2026.10.08

ストレスを「敵」と思うか「味方」と思うかで、心の疲れ方が変わる

先生のストレスとメンタルについての、中国の最新研究
小中高の先生1,082人のデータから調査頂きました。

先生の研究ですが、職場全般に当てはまりそうです。


「ストレスは役に立つ」と思っているか、
「ストレスは害でしかない」と思っているか。
この考え方の違い(ストレスマインドセット)が、
先生の落ち込み・不安・イライラ(心理的苦痛)と

どう関係しているかを調査。


結果としては、
「ストレスは役に立つ」と考えている先生ほど、

心理的苦痛が少なかった。


で、
「ストレスは役に立つ」と思っている先生は、
①「自分の未来は自分で動かせる」という感覚が高まる
②燃え尽き(バーンアウト)が少ない

という2つを経由して、心が守られていた。


しかも、
考え方 → 心の苦痛
という直接の効果はほぼゼロで、
考え方 → 未来を動かせる感覚 → 燃え尽きにくい → 心が楽

という間接的な効果で、ほぼ全部説明できてしまった。


ストレスは気持ちの問題だよ理論は、昭和味があるのですが、他の研究でも言われています。
(ただ、もちろん、睡眠が取れないとかの実害は避けた方が良いですし、ストレスフル過ぎるのも良くない。)

10年前の本ですが、ケリー・マクゴニガル先生のスタンフォードのストレスを力に変える教科書 とかにも詳しいですね😊


あと、企業でのストレス対策の課題として、
会社を挙げてストレスを下げようとすると、どうしてもストレスは悪いもの、という印象がついてしまうんですよね・・・
とはいえ、ストレスを下げようという試み自体は悪くないので難しい所。

会社全体としてはストレスを下げようとしつつ、個人ではストレスは成長の機会だ!と捉える感じが良いですかね。


要は、一定までのストレスは気持ち次第で良いものに出来る。
でも、一定は超えないようにした方が良いね。
あと、ストレスが自分の裁量で乗り越えられるなら有益だが、コントロール出来ないストレスはダメージが来る。
という感じ。

筋肉と一緒ですね😊


※参考_ストレスは気持ちの問題系の研究
Keller et al. (2012) :米国約18.6万人の追跡で、ストレスが多く「かつ」ストレスを有害だと信じている人だけ死亡リスクが43%高く、ストレスが多くても有害と信じていない人はリスクが上がっていなかった。
Nabi et al. (2013) :英国Whitehall II研究でも、ストレスが健康に影響していると感じている人は冠動脈疾患リスクが(そうでない人の)約2倍。

Bosshard & Gomez (2024) :RCTメタ分析では、ストレス再評価と「ストレスは役に立つ」マインドセット介入のパフォーマンス改善効果はd = 0.23と、効果はある。が小さい。


Stress Mindset and Psychological Distress in Primary and Secondary School Teachers: The Serial Mediating Role of Future Control and Burnout
小中高教員におけるストレスマインドセットと心理的苦痛:未来統制感とバーンアウトの直列媒介の役割
Xinwei Bei(海南師範大学、中国)ほか
Healthcare, 2026/9/22
https://doi.org/10.3390/healthcare14193137

教員の心を護る「ストレス成長マインドセット」: バーンアウトを防ぐ心理的メカニズム 教員の約2割が抱える つらい状況と葛藤 小中学校教員の18~20%に 抑うつ傾向、15~19%に不安症状 苦悩を和らげる連続プロセス(シリアル・メディテーション) 「現状のコントロール(Future Control)」の向上 試験を複数と捉えることで、自ら得来を切り拓くという種播が高まります 「ストレス=成長の機会」と捉える マインドセットの保護効果 ストレス成長マインドセットを持つ教員は、 心理的苦悩やバーンアウトが少ない傾向 「ストレス成長 マインドセット」 (説き及き探検験)の抑制 未来への就連がおこなことで喜動の怖怖 を減ら、情緒的疲労を削ぎます 完全媒介による 心理的苦痛の軽減 コントロール感覚確認により、 ストレスコントロール機能上とレジリエント 予防も社で苦痛を減らします ストレスは「敵」か「味方」か? 教員のメンタルヘルスを守る 「ストレス・マインドセット」の 連鎖メカニズム 中国の小中高教員1,082名を対象とした研究に基づく Genius Notebook 深刻化する教員の 心理的苦痛 18.3%~20.1% 抑うつ症状を抱える教員の割合 14.7%~18.9% 不安症状を抱える教員の割合 教育改革と業務の高度化により、教員のメンタルヘルスは限界を迎えている。 この悪性的な悪弊を防ぐ「心理的資源」の特定が急務となっている。 Gemma Notebook ストレスに対する2つの 「思い込み(マインドセット)」 脅威・有害 (Stress-is-debilitating) 促進・有益 (Stress-is-enhancing) 「ストレスは健康と パフォーマンスを損なう」 「ストレスは学習と 成長を促進する」 結果:受動的な忍耐、思考の 反射、心理的苦痛の悪化 結果:積極的な対処、 機会の探索、活力の向上 ストレスそのものではなく、ストレスを「どう捉えるか」が 私たちの心身の反応を決定づける。 Gemba Notebook ポジティブに考えれば、 それだけで苦痛は消えるのか? 「ストレスは有益」 という思考 「心の健康 (苦痛の軽減)」 1,082名の教員を対象とした大規模調査は、思考と結果の間にある「隠された心理的プロセス」を解明した。単なるポジティブ思考の魔法ではなく、心の中で起こる連鎖的なメカニズムが存在する。 メンタルヘルスを左右する 4つの心理的要素 ストレス・ マインドセット ストレスを有益なものと 解釈する認知。 将来への統制感 自分の未来を自らコントロールし、 形作ることができるという信念。 バーンアウト 慢性的なストレスによる 感情の枯渇と冷笑主義。 心理的苦痛 抑うつ、不安、ストレス症状。 心の中で起きる「ドミノ倒し」 マインドセット ▶ 将来への結縛感 ▶ バーンアウト軽減 ▶ 心理的苦痛の緩和 ストレスに対する前向きな態度は、直接的に苦痛を和らげるわけではない。 それは、心を守るための「連鎖反応」を引き起こす最初のスイッチに過ぎない。 (ロゴ)Genius Notebook ステップ1:ストレスを「槓」と捉えると、 未来のコントロール感が生まれる ストレスを成長の機会だと信じる教員は、 困難に直面しても「自分なら対処できる」 「自分の力で未来を切り拓ける」 という強い確信(将来への統制感)を 持ちやすくなる。 相関係数 r = 0.36 思考の変化が、未来への 主導権を取り戻す。 Gensus Notebook ステップ2:未来への希望が、 燃え尽き(バーンアウト)を防ぐ 未来をコントロールできるという感覚を持つ と、人は問題から逃げるのではなく、積極的に 解決策を探るようになる(プロアクティブな 対処)。これにより、貴重な心理的エネルギー の枯渇を防ぎ、冷笑主義に陥るのを防ぐ。 β=-1.01 コントロール感がバーンアウトを 強力に抑制する。 Genersis Notebooks ステップ3:バーンアウトの回避が、最終的な心の不調を食い止める 感情の枯渇やりかいの喪失(バーンアウト)を回避することで、抑うつや強い不安といった深刻な心理的苦痛(Psychological Distress)の症状を有意に抑え込むことができる。 β=0.32 バーンアウトと苦痛は直結している。だからこそ、手前で食い止めることが重要。 Gemma's Notebook 完全なメカニズム:心を守る「連鎖」 A ストレスは有益 +促進 (0.36) B 将来への統制感 -抑制 (-1.01) C バーンアウト +直結 (0.32) D 心理的苦痛 効果なし(-0.010) 「ただポジティブになれ」というアドバイスが間違っている理由 驚くべきことに、将来への統制感とバーンアウトを考慮に入れた場合、マインドセットが直接的に マインドセットが直接的に苦痛を和らげる効果は「ゼロ(有意差なし)」になった(β=-0.010)。 つまり、行動や主体性(コントロール感)を伴わない「空虚なポジティブ思考」には、メンタルヘルスを守る効果はない。プロセス全体を回すことが不可欠である。 あなたはどちらのサイクルにいますか? 悪循環のサイクル ストレスは有害 「自分にはどうにもできない」(無力感) 感情の枯渇(バーンアウト) 深刻な心の不調 好循環のサイクル 心の回復力(レジリエンス) 心理的資源の維持 「自分なら対処できる!」(統制感) ストレスは成長の機会 心理学の「資源保存理論(COR理論)」が示唆し、豊かな心理的資源はこちらある資源を生み出します。 ©Gonnos Notebook 教育現場での実践: どうすれば教員を守れるか? 1. マインドセットの転換 「ストレスを飾」という認識 を覆す研修の導入。 因難を成 長の機会として再評価する フレームワークの提供。 2. 裁量権の拡大(最重要) 教員の裁量権と自律性の拡大 。業務において「自分でコン トロールできる」範囲を具体 的に増やし、無力感を防ぐ。 3. 早期の感知システム 抱うつ状態に陥る前の「バー ンアウト(感情の枯渇)」 の兆候を早期に感知し、介入 するシステムの構築。 Gennai Notebook 私たちが今日からできること 脳ナな業務や困難な状況に直面したとき、パニックに陥るのではなく、自分にこう問いかけてみてください。 「この強いストレスは、私にどんな新しいスキルを身につけさせようとしているのか?」 この問いかけこそが、心を守るドミノを倒す最初の一押し(マインドセットの転換)となります。 Gemäss Notebooks ストレスの解釈を変えることは、 未来の自分をコントロールすること。 強い心とは、ストレスを完全に避ける心ではなく、 ストレスを「未来を切り拓くエネルギー」へ変換できる心である。 出原:Stress Mindset and Psychological Distress in Primary and Secondary School Teachers (2026)
投稿者による補足(4件)
補足 1

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:「ストレス=悪者」と決めつける前に
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-08-1791398581/

補足 2

【研究背景】

■ この研究の背景:教師のメンタルヘルスはなぜ問題なのか

▼ 中国の小中学校教師が置かれている状況
  • 教育改革が進む中で、中国の小中学校教師は役割上の要求や職業ストレスが増し、メンタルヘルスへの悪影響が報告されています(Shao et al., 2025)。
  • ここで言う「心理的苦痛(psychological distress)」とは、特定のストレッサー(ストレスの原因)に対して個人が感じる独特の不快感・感情状態で、一時的または恒久的な害をもたらすものと定義されます(Ridner, 2004;Li, Wu & Wu, 2022)。具体的には、抑うつ・不安・ストレスの症状を含みます(Zhu et al., 2022;Lovibond & Lovibond, 1995)。
  • 疫学データでは、抑うつ症状の有病率は小学校教師で18.3%、中学・高校教師で20.1%、不安症状はそれぞれ14.7%、18.9%と報告されています(Huang, Jin & Yu, 2024;Yu, Huang & Yu, 2024)。
  • 教師の苦痛は本人だけでなく生徒にも影響するとされ(Beames et al., 2023)、教師のバーンアウト(燃え尽き)はウェルビーイングの低下や離職意向の高さと関連することがメタ分析で示されています(Madigan & Kim, 2021)。
  • こうした点から、教師のウェルビーイングを支える心理的資源を見つけることが研究上の優先課題になっています。

■ 鍵となる概念①:ストレスマインドセット

▼ 「ストレスは有害」という見方への問い直し
  • ストレスは一般にも学術的にも有害なものと見なされてきましたが、人生の重要で意味ある経験の多くは必然的にストレスを伴います。
  • 「ストレスマインドセット」とは、ストレスが自分を高めるものか、損なうものかについての個人の信念のことです。
  • 「ストレスは高めてくれる(stress-is-enhancing)」というマインドセットが強い人は、ストレスがパフォーマンス・健康・ウェルビーイング・学習を促進すると信じています(Crum, Jamieson & Akinola, 2020)。そうした人は、健康状態が良く、抑うつ・不安症状が少なく、エネルギーレベルが高いと報告する傾向があります(Crum, Salovey & Achor, 2013)。
  • 逆に「ストレスは損なう(stress-is-debilitating)」というマインドセットが強い人は、ストレッサーに直面したときに、より深刻な心理的苦痛を経験しやすいとされます(Wu et al., 2022)。
  • 青年期の研究では、ストレスを高めるものと見る態度(ユーストレス)がメンタルヘルスと有意に関連し(Saini et al., 2024)、ネガティブなライフイベントと抑うつ症状の関係を弱める可能性が示されています(Jiang et al., 2019)。
  • これらから、「ストレスは高めてくれる」マインドセットが、反すう(くよくよ考え続けること)や心理的苦痛を減らすことでメンタルヘルスを守る可能性が考えられています(Crum, Salovey & Achor, 2013)。
▼ 職業健康心理学における位置づけ
  • 職業健康心理学では、このマインドセットは、仕事のストレス下でメンタルヘルスを守る重要な認知的資源と見なされています。
  • 中国の教師を対象とした研究では、ワーク・ファミリー・コンフリクト(仕事と家庭の葛藤)が希望に与える悪影響を緩和し、バーンアウトのリスクを下げることが示されています(Li et al., 2026)。
  • また、時間資源の不足感を和らげることで、教師の心身の健康を守る可能性も指摘されています(Sun, Niu & Liu, 2026)。
  • ストレスマインドセット理論によれば、このマインドセットを持つ人は課題を機会と捉える傾向があり、目標計画や資源配分の能力が高いとされます。ただし、教師においてこのマインドセットが資源に関わる仕組みを通じてどのように心理的苦痛を減らすのかは、複数の指標を用いた体系的研究が少なく、十分に検討されていません(Crum et al., 2017)。

■ 鍵となる概念②:未来コントロール感

▼ 未来コントロール感とは
  • 「未来コントロール感(future control)」とは、自分の発達の軌跡や将来の結果について、自分で左右できるという主観的信念のことで、重要なレジリエンス(回復力)資源と見なされています(Zhang et al., 2009)。
  • 未来コントロール感が高い人は、自分の進む方向を能動的に形作れると信じ、ストレスに直面しても前向きで合理的な態度で課題に臨み、経験から適応や成長を引き出す傾向があるとされます。
▼ コントロール感とメンタルヘルスに関する先行研究
  • コントロール感が高いほどメンタルヘルスの症状が少なく、主観的なコントロール感を高めることがストレスの悪影響を緩衝し、コントロール感の高さが特性不安や抑うつ症状の低さと関連することが示されています(Fielder et al., 2026)。
  • 未来に選択肢がなく、曖昧でネガティブだと感じると、不確実性への心配が増え、抑うつ・不安・ストレスのリスクが高まります(Allemand, Olaru & Hill, 2025)。
  • 縦断研究では、青年期の肯定的な未来認識とコントロール感が、成人期の抑うつ症状の低さを有意に予測していました(Allemand, Fend & Hill, 2022)。
  • 一方で、小中学校教師において未来コントロール感がメンタルヘルスの保護要因として働くかどうかは、体系的に検討されていませんでした。

■ 鍵となる概念③:バーンアウト

▼ バーンアウトの定義と影響
  • バーンアウトは、職場での慢性的なストレスへの不適応的反応で、長期にわたる情緒的・対人的な負担が特徴です。「情緒的消耗感」「シニシズム(冷笑的態度)」「効力感の低下」の3次元にまとめられます(Maslach & Jackson, 1981)。
  • 世界的に見ても、バーンアウトは教師の健康へのリスクであり、心身のウェルビーイング悪化の主要な危険因子とされます(Agyapong et al., 2022)。
  • バーンアウトした教師は生徒に時間とエネルギーを注ぐ意欲が下がり、生徒の発達に悪影響を及ぼす可能性があります(Carroll, Hepburn & Bower, 2022)。
▼ ストレスマインドセットとバーンアウトの関係
  • バーンアウトは仕事ストレスの負の結果であり、「ストレスは高めてくれる」マインドセットはバーンアウト予防の潜在的資源と考えられています(Zhou, Jin & Zhang, 2024)。
  • 実証研究では、このマインドセットが小中学校教師におけるワーク・ファミリー・コンフリクトの希望への悪影響を緩衝し、バーンアウトを低くすることにつながることが示されています(Li et al., 2026)。
  • 資源保存理論(conservation of resources theory)によれば、人は価値ある資源を獲得・維持・保護しようと努め、資源の喪失や獲得不足が心理的負担につながります(Hobfoll, 1989)。この観点から、このマインドセットはストレスを脅威ではなく成長の機会と捉えさせ、他の個人的資源の動員と蓄積を促す適応的な心理的資源と考えられます。
  • 課題に正面から向き合う能動的な対処スタイルは、バーンアウトの低さと関連しています(Maslach, Schaufeli & Leiter, 2001)。
  • 学校教師において、ストレスを高めるものと見ることがバーンアウトの低さを予測することも報告されています(Madigan et al., 2023)。
▼ バーンアウトと心理的苦痛の関係
  • バーンアウトは、抑うつ・不安症状を含む心理的苦痛と有意に関連することが示されています(Koutsimani, Montgomery & Georganta, 2019;Sun et al., 2022)。
  • 教師では、バーンアウトの高さがメンタルヘルスの悪化や心理的ウェルビーイングの低下と一貫して結びついており、近年のシステマティックレビューも教師のバーンアウトを重要な職業健康上の問題として位置づけています(Beames et al., 2023;Agyapong et al., 2022)。

■ 概念をつなぐ視点:未来コントロール感→バーンアウトという流れ

▼ 未来コントロール感と資源の保存
  • 未来の生活を管理し目標を達成できるという信念としての未来コントロール感は、ストレス下で中核的な資源の蓄えを維持し、資源の枯渇を防ぐ助けになるとされます(Glass & McKnight, 1996;Portoghese et al., 2017)。
  • 未来コントロール感が高い人はストレス下でより能動的な対処方略を取り、それがバーンアウトや心理的苦痛の低減につながるとされます(Song, Bao & He, 2013)。
  • 逆に未来志向の欠如は長期目標の追求を弱めてバーンアウトを増やし、未来志向の特性を持つ人は目標計画と実行を通じてネガティブ感情を調整し、バーンアウトのリスクを減らすのが上手いとされます(Hong, 2025)。
▼ 仕事のコントロール感に関する知見
  • 仕事におけるコントロール感(work control)は、不利な職場環境から個人を守り、高い職務要求による心理的負担を緩衝します。自律性の知覚が強いほど、仕事のコントロール感は情緒的消耗感や脱人格化をより効果的に減らします(Fernet, Guay & Senécal, 2004)。
  • この知見を踏まえ、教師が将来の仕事の結果に対して感じるコントロール感は、バーンアウトを和らげる鍵となる心理的資源である可能性が考えられます。
▼ 共変量としての年齢・性別
  • 教師の心理的苦痛、ストレス関連経験、バーンアウトには人口統計学的な差があると報告されているため(He et al., 2025)、年齢と性別は分析で統制する変数として位置づけられています。

■ 背景のまとめ:この研究が埋めようとしたギャップ

  • 「ストレスは高めてくれる」マインドセットが心理的苦痛の低さやバーンアウトの低さと関連することは、主に大学生や青年のサンプルで示されてきました(Wu et al., 2022)。
  • 一方、慢性的に高いストレスにさらされる教師において、このマインドセットがどのような心理的プロセス(未来コントロール感、バーンアウト)を経て心理的苦痛と関連するのかは、十分に検討されていませんでした。
  • 本研究は資源保存理論(Hobfoll, 1989)に依拠し、「ストレスは高めてくれる」マインドセット → 未来コントロール感 → バーンアウト → 心理的苦痛という連続的な間接経路を仮説として立て、中国4地域の小中学校教師1082名のデータで検討しています。なお、本研究のデータは横断的(一時点)なものであり、観察された関連は因果関係として解釈できないと著者らは明記しています。
補足 3

【研究内容】

■ この研究が扱う問題

中国では教育改革にともなって小中学校教員の役割負担や職業ストレスが増し、メンタルヘルスへの悪影響が報告されています。本論文で言う「心理的苦痛(psychological distress)」とは、ストレス要因に対して生じる不快な情動状態のことで、抑うつ・不安・ストレスの症状を含みます。Huang et al. (2024) と Yu et al. (2024) のメタ分析によれば、中国の小学校教員の抑うつ症状の有病率は18.3%、中学校教員では20.1%、不安症状はそれぞれ14.7%と18.9%とされ、教員の心理的苦痛は無視できない職業健康上の課題です。また Madigan & Kim (2021) は、教員のバーンアウト(燃え尽き)が低いウェルビーイングや離職意図の高さと関連することを示しており、教員を支える心理的資源を見つけることが重要になっています。

そこで本研究は「ストレス・マインドセット」に注目します。ストレス・マインドセットとは、ストレスが自分にとって「力になる(enhancing)」か「害になる(debilitating)」かについての信念のことです。Crum et al. (2013) によれば、「ストレスは力になる」という信念(stress-is-enhancing mindset)を強く持つ人ほど、健康状態が良く、抑うつ・不安が少なく、活力が高いと報告されています。本研究は、この信念が小中学校教員の心理的苦痛とどう関連するか、そしてその間にどのような心理的過程が介在しうるかを検討しました。


■ 理論的な枠組みと4つの仮説

本研究は Hobfoll (1989) の「資源保存理論(Conservation of Resources theory, COR理論)」に依拠しています。これは、人は価値ある資源を獲得・維持・保護しようとし、資源の喪失や獲得不足が心理的負担につながると考える理論です。この視点から、「ストレスは力になる」という信念は、ストレスを脅威ではなく成長の機会と捉えさせ、他の個人的資源の動員や蓄積を助ける適応的な心理的資源と位置づけられます。

本研究が注目した媒介変数(間に入る変数)は次の2つです。

  • 将来統制感(future control):自分の発達の方向や将来の結果を自分で形づくれるという主観的信念。Zhang et al. (2009) ではレジリエンスの重要な資源とされています。Fielder et al. (2026) は統制感がストレスへの緩衝材となることを、Allemand et al. (2025) は将来を選択肢が乏しく曖昧で否定的だと感じることが抑うつ・不安・ストレスのリスクと関連することを、Allemand et al. (2022) は思春期の肯定的な将来認識が成人期の抑うつ症状の低さを予測することを報告しています。
  • バーンアウト(burnout):職場での慢性的ストレスへの不適応反応で、Maslach & Jackson (1981) によれば「情緒的消耗」「脱人格化(冷笑的態度)」「個人的達成感の低下」の3側面からなります。Li et al. (2026) は中国の教員において、ストレスを力と見る信念がワーク・ファミリー葛藤の希望への悪影響を和らげ、バーンアウトの低さにつながることを示しています。

これらをもとに、以下の仮説が立てられました。

  • 仮説1:「ストレスは力になる」という信念は、教員の心理的苦痛と負の関連を持つ。
  • 仮説2:将来統制感がこの関連を媒介する。
  • 仮説3:バーンアウトがこの関連を媒介する。
  • 仮説4:「信念 → 将来統制感 → バーンアウト → 心理的苦痛」という直列(連鎖)媒介経路が存在する。

仮説4の背景として、Fernet et al. (2004) は、仕事への統制感が高い職務要求による心理的負担を緩衝し、情緒的消耗や脱人格化を減らすことを示しています。これを踏まえ、将来への統制感が高いほどバーンアウトが低い、という流れが想定されました。年齢と性別は、教員の心理的苦痛やバーンアウトに人口統計学的な差があるとの先行報告を踏まえ、共変量(統計的に調整する変数)として扱われました。


■ 方法

▼ 参加者

中国の4つの省級地域(河南省、江蘇省、重慶市、北京市)から1082名の小中学校教員が参加しました。多段階抽出法を採用し、まず中国の経済地域区分に基づいて東部(北京・江蘇、496名、45.8%)、中部(河南、345名、31.9%)、西部(重慶、241名、22.3%)を選び、各地域から1つの県・区を選択。その中で地元の教育関係者を通じて51校を募集しました。教員数60名超の学校では約50〜70%を無作為抽出、30〜60名の中規模校では教員属性による層化抽出、30名未満の小規模校では全員に参加を依頼しました。

  • 男性291名(26.9%)、女性791名(73.1%)
  • 年齢22〜60歳(平均37.18歳、SD 8.56)
  • 平均教職経験14.73年(SD 10.27)
  • 小学校424名(39.2%)、中学校658名(60.8%)
  • 農村部の学校648名(59.9%)、都市部434名(40.1%)

参加は任意で、全員が書面での同意を提出。約15分の電子質問票に回答し、謝礼として20元が支払われました。海南師範大学の倫理委員会の承認を受けています。

▼ 測定尺度
  • ストレス・マインドセット:Crum et al. (2013) の尺度の中国語版(8項目、一次元)。「ストレスの影響は否定的で避けるべきだ」「ストレスを経験することは学びと成長を促す」など。0〜4の5件法で、逆転項目を含みます。本研究でのクロンバックα(内的一貫性の指標)は0.67でした。
  • 将来統制感:Zhang et al. (2009) の将来統制感尺度の中国語版(7項目)。教員向けに文言を調整し、専門家のレビューを経ています。「私は自分の将来に自信がある。将来は主に自分の手の中にある」など。1〜4の4件法。α = 0.79。
  • バーンアウト:Maslach & Jackson (1981) に基づくMBI教育者版(22項目)で、中国語版は Wang et al. (2003) により教員での信頼性・妥当性が確認されています。「仕事で感情的に消耗している」「一部の生徒に何が起きても気にならない」など。0(まったくない)〜6(毎日)の7件法。個人的達成感の項目は逆転処理し、3次元を平均して総合得点としました。α = 0.91(下位尺度はそれぞれ0.90、0.90、0.88)。
  • 心理的苦痛:DASS-21(抑うつ・不安・ストレス尺度)の中国語版(Wang et al., 2016)。3下位尺度×7項目の計21項目を0〜3の4件法で評価し、21項目の平均を心理的苦痛得点としました。α = 0.97。
▼ 分析

すべて自己報告であるため、共通方法バイアス(同じ回答者・同じ方法で測ることで生じる見かけの相関)への対処として、匿名回答と逆転項目の採用を行い、事後にHarmanの単一因子検定を実施しました。固有値1以上の因子が8つ抽出され、第1因子の説明率は33.68%で過半数には達しませんでしたが、著者らはこの検定だけで共通方法分散を完全に否定できるわけではないと注記しています。

分析は SPSS 26.0 と Hayes (2013) の PROCESS マクロ(Model 6:直列媒介モデル)、および Mplus 7 で行いました。間接効果の有意性は、5000回のリサンプリングによるバイアス修正パーセンタイル・ブートストラップ法で95%信頼区間を求め、区間が0を含まなければ有意と判断しました。さらに、4つの構成概念が区別できるかを確認的因子分析で検証し、教員が学校にネスト(入れ子)されている構造を考慮して級内相関(ICC)を算出し、学校単位のクラスターロバスト標準誤差を用いた感度分析も行いました。


■ 結果

▼ データの分布と相関

歪度は−0.087〜0.837、尖度は−1.064〜2.971の範囲で、分布は許容範囲とされました。Pearson相関の結果は以下の通りです(すべて p < 0.001)。

  • 「ストレスは力になる」信念 と 心理的苦痛:r = −0.30
  • 同信念 と バーンアウト:r = −0.41
  • 同信念 と 将来統制感:r = 0.36
  • バーンアウト と 心理的苦痛:r = 0.63
  • 将来統制感 と 心理的苦痛:r = −0.50
  • バーンアウト と 将来統制感:r = −0.52

つまり、ストレスを力と捉える教員ほど将来統制感が高く、バーンアウトと心理的苦痛が低い、という方向の関連が確認されました。

▼ 構成概念の弁別性と学校レベルの分散

確認的因子分析では、仮説通りの4因子モデル(χ² = 588.747, df = 48, CFI = 0.928, TLI = 0.901, SRMR = 0.068)が、バーンアウトと心理的苦痛を1つにまとめた3因子モデル(CFI = 0.849)や、全体を1因子とするモデル(CFI = 0.634)より明らかに良い適合を示し、4つの概念が区別可能であることが支持されました。ICCは信念0.005、将来統制感0.022、バーンアウト0.040、心理的苦痛0.072で、学校間の分散は限られていました。

▼ 直列媒介モデル

性別と年齢を統制したうえで、信念を独立変数、心理的苦痛を従属変数、将来統制感とバーンアウトを直列の媒介変数とするモデルを検討しました。

  • 総効果:信念から心理的苦痛への総効果は有意(β = −0.39, p < 0.001)。
  • 直接効果:将来統制感とバーンアウトを投入すると、信念から心理的苦痛への直接効果は有意ではなくなりました(β = −0.01, p = 0.76; 95%CI [−0.073, 0.054])。

各パスの非標準化係数(B)は次の通りです(いずれも p < 0.001)。

  • 信念 → 将来統制感:B = 0.33(95%CI [0.277, 0.379])
  • 将来統制感 → バーンアウト:B = −1.01([−1.128, −0.886])
  • バーンアウト → 心理的苦痛:B = 0.32([0.283, 0.349])
  • 信念 → バーンアウト:B = −0.54([−0.653, −0.433])
  • 将来統制感 → 心理的苦痛:B = −0.31([−0.379, −0.231])

各回帰モデルの説明率(R²)は、将来統制感0.136、バーンアウト0.349、心理的苦痛0.450でした。

▼ 間接効果(ブートストラップ)

3つの間接経路はすべて95%信頼区間に0を含まず、有意でした。

  • 信念 → 将来統制感 → 心理的苦痛:−0.100([−0.137, −0.068])
  • 信念 → バーンアウト → 心理的苦痛:−0.172([−0.217, −0.131])
  • 信念 → 将来統制感 → バーンアウト → 心理的苦痛:−0.104([−0.132, −0.080])
  • 間接効果の合計:−0.376([−0.436, −0.321])、総効果:−0.386([−0.458, −0.313])

直接効果が有意でなかったことから、信念と心理的苦痛の関連は、ほぼ将来統制感とバーンアウトを経由する間接的な関連として説明されました。

▼ 感度分析

学校レベルのクラスターロバスト標準誤差(MLR推定)を用いた分析でも結果は一貫していました。標準化係数で、信念 → 将来統制感 β = 0.359、信念 → バーンアウト β = −0.255、将来統制感 → バーンアウト β = −0.432、将来統制感 → 心理的苦痛 β = −0.219、バーンアウト → 心理的苦痛 β = 0.529でした。


■ 考察

▼ 信念と心理的苦痛の負の関連(仮説1)

ストレスを力と捉える信念が心理的苦痛の低さと関連するという結果は、Huebschmann & Sheets (2020) などの先行知見と一致します。著者らは、この信念を持つ教員は仕事のストレスを成長を促す対処可能な挑戦として解釈しやすく、受動的な忍耐ではなく能動的な対処につながりうると論じています。Tedeschi & Calhoun (2004) が示すように、困難な経験の後に機能が高まることもあります。

▼ 将来統制感の役割(仮説2)

信念は将来統制感と正の関連、将来統制感は心理的苦痛と負の関連を示しました。著者らは、Kovacs & Beck (1986) の認知理論において「将来が閉ざされていると感じること」が抑うつの中核とされる点を引き、将来を機会に満ちたものと見なせることが不確実さへの心配を減らし、否定的感情の軽減と関連しうると解釈しています。

▼ バーンアウトの役割(仮説3)

信念はバーンアウトの低さと関連し、バーンアウトは心理的苦痛の高さと関連していました。Li et al. (2026) によれば、この信念を持つ教員は仕事上の挑戦に積極的に関わり、フロー体験や省察的実践を経験しやすく、バーンアウトが低い傾向があります。著者らは、ストレスを「資源の消耗」ではなく「成長の機会」と見なすことが成熟した対処方略の採用と結びつき、バーンアウトの低さと関連する可能性を指摘しています。Agyapong et al. (2022) が示すように、バーンアウトは教員の心身の健康に関わる重要な職業健康上の問題です。

▼ 直列媒介経路(仮説4)

将来統制感とバーンアウトが順に介在する経路も有意でした。著者らはCOR理論の観点から、この信念がストレス経験を成長の機会と解釈させて資源の保全に寄与し、うまく対処できればさらに資源が増える「資源獲得スパイラル」が生じうると説明します。十分な資源を持つ教員は喪失に対して脆弱になりにくく(資源喪失優先の原則)、将来統制感が高まることでリスクを予測して事前に資源を配分でき、否定的な感情の連鎖を断ち切る可能性があるとしています。この経路は Lakkavaara et al. (2024) など、将来時間展望とバーンアウトに関する先行研究とも整合的だとされています。

著者らは、これまでのストレス・マインドセット研究が大学生サンプルに偏っていたのに対し、慢性的にストレスの高い教員集団を対象とした点を本研究の貢献として挙げ、教員のネガティブ感情を対象とする学校ベースのメンタルヘルス・プログラムの設計に理論的示唆を与えうると述べています。


■ 限界と結論

著者らが挙げた限界は次の通りです。

  • 横断的デザイン(一時点の調査)であるため、変数間の時間的順序や因果関係は特定できない。縦断研究や実験研究が必要。
  • すべて自己報告であり、社会的望ましさバイアスの影響を受けうる。多情報源による評価が望まれる。
  • 本研究で扱った以外の個人要因や文脈要因も心理的苦痛に関与しうる。異なる文化圏や集団での検証が必要。
  • ストレス・マインドセット尺度の内的一貫性(α = 0.67)が比較的低かった。
  • 横断データのため、この信念が安定した信念体系なのか、介入で変えられる可塑的な枠組みなのかは判断できない。

結論として本研究は、「ストレスは力になる」という信念が、将来統制感とバーンアウトを介した間接的な経路を通じて教員の心理的苦痛と関連することを示しました。ただし、著者ら自身が強調しているように、横断デザインである以上、観察された関連を因果関係として解釈すべきではなく、因果経路や実践的応用の評価には今後の縦断・介入研究が必要です。

補足 4

動画解説はこちら😊
https://youtu.be/Lor0AePwbso

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