽しさと競争をデザインすることについての日記研究
Arnold B. Bakker(エラスムス大学ロッテルダム、オランダ), Jørn Hetland, Yuri S. Scharp, Olav Kjellevold Olsen & Roar Espevik(ベルゲン大学、ノルウェー ほか)
Journal of Business Research, 2026/9/30
https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2026.116566

載量が少ない仕事でも成果が出る!「プレイフル・ワーク・デザイン」のカ BEFORE 疲弊する毎日 (The Daily Grind) APPROACH 1 楽しさの設計 (Designing for Fun) APPROACH 2 競争の設計 (Designing for Competition) AFTER シナジー効果とパフォーマンス向上 (Synergy & Improved Performance) 「楽しさの設計」で リソースを増やし疲弊を防ぐ 「競争の設計」で 自発的な挑戦と意欲を生み出す 「楽しさ」×「競争」の 掛け合わせで効果が最大化 「楽しさの設計」で リソースを増やし疲弊を防ぐ 「競争の設計」で 自発的な挑戦と意欲を生み出す 「楽しさ」×「競争」の 掛け合わせで効果が最大化 Personal best GOALS time 自分たりの目標やタイムアタックを設定 し、ポジティブな感情を高めます。 心理的活力 の向上 毎日の高い 成果に直結 ルールや手順が厳しく決まっている仕事。 タスクへのアプローチが受動的で、 疲労が蓄積します。 コーチやエキスパートからアドバイス 仕事の楽しさと活力を作り出します。 START 競争を通じて疲労経過を気活動が高まります。 加速された挑戦を繰り返すだけが、 タスクハフォーマンスが向上するもとに。 ©Cornerstone Notebook The Duality of Playful Work Design 「変えられないルーティンワーク」をゲーム化する。 制約の中で生産性と心の活力を生み出す科学。 最新の組織心理学(Job Demands-Resources理論)に基づく、実践的ワークデザイン・ガイド 私たちは「仕事の内容」を変える自由を、そこまで持っていない。 「ジョブ・クラフティング」の時代。 自ら仕事の内容、関わる人、スケジュールを 再設計し、やりがいを見出す。 しかし、現実の多くの仕事(警備員、レジ打ち、 医療現場、コールセンター等)は「タスク」 「時間」「相手」が厳密にマニュアル化されており、 裁量権(自由度)がほぼゼロである。 STRICT MANUAL PROCEDURES ✕「遊び」は「仕事」の対極であり、効率と集中を落とす不真面目目なものである。 ◎「遊び」は、厳しい制約の中で脳の情報処理を変え、没入感を生み出す最強の戦略である。仕事の内容は変えられなくても、「取り組み方」はハックできる。 Designing Fun (「楽しさ」の設計) ユーモア、創造性、自発性 単調な作業中に、同僚と オリジナルの合い言葉や リズムを作る。 Designing Competition (「競争」の設計) ルール、挑戦、マイクロ目標 前回よりも早く正確に処 理できるか、自分自身と タイムアタックをする。 Playful Work Design (PWD) 日常業務に自ら「楽しさ」と「競争」を意図的に 組み込むプロアクティブな行動。 Fun(楽しさ) Competition(競争) 目的 • 喜び・つながりの創出 • 達成感・熟達の創出 注目する情報 • リソース(笑い、サポート)の発見 • パフォーマンスの指標(速度、質) 心理的効果 (JD-R理論) • 「心の資源(リソース)」を増やす • 「適度な挑戦(チャレンジ)」を生み出す 現場での具体例 • 患者との会話にユーモアを交え、笑顔を引き出すミッションを持つ看護師 • 担当病棟の患者の顔と名前、カルテを完璧に記憶する自己ゲームを行う看護師 1. 行動の再定義 タスクを自ら「ゲーム」 だと設定する。 2. 認知フィルターの発動 脳がポジティブな情報(達成感・楽しさ)に極度に敏感になり、 ネガティブな情報(疲労感・退屈) から注意をそらす。 3. 結果 やりがいが向上し、 疲労感がブロックされる。 やりがい 疲労感 The Proof: 極限のルーチンワークにおける実証実験 被験者: ノルウェー海軍士官候補生 57名 環境: 北欧から北米への大型帆船での過酷な航海、極寒の中、わたる単調で反復的、かつ段階に複雑化された作業(昇帆り、帆の操作、掃除など)。裁量権は皆無。 調査手法(Diary Study): 毎日午後5時に「今日、どれくらい遊び心で仕事に入れたか?」とその日の気分・パフォーマンスを記録(計1,046件のデータポイント)。 Finding 1:「楽しさ」は、疲労を防ぐ盾になる Fun 楽しさ ↑ワクワク感・インスピレーション (活性化されたポジティブ感情) が上昇。 楽しさを意識して仕掛けた日は、 明らかに活力がみなぎった。 ↓燃え尽き・疲労感が有 意に低下。(仮説1の実証) 楽しさは、過酷なタスクからくる 精神的摩耗をブロックした。 Finding 2:「自己競争」は、モチベーションのアクセル Competition 自己競争 ↑ワクワク感・やりがいが上昇。 マイクロ目標やタイムアタックを設定した 日は、達成感と集中力が高まった。 → 疲労感は変化なし。 (仮説2b棄却) インサイト: 競争は達成感を生む(アクセル) か、疲労を防ぐ効果(ブレーキ)は持たない。 The "Aha" Moment: 究極のシナジー(掛け算の魔法) 「楽しさ」と「競争」を掛け合わせた日、人は最高のパフォーマンスを発揮する。 Low to High Low to High 楽しさ(Fun) 競争(Competition) 「圧倒的なポジティブ 感情の増加」 & 「頭着な疲労感の低下」 結果として、その日のタスク パフォーマンス(生産性) が最大化された。 (仮説5の実証) メタファー:「楽しさ(リリース)」 という燃料を、「競争(チャレ ンジ)」というエンジンに注ぎ込 むことで最大の出力が出る。 © Gemini Notebook The Engine of Performance (全体像) Playful Work Design Fun × Competition 引き起こす Well-being ポジティブ感情 (Activated Positive Affect) 疲労感 (Exhaustion) つながる Task Performance 持続的な集中力と 質の高い業務遂行 遊びは単なる「息抜き」ではない。 生産性をドライブする論理的なメカニズムである。 Playbook for Employees: 明日からの実践ガイド 単調な仕事に「ゲーム」を仕掛ける方法 Fun の仕掛け方(リソースを増やす) ルーチン業務に「BGM」や「目分量のリズム」を中心につける。 顧客対応で、1日3回「自然な笑い」を引き出すという裏ミッションを立てる。 Competition の仕掛け方(適度なハードルを作る) タイムアタック:昨日より5分早く終わらせるための独自の手順を考える。 マイクロ目標(狭りプレイ):今日はタイピングのミスをゼロにする。定型業務を説明する等の制約を設ける。 🎮 Gamified Notebook Playbook for Managers: マネージャーのための環境作り 遊び心は
投稿者による補足(5件)
補足 1

■ 論文に登場するプレイフルワークデザインの具体例


● 楽しみ(Fun)=ルディックな遊び
自発性・ユーモア・空想によって、楽しさや喜びを作る。社会的で創造的。

▼ 海軍士官候補生の例
  • 何時間も続く力仕事(ブレース操作、帆を張る作業)のとき、リズムに合わせて歌を歌う
▼ 病院の看護師の例
  • 場面に応じて、患者と軽いユーモアを交わす
  • やり取りを理解するために、短い物語を頭の中で作る
  • 患者が遊び心を歓迎しているサインに気づく(その結果、追加の質問を一つ投げかけて、ケアの質が上がる)
▼ 空港の保安検査員の例
  • 荷物の中の物について、面白いストーリーを想像する
▼ 尺度の項目(毎日の質問文)
  • 「今日は、関わる全員にとって作業がもっと楽しくなる方法を探した」
  • 「今日は、やるべきことの中にユーモアを探した」
▼ 理論の説明として挙げられている行動
  • 想像と現実の間の面白いズレに気づく
  • 同僚が冗談を受け入れそうな微妙なサインを読み取る
  • ユーモア、自発的な行動、小さな創造的なひねりを意図的に作る
▼ 背景研究(Roy, 1959「バナナタイム」)
  • 単調な工場労働の合間に、冗談やおふざけの時間を作って1日を乗り切る

● ゲーム化(競争)=アゴニスティックな遊び
ルール・競争・挑戦によって、意欲・達成感を作る。基本は「自分との勝負」。

▼ 海軍士官候補生の例
  • マストに登るとき、自分の心拍数を観察して、下げること・落ち着きを保つことを目標にする
▼ 病院の看護師の例
  • 病棟の全員の名前を覚える
  • 診断名を事前に予想する
  • 申し送りを完璧にこなすことを目指す
▼ 空港の保安検査員の例
  • スキャナーに映った形が何なのかを当てようとする(荷物ごとに即座に答え合わせができる)
▼ 尺度の項目(毎日の質問文)
  • 「今日は、仕事をワクワクする挑戦の連続として捉えた」
  • 「今日は、強制ではなく楽しいから、仕事で自分と競った」
▼ 理論の説明として挙げられている行動
  • 作業に小さな目標(マイクロゴール)を足す
  • 自分に挑戦を課す
  • 仲間との友好的な勝負を仕掛ける
  • 作業の進み具合や出来栄えを、自分で指標として見る
  • 自分なりのルールや目標を作り、やり方を少しずつ改善していく
  • 自分で作る挑戦の中身:課題の複雑さ、自己競争、締め切り、熟達への意欲、成果への期待

● 両方を組み合わせた例(論文が「一番効く」としている形)

▼ レジ係の例
  • お客さん一人ひとりとのやり取りを「笑顔を引き出せるか」という小さな勝負にする
     → 楽しさ(笑顔・会話)と競争(毎回の挑戦)が同時に入っている
▼ ゲームの構造(論文の比喩)
  • 物語・探検(楽しみ)+目標・挑戦(競争)を両方入れることで、ボードゲームもテレビゲームも人を夢中にさせる

● 組織側が仕掛ける場合の例(論文の実践的含意)

  • 作業に物語性を持たせる
  • 目標の進捗をリアルタイムでフィードバックする
  • 作業にインタラクティブな仕掛けを加える
  • PWD尺度で「よく遊んでいる人」を見つけてインタビューし、その職場に合った事例集を作って研修に使う
    ※ ただし押しつけは逆効果。本人の自由があってこそ遊びになる、と論文は強調
補足 2

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:決まりきった仕事に「遊び心」をひとつまみ
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-03-1790969521/

補足 3

【研究背景】

■ はじめに:この論文が立っている土台

Bakker, Hetland, Scharp, Olsen & Espevik による本論文は、ノルウェー海軍の士官候補生57名を対象に20日間の日誌調査を行い、「遊び心ある仕事デザイン(playful work design)」が日々の感情・疲労・パフォーマンスとどう関連するかを調べたものです。ここでは、その研究がどのような先行研究の積み重ねの上に成り立っているのかを、順を追って説明します。


■ 研究背景1:従業員は「受け身」から「能動的な主体」へ

▼ 仕事デザイン研究の転換
  • Parker, Morgeson & Johns (2017) は、過去100年の仕事デザイン研究を振り返り、この20年ほどで組織心理学が、従業員を「仕事デザインを与えられる受け身の存在」としてではなく「自ら変化を起こす主体」として見るようになったと整理しています。
  • この視点に基づく代表的な概念として、以下のようなボトムアップの取り組みが研究されてきました。
  • ジョブ・クラフティング(従業員が自分の仕事内容や人間関係を自ら作り変えること):Wrzesniewski & Dutton (2001)、Tims & Bakker (2010)
  • 個別取引(i-deals:個々の従業員が上司と交渉して得る特別な労働条件):Hornung, Rousseau & Glaser (2009)
  • 組織参入時の職務変更交渉:Ashford & Black (1996)
▼ 見落とされてきた問題:裁量の少ない仕事
  • Hornung, Rousseau, Glaser, Angerer & Weigl (2010) が指摘するように、こうした研究は、多くの仕事には実際には存在しないレベルの裁量や組織的支援を前提にしがちです。
  • 組立ライン、警備、軍務、コールセンター、ファストフード、倉庫作業などは、「何を」「いつ」「誰と」やるかの裁量がほとんどない、台本化され規則に縛られた相互依存的な仕事の典型です。
  • 論文はここに着目し、「それでも、タスクを『どのように』こなすかという自由は残っているのではないか」と問いを立てています。

■ 研究背景2:「遊び」と「仕事」は本当に対立するのか

▼ 歴史的な見方
  • Ford (1922) に代表されるように、遊びは軽薄で非生産的であり、組織の効率を損なうものと見なされてきました。Huizinga (1938) もまた、遊びを仕事とは別のものと位置づける歴史的視点として引かれています。
▼ 構造化された仕事の中にも遊びはある
  • 一方で、Roy (1959) の「バナナ・タイム」研究や Dandridge (1986) の儀式研究は、人々が厳しく制約された仕事の中にも微妙なかたちで遊びを織り込んでいることを示してきました。
▼ 遊びの「情報処理」アプローチ
  • 論文の理論的核になるのが、遊びを情報処理の観点から説明する一連の研究です(Rosch (1978)、Petelczyc, Capezio, Wang, Restubog & Aquino (2018)、Andersen, Kiverstein, Miller & Roepstorff (2023))。
  • この見方の前提は次の通りです。
  • 第1の前提(カテゴリー化):Sandelands (1988) によれば、人がある活動を「仕事」と見なすか「遊び」と見なすかによって、追求する目標、注意を向ける手がかり、適用するルールが変わる。
  • 第2の前提(エナクトメント=行為による現実構成):Mainemelis & Ronson (2006) によれば、ある活動を「遊びであるかのように」振る舞うことで、それに対応する現実が作られ、経験が組織化される。
  • 帰結:Glynn (1994) の実験が示すように、こうした認知と行為のプロセスは、好奇心・粘り強さ・柔軟な調整といった活性化エネルギーを引き出し、パフォーマンスを支える。
  • 関連して、Salancik & Pfeffer (1978) の「社会的情報処理」の考え方(人が取る行動が、何を知覚し何を意味あると見なすかに影響する)、Weick, Sutcliffe & Obstfeld (2005) のセンスメイキング研究も引用されています。
  • 遊びの枠組みで課題に取り組むと、人は関与の可能性を示すポジティブな情報に特に敏感になることが、Cellar & Barrett (1987)、Webster & Martocchio (1992) などの研究で示されています。
  • Glynn (1994) や Sandelands (1988) の実験研究は、活動を遊びとして再解釈するといった小さな手がかりだけで、手段(プロセス)に関する情報の動機づけ的な引力が高まり、内発的動機づけが高まり、行動の仕方を再編成して経験を広げることを示しました。

■ 研究背景3:Playful work design(遊び心ある仕事デザイン)という概念

▼ 概念の定義
  • Playful work design とは、ポジティブな状態を促すために、遊びを仕事活動に能動的に組み込むことを指します(Bakker, Scharp, Breevaart & De Vries (2020)、Scharp, Breevaart, Bakker & Van der Linden (2023))。
  • この概念は、仕事デザイン研究と遊び研究の両方を土台にしています(Scharp et al. (2023))。仕事デザインには、組織によるトップダウンの取り組みと、従業員によるボトムアップの取り組みの両方が含まれます(Parker et al. (2017))。
  • Celestine & Yeo (2021) は職場の遊びを「仕事の文脈で行われ、相互作用的で、楽しむことを目的とした活動」と定義しています。
  • Mainemelis & Ronson (2006) は、仕事から注意をそらす「気晴らしとしての遊び」と、仕事に埋め込まれて注意をタスクに向けさせる遊びを区別しました。Playful work design は後者を能動的に用いるものです。
▼ 2つの次元
  • Huizinga (1938) が示した2種類の遊びが、この概念の次元の基礎になっています(Scharp et al. (2023))。
  • 楽しさのデザイン(designing fun):自発性・ユーモア・空想を特徴とするルーディック(遊戯的)な遊びに基づき、楽しさや喜びを促す。社会的・創造的な性格が強い。
  • 競争のデザイン(designing competition):ルール・競争・挑戦を特徴とするアゴニスティック(競技的)な遊びに基づき、意欲・挑戦・達成感を促す。
  • Hoang & Le (2024) のように両者をまとめて1つの構成概念として扱う研究もありますが、論文は2次元を区別することで異なる効果や交互作用が見えてくる可能性があると述べています。
  • Bakker & Scharp (2025) は、この2次元が従業員の仕事経験を変える異なる方法を表すと整理しており、論文の言う「二重性(duality)」はこれを指しています。

■ 研究背景4:JD-R理論(仕事の要求度-資源理論)

▼ 理論の概要
  • JD-R理論(Bakker, Demerouti & Sanz-Vergel (2023)、Demerouti & Bakker (2026))は、従業員がなぜ・いつ健康で高いパフォーマンスを発揮するかを説明する統合的な仕事デザイン理論です。
  • 中心的な前提は、資源と要求を能動的に最適化すると、ウェルビーイングが改善し、それがパフォーマンスにつながるというものです(「動機づけプロセス」)。
▼ 主要な用語
  • 仕事の資源:動機づけの可能性を持ち、目標達成を助け、成長を促し、要求に伴うコストを減らす仕事の側面(Bakker & Demerouti (2007))。
  • 個人の資源:コントロール感や有能感をもたらす自己の側面(Xanthopoulou, Bakker, Demerouti & Schaufeli (2007))。
  • 仕事の要求:持続的な努力を必要とし、コストを伴う仕事の側面(Demerouti, Bakker, Nachreiner & Schaufeli (2001))。
  • 個人の要求:個人が自分の行動に課す要件で、投資とコストを伴うもの(Barbier, Hansez, Chmiel & Demerouti (2013)、Scharp & Bakker (2025))。
  • 要求が「妨害」ではなく「挑戦」として経験されるとき、動機づけプロセスが起動しうる(Bakker & Demerouti (2017))。
▼ 本論文の理論的統合
  • 論文は、どちらの次元も資源と要求の両方に働きうることを認めつつ(Costantini, Scharp, Avanzi, Van Iperen & Vignoli (2026)、Scharp, Bakker & Breevaart (2022))、楽しさのデザインは主に「資源を増やす戦略」、競争のデザインは主に「挑戦的要求を増やす戦略」として機能すると位置づけました。

■ 研究背景5:ウェルビーイングに関する先行知見

▼ 感情の整理
  • 活性化されたポジティブ感情(興奮、快活さなど)と疲労感は、Russell & Carroll (1999) の活性度と快不快の2軸で整理でき、前者は高活性・快、後者は低活性・不快に位置づけられます(Bakker & Oerlemans (2011))。
▼ 現場研究
  • Scharp et al. (2023) は多様な職種の従業員を対象に、楽しさや競争をデザインする個人は、同僚からより活力・熱意・没頭(ワーク・エンゲイジメント;Schaufeli & Bakker (2022))が高いと評価されることを見出しました。
  • 日誌研究では、楽しさのデザインは自律性やつながりへの感受性と、競争のデザインは自律性に加えて達成機会への注意と結びつくことが示されています(Bakker, Breevaart, Scharp & De Vries (2023)、Scharp et al. (2022))。
  • 一方、疲労との関連は一貫していません。横断研究では結論が出ておらず(Scharp et al. (2023))、時間差をおいた研究では、楽しさのデザインのみが2週間後の疲労を負に予測し、競争のデザインは予測しませんでした(Bakker & Van Wingerden (2021))。論文はこの不一致について、個人間の差を見ているためであり、遊びの揮発的な性質に合うのは個人内の日々の変動だと論じています。
▼ 実験研究
  • Playful work design そのものの実験研究はありませんが、課題を遊びとして取り組むことがポジティブ感情を高め疲労を減らすという推論を支える実験があります(Cellar & Barrett (1987)、Glynn (1994)、Rosch (1978)、Sandelands (1988)、Webster & Martocchio (1992))。
  • Cheng & Wang (2015) は学生対象の2つの実験室研究で、疲労を誘発する課題の後にユーモア動画を見た群は、教育動画を見た統制群より活性化ポジティブ感情が高く、その後の課題でより長く粘ったことを示しました。
  • Hopstaken, van der Linden, Bakker & Kompier (2015) の実験室研究では、長時間の作業の後に明確な報酬を加えると、関与が回復し疲労が減りました。

■ 研究背景6:パフォーマンスへの経路に関する先行知見

  • JD-R理論の動機づけプロセスは、ウェルビーイングの改善がタスク・パフォーマンスにつながることを想定しています(Bakker & Demerouti (2024)、Bakker, Demerouti & Sanz-Vergel (2023))。
  • Csikszentmihalyi (1975) は、退屈や不安を超えて没頭が維持される条件を論じており、Beal, Weiss, Barros & MacDermid (2005) は、タスク・パフォーマンスが部分的に、タスクがどれだけ従業員の興味を引き注意を引きつけるかに依存すると論じました。
  • 遊び心を持って仕事に取り組む個人は、同僚からより優れたパフォーマーと評価されることが示されています(Bakker, Hetland, Olsen, Espevik & De Vries (2020)、Scharp et al. (2023))。
  • 媒介経路については研究が限られていますが(Scharp et al. (2021))、いくつかの知見があります。
  • Urbini et al. (2025):横断研究で、playful work design はフローを介してタスク・パフォーマンスと正の関連。
  • Caracuzzo, Caputo, Callea, Cortese & Urbini (2024):2つの横断研究で、ワーク・エンゲイジメントを介してパフォーマンスと関連したのは競争のデザインのみで、楽しさのデザインは関連せず。
  • Dishon-Berkovits, Bakker & Peters (2024):時間差研究で、競争をデザインした個人は1か月後によりエンゲイジしており、パフォーマンスも高かった。楽しさのデザインについては、退屈を強く感じていた場合にのみ関連が有意。

■ 研究背景7:2つの次元を組み合わせる相乗効果

▼ JD-R理論からの予測
  • JD-R理論の中心命題の一つは、高い挑戦的要求と高い資源が組み合わさった仕事で、従業員のウェルビーイングとパフォーマンスが最も高まるというものです(Bakker, Hakanen, Demerouti & Xanthopoulou (2007)、Breevaart & Bakker (2018))。締切や複雑な問題に直面しつつ、それに対処する資源を持っているときに仕事は特にエンゲイジングになる(Tadic, Bakker & Oerlemans (2015))。
  • JD-R理論の「ブースティング仮説」(Bakker, Demerouti & Sanz-Vergel (2023))は、資源の動機づけ効果が挑戦的要求のもとで増幅されることを示唆します。
▼ ゲームデザインとの共通点
  • Salen & Zimmerman (2003) や Schell (2020) によれば、ボードゲームからビデオゲームまで、ゲームは通常、物語や探索といったルーディックな要素と、目標や挑戦といったアゴニスティックな要素を組み合わせて関与を持続させます。
▼ 組み合わせの効果を示す実験・現場研究
  • Tauer & Harackiewicz (2004) は4つの実験で、協力条件・競争条件・両者の組み合わせ条件を比較し、社会的要素と競争的要素の組み合わせが、純粋な協力や純粋な競争よりも楽しさとパフォーマンスを高めることを示しました。1つの研究では、楽しさがこの効果を部分的に媒介していました。
  • Zacher, Chan, Bakker & Demerouti (2015) の日誌研究では、重要な目標の優先(選択)と資源の投入(最適化)を同日に行うときにワーク・エンゲイジメントが最も高まりました。
  • Seppälä et al. (2020) の時間差研究では、妨害的要求を減らす行動は単独ではエンゲイジメントを下げたものの、挑戦的要求を求める行動と組み合わさると上昇に転じました。
  • Pap, Vîrgă & Lupșa (2022) は、能動的バイタリティ管理と日々のエンゲイジメントの正の関連が、強みを能動的に活用する個人で最も強いことを示しました。
  • 2次元の掛け合わせ効果を検討すべきだという呼びかけも出ています(Bakker & Junker (2025)、Bakker & Scharp (2025)、Scharp et al. (2022))。

■ 研究背景8:先行研究に残されていた課題と、本研究が目指したこと

  • 遊びの理論化の不足:Van Vleet & Feeney (2015) が指摘するように、既存の枠組みは遊びの快楽的な性質や資源調整の役割を強調する一方、認知的・感情的メカニズムを十分に明示していませんでした。Petelczyc et al. (2018) や Proyer & Sendatzki (2026) は、より理論駆動的な説明を求めています。
  • ポジティブ側への偏り:Celestine & Yeo (2021) によれば、既存研究は説明変数としてポジティブな構成概念に偏っており、疲労との関連の証拠は一貫していませんでした(Bakker & Van Wingerden (2021)、Scharp et al. (2023))。
  • 2次元の統合的検討の不足:多くの研究は playful work design を単一次元として、あるいは2つの独立した次元として扱ってきました(Chen & Choi (2025)、Tăbîrță & Vîrgă (2025))。
  • 裁量の職種差:Morgeson & Humphrey (2006) が示すように、裁量が何を意味するかは職種により大きく異なります。
  • 日々の変動:情報処理は個人内で日々揺れ動くため、個人間の比較だけでなく個人内の変動を捉える設計が必要とされます。
  • こうした課題に応えるため、本論文は、Grant (2008) の消防士研究や Bass, Avolio, Jung & Berson (2003) のリーダーシップ研究のように特定の現場を選んで広い職業への示唆を得るアプローチにならい、高度に構造化された帆船上の海軍士官候補生という設定で、20日間の日誌研究を行いました。
補足 4

【研究内容】

■ この研究のねらい

▼ 問題意識:「何を・いつ・誰と」は選べなくても「どうやるか」は選べる
  • 組織心理学ではこの20年、従業員を「仕事を与えられるだけの存在」ではなく「自ら仕事を変えていく主体」とみなす流れが強まっています(ジョブ・クラフティングなど)。
  • ただし、こうした研究の多くは、従業員にある程度の裁量や組織の支援があることを前提にしています。工場のライン作業、警備、軍務、コールセンター、倉庫作業などは、タスク・時間・一緒に働く相手のいずれも細かく決められていて、裁量はごくわずかです。
  • それでも、課題を「どのように受け止め、どのように実行するか」には自由が残っている、というのがこの論文の出発点です。
▼ 中心概念:プレイフル・ワーク・デザイン(playful work design, PWD)
  • PWDとは、従業員が自分から仕事に「遊び」の要素を取り込み、ポジティブな状態を生み出そうとする行動を指します(Bakker, Scharp, et al., 2020; Scharp et al., 2023)。
  • PWDには2つの次元があります(Bakker & Scharp, 2025)。
  • 「楽しさのデザイン(designing fun)」:ユーモア、自発性、空想などを使って仕事を楽しくすること。例として、何時間も続く帆船の重労働に合わせて歌を歌う、など。
  • 「競争のデザイン(designing competition)」:ルールや小さな目標、自分との競争を設定して、挑戦や達成感を生み出すこと。例として、マストに登るときに自分の心拍を落ち着かせることを小さな目標にする、など。
  • 論文タイトルの「二重性(duality)」は、主にこの2次元構造を指しています。
▼ 理論的な枠組み:情報処理の視点 × JD-R理論
  • 遊びの情報処理的な見方:人がある活動を「仕事」とみなすか「遊び」とみなすかで、追う目標・注意を向ける手がかり・適用するルールが変わる、という考え方です。遊びとして振る舞う(enactment)と、それに対応した現実が立ち上がり、好奇心・粘り強さ・柔軟な調整といった活性化エネルギーが動員されるとされます(Sandelands, 1988; Glynn, 1994; Mainemelis & Ronson, 2006)。
  • JD-R理論(Job Demands-Resources理論):仕事の「要求(demands:努力を要しコストを伴う側面)」と「資源(resources:動機づけや目標達成を助ける側面)」のバランスから、従業員の健康と業績を説明する理論です(Bakker, Demerouti et al., 2023)。要求のうち「挑戦」と感じられるものは、動機づけを高める方向に働くとされます。
  • 著者らの統合的主張:
  • 楽しさのデザインは、主に「資源を増やす」戦略(社会的支援、変化、フィードバック、自己効力感などに気づき、育てる)。
  • 競争のデザインは、主に「挑戦的要求を増やす」戦略(進捗の指標、自分なりのルール、熟達への意欲などを生む)。
  • 両者は概念的には別物ですが、機能的には補い合う関係にあり、同時に使うと相乗効果が出る可能性がある、と論じます(JD-R理論の「ブースティング仮説」:資源と挑戦的要求が両方高いときに動機づけが最大化する、という命題に基づく)。

■ 仮説

  • 仮説1:その日の「楽しさのデザイン」が多いほど、(a) 活性化されたポジティブ感情(熱意・刺激・興奮など、覚醒度が高く快い感情)が高く、(b) 疲弊(emotional exhaustion、消耗感)が低い。
  • 仮説2:その日の「競争のデザイン」が多いほど、(a) 活性化ポジティブ感情が高く、(b) 疲弊が低い。
  • 仮説3:楽しさのデザインは、(a) 活性化ポジティブ感情の増加、(b) 疲弊の減少を介して、その日の課題遂行(task performance)と間接的に関連する。
  • 仮説4:競争のデザインについても同様の間接的関連がある。
  • 仮説5:競争のデザインは、楽しさのデザインと活性化ポジティブ感情・疲弊との関連を増幅し、結果として課題遂行への間接的関連も強める。

■ 方法

▼ 調査対象と場面
  • ノルウェー王立海軍士官学校の士官候補生63名に協力を依頼し、全員が参加に同意しました。
  • 候補生は指導者訓練の一環として、北欧から北米へ向かう11週間の帆船航海に参加しており、調査はその航海中(2020年1〜2月、欧州でのCOVID-19流行の直前)に行われました。
  • 船上の作業(帆走操作、安全訓練、整備、航海、リギング登り、講義、甲板清掃、夜間当直など)は4時間交代で組まれており、高度に構造化され、ときに反復的で単調です。「裁量の少ない仕事」で課題レベルの工夫を調べるのに適した場面と位置づけられています。
  • 調査は20日連続、毎日17時の夕食前に紙の短い質問紙で実施されました。20日中10日未満しか回答しなかった6名を除外し、最終サンプルは57名。日レベルの観測数は1,046(1,140回中、回答率91.8%)です。
  • 男性44名(77.2%)、年齢は19〜26歳(平均21.5歳)。
  • 倫理面:大学の規定上、個人データや健康情報を扱わないため正式な倫理審査は不要とされましたが、同意書と質問紙はノルウェー研究データセンターに登録・承認され、ノルウェー軍の倫理委員会からも承認を得ています。
▼ 測定(すべて1〜5点の5件法)
  • PWD:Scharp et al.(2019; 2023)の日次尺度。楽しさのデザイン6項目(例:「今日、関わる全員にとって課題をもっと楽しくする方法を探した」)、競争のデザイン6項目(例:「今日、仕事を一連のわくわくする挑戦として取り組んだ」)。
  • 活性化ポジティブ感情:IWP感情質問紙(Warr & Parker, 2010)から「熱意がある」「刺激を受けている」「興奮している」の3形容詞。個人内レベルの信頼性(ω=0.55)は低めで、著者らはこれを「効果が過小評価される方向に働く」と注記しています。なお日ごとのα係数は、2日目(0.18)を除けば0.74〜0.89で、平均0.80でした。
  • 疲弊:オルデンブルク・バーンアウト尺度(Demerouti et al., 2010)の疲弊下位尺度から3項目(例:「今日、仕事で感情的に消耗したと感じた」)。
  • 課題遂行:Goodman & Svyantek(1999)の尺度を調整した4項目(例:「今日、与えられた目標を達成した」)。自己評定です。
▼ 分析
  • 20日分の日データ(レベル1)が個人(レベル2)に入れ子になった2水準データとして、Mplus 7.4でマルチレベル構造方程式モデリングを行いました。
  • 予測変数は個人平均中心化(person-mean centering:各人の平均からのズレを使う)し、個人内の日々の変動に焦点を当てています。
  • 結果変数の前日の値(自己回帰効果)を統制しているため、係数は「活性化ポジティブ感情・疲弊・課題遂行の変化」を表すものと解釈されます。
  • 間接効果の信頼区間はモンテカルロ・シミュレーションで推定し、交互作用については単純傾斜分析(±1SDでの傾き検定)を行いました。
  • 確認的因子分析では、PWDを2次元に分けた5因子モデルの方が、1因子にまとめた4因子モデルよりも適合が有意に良く(Δχ²=436.38, Δdf=8, p<0.001)、2次元に分ける妥当性が支持されました。
  • 級内相関(ICC)は、活性化ポジティブ感情0.50、疲弊0.51、課題遂行0.27で、日レベルの説明すべき分散が十分にあることが確認されました。

■ 結果

▼ モデル全体
  • 仮説モデルの適合は良好でした(CFI=0.98, TLI=0.95, RMSEA=0.022)。
  • PWDから課題遂行への直接パスを追加した代替モデルも適合は良かったものの、追加パスはいずれも有意ではなく、適合の改善もありませんでした。つまり、PWDと課題遂行の関連は、ポジティブ感情・疲弊を介した間接的なものとして記述するのが妥当という結果です。
▼ 仮説1・2:PWDと、その日の感情・疲弊
  • 楽しさのデザインは、活性化ポジティブ感情と正の関連(β=0.21)、疲弊と負の関連(β=−0.14)を示しました(いずれもp<0.001)。普段より楽しさをデザインした日には、より熱意・刺激・興奮を感じ、疲弊が少ないと報告されています。→仮説1は支持。
  • 競争のデザインは、活性化ポジティブ感情と正の関連(β=0.18, p<0.001)を示しましたが、疲弊との関連は有意ではありませんでした(β=−0.02)。→仮説2aは支持、2bは不支持。
  • 補足として個人間レベルでは、競争のデザインを頻繁に行う人ほど全体的に活性化ポジティブ感情が高い傾向(β=0.53)がありました。疲弊との個人間関連は正の方向でしたが有意水準には達せず(β=0.28, p=0.054)、結論は出せないとされています。
▼ 仮説3・4:課題遂行への間接的関連
  • 楽しさのデザイン→活性化ポジティブ感情→課題遂行の間接関連は有意(標準化β=0.022)。楽しさのデザイン→疲弊→課題遂行の間接関連も有意(β=0.010, p=0.044)。→仮説3は支持。
  • 競争のデザイン→活性化ポジティブ感情→課題遂行は有意(β=0.019)でしたが、疲弊を介した経路は有意ではありませんでした(β=0.001)。→仮説4aは支持、4bは不支持。
  • 媒介変数と課題遂行の関連は、活性化ポジティブ感情が正(β=0.13)、疲弊が負(β=−0.08)でした。
▼ 仮説5:2つの次元の相乗効果
  • 活性化ポジティブ感情に対する「楽しさ×競争」の交互作用は有意に正(β=0.11, p<0.001)でした。単純傾斜分析では、楽しさのデザインと活性化ポジティブ感情の関連は、競争のデザインが多い日(+1SD:b=0.359)の方が、少ない日(−1SD:b=0.151)より強くなっていました。課題遂行への間接関連も、競争が多い日(ab=0.034)の方が少ない日(ab=0.010)より大きい結果でした。→仮説5aは支持。
  • 疲弊に対する交互作用も有意(β=−0.09, p=0.005)でした。楽しさのデザインと疲弊の負の関連は、競争のデザインが多い日には有意(b=−0.252)でしたが、少ない日には有意ではありませんでした(b=−0.086, p=0.090)。疲弊を介した課題遂行への間接関連も、競争が多い日にのみ見られました(ab=0.021 vs 0.004)。→仮説5bも支持。
  • まとめると、「楽しさ」と「競争」を同じ日に組み合わせて使った場合に、ポジティブ感情の高まりと疲弊の低さが特に顕著で、それを介して自己評定の課題遂行とも関連していました。
▼ 補足分析
  • 予測変数と調整変数を入れ替えて(競争のデザインを主、楽しさのデザインを調整役に)分析しても、楽しさのデザインが多い日には、競争のデザインがポジティブ感情(ab=0.030)と疲弊(ab=0.020)を介して課題遂行と関連する一方、楽しさのデザインが少ない日にはどちらの間接関連も有意ではありませんでした。競争のデザインの動機づけ効果は、楽しさのデザインがあってこそ発揮される、という解釈が補強されています。
  • 曜日効果を統制しても、主要な推定値は実質的に変わりませんでした。
  • 翌日以降への持ち越し(ラグ)モデルは適合が悪く(CFI=0.81, TLI=0.57, RMSEA=0.065)、全体としては支持されませんでした。個別のパスでは、楽しさのデザインが翌日のポジティブ感情と正の関連(β=0.08)、疲弊が翌日の課題遂行と負の関連(β=−0.07)を示した一方、「楽しさ×競争」の交互作用は翌日のポジティブ感情に対して予想と逆の負の関連(β=−0.08)を示しました。
  • 著者らはこれを、PWDと感情・遂行をつなぐ過程は主に「その日のうち」に働くもので、日をまたいで直線的に蓄積するものではない、と解釈しています。

■ 考察

▼ 理論的な貢献
  • 第一に、遊びの情報処理的な見方をJD-R理論の動機づけプロセスに組み込みました。資源(自律性、支援など)が要求を上回る、あるいはワーク・エンゲイジメントが高い状態では注意の幅が広がり、課題を遊びとして読み替えやすくなる。読み替えが実行されると、内発的動機づけ・ポジティブ感情・学習機会・つながりといった新たな資源が生まれ、それがさらにエンゲイジメントを高める、という「利得スパイラル」の中にPWDを位置づけています。同時に、遊びの読み替えは新奇性に依存するため慣れると効果が薄れうる、という持続性の限界も示唆しています(この部分は著者らの理論的解釈であり、本研究で直接検証されたものではありません)。
  • 第二に、「遊びは生産性を損なう」という古い見方(Ford, 1922)に対し、2つの経路を示しました。両次元ともその日の活性化ポジティブ感情と関連していましたが、疲弊との負の関連は楽しさのデザインにのみ見られ、競争のデザインには見られませんでした。著者らはこれを、楽しさのデザインには「守り」の機能もあるが、競争のデザインは「活性化」が中心、という差として整理しています。
  • 第三に、2次元を別々に扱ってきた先行研究に対し、同時に用いたときに固有の分散を説明することを示しました。これは、挑戦的要求が多いほど資源の動機づけ効果が強まる、というJD-R理論の命題(Breevaart & Bakker, 2018)と整合的です。ただし、競争が楽しさの効果を増幅する「具体的な心理メカニズム」(目標の顕在化、覚醒の高まり、フィードバックの明確化など)は本研究では特定できておらず、交互作用は「重要な経験的パターン」として慎重に解釈すべきだとしています。
▼ 実践的な示唆
  • 管理者は仕事中の遊びを「不真面目」と決めつけず、仕事の「やり方」についての決定権を従業員に与えることが望ましい。Khan(2023)の研究では、リーダーが自律性を支援しているときに従業員の好奇心がPWD行動に結びつきやすかったとされています。
  • PWDはボトムアップの職務再設計戦略として、トップダウンの施策を補完しうる。PWD尺度で「よく遊びをデザインしている人」を見つけ、その具体例を集めて組織に合った研修を作る、という手順が提案されています。
  • 組織が物語やリアルタイムのフィードバックなどで課題をゲーム化することもできるが、一方的に押しつけられた遊びは遊びの本質を損ない、冷笑や抵抗を招きうる(Fleming, 2005)。
  • 競争のデザインは、自発的で、自分自身を基準にし、個人の向上に焦点を当てたものである場合に有益と考えられ、対人間の過度な競争は協働を損ないうる(Garcia et al., 2013)。
▼ 限界と今後の課題
  • 活性化ポジティブ感情の個人内信頼性が低め(ω=0.55)。ダイアリー研究では測定の不安定さは効果を過小評価する方向に働くとされますが(Cranford et al., 2006)、精度の限界はあり、項目数を増やすか1日複数回測定することが提案されています。
  • 海軍士官候補生という特殊な集団。内的妥当性は高まる一方、民間の職場への一般化には注意が必要です。著者らは、この知見が特に当てはまりそうな場面として、裁量が少なく構造化が強い、要求が高く相互依存的な仕事(軍、救急、航空乗務員、研修医、エリート競技者など)を挙げています。逆に資源が豊富で適度に挑戦的な仕事では、2次元の相乗効果は出にくいかもしれない、とも述べています。
  • すべて自己報告。個人平均中心化や交互作用効果の検出は共通方法バイアスの懸念をある程度和らげるものの、課題遂行は「知覚された遂行」として解釈すべきで、上司評定・同僚評定・客観指標での再検証が必要です。
  • 前日の値を統制して「変化」を見てはいますが、因果関係の主張はできない設計です。遊びの因果効果を示した実験研究(Glynn, 1994; Sandelands, 1988; Costantini et al., 2025)を補完する位置づけとされています。
  • ラグ分析の結果から、PWDの効果は日をまたいで蓄積するというより、その日のうちに完結する一時的・状態的なものである可能性が示唆されています。どのような条件で持ち越しが起きるのかは今後の課題です。
  • 参加者が1日の中でどの作業にどれだけ時間を使ったかは測っていないため、課題の種類によって効果が異なるかは不明です。日再構成法(Kahneman et al., 2004)などを組み合わせた研究が提案されています。

■ 結論

  • 裁量の少ない仕事であっても、従業員は「どう取り組むか」を工夫することで、その日の自分のウェルビーイングと知覚された課題遂行を支えうる、というのが本研究の示唆です。
  • 「楽しくする」ことと「挑戦にする」ことは別の戦略ですが、同じ日に組み合わせたときにポジティブ感情の高まりと疲弊の低さが特に顕著でした。
  • ただしこれらは20日間の日次データに基づく個人内の関連であり、因果の証明ではない点、対象が海軍士官候補生に限られる点、課題遂行が自己評定である点には留意が必要です。
補足 5

動画解説はこちら😊
https://youtu.be/rcy7nOC7MCk

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