2026.08.27

「他の文化を取り入れる」と、幸福度が上がる

多数派の人の文化変容と、創造性・幸福度についての、英国の最新研究
英国の学生323人、中国の学生174人、英国の一般市民219人(3回追跡)を調査頂きました。

「文化になじむ」というと、
移民や留学生など、少数派の人の話だと思いがち。
でもこの研究は逆で、
「多数派(その国の人)が、少数派の文化をどう受け止めているか」に注目。

受け止め方は大きく4タイプ。
①統合:自国の文化を大事にしつつ、他の文化も取り入れる
②分離:自国の文化だけ大事にする
③未分化:どっちもそんなに意識してない
④周辺化:どっちも興味なし

結果としては、
英国の学生では、6割が③未分化。
なんとなく、文化とか意識せず過ごしている人が多数派。
でも幸福度(人生の意味、人間関係の質)が一番高かったのは①統合の人。
人生の意味は、他のタイプとの差がかなり大きい。
頭の柔らかさ(認知的柔軟性)も①が高い。

中国の学生では、半分が②分離。
自国の文化を大事にするタイプが多数。
ここでも、幸福度が一番高いのは①統合の人。

そして英国の一般市民を追いかけた研究では、
「他の文化を取り入れよう」としている時期のあとに、
頭の柔らかさ、好奇心、幸福度が上がっていた。

という、
「自分の文化を手放さずに、他の文化にも開いている人が、一番幸せで、一番頭が柔らかい」
という結果。
どっちかを選ぶ話じゃなくて、両方持つのが良い、というのがポイントですね。

幸せの観点で言えば、
・外国の人や違う文化の人が身近にいたら、「ちょっと真似してみる」くらいの関わり方が幸福度につながる
・自分の文化を大事にすることと、他の文化を受け入れることは、両立できる。というか両立した方が良い
・「文化とか別に意識してない」が、実は一番もったいない状態かも
・会社視点で言えば、多様なメンバーがいる職場は、「受け入れる側」の幸福度や柔軟性を上げるチャンスでもある
という感じでしょうか。
いずれにせよ、違いに開いていることが幸せにつながる。というのが、「受け入れる側」の観点からも示された感じです😊
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Harnessing Diversity: Majority-Group Acculturation Predicts Creativity and Flourishing Over Time
多様性を活かす:マジョリティ集団の文化変容は、創造性とフラリッシングを時間を通じて予測する
David Colledge(ヘリオット・ワット大学、英国)ほか
European Journal of Social Psychology, 2026/7/29(受理)
https://doi.org/10.1002/ejsp.70106

異文化適応は「迎える側」の武器になる 最新の心理学研究が明かす、マジョリティ(多数派)のための創造性と幸福のサイエンス Based on: Harnessing Diversity: Majority-Group Acculturation Predicts Creativity and Flourishing Over Time (CC @GuestNotebook) 「異文化適応」と聞いて、誰を思い浮かべますか? 従来の常識(The Old Way) 私たちは無意識に、文化に適応するのは「移住者」や「マイノリティ(少数派)」の課題であると考えてきました。迎える側である「マジョリティ(多数派)」は、変化を求められない静かな存在だと見なされがちです。 しかし、この前提には重大な見落としがあります。 Genius Notebook 迎える側(マジョリティ)もまた、適応し、変化する。 自文化の維持 他文化への接触 相互作用による進化 グローバル化が進む現代では、マジョリティ自身が異文化とどう向き合うか(多数派の文化適応)が、社会の調和だけでなく、個人の能力や幸福度に直結することがわかってきました。 Cornish Notebook マジョリティがとる4つの「文化適応スタイル」 High ↑ 自文化の維持 (High to Low) 分離 (Separation) 自文化のみを重視し、 他文化を避ける。 統合 (Integration) 自文化を大切にしながら、 他文化も積極的に取り入れる。 周辺化/無関心 (Marginalization/Undifferentiation) どちらの文化にも弱い 関心を持たない。 同化 (Assimilation) 自文化を捨て、他文化に染まる。 (※非常に稀) Low Low ← High 他文化の受容 (Low to High) Corneal Notebook では、どのスタイルが「最も幸せ」なのか? イギリスと中国の大学生、そして英国の社会人を対象とした3つの実証研究から、 「多様性の受け入れ」が単なる道徳論ではなく、個人のクリエイティビティと ウェルビーイングにどう影響するかが明らかになりました。 Study 1 英国の大学生 323名 Study 2 中国の大学生 174名 Study 3 英国の社会人 219名(追跡調査) Genius Notebook 英国の大学生:無関心派が多数を占める中、 勝者は「統合(Integration)」派 58% 無関心 26% 周辺化 12% 統合 4% 分離 全体のわずか12%である「統合派」の学生だけが、認知的柔軟性(アダムの柔らかさ)、人生の意味(充実感)、対人関係の質において、他のグループを圧倒的に上回るスコアを記録しました。 Cornelius Notebooks 中国の大学生:自文化保守派が多い環境でも、 やはり「統合」派が幸福度を率引 22% 周辺化 26% 統合 52% 分離 イギリスとは対照的に、中国では自文化を重視する「分離派」が数数を占めました。しかし、ここでも最高の結果を出したのは「統合派」です。 彼らは分離派や周辺化派に比べ、人生の意義と対人関係の質が有意に高いことが実証されました。 Cornelius Notebook 「自文化を保ちつつ、他文化を取り入れる」ことがもたらす3つの果実 01. 認知的柔軟性 異なる価値観の枠ぶみ(認知的 枠組み)を複数もつことで、状況に 応じて思考を切り替え、複数の選 択肢を同時に検討する脳の回路が 鍛えられます。 02. 人生の意義 異文化という「鏡」を通して自己の アイデンティティを相対化すること で、「自分は何か」「何を 大切に生きるか」という輪郭が鮮 明になります。 03. 対人関係の質 異なる背景を持つ人々と摩擦を恐 れずに関わる時間が、結果として 深く満足度の高い人間関係を構築 するスキルと直結します。 Gendai Notebook 【追跡調査】他文化への接触は「好奇心」と「幸福感」と「幸福感」を即座に引き上げる Time 1(現在) 他文化を積極的に受容するアクション Time 2(未来) ✓ 認知の柔軟性 ✓ 好奇心と探究心 ✓ 全体的なウェルビーイング 長期的な移住者でなくても、社会人が日常生活の中で意図的に異文化に触れるだけで、短期間のうちに好奇心や幸福度がブースト される(ポジティブな変が起こる)ことが確認されました。 イノベーションと自己肯定の「フィードバック・ループ」 1. 異文化への接触 新しい視点を歩り入れる 2. 認知的摩擦 予測不可能性が脳を刺激し、柔軟性が上がる 3. 日常の創造性 柔軟思考で、その問題解決能力が向上する 4. 自文化の再評価 問題解決の成功体験が、自身のルーツへの自信と愛着を深める 他文化を取り入れることは、自文化を捨てることではありません。 むしろ、異文化による刺激があるため創造性を高め、その創造性が「自分らしさ(自文化)」をより強固なものにするという美しい循環が存在するのです。 Overlapping Canvas Global style 違いを受け入れるために、自分を捨てる必要はない。 自文化への誇り 創造性と 豊かな人生 未知への探求心 真のダイバーシティ(多様性)の認識は、「自分を無色透明にして相手に合わせる」ことからは生まれません。 深く根をもった自文化への誇りと、未知の文化へのオープンな探求心。 この2つが重なり合い、時に摩擦を生じる場所にこそ、最高レベルのアイデアの素が生まれかど、豊かな人生が宿るのです。 🏔️ Gemini Notebook Overlapping Canvas Global style 日常のキャンバスを、どう重ね合わせるか? For Individuals(個人として) 未知のカルチャーに触れる際、「同化」しようと焦る必要はありません。 「自分の軸」を持ったまま、単なる「好奇心」として異文化を楽しむだけで、脳は十分に柔軟になります。 For Organizations(組織として) 「多様性=マイノリティ支援」という固定概念を捨てましょう。マジョリティ(多数派)社員自身が 異文化と交わることが、組織全体の「イノベーション(日常の創造)」の源泉になります。 For Education(教育において) グローバル人材の育成は、自国の文化を尊視することではありません。「ローカルな アイデンティティ」を深めることが、結果として「グローバルな適応力」を支える磐盤な土台となります。 迎える側が変わる時、社会全体が創造的なキャンバスへと進化します。 Cosmos Notebook
投稿者によるコメント・補足(4件)
コメント 1

【背景】
論文の問いは「マジョリティ集団(その国の多数派)の人が、少数派の文化を取り入れたり、自国文化を保ったりすること(=マジョリティ集団の文化変容)は、その人の創造性やフラリッシングと関係するのか」というものです。この問いに至るまでに、著者たちは大きく4つの研究の流れを踏まえています。
・創造性とフラリッシングは、大学や政府が掲げる重要目標である
・文化的多様性とそれらの関係は研究されてきたが、結果はまちまち
・文化変容の研究は移民・マイノリティ側の視点に偏り、マジョリティ側は見過ごされてきた
・マジョリティ側の文化変容が創造性・フラリッシングと結びつく理論的な理由はある
以下、順に見ていきます。
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■ 1. 出発点:創造性とフラリッシングは「社会の目標」になっている
▼ 創造性
・創造性とは「独創的で、かつ役に立つアイデアを生み出す力」と定義されます(Runco & Jaeger, 2012)
・学習者にとって必須のスキルであり(Egan et al., 2017)、生涯を通じた成功の鍵とされます
▼ フラリッシング
・フラリッシング(flourishing)とは、単に気分が良いという以上の「最適なウェルビーイング状態」を指す概念です(Seligman, 2011)
・教育機関の中核目標であり(D'Olimpio & de Ruyter, 2025)、あらゆる年代の個人の目標でもあります(Davis et al., 2025; Fastame et al., 2024)
▼ ただし、実装と測定は遅れている
・創造性とフラリッシングをどう育て、どう測るかは、まだ十分に検討されていません(Georgiou et al., 2022; Rule et al., 2024)
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■ 2. 文化的多様性との関係:結果は一貫していない
▼ 大学における多様性と創造性
・欧州21カ国32大学が参加したプロジェクトでは、学生集団の多様性が、大学が創造性を育てる上での中核要因だと結論づけられました(European University Association, 2007)
▼ 多様性とウェルビーイング:ここは食い違う
・移民の流入が、ヨーロッパ在住者の幸福感・人生満足度に小さいながら正の効果を持つとした大規模研究があります(Betz & Simpson, 2013)
・一方、イングランドでは、文化的に多様な地域に住むマジョリティ集団の人は、同質的な地域の人より人生満足度が低いという報告もあります(Longhi, 2014)
つまり「多様な環境にいること」自体の効果は、プラスにもマイナスにも出うる。ここで著者たちは、「環境に多様性があるか」ではなく「本人がその多様性にどう向き合っているか(文化変容の仕方)」に注目します。
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■ 3. 文化変容研究の偏り:マジョリティ側が抜け落ちていた
▼ 文化変容(acculturation)とは
・異なる文化システムに関わることで生じる、個人レベルの態度や行動の調整のことです(Tropp et al., 1999)
・本来は、新しい文化に触れる全員が調整を求められる「相互的なプロセス」とされます(Rudmin, 2003)
▼ しかし研究は移民・マイノリティ側に集中
・1970年代以降、文化変容研究は圧倒的に移民・文化的マイノリティの視点で行われてきました(Rudmin, 2003)
・マジョリティ集団の人は「マイノリティが文化変容の恩恵を受けられるかどうかを左右する門番(ゲートキーパー)」として扱われ、自分自身も文化変容する主体とは見なされてきませんでした(Lefringhausen et al., 2023)
・その結果、マジョリティ側が他文化の存在にどう適応するかは研究が少ないままです(Geschke et al., 2010; Komisarof, 2009; Lefringhausen & Marshall, 2016; Haugen & Kunst, 2017; Rudmin et al., 2007)
▼ 新しい研究領域:マジョリティ集団の文化変容
・近年、「支配的な文化集団のメンバーが、少数派の文化要素を取り入れつつ、自国文化を維持・拒否・あるいは曖昧なままにする」というグローバル化に伴う現象として、マジョリティ集団の文化変容が概念化されました(Kunst et al., 2021; Kunst, 2025)
・これは自尊心や人生満足度などの心理的アウトカム(Haugen & Kunst, 2017)や、文化的脅威感・文化的豊かさの感覚などの社会文化的アウトカム(Lefringhausen et al., 2021)と関連することが分かっています
・ただし、大学に通うマジョリティ集団の学生についての研究はごくわずかです(Hang & Zhang, 2023; R'boul et al., 2023)
・そして、創造性・フラリッシングとの関連はまだ誰も調べていません。ここがこの論文の「穴」です
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■ 4. なぜこの穴を埋めることが重要か
▼ 大学と政府が掲げる2つの目標
・創造性は、雇用者と経済がますます重視するものです(Snyder et al., 2019; UK Government, 2025)
・ウェルビーイングは、それ自体が政策の優先事項だと主張されるようになっています(D'Olimpio & de Ruyter, 2025; All-Party Parliamentary Group, 2025)
▼ 「文化変容 → 創造性・ウェルビーイング」の先行知見(ただしマイノリティ側)
・留学生の文化変容の仕方は、その創造性を予測します(Sharif, 2019)
・同じく主観的ウェルビーイングも予測します(Schwartz et al., 2013)
・文化的マイノリティの文化変容は、認知的柔軟性と長く関連づけられてきました(Spiegler & Leyendecker, 2017; Tadmor & Tetlock, 2006)
・認知的柔軟性は創造性の構成要素です(De Dreu et al., 2008)
・メンタルヘルスとの関連もあります(Yoon et al., 2013)。ただし、ウェルビーイング全般との関係を調べた最近のメタ分析では、話はもっと複雑だとされています(Andronic & Constantin, 2025)
▼ 本研究の位置づけ
・マジョリティ集団の文化変容研究(Kunst, 2025)と、認知的多文化主義(多文化経験が思考にどう影響するかの研究。Maddux et al., 2021)を統合して、この穴を埋めようとしています
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■ 5. 創造性をどう捉えるか:3つの構成要素
創造性は教育プログラムの重要な要素であり(Partnership for 21st Century Skills, 2009)、組織のリーダーが将来の従業員に求める資質でもあります(Snyder et al., 2019)。120研究のメタ分析では学業成績と r = 0.22 の相関があり(Gajda et al., 2017)、問題解決力や職業的能力の向上とも関係します(Liu & Chang, 2017)。創造性にはさまざまな理論があるので(Glăveanu et al., 2020)、この研究では3つに絞ります。
▼ 5-1. 日常的創造性(everyday creativity)
・ブログを書く、同僚との対立を解決するなど、日常の創造的行動を指します(Villanova & Cunha, 2021)
・科学的大発見や芸術作品のような「big-C(大きな創造性)」(Merrotsy, 2013)とは区別されます
・大学では稀なbig-Cではなく、「平均的な学生を育てる」ことが本来の役割なので、日常的創造性の視点で研究すべきだと主張されています(Rogaten & Moneta, 2016)
・それでも、学生、とりわけ教員の日常的創造性は過小評価されています(Elkington, 2024)
・大学の外では、日常的創造性は可能性思考を高め、新しい知識や自己洞察を促し、日々の問題解決や新環境への適応を可能にします(Villanova & Cunha, 2021)
▼ 5-2. 認知的柔軟性(cognitive flexibility)
・課題の要求に応じて切り替え、変化する環境に適応する能力です(Ionescu, 2012)
・「創造性への二重経路モデル」では、創造性は認知的柔軟性と粘り強さの関数として理論化されています(De Dreu et al., 2008)
・創造的な人は課題を切り替える際に高い認知的柔軟性を示し(Zabelina & Robinson, 2010)、認知的柔軟性は創造性の証である独創性を予測します(Nijstad et al., 2010)
・大学では、認知的柔軟性の高い学生は意欲的で習慣的な学習者であり(Önen & Koçak, 2015)、自律学習の傾向が強く(Orakcı, 2021)、ストレス対処にも優れます(Gabrys et al., 2018)
・うつに対する重要な緩衝要因であり(Dennis & Vander Wal, 2010)、職務パフォーマンスや仕事関連のウェルビーイングを予測します(Hill & Carroll, 2023)
▼ 5-3. 好奇心–探索(curiosity-exploration)
・新しい情報や経験を追い求めたいという欲求です(Litman, 2005)
・12研究のメタ分析では、自己報告の創造性の分散のほぼ半分を説明しました(r = 0.48)
・課題ベースの測定ではより控えめながら、やはり正の関係が確認されています(Koutstaal et al., 2022)
・好奇心と努力を合わせた予測力は知能に匹敵するとして、好奇心は「学業成績の第3の柱」と呼ばれました(von Stumm et al., 2011)
・より広く、好奇心はポジティブな主観的経験と個人的成長の機会を促進します(Kashdan et al., 2004)
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■ 6. フラリッシングをどう捉えるか
▼ PERMAモデル
・この研究ではSeligman(2011)のPERMAの枠組みに従います。フラリッシングを、ポジティブ感情(P)、没頭(E)、人間関係(R)、人生の意味(M)、達成(A)の5つの独立した要素からなる多次元的な構成概念と考えるものです
・幸福感や人生満足度のような認知的・感情的判断(Diener et al., 1985)を超えて、「良い人生」を構成すると理論化される幅広い要因を捉えます
・ポジティブ感情や人生の意味のような個人内の要因と、人間関係の質や仕事・趣味への没頭のような関係的・行動的要因の両方を含みます(Seligman, 2011; Keyes, 2002)
・大学生では学業成績の高さと人生満足度と関連し(Van Zyl & Rothmann, 2012)、広く社会では精神病理への緩衝要因となり(Burns et al., 2022)、職務パフォーマンスの向上とも関係します(Rothmann et al., 2019)
▼ 6-1. 人生の意味(meaning-in-life)
・自分の人生が目的をもち、価値あるものだと感じる程度で、フラリッシングの中核要素です(Seligman, 2011)
・学生では学業成績(Mason, 2017)やウェルビーイングの高さ(Dar & Iqbal, 2019)を予測します
・学業への無動機(amotivation。やる気がわかない状態。J. Kim et al., 2018)は、人生の意味の欠如と結びつけられています(King & Hicks, 2021)。勉強が無意味に感じられると学生はやる気を失う、ということです
・大学生は、自分の人生目標という文脈に応じて大学での時間を異なる意味で解釈するため、特に重要と考えられます(Henderson-King & Mitchell, 2011)
▼ 6-2. 対人関係の質
・フラリッシングのもう一つの中心的な柱であり(Seligman, 2011)、心理的ウェルビーイングの強力な決定要因です(Ryan & Deci, 2001)
・仲間から疎外感を抱く学生は学業成績が低く(Walton & Cohen, 2007)、質の高い関係は学生の人生満足度、ポジティブ感情、心理的ウェルビーイングと正の関連があります(Reis et al., 2000)
・多くの学生が初めて実家を離れて暮らすため、大学生では特に対人関係の育成が重要だとされています(Zhao, 2024)
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■ 7. マジョリティ集団の文化変容:二次元モデル
▼ 2つの軸
・マジョリティ集団の文化変容は、「マイノリティの文化要素をどれだけ取り入れるか(他文化の採用)」と「自国文化をどれだけ維持するか(国民文化の維持)」の2つの軸で捉えられます(Kunst et al., 2021)
▼ この2軸から生まれる5つの戦略
・統合(integration):自国文化を維持しつつ、他文化も採用する
・分離(separation):自国文化の維持のみ
・未分化(undifferentiation):どちらも強く支持せず、強く拒否もしない
・周辺化(marginalisation):どちらも拒否する
・同化(assimilation):他文化の採用を優先する
・14サンプル・計2,196名のメタ分析では、統合36%、未分化29%、分離27%、周辺化2%、同化1%という分布でした(Kunst et al., 2021)
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■ 8. 研究の舞台:英国・中国の大学とイングランド社会
▼ 英国の大学
・マジョリティ集団の文化変容を学生サンプルで調べた研究はあるものの(Dandy et al., 2023; Rudmin et al., 2007)、「大学で留学生に対してどう文化変容するか」を扱った研究は稀です(Hang & Zhang, 2023; R'boul et al., 2023)
・英国は世界第2位の留学生受け入れ国です(UNESCO, 2025)
・近年、英国では反移民感情が高まっていますが(Richards et al., 2025)、留学生への態度は概ね好意的なままです(Rolfe et al., 2025)
・つまり英国の大学は、社会全体とは異なり、マジョリティ学生の文化変容が起こりやすい環境かもしれない、という見立てです
・モロッコの研究では言語的ヒエラルキーが文化変容に影響していましたが(R'boul et al., 2023)、英国の大学は厳格な言語要件があるため、むしろ文化的適応を助ける可能性があります
▼ 中国の大学
・中国は世界第7位の留学生受け入れ国ですが(UNESCO, 2025)、留学生は大学生全体の1%未満にすぎません(van Gardingen, 2024)
・留学生は文化適応の困難や、外国人の永住に対する社会的抵抗を報告しており(Wen & Hu, 2023)、マジョリティ学生の文化変容にはハードルがあると考えられます
・それでも、中国のマジョリティ学生の文化変容は最近研究の焦点になりつつあります(Hang & Zhang, 2023)
▼ イングランド社会
・英国における「超多様性(super-diversity)」の出現(Vertovec, 2006)と、イングランド・ウェールズでの前例のない民族的な混住化(Catney et al., 2023)により、イングランドのマジョリティ集団の文化変容は重要な研究テーマになっています
・イングランドのマジョリティ集団の統合/他文化採用は、異文化への感受性の高さ(Lefringhausen & Marshall, 2016)、文化的脅威の知覚の低さ(Lefringhausen et al., 2021)、時間を通じたより肯定的な集団間志向(Lefringhausen et al., 2023)を予測します
・一方、移民をめぐる社会政治的緊張の高まり(Ipsos, 2025)は、持続的な他文化採用を妨げ、マジョリティの文化変容を移民のものより短期的・流動的なものにしうるとされます
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■ 9. 理論的なつなぎ:なぜ文化変容が創造性・フラリッシングを高めると考えられるのか
▼ 9-1. 日常的創造性との関係
・文化的に多様な枠組みをプライミング(前もって意識させること)すると、中国のマジョリティ学生の創造的パフォーマンスが向上しました(Cheng & Leung, 2013)
・文化的に対照的な枠組みへの接触は「認知的不均衡」(頭の中の前提が揺さぶられる状態)を生み、矛盾する視点の調停や新しい組み合わせの生成という、創造的思考の要素を促すと考えられます(Fürst & Grin, 2023)
・ただ触れるだけの異文化接触と違い、実際に他文化を採用・統合するには文化的差異への能動的な関与が必要で、より持続的な認知的緊張と深い統合的処理を引き起こしうるとされます(Maddux et al., 2021)
▼ 9-2. 認知的柔軟性との関係
・CPAGモデル(分類–処理–適応–一般化モデル)では、異文化の人と関わりながらステレオタイプを抑制することには認知的努力が必要で、それが認知的柔軟性を高めると理論化されています(Crisp & Turner, 2011)
・複数の社会的アイデンティティをもつ人は、多様な意味領域からアイデアを引き出すと考えられ、それには認知的柔軟性が必要なため、複数のアイデンティティは高い認知的柔軟性、ひいては創造性と結びついています(Steffens et al., 2016)
▼ 9-3. 好奇心–探索との関係
・予測処理理論では、脳の主要な機能は「予測誤差を最小化すること」だとされます(de Lange et al., 2022)
・蓄積された文化的知識は社会環境の出来事を予測する手がかりになるので(van Elk, 2021)、新しい文化要素を取り入れることは予測処理を不安定にする可能性があります
・例として、ある中国人学生が「感謝を言葉にする」というアメリカ的価値観を採用したところ、父親が「それは家族ではなく他人に対する振る舞いだ」と予想外に怒ったという報告があります(Hang & Zhang, 2023)。文化採用が予測誤差を生む例です
・好奇心は不確実性を減らす手段として機能するため(Van Lieshout et al., 2021)、他文化の採用・統合は高い好奇心–探索と関連すると期待されます
▼ 9-4. フラリッシング(人生の意味・対人関係の質)との関係
・フラリッシングは、自己や他者との強い心理的・社会的・感情的なつながりに根ざしています(Virgona & Kashima, 2021)
・マジョリティ集団の文化採用・統合は、文化的アイデンティティや帰属についての内省を促し、人生の意味を高めうると論じられています(Lefringhausen, 2023)
・具体的には、自己の本物らしさ(authenticity)を高め、それは人生の意味の高さと関連します(Schlegel et al., 2009)。また新しい世界観の統合は、人生についての根本的な問いへの答えを助け、意味をさらに高めます(Koltko-Rivera, 2004)
・文化採用・統合は異文化感受性(Lefringhausen & Marshall, 2016)や異文化接触の質(Dandy et al., 2023)を予測するため、多様な社会で満足のいく対人関係を築き維持するのに適応的だと考えられます
▼ 9-5. ポリカルチュラリズムという交絡要因
・ポリカルチュラリズムとは「異なる民族文化集団は互いに影響し合い、世界的につながっている」という見方です(Bernardo et al., 2013)
・これはマジョリティ集団の文化採用・統合(Lefringhausen et al., 2023)とも、フラリッシング(Virgona & Kashima, 2021)とも、認知的柔軟性(Bernardo & Sit, 2025)とも正の関連があるため、統計的な関係を交絡させる(見かけ上の関係を作る)恐れがあります
・ただし、マジョリティの文化変容が多様性イデオロギーを時間的に先行して予測することから(Lefringhausen et al., 2023)、文化変容の経験がポリカルチュラルな態度の形成に先立つと考えられます
・文化採用は「能動的な関与」、ポリカルチュラリズムは「態度」なので、前者の方がより深い内省と持続的な認知的緊張を生み、創造性・フラリッシングをより強く予測するだろうと期待されます
▼ 9-6. 縦断デザインの必要性
・文化変容研究には「因果関係の危機」(相関は多いが因果の向きが分からない問題)が指摘されています(Kunst et al., 2021)
・そこで方向性を検討するために縦断デザインを採用しますが、観察的な縦断デザインは直接には因果推論を支持しないことも認めています(Robins, 1997)
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■ 10. 以上から導かれた4つの仮説
・仮説1:他文化の採用度が高い文化変容戦略を好む人ほど、創造性とその構成要素の得点が高い
・仮説2:同様に、フラリッシングとその構成要素の得点が高い
・仮説3(縦断研究のみ):他文化の採用度が高い戦略は、時間を通じて創造性・フラリッシングの得点の高さを予測する(逆方向ではなく)
・仮説4(縦断研究のみ):他文化の採用は、ポリカルチュラリズムよりも創造性・フラリッシングの分散を多く説明する

コメント 2

【研究内容】
■ この研究で何をしたのか(全体像)
Colledge et al.(2026)は、「マジョリティ集団(その国の多数派)の人が他文化を取り入れたり自国文化を維持したりすること(マジョリティ集団の文化変容)が、創造性やフラリッシングと関係するか」を、3つの研究で検証しました。
・研究1:英国のマジョリティ学生(白人・英国籍、N = 323)、横断調査
・研究2:中国のマジョリティ学生(漢民族を中心とする中国籍学生、N = 174)、横断調査
・研究3:イングランドの白人英国人一般市民(N = 219)、3時点の縦断調査
横断調査とは「ある一時点で測定して関係を見る」もの、縦断調査とは「同じ人を複数回測定して、時間的な変化や先行関係を見る」ものです。
研究1・2は「人を分類して比べる」やり方、研究3は「変数どうしの時間的な関係を追う」やり方をとっており、この違いが後で考察の論点になります。
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■ 研究1:英国のマジョリティ学生(N = 323)
▼ 背景
・英国は留学生が学生全体の約2割を占める国ですが(Higher Education Statistics Agency, 2024)、英国のマジョリティ学生が留学生に対してどう文化変容するかは調べられていませんでした
・創造性は「認知的柔軟性」で、フラリッシングは「人生の意味」と「対人関係の質」で測定しました。学生にとって「勉強の内的な意味」と「社会的に馴染めるか」が重要な関心事だからです
▼ 参加者
・340名がオンライン調査に回答。英国籍の白人で、英国の大学に在籍し、英国在住の学生のみが対象
・国籍で5名、注意確認(ちゃんと読んで回答しているかを確認する質問)で2名を除外し、最終323名
・年齢は18〜77歳(平均27.5歳)、男性162名、女性157名、その他4名
・データは2022年1月、Prolific(オンラインの調査参加者募集プラットフォーム)で収集
▼ 測定尺度
・マジョリティ学生の文化変容:新たに作成した18項目の尺度。「国民文化の維持」9項目(例「自分の国民文化の集団に強い帰属感がある」)と「他文化の採用」9項目(例「留学生のやり方で物事を行う」)。それぞれアイデンティティ・慣習・価値観の3側面を含みます(Phinney & Ong, 2007; Demes & Geeraert, 2014; Haugen & Kunst, 2017; Ryder et al., 2000; Hofstede, 2011 から項目を翻案)
・認知的柔軟性:認知的柔軟性尺度(Dennis & Vander Wal, 2010)の11項目版。例「決断の前に複数の選択肢を検討する」
・人生の意味:PERMA-Profiler(Butler & Kern, 2016)の3項目。例「全体として、どの程度目的と意味のある人生を送っていますか」
・対人関係の質:PERMA-Profilerの3項目。例「どの程度、愛されていると感じていますか」
・尺度の信頼性(一貫して測れているか)はいずれも良好で、確認的因子分析(尺度が想定通りの構造をもつかを検証する統計手法)でも妥当な構造が確認されました
▼ 分析の手順
・まず、年齢や性別などの人口統計変数のうち、アウトカムと中程度以上の関係があるものだけを統制変数として使うことにしました。不適切な統制はかえって推定を歪めるためです(Wysocki et al., 2022)。結果、統制すべき変数はありませんでした
・次に、潜在プロファイル分析(LPA)を行いました。これは「国民文化の維持」と「他文化の採用」の回答パターンが似た人どうしをグループ(プロファイル)に分ける統計手法で、事前に人数を決めるのではなく、データから自然なグループを見つけます
・最後に、BCH法(Bolck et al., 2004)で、グループごとのアウトカム平均を比較しました。LPAの分類には「この人はたぶんこのグループ」という不確実性が伴うので、その分類誤差を考慮して比較する方法です。多重比較の補正(Bonferroni-Holm法)と、効果量(差の大きさを示す指標。Cohen's d で0.2が小、0.5が中、0.8が大の目安)も算出しました
▼ 結果1:4つのグループが見つかった
・未分化(どちらも平均並み):57.9%
・周辺化(どちらも低い):26.0%
・統合(どちらも高い):12.1%
・分離(維持は高く、採用は低い):4.0%
・過去の多国籍メタ分析(Kunst et al., 2021)と一致する4種類のパターンでしたが、英国の学生では「未分化」が過半数を占めた点が特徴的です。分離グループは13名と少なく、通常なら採用しない小ささですが、3グループ解では適合度と解釈可能性が明らかに劣ったため、4グループ解を採用しています
▼ 結果2:統合グループがもっとも良好
・認知的柔軟性:統合(M = 5.64)が未分化(M = 5.05)より高い(d = 0.72、中〜大の効果)。周辺化・分離とは有意差なし
・人生の意味:統合(M = 7.85)が、分離(M = 5.83、d = 1.13)、未分化(M = 5.79、d = 0.98)、周辺化(M = 5.56、d = 1.04)のすべてより高い。いずれも大きな効果
・対人関係の質:統合(M = 7.21)が未分化(M = 6.29、d = 0.45)と周辺化(M = 6.28、d = 0.40)より高い。分離とは有意差なし
▼ 研究1の考察
・仮説1(創造性)は部分的に支持、仮説2(フラリッシング)は支持
・「統合」が一貫してもっとも適応的な文化的志向として浮かび上がりました
・英国の学生は文化的アイデンティティを強調したがらず、共通の活動や目的といった共通基盤を重視する傾向が報告されており(Vytniorgu, 2022)、「未分化」の多さはそれと整合的です
・ただし、なぜ「未分化」が一貫して悪い結果と結びつくのかは不明です。著者たちは、未分化の学生は「文化的アイデンティティの明確さ」(自分がどんな文化集団に属しているかがはっきりしている感覚)が低く、それが自己の一貫性やウェルビーイングを損なっている可能性を指摘しています(Usborne & de la Sablonnière, 2014; Usborne & Taylor, 2010)
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■ 研究2:中国のマジョリティ学生(N = 174)
▼ 背景
・中国の高等教育は急速に国際化しており、中国のマジョリティ学生の文化変容が研究対象になり始めています(Hang & Zhang, 2023)。研究1と同じ枠組みで、別の文化圏でも同じことが言えるかを確かめます
▼ 参加者
・207名が回答。中国籍で中国在住の現役学生のみ対象
・無回答1名、国籍10名、注意確認22名を除外し、最終174名
・年齢は18〜34歳(平均22.5歳)、男性76名、女性93名、その他2名、回答しない3名
・データは2022年9〜10月、便宜的サンプリング(手の届く範囲で集める方法)で収集
▼ 測定と分析
・研究1と同じ尺度を、回答者の負担軽減のため短縮して使用(文化変容尺度は18→12項目、認知的柔軟性は11項目)
・欠測データ(3.18%)は、完全にランダムな欠測ではなかったため、ランダムフォレスト補完(機械学習を使って欠けた値を推定する手法)で補いました
・分析手順は研究1と同じ。ただし、対人関係の質は主観的な社会経済的地位(SES)と中程度の相関(r = 0.35)があったため、SESの影響を取り除いた残差(SESで説明できない部分)を比較しました
▼ 結果1:3つのグループが見つかった
・分離(維持は高く、採用は低い):51.7%
・統合(採用が高く、維持も高水準):26.4%
・周辺化(維持が低い):21.8%
・統計的な適合度指標だけなら5グループ解が最良でしたが、少人数すぎるグループや理論的に区別できないグループが含まれたため、より簡潔で解釈可能な3グループ解を採用しました
・エントロピー(グループ分けの明確さを0〜1で示す指標)は0.58と低〜中程度でしたが、BCH法はエントロピーが低くても比較的安定するという先行研究(Shin et al., 2019; No & Hong, 2018)に基づいて分析を進めています
▼ 結果2:フラリッシングでは統合が高い、認知的柔軟性は差なし
・認知的柔軟性:グループ間に有意差なし
・人生の意味:統合(M = 7.36)が分離(M = 6.78、d = 0.36、小)より高く、周辺化(M = 6.16、d = 0.84、大)よりかなり高い
・対人関係の質(SES調整済み):統合が分離より高い(d = 0.09、ごく小さい)、周辺化より高い(d = 0.34、小)。ただし効果量の信頼区間の下限がマイナスにかかっており、差の大きさには不確実性があります
▼ 研究2の考察
・仮説1(創造性=認知的柔軟性)は不支持、仮説2(フラリッシング)は支持
・「分離」が過半数だったのは、中国の学生が自国文化への社会化を重視するという先行研究(Hang & Zhang, 2023)と整合的です。一方で「統合」が26%と英国より多く、自国文化の維持と他文化の採用は中国のキャンパスで共存できることを示唆します
・認知的柔軟性に差がなかった理由として、中国的な世界観はもともと認知的に柔軟だとする研究(S. Liu & Wei, 2020)や、東アジア系の学生では伝統文化の維持が認知的柔軟性と結びつくという知見(B. S. K. Kim & Omizo, 2010)を挙げ、「そもそも認知的柔軟性の基準値が高く、文化変容の違いで差が出にくかった」可能性を指摘しています
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■ 研究3:イングランド一般市民の縦断調査(N = 219)
▼ 背景と狙い
・大学という文脈から社会全体に対象を広げ、しかも3時点の縦断データで「時間的な先行関係」を見ます
・英国は「低成長の罠」にあると言われ、政府は創造産業に3億8000万ポンドを投資しています(British Chambers of Commerce, 2025; UK Government, 2025)。また超党派議員グループが、GDPと並ぶ政策指標としてフラリッシングのような包括的ウェルビーイング指標を置く「ウェルビーイング経済」を提唱しています(All-Party Parliamentary Group, 2025)。つまり創造性とフラリッシングは、英国の政策上の重要目標です
・創造性は日常的創造性・認知的柔軟性・好奇心–探索の3つで多面的に、フラリッシングは一般的なフラリッシング尺度で測定
・さらに、ポリカルチュラリズム(文化はお互いに影響し合ってつながっているという見方)を統制変数として加え、「多様性を肯定する態度」の影響を取り除いた上で文化変容の効果を見ます
▼ 参加者
・18歳以上、白人イングランド人と自認し、英国生まれの英国籍、英国在住、英語が主言語の人
・T1(2019年3月)220名、T2(同年6〜7月)189名、T3(同年10〜11月)158名。脱落率はT2で14%、T3で28%
・年齢18〜68歳(平均37.4歳)、男性80名、女性139名。就業者68.5%
・報酬はT1・T2が5ポンド、T3が10.5ポンド
▼ 測定尺度(すべて6件法)
・文化変容:簡易文化変容・文化内化尺度(Demes & Geeraert, 2014)を翻案した8項目。国民文化の維持(例「英国人らしさを保つことは自分にとって大切だ」)4項目、他文化の採用(例「移民の伝統に参加することは自分にとって大切だ」)4項目
・日常的創造性:カウフマン創造性領域尺度(Kaufman, 2012)の日常的創造性下位尺度11項目。例「お金がないときに何か楽しむ方法を見つける」
・認知的柔軟性:認知的柔軟性尺度16項目版
・好奇心–探索:好奇心・探索尺度II(Kashdan et al., 2009)の9項目版。例「どこへ行っても新しいものや経験を探している」
・フラリッシング:短縮フラリッシング尺度(Diener et al., 2010)8項目。例「目的と意味のある人生を送っている」
・ポリカルチュラリズム:Rosenthal & Levy(2012)の4項目短縮版。例「異なる文化の間には多くのつながりがある」
▼ 欠測データの扱い
・脱落が「特定の人が抜けやすい」偏りを含むか(選択的脱落)を検定したところ、完全にランダムな欠測ではなかったため、研究2と同様にランダムフォレスト補完を行いました
▼ 分析手法:ランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)
・交差遅延パネルモデルとは、「T1のAがT2のBを予測するか、それともT1のBがT2のAを予測するか」という双方向の時間的関係を同時に推定するモデルです
・「ランダム切片」版(Hamaker et al., 2015)は、各人の「いつも高い/低い」という安定した個人差(個人間の違い)と、「その人がいつもより高い/低い時期」という変動(個人内の変化)を分けて推定します。安定した個人差が見かけ上の相関を作ってしまう問題を避けられ、因果推論の補強に役立ちます(Selig & Little, 2012)
・研究1・2のようにグループ分けをせず、文化変容の2つの得点をそのまま連続変数として扱いました(変数中心アプローチ)。サンプルサイズがやや小さめなので、モデルの安定性を優先した判断です
・7変数×3時点=21変数の関係をすべて推定。事後的な検定力分析では、N = 219で0.30程度の効果を90%の確率で検出できると確認されました
・制約の異なる3つのモデル(M1:もっとも自由、M2・M3:制約を加えたもの)を比較し、もっとも自由なM1が最良の適合を示したため、M1で仮説を検証しました
▼ 結果1:安定した個人差のレベル(個人間)
・他文化の採用は、好奇心–探索(r = 0.29)およびポリカルチュラリズム(r = 0.49)と正の相関、国民文化の維持とは負の相関(r = −0.60)
・国民文化の維持はポリカルチュラリズムと負の相関(r = −0.51)
・つまり「他文化を取り入れる人」と「自国文化を守る人」は、イングランドではかなりはっきり分かれていました
▼ 結果2:時間的な予測(個人内の変化)
・T1の他文化の採用が高いと、T2の認知的柔軟性(β = 0.32)、好奇心–探索(β = 0.28)、フラリッシング(β = 0.40)が上昇
・T1の他文化の採用は、T2のポリカルチュラリズムも正に予測(β = 0.52)。逆にT1のポリカルチュラリズムがT2の他文化の採用を予測する効果(β = 0.26)もありましたが、前者の方が強い
・T1の国民文化の維持は、T2のポリカルチュラリズムを負に予測(β = −0.37)
・日常的創造性については仮説と逆で、T1の日常的創造性がT2の国民文化の維持を正に予測(β = 0.24)
・重要な点として、これらの効果はT1→T2では見られたものの、T2→T3では見られませんでした
▼ 研究3の考察
・仮説1(創造性)は部分的支持(認知的柔軟性と好奇心–探索は支持、日常的創造性は不支持)、仮説2(フラリッシング)は支持、仮説3(時間的先行)は支持、仮説4(ポリカルチュラリズムより強い)は支持
・他文化の採用と国民文化の維持が一貫して負の相関だったのは、英国での移民をめぐる態度の分極化(Ipsos, 2025)を反映していると解釈されています
・効果がT2で消えたことについて、著者たちは「マジョリティ集団にとって他文化の採用を持続するのは難しい」「他文化の採用は実験的・探索的に行われ、長続きする内面的変化になりにくい」「イングランドではマジョリティのアイデンティティが規範的で社会的に報われるため、他文化採用の心理的恩恵は条件付きになりやすい(Clark & Ochmann, 2022)」といった可能性を挙げています
・日常的創造性が国民文化の維持を予測した点は、「お金がないときに楽しみを見つける」「同僚との対立を解決する」といったイングランドでの日常的な問題をうまく乗り越えることが、その人を自国の文化環境により密着させ、国民的アイデンティティを再確認させたのではないかと解釈しています
・ただし、この「維持」は必ずしも閉鎖的・排他的とは限りません。メタ分析によれば、マジョリティ集団の文化維持は概して他文化の拒否を意味しないことが示されており(Kunst, 2025)、国民的同一化も、集合的ナルシシズム(自国は特別だという防衛的な誇り)を介せば集団間関係に負に働き、人類全体への同一化を介せば正に働くという二面性が報告されています(Hamer et al., 2018)。日常的創造性がどちらの形の文化維持と結びつくかは今後の課題です
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■ 総合考察
▼ 3つの研究を通して分かったこと
・英国と中国の大学、イングランド社会という3つの文脈で、マジョリティ集団の人も文化的適応を経験しており、それが創造性・フラリッシングの中核要素と関係することが示されました。これはマイノリティ側に偏っていた文化変容研究(Rudmin, 2003)を拡張するものです
・研究1では「統合」が認知的柔軟性・人生の意味・対人関係の質と、研究2では「統合」が人生の意味・対人関係の質と関連
・研究3では、他文化の採用の連続得点が、認知的柔軟性・好奇心–探索・フラリッシングの上昇を予測(ただし短期的)
▼ 英国の学生について
・留学生が多い環境で、多くの学生が文化的同一化を重視しない「未分化」を選んでいたのは意外ではありません(Vytniorgu, 2022)。しかしこの戦略は心理的に良くない結果と結びつき、「統合」は柔軟で、つながりがあり、目的意識のある見通しと共起していました
・グローバル市民の育成という大学の優先事項と、学生の柔軟性・フラリッシングの促進は相互に結びついている可能性があり、英国の大学で実装が不十分とされるEDI(公平性・多様性・包摂性)の取り組み(Jones & Boliver, 2025)を強化する根拠にもなりえます
▼ 中国の学生について
・「分離」が多数派であることは、この集団にとっての国民文化の重要性を反映しています(Hang & Zhang, 2023)
・それでも「統合」は英国より多く、文化の維持と採用が共存できること、また中国の高等教育の国際化がマジョリティ学生にとって文化的関与の機会になりうることを示唆しています
・「統合」と人生の意味・対人関係の質との関連は、関係的協力やグローバルな関与を重視する中国の高等教育の方針(Guo & Guo, 2025)とも整合します
▼ イングランドの市民について
・他文化の採用と国民文化の維持の一貫した負の相関は、社会的緊張を映しています
・それでも、他文化を取り入れる意欲は、認知的柔軟性・好奇心–探索・フラリッシングの短期的なプラスの変動を予測しました
・効果の不連続性は、マジョリティ集団の文化変容が動的で、一時的・探索的な性質をもつことを示唆しています
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■ 限界
・研究1・2ではポリカルチュラリズムを統制していないため、グループ間の差が「多様性を肯定する態度」の反映である可能性が残ります。ただし研究3では統制しても関係が保たれたので、この懸念は限定的とされています
・「文化変容→創造性・フラリッシング」という方向を前提にしていますが、逆方向も理論的にはありえます。研究3は多少の手がかりを与えますが、RI-CLPMは個人内変動の関係を推定するもので、因果そのものを証明するわけではなく、未測定の第3変数や双方向性の影響を排除できません(Hamaker et al., 2015; Robins, 1997)
・研究3のサンプルサイズは複雑なモデルにとって下限に近く、推定の不安定さや小さい効果の検出力不足の懸念があります(Kline, 2023)
・短縮版や翻案した尺度を使ったため、概念の一部しか捉えられず、関連が弱く出た可能性があります。研究1の「他文化の採用」の1項目は因子負荷量(項目が概念をどれだけ反映しているかの指標)が0.49と低めでした
・研究1・2は「人を分類して比べる」アプローチ、研究3は「変数の関係を追う」アプローチで、指標が異なるため、直接の統合には限界があります
・参加者はすべてオンラインパネルからの募集で、一般化には注意が必要です。今後は、行動的な創造性課題などの多角的な測定や、準実験デザインが望まれます
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■ 結論
・3つの研究は、マジョリティ集団の文化変容が創造性とフラリッシングの中核要素と関係するという、収束的な概念的証拠を提供しました
・多文化経験が創造性と認知的柔軟性を育てるという長年の主張(Crisp & Turner, 2011; Leung et al., 2008; Maddux et al., 2021)と整合的であり、しかもその関連は移民や二文化の人に限らず、マジョリティ集団にも現れることを示しました
・縦断的には、他文化の採用は創造性とフラリッシングの短期的な上昇を予測し、時点間の不安定さは、文化的関与がより一時的・探索的な形をとることを示唆しています
・社会レベルでは、多様性がイノベーションとウェルビーイングにもつ価値をめぐる英国・中国の議論に示唆を与え、大学レベルでは、倫理的・市民的理由だけでなく「柔軟で充実した学生を育てる」という教育目的からも、マジョリティ学生の文化統合を促す環境づくりが意味をもつことを示しています
・「文化変容はマイノリティだけの負担である」という語りを問い直し、マジョリティ集団も双方向のプロセスの能動的な参加者だと位置づけたことが、この研究の中心的な貢献です

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動画解説はこちら😊
https://youtu.be/ly9mRu9RAjs

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会話形式での紹介はこちら😊
はぴテク相談室:外国人の同僚と、自分らしさと、ごきげんの話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-27-1787802060/

論文紹介 ありがとうありのままに 人間関係・恋愛文化と幸福・日本的幸福感情・レジリエンス

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