ストア哲学と幸福度についての最新研究
性格の強み診断(VIA)を受けた11,726人のデータから調査頂きました。
「ストイック」というと、
感情を押し殺して耐えるイメージがありますよね。
実際、その意味での「ストイックさ」は
幸福度を下げるという研究もこれまでありました。
でもストイックとは、ストア哲学派という意味で、
本来のストア哲学は、
- コントロールできるのは自分の判断と行動だけ
- 徳(知恵、勇気、正義、自制)を大切に生きる
- 自分の考えに気づき、吟味する
という「生き方の実践体系」。
より具体的に言うと、ストア哲学には以下の7つの柱があります。
①コントロールに関する信念
最も直接的に私たちに委ねられているのは、外部の出来事や他人ではなく、私たち自身の判断と自発的な行動であるという認識
②ストア派的マインドフルネス
印象に注意を払い、判断を吟味し、定期的に内省を行うことで、思考と行動を理性と一致させる規律ある実践
③徳
知恵、正義、勇気、自制心に従って生き、外的なものよりも徳を優先する
④慈愛と憐れみ
共通の人間性を認識し、他者を助け、苦しみを軽減し、共通善に貢献することに尽力する
⑤幸福に関する信念
良い幸福な人生は、富、地位、健康などの外的な財ではなく、主に徳に依存するという信念
⑥ストア派的世界観
宇宙はある意味で秩序があり、賢明で、目的を持っているという考えの支持
⑦倫理的発達
人生を、内省、実践、修正を通して道徳的に進歩する継続的なプロセスと見なす判断
今回、哲学としてのストア度を測る尺度(SABS)で調べたところ、
ストア度が高い人ほど幸福度が高い(r = .43)。
しかも今回は、ストア哲学に興味がある人の集まりではなく、
一般的なサンプルで初めて確認されたのがポイント。
面白いのが中身の内訳。
①「自分の考えに毎日気づいて吟味する」(実践)
→幸福度との関連が一番強い
②「困難でも徳に沿って行動する」(実践)
→これも強い
③「コントロールできるのは自分だけ、という考えに同意」(頭での理解)
→ほぼ関連なし(なんと。。。)
つまり、
「わかっている」だけでは幸福につながらず、
「毎日やっている」ことが幸福と結びつく。
同意より実践、という結果ですね。
さらに意外なことに、
ストア度が高い人ほど「希望」や「感謝」が強い。
感情を抑えるどころか、
むしろ前向きさと一番相性が良いという、
イメージと真逆の結果でした。
ただし一時点の調査なので、
ストア的実践が幸福を高めるのか、
幸福な人がストア的になるのかは、まだ分かりません。
いずれにせよ、
- 変えられないものを嘆くより、自分の判断と行動に集中する
- それを頭で納得するだけでなく、日々の小さな習慣にする
ことが幸せにつながりそう、
ということが古代哲学×現代データで示された感じですね😊
Stoicism, well-being, and character strengths: evidence from a large sample using the Stoic Attitudes and Behaviours Scale (SABS)
ストア哲学、ウェルビーイング、性格の強み:ストア的態度・行動尺度(SABS)を用いた大規模サンプルからのエビデンス
Johannes A. Karl(チューリッヒ大学、スイス) & Tim LeBon
The Journal of Positive Psychology, 2026/7/24
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17439760.2026.2704805#abstract
人格のオペレーティングシステム: ストア哲学と「繁栄」の科学 11,726人の大規模調査が明かす、 性格の強みと幸福の新たなアーキテクチャ NoteBookLM 大いなる誤解:感情の抑圧か、実践的哲学か 小文字の「stoicism」(世俗的な誤解) 感情の抑圧:感情を抑え込み、表現しないこと。 受動性:困難に対してただ耐え忍ぶ悲観的な態度。 結果:過去の健康調査において、精神的抑圧と健康リスクとの関連が指摘されている。 大文字の「Stoicism」(実践的哲学) 自己認識:思考を判断し観察し、理性に沿って行動する規律。 積極的関与:美徳(知恵、正義など)に基づき、他者や社会へ貢献する。 結果:WHO-5ウェルビーイング指数や生活の充足度(VIA)と強力な正の相関関係を持つ。 本調査は、感情の抑制ではなく、「人生の哲学」としてのストア派の態度と行動を測定しています。 哲学を測定する:SABSの7つの次元 Stoic Attitudes and Behaviours Scale (SABS) 紛争に関する懸念: 自分の判断で行動しコントロール可能であるという認識 ストア派の徳: 自分の道徳的価値観を払い、忍耐力を示すことで主張する能力 徳: 知恵、勇敢、正義、節度を行い、自己への献身 慈悲と共感: 他者を思いやり、苦しむ人への献身 幸福に関する懸念: 幸福は外部からの幸福ではなく、自己主導的にもたらされるという認識 ストア派の世界観: 人生は持続的であり、人生は秩序と調和を持っているという認識 儒家的選択と生活: 道徳と実践に基づいた人生を持つという目的的な遺産と行動のこと エビデンスの規模:11,726人の一般データ 11,726 哲学の測定: SABS (Stoic Attitudes and Behaviours Scale). 7つの次元。 幸福度の測定: WHO-5 (世界保健機関ウェルビーイング指数). 過去2週間の前向きな気分と活力を測定。 性格の強みの測定: VIA-IS (Values in Action). 24の性格の強みと6つの美徳を測定。 対象者: 一般成人 (ストア哲学への興味で集められた集団ではない) この規模の一般サンプルにおいて、ストア哲学を多角的に分析し、ウェルビーイングとの関連を証明した初の大規模研究です。 核心:ストア哲学は「繁栄」をもたらす 相関関係(r=.43) ストア派の態度と行動(SABS 総合スコア)は、主観的ウェルビーイング(WHO-5)と「中~大」の正の相関を示しました。 これは、哲学的な信念を行動に移す人ほど、心理的幸福感が高いことを意味します。 感情を押し殺す「stoicism」が幸福度を下げるのに対し、哲学としての「Stoicism」は幸福度を明確に向上させる。 ストア派の実践レベル(SABS Score) ウェルビーイング(WHO-5 Score) VIA性格の強みとの相関:予想外のネットワーク ストア哲学は、VIAの全24の性格の強みすべてと正の相関を示しました。しかし、その結びつきの強さには明確な偏りがあります。 希望 (Hope) [r = .51] スピリチュアリティ (Spirituality) [r = .43] 感謝 (Gratitude) [r = .50] 熱意 (Zest) [r = .38] 熱意 (Genre) [r = .50] 公平さ (Fairness) [r = .42] 驚くべきことに、ストア哲学と最も強く結びついていたのは、「厳格さ」や「慎重さ」ではなく、「希望」と「感謝」でした。 悲観主義というステレオタイプの打破 希望(Hope) が高い理由 ストア哲学は結果への単なる美顔ではありません。 「どんな事態にもうまく 対応できる自分の能力 (エージェンシー)」への 自信を育むため、真の希 望と強く結びつきます。 感謝(Gratitude) が高い理由 失われたものや手に入 らないものを嘆くのではなく、今、そこに存在する ものへ感謝的に注 意を向けることを要求 します。これが深い感謝 の念を生み出します。 熱意(Zest) が高い理由 感情を平坦にするところ か、無駄な感情の消耗 (不安や怒り)を減らし、 美徳による明確な目的 意識を提供することで、 人生への回復力のある 活力を支えます。 © NotebookJP 徳の交差点:SABSとVIA美徳のマッピング SABSの推進要因 ストア派のマインドフルネス 徳(Virtue) 慈悲と共感 ストア派の世界観 r=.54:目先の快楽や苦痛を乗り越え、大局的視点を持つことと強く連動。 VIAの6つの美徳 知恵(Wisdom) 勇気(Courage) 人間愛(Humanity) 正義(Justice) 節制(Temperance) 超越性(Transcendence) ストア哲学は単なる感情調節テクニックではなく、人格を中心とした倫理的フレームワークであることが証明されています。 中盾のメカニズム:強みを最適化するレギュレーター ボディティブ心理学では「強みの過剰使用・過少使用」が課題とされています。 強みは、賃麗がなければ逆効果になります。 最適な使用:勇気 (Bravery) 過剰使用 (Overuse) 過少使用 (Reckless) ストア派の実践的知恵 (Practical Wisdom) ストア哲学の「マインドフルネス」と「徳」 の次元は、強みが状況に応じて過不足なく 発揮されるための「キャリブレーション (調整)」機能」として働きます。 幸福の独立した予測因子:重回帰分析が示す補完関係 24の性格の強みと7つのストア派次元を同時に分析した結果、両方のフレームワークが独自に幸福を予測することが判明した。 VIAの強み (ハードウェア) 熱意(Zest) [β = .34] (正面的に強力な予測因子) 好奇心(Curiosity) [β = .12] 希望(Hope) [β = .12] ウェルビーイング (Well-being) SABS次元 (オペレーティングシステム) 幸福に関する信念 [β = .11] (最も強力な独自の予測因子) 徳(Virtue) [β = .10] ストア派の マインドフルネス [β = .07] 「熱意」という性格のハードウェア、「幸福への信念」という哲学のOS(=道徳)が組み合わることで、ウェルビーイングが最大化される。 ディープダイブ:ストア派の「マインドフルネス」 標準的なマインドフルネス(MBCT等) 観察 (Observation) 評価を伴わない受容 (Non-judgmental Acceptance) 感情の調整 (Emotional Regulation) ストア派のマインドフルネス 観察 (Observation) 倫理的吟味 (Ethical Examination) 困難への準備と 価値に基づく選択 (Preparation & Chosen Action) ストア派のマインドフルネスは、単なる観察ではありません。自らの判断処理で、今後の挑戦、向けて「準備」する積極的な実践です。これが幸
【背景】
▼1. 出発点:ポジティブ心理学とVIA分類
ポジティブ心理学は、人が花開くように生きる(flourish)ための条件を明らかにしようとしてきた分野で、特にウェルビーイング、人生の意味、そして「キャラクター(性格・人格)」に注目してきました (Park et al., 2004)。
その中心的な貢献のひとつがVIA分類です。
▼2. 問題提起:強みは「多ければ良い」わけではない
ところが近年の研究は、強みは単純に「多いほど良い」ではないと認識するようになりました。
つまり、個々の強みを切り離して見るだけでは、その人の「人生への全体的な構え」——実践知(practical wisdom:状況に応じて何が適切かを判断する知恵)に近い何か——を見落とすかもしれない、というのがこの論文の問題意識です。
▼3. 古典的な徳の伝統:アリストテレスとストア派
この問題意識は、古典的な徳倫理の伝統と一致します。
▼4. なぜストア哲学なのか:心理学的トレーニング体系としての側面
ストア哲学(古代ギリシャ・ローマの哲学で、徳と理性的な判断を幸福の中心に置く思想)が特に検討に値するのは、単なる抽象的な思想ではなく、構造化された心理学的トレーニング体系として理解できるからです。
そしてこれらの関心は、現代心理学と明確に重なります。
実際、CBTの創始者たちはストア派の影響を公言しており、思想的な系譜としても連続性があります。しかし、少数の実証研究 (Karl et al., 2022; LeBon et al., 2025) を除けば、ストア哲学が一貫した枠組みとしてポジティブ心理学の中で検討されることはほとんどありませんでした。
▼5. 重要な区別:「小文字のstoicism」と「大文字のStoicism」
ここが本研究の背景で最も重要なポイントです。
つまり先行研究には「ストイシズムは心に悪い」という知見が存在していました。しかし近年、口語の「stoicism(感情抑制)」と、哲学としての「Stoicism(生き方の体系)」を区別すべきだという議論が強まっています。
▼6. 直接の土台:SABSの開発
この区別を明確にするために開発されたのが、本研究で使われる尺度です。
だからこそ本研究は「ストア哲学に関心があって集まったわけではない大規模サンプル(VIA受検者11,726名)」で検証する、という位置づけになっています。
▼7. 補足:介入研究の萌芽
背景として、ストア哲学のトレーニング効果を調べた予備的な介入研究もすでに存在します。
ただしエビデンスはまだ限定的・短期的・自己選択サンプル依存であり、本研究のような大規模な基礎的知見の蓄積が求められていた、という文脈です。
▼まとめ:話の流れ
【研究内容】
▼1. 方法
本研究の目的は次の3つでした。
①ストア哲学に関心があって集まったわけではない大規模サンプルで、ストア哲学とウェルビーイングの関連を調べる
②ストア哲学の7次元のうち、どの側面がウェルビーイングと強く結びつくかを特定する(今後の介入研究のターゲット探し)
③ストア哲学とVIAの強み・徳の関係を明らかにし、両者がウェルビーイングに重複した貢献をするのか、独自の貢献をするのかを検討する
VIA調査(性格の強み診断)を自発的に受けた18,212名に、追加の質問への回答を任意で依頼しました(この質問がストア哲学に関するものだとは知らされていません)。
除外の手続きは以下の通りです。
①第二部(ストア哲学の測定を含む部分)を回答しなかった人、18歳未満の人:5,577名を除外
②回答のばらつきが全くない、または不自然に大きい人(すべて同じ番号を付ける、ランダムに答えるなどの不誠実回答の疑い):701名を除外
③欠測(無回答の項目)が20%以上の人:208名を除外
残った人の欠測は多重代入法(統計的に妥当な値を推定して補完する手法)のパッケージmiceで補完 (van Buuren & Groothuis-Oudshoorn, 2011)
最終的な分析サンプルは11,726名。女性6,096名・男性3,122名(2,508名は性別未回答)、最頻年齢層は18〜24歳、最も多い学歴は学士号でした。チューリッヒ大学の倫理委員会の審査を受けています。
①ストア哲学:SABS(ストア的態度・行動尺度)(LeBon et al., 2025)
7次元(コントロールについての信念、ストア的マインドフルネス、徳、慈善と思いやり、幸福についての信念、ストア的世界観、倫理的発達)を測定。全項目の平均で総合得点を算出。
信頼性(測定の一貫性を表す指標。マクドナルドのωで評価)は総合得点でω = .90と優秀。下位尺度は.63〜.87で、幸福についての信念(.66)とストア的世界観(.63)はやや低めでした。
②性格の強み:VIA-IS (Park et al., 2004)
240項目の自己報告式質問紙で、24の強みを各10項目・5件法(1「全く自分らしくない」〜5「とても自分らしい」)で測定。
③ウェルビーイング:WHO-5(世界保健機関の5項目ウェルビーイング指標。過去2週間の気分の良さ・活力などを測る簡便な尺度)(Topp et al., 2015)。本サンプルでの信頼性はω = .87と優秀。
①SABS総合得点とWHO-5の相関(ピアソン相関:2つの変数の直線的な関連の強さを-1〜+1で表す指標)
②SABS各次元とWHO-5の相関
③ストア哲学とVIAの24の強み・6つの徳の相関
④重回帰分析(複数の予測変数を同時に投入し、それぞれの独自の寄与を調べる分析):24の強み+7次元をすべて同時に投入してWHO-5を予測。標準化係数β(変数の単位を揃えて比較可能にした影響度の指標)で比較
▼2. 結果
SABS総合得点とWHO-5の相関はr = .43(中〜大程度)。ストア的な態度・行動を持つ人ほど、ウェルビーイングが高いという結果でした。
7次元すべてがウェルビーイングと正の相関を示しました。強い順に:
「実践」に近い次元ほど強く、「頭で同意するだけ」の次元ほど弱い、というパターンが見えます。
ストア哲学は24の強みすべてと正の相関を示しました(すべてp < .001。pは偶然でこの結果が出る確率の目安)。
最も強かったのは:
最も弱かったのはユーモア r = .21で、それでも正の関連でした。
6つの徳とはすべて大きな相関があり、最強は超越性(r = .57)、次いで知恵(.48)、勇気(.48)、正義(.47)、節制(.44)、人間性(.43)でした。
次元別に見ると、ストア的マインドフルネスが最も幅広く強い関連を示し(.35〜.54)、SABSの徳は節制(.50)・勇気(.49)と、慈善と思いやりは人間性(.49)・正義(.45)と強く結びつく、という理論的に納得のいくプロファイルでした。一方、コントロールについての信念は6つの徳すべてと一様に小さい相関(.13〜.21)でした。
24の強み+7次元を同時投入した重回帰では、ウェルビーイングの分散の43.5%を説明しました(R² = .436。分散説明率=結果のばらつきのうちモデルで説明できる割合)。
強み側の独自予測力:
ストア次元側の独自予測力:
つまり、24の強みをすべて統制してもなお、複数のストア次元が独自にウェルビーイングを予測しました。ストア哲学はVIAの枠組みに単純に還元できない、というのが統合分析の核心です。
▼3. 考察
ストア哲学に関心のない大規模サンプルでも、ストア的態度・行動はウェルビーイングと正の関連を示しました。これは「stoicismは心に悪い」とした先行研究 (Karl et al., 2022) と対照的です。著者らはこの食い違いを、概念化と測定の違いで説明します。感情抑制としての口語的ストイシズムではなく、哲学的伝統に沿って測定すれば、明確な正の関連が現れる、と。
関心のないサンプルで示されたことで、過去の正の知見 (LeBon et al., 2025) が「ストア好きの集団だから出た結果」ではないという確信が強まりました。ただし著者らは、ストア思想に強く反対する人は測定を完了しなかった可能性があり、自己選択が完全に排除されたわけではないと注意しています。
また、ストア哲学は本来、快感情の最大化ではなく徳による開花を目指すユーダイモニア的哲学(良く生きること・人間としての卓越を幸福の中心に置く立場)ですが、主観的ウェルビーイングはその副産物として高まりうる (Robertson, 2013)。WHO-5との関連はこの見方と整合的です。
①ストア的マインドフルネスが最強だった理由
自分の判断に気づき吟味する継続的実践が重要である可能性。メタ認知的気づき(自分の考えを一歩引いて眺める力)や認知的再評価(出来事の意味づけを捉え直すこと)が感情調整とレジリエンスを支えるという先行研究 (Teasdale et al., 2002; Troy et al., 2010) と整合的。ただしMBCTのマインドフルネスやCBTの認知再構成と同一ではなく、挑戦への備えや経験からの学びといった倫理的・内省的実践を含む点が特徴です。
②徳
自制・勇気・正義・実践知に沿って行動しようとする程度(特に困難なときに)。徳へのコミットメントが強い人ほどウェルビーイングが高く、「良く行動すること」と「良く生きること」は両立するという結果。徳と幸福の正の関係 (Kesebir & Diener, 2014) や現代ストア研究 (Gill, 2022) と整合的です。
③幸福についての信念——回帰分析での主役
「良い人生は富・地位・健康などの外的なものではなく徳に依存する」という信念は、重複を統制すると最強の独自予測因子になりました。何を良い人生とみなすかのストア的な転換が、地位や承認をめぐる挫折の感情的打撃を和らげ、内側に錨を下ろした安定した幸福を支えるのかもしれない、と著者らは解釈しています。
④倫理的発達
人生を道徳的成長の途上と見る態度。完璧主義を和らげ、挫折後の自己への許しを支え、努力と失敗への長い視点を促すという間接的な経路が想定されます。成長マインドセット (Dweck, 2006) と重なりますが、業績ではなく倫理的発達に向かう点が異なります。
⑤ストア的世界観
宇宙は秩序立ち賢明で目的を持つという形而上学的信念。関連は小さく、回帰では有意でなくなりました。ストア哲学と幸福を結ぶ主役ではなさそうで、形而上学より倫理を重視する現代的解釈 (Gill, 2022) と合う結果です。
⑥コントロールについての信念——最大の意外
ストア哲学の看板ともいえる「コントロールの二分法」(自分の判断と意志的行動はコントロールできるが、外的出来事はできないという区別)への同意は、ウェルビーイングとほぼ無関連でした(r = .12、回帰では小さな負)。
著者らの解釈:これは「同意する信念」ではなく「適用する訓練」なのではないか。原理に頭で頷くだけでは足りず、日常で習慣的に使うことに心理的価値がある。実践を反映するストア的マインドフルネスと徳が強かったこととも辻褄が合います。
▼4. 限界と今後の方向
①横断研究(一時点の測定)なので因果の方向は不明。幸福な人がストア的態度を持ちやすいのか、ストア的実践が幸福を支えるのか、相互的なのか判別できません
②すべて自己報告式。共通方法分散(同じ測定方法に由来する見かけの相関)を排除できません
③サンプルはVIA協会のデータベース由来で、西洋・高学歴・自己選択的に偏っている可能性が高く、文化的に多様なサンプルでの再現が必要です
①縦断・介入研究でストア哲学の育成効果を検証すること。予備的な介入研究 (Brown et al., 2022; MacLellan & Derakshan, 2021; Frost et al., 2025) はあるものの、まだ限定的
②マインドフルネスがそうなったように (Goleman & Davidson, 2017)、特定の集団(受刑者、心理的支援を求めにくい男性 (Seidler et al., 2016) など)向けに簡素化版を開発する可能性。ただしストア哲学を価値中立的なテクニック集に還元しないことが重要と著者らは釘を刺します
③コントロールの二分法を「知的理解・感情的受容・行動的方向転換」の多部構成として分解して研究すること
④ストア的マインドフルネスのどの成分(メタ認知、再評価、挑戦への備え、経験からの学び)が効いているのかの解明
▼まとめ:話の流れ
【ストア派的な考えを持っているかの診断】
■SABSの7次元と質問項目(40項目版)
▼尺度の基本情報
▼1. 幸福についての信念(Beliefs About Happiness)8項目
定義:良く幸せな人生は、富・地位・健康などの外的なものではなく、主として徳(良い人格)に依存するという信念。古代ストア派の「徳は幸福(エウダイモニア)に十分である」という教説に対応。
▼2. ストア的マインドフルネス(Stoic Mindfulness)7項目
定義:自分の印象や判断に注意を向け、吟味し、定期的に内省する訓練された実践。古代語でいうプロソケー(注意)。思考と行動を理性に沿わせるための習慣。
▼3. 徳(Virtue)6項目
定義:知恵・正義・勇気・自制という4つの枢要徳に沿って生きること。特に困難なとき・気が進まないときにも正しい行動を優先する傾向。
▼4. 慈善と思いやり(Benevolence and Compassion)8項目
定義:人類の一員としての共通性の認識と、他者を助け苦しみを減らし共通善に貢献するコミットメント。ストア派のオイケイオーシス(配慮の輪を自分から他者へ広げていく自然な過程)のうち、対人的な側面。
▼5. コントロールについての信念(Beliefs About Control)5項目
定義:エピクテトスの「コントロールの二分法」への同意。真に自分の力の内にあるのは自分の判断と意志的行動だけであり、外的出来事や他人はそうではない、という認識。
▼6. 倫理的発達(Ethical Development)3項目
定義:人生を、内省・実践・判断の修正を通じた道徳的成長の継続的プロセスと見る態度。オイケイオーシスのうち、成長の側面。
▼7. ストア的世界観(Stoic Worldview)3項目
定義:宇宙は何らかの意味で秩序立ち、賢明で、目的を持つという形而上学的信念。古代ストア派の自然学(ロゴス=宇宙の理性的秩序)に対応。
▼補足:構成のポイント
こうして項目を見ると、Karl & LeBon (2026) の結果——「コントロールについての信念」だけ幸福との関連が弱かった——の解釈がよく分かります。この次元の項目はすべて「〜である」という命題への同意で、行動を一切問うていません。一方、ストア的マインドフルネスの項目はすべて「〜している」という日常的実践です。「同意より実践」というあの考察は、項目レベルで見るとかなり説得力がありますね。
動画解説はこちら😊
https://youtu.be/nf6q1R-onvk
会話形式の紹介はこちら😊
はぴテク相談室:「我慢するのがストイック」だと思ってた話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-04-1785863100/