この号の内容
5テーマ・12次元・50指標の枠組み
フレームワークは「健康(Healthy)」「安全(Secure)」「持続可能(Sustainable)」「結束(Cohesive)」「繁栄(Prosperous)」の5テーマを、12の次元と50の主要指標で支える構成である。包摂・公平・公正はすべてのテーマに横断的にかかわる次元と位置づけられている。テーマや指標に順位や重みはつけず、すべてをGDP換算のような共通単位にまとめる合成指数もつくらない。策定にあたっては280件超の意見書と65回以上の会合を重ねた。公募は2段階で、第1段階(2023年1月31日まで)に165件、第2段階(2023年4月14日〜5月26日)に約120件の意見書が寄せられた。
📖 報告書では:「Executive Summary」p.4/「Understanding What Matters to Australians」p.10/「The Framework」p.14–16(全体図p.16)
総括:20改善・7横ばい・12悪化
ここ数十年で、50指標のうち20が改善、7が横ばいまたはほぼ変化なし、12が悪化した。残りは8指標が傾向まちまち、3指標が時系列比較用のデータなしである。改善したのは寿命、資源使用量の削減、多様性の受容、他者への信頼、所得、雇用機会などである。一方、メンタルヘルスや実質賃金は進展が小さい。慢性疾患の増加、医療サービスへのアクセス悪化、国の安全についての認識の低下、オンライン上の新たな脅威、生物多様性と財政の持続可能性の低下、技能習得に費やす時間の減少は悪化側に入る。温室効果ガスの年間排出量は減ったものの、2030年までに43%削減という法定目標の達成にはさらに大きな前進が必要であると報告書は指摘している。
📖 報告書では:「Overall progress on Australian wellbeing」p.19–20
生活満足度は7.5から7.2へ
総合的な生活満足度は、ABSの一般社会調査(GSS)で「0=まったく満足していない」から「10=完全に満足」までの11段階で尋ねる主観指標で、すべてのテーマにかかわるものとされる。平均は2014〜2019年が約7.5で比較的安定していたが、2020年に7.2へ小さく下がった。報告書はこの変化を新型コロナの影響と関連している可能性が高いとみている。年齢層別では70歳以上が一貫して最も高く、男女差はほとんどない。障害のある人は障害のない人より平均で0.7点低く、長期的な健康上の問題がある人は6.9、精神的な健康上の問題がある人は5.8と、一般の人より低い。
📖 報告書では:「The Framework」Box 2「Overall life satisfaction」p.18、Chart 1
所得は伸び、生産性は鈍化
1人当たり実質国民純可処分所得(国外で得た居住者の所得も含む、GDPより暮らしの実感に近い所得指標)は、2002–03年度の48,538豪ドルから2021–22年度の68,092豪ドルへ1.4倍になった。年平均の伸びは1.8%である。労働生産性の伸びは2000年代半ば以降鈍っており、2020年までの10年間は過去60年で最も遅かった。2021–22年度までの20年間の平均は約1.2%で、この減速は多くの先進国と共通するものとされる。世帯規模で調整した世帯可処分所得の中央値は2019–20年度に週959豪ドル、世帯の平均純資産は2003–04年度の514,058豪ドルから2021–22年度に1.4百万豪ドルへ増えた。
📖 報告書では:「Prosperous」p.73–74、Chart 15
格差とイノベーション
所得のジニ係数(0〜1で、低いほど平等な分配を示す指標)は2007–08年度以降ほぼ横ばいで、2019–20年度は0.32である。2020年時点で、データのあるOECD28か国のうち格差の大きさは14番目であった。資産のジニ係数は2009–10年度の0.60から2019–20年度の0.61へわずかに上がった。イノベーションは特許・商標の出願件数で測っている。両者ともコロナ禍の2021年に過去最高を記録し、2022年は下がったものの比較的高い水準を保っている。指標表の最新値は特許32,292件、商標78,833件で、評価は「改善」(2003–2022年)である。
📖 報告書では:「Prosperous」p.72(指標表)、p.74–75
教育:進学は伸び、学び直しは後退
20〜24歳で12年生(高校卒業相当)を修了した人の割合は、2013年の77.2%から2022年に86.2%へ上がった。25〜34歳でサーティフィケートIII(職業資格の一水準)以上をもつ人の割合も、65.7%から73.0%へ上がっている。15〜74歳のうち過去12か月に学習・研修に参加した人は42.1%で、評価は「悪化」である。幼児期の5領域すべてで発達が順調な子どもの割合は、2018年の55.4%から2021年に54.8%へ下がり、2009年以来初めての低下となった。報告書はこれを新型コロナによる混乱の影響とみている。全国学力調査(NAPLAN)の3年生の平均点は2008年以降すべての領域で上がった一方、15歳の国際学力調査(PISA)の成績は他のOECD諸国と比べて順位を下げている。成人の約5分の1は読み書き・計算の力が低い(OECDの2012年データ)。
📖 報告書では:「Prosperous」p.76–79(指標表p.76、Chart 16・17)
この号の調べ方
オーストラリア全体を対象に、5テーマ・12次元・50指標で現状と長期の推移を示す。各指標の進捗は、原則として過去20年間、またはデータで比較できる最初の時点からの傾向で評価し、必要に応じて歴史的・国際的な基準や合意済みの目標とも照らし合わせる。信頼できるデータがある指標は、年齢・性別・民族(先住民を含む)別にも分けて示す。生活満足度はABS一般社会調査(GSS)の0〜10点の回答で、おおむね過去12か月の経験と将来への期待を反映するとされる。
この号から言えること
- 50指標のうち改善は20にとどまり、12が悪化している。寿命や他者への信頼が伸びる一方、慢性疾患・医療アクセス・生物多様性・財政の持続可能性は後退しており、「豊かになった」だけでは語れない姿が数字で示されている。
- 生活満足度は全体で7.2(2020年)だが、障害のある人は平均0.7点低く、精神的な健康上の問題がある人は5.8である。平均値だけでは見えない層ごとの差に注目したい。
- テーマに順位や重みをつけず、合成指数もつくらない設計である。一つの点数で国を比べる方式ではなく、指標ごとの推移を並べて読むダッシュボード型の枠組みになっている。
読むときの注意
「改善」「悪化」は各指標の推移の向きを評価したもので、水準が十分かどうかを示すものではない。報告書自身も、改善した分野でもさらに良くする余地があるとしている。生活満足度の低下や幼児発達指標の低下をコロナの影響とするのは報告書の解釈であり、厳密な因果推定ではない。また報告書は、国全体の指標は先住民の文化的な違いを表しきれず、先住民のウェルビーイングを正確には測れないと明記している。2023年以降のNAPLANの結果は、それ以前と直接比較できない。