「あなたのおかげで」の一言が、子どもの「自分が好き」を育てる
〜アドラー心理学ベースのクラス会議による小学生の変化〜
クラス会議と子どもの自己受容についての、日本の最新研究
小学4年生25人のクラスで、半年間・計17回のクラス会議を追いかけた調査です。
ここでのクラス会議というのは、
アドラー心理学ベースの学級活動で、
みんなで輪になって座り、
「ハッピー・サンキュー・ナイス」(嬉しかったこと・感謝・いいなと思ったこと)を言い合ってから、
「給食中に静かに食べるには?」「先生へのサプライズ何にする?」みたいな議題を、
自分たちで話し合って決める。というもの。
この研究のポイントは、
先生が最後に「褒める」んじゃなくて「勇気づける」こと。
「すごいね」「えらいね」ではなく、
「〇〇さんが意見をまとめてくれたおかげで、みんなが納得する案になったね」
「たくさん意見を出してくれてありがとう」
みたいに、貢献した事実をそのまま言葉にして返す。
このクラス会議をやったらどうなるか。
結果としては、半年前と比べて、
- 貢献感(役に立ててる感)
- 所属感・信頼感(ここにいていい感)
- 自己受容(自分が好き感)
の全部が上がっていました。
これまでの研究では、貢献感や所属感は上がるが、
「自己受容」だけはなかなか上がらない。
と言われていたので、ここが新しいところ。
子どもたちへのインタビューを分析すると、
こんな順番で変わっていってました。
①最初は「反対されたらどうしよう」「傷つけたら嫌だな」と不安
②みんなの話を聞くうちに「失敗しても笑われない」安心感が育つ
③「自分の意見、言えるようになった」と手応えが出る
④「みんなの役に立ちたい」気持ちが湧く
⑤先生や友達から「あなたのおかげで」と言われて嬉しい
⑥「自分、けっこういいかも」になる
面白いのは、
自己受容は「自分で自分を認める」ことなのに、
入り口は「誰かの役に立って、それを誰かに認められる」ことだった。というところ。
「自分が好き」は、ひとりでは育たない。ということですね😊
クラス会議が児童の共同体感覚の自己受容に及ぼす影響
高橋弘樹(横浜市立みなとみらい本町小学校)・赤坂真二(上越教育大学教職大学院)、日本
日本学級経営学会誌 第8巻、2026
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacm/8/0/8_37/_article/-char/ja
クラス会議と「勇気づけ」が育む子どもの自己受容 教師の「勇気づけフィードバック」と仲間からの承認が、自己受容や共同体感覚を高めるメカニズム クラス会議による 意識の変化(量的成果) 自己受容をはじめとする 共同体感覚が有意に向上 17回の継続実践により、自己受容を含む 全ての評価項目で数値が上昇。 共同体感覚 全体: 3.94 貢献: 3.77 自己受容: 3.75 共同体感覚 全体: 4.31 貢献: 4.22 自己学受 4.17 介入前(6月) 介入後(12月) 自己受容が高まる循環プロセス 貢献行動と教師の「勇気づけ」による承認 仲間との関係深化に 「ありのままの自分」の肯定 安心感ある学級で肯定的な言葉を受け取り、 自己受容と他者信頼が深まる。 ありがとう すごいね! その子 でもOK! 子どもが「自分を好きになる」 教室のつくり方 アドラー心理学に基づく 「クラス会議」と 「勇気づけ」の魔法 高橋弘樹(横浜市立みなとみらい本町小学校) 赤坂真二(上越教育大学教職大学院) 出典:「日本学級経営学会 2026 第8回『クラス会議が児童の共同体意識の自己受容に及ぼす影響』」 Gakken Notebook すべての成長の土台となる「共同体感覚」 自己受容 (ありのままの自分を受け入れ、 自分が好きだと思える) 他者信頼 (他者を仲間だと見なし、 居場所があると感じる) 他者貢献 (自分は誰かの役に 立っていると実感する) 「自分を好きになる(自己受容)」ためには、仲間を信頼し、役に立つ経験が欠かせません。 では、このサイクルを学校や家庭でどう回せばいいのでしょうか? 解決策:週1回・15分の「クラス会議」 Step 1: 輪になる&あいさつ (全員で顔を合わせる) Step 2: Happy, Thank you, Nice (感謝と良いことの共有) Step 3: 講題の解決策を話し合う (みんなで決める) Step 4: 先生の話 (勇気づけのフィードバック) 大切なのは「短い時間でも継続する」こと。半年間で17回、 日常の延長として組み込むことで、子どもの心に変化が生まれます。 大人の関わり方:「褒める」のではなく「勇気づける」 【褒める】(評価) 視点:結果重視・他者との競争 大人の立ち位置:上から目線の評価 生み出す感情:「失敗したらどうしよう」という恐れ 「100点ってぐいね!」 【勇気づける】(共感・賛献) 視点:過程重視・個人の成長 大人の立ち位置:横の関係・感謝と共感 生み出す感情:「もっと役に立ちたい」という内発的意欲 「努力したんだね」 「協力してくれて助かったよ」 勇気づけとは、自己尊重と自信頼を築くためのメッセージです。 実証データ:たった半年間で、子どもたちの意識は確実に変わる 6月 12月 4.6 4.5 4.4 4.3 4.2 4.1 4.0 3.9 3.8 3.7 3.6 3.5 4.15 4.50 所属感・信頼感 4.22 (有意に上昇) 4.50 貢献感 3.77 4.22 (有意に上昇) 3.75 4.17 自己受容 (有意に上昇) 6月 12月 ※小学4年生25名を対象に、17回のクラス会議を実施した結果(Wilcoxon検定) 「自分を好きになれない」時期(小4)にもかかわらず、クラス会議と勇気づけを継続することで、「ありのままの自分を受け入れる力(自己受容)」が明確に育ちました。 心の成長プロセス①:期待と「不安」から、安心できる居場所へ 【不安】 「最初はみんなに自分の意見を反対されるかもしれないと思って心配だった…」 「相手が嫌な思いをしないかなーても心配だった」 毎週の「ありがとう」の交換やルールの共有により心理的抵抗が解消。 Level 1 【安心感の醸成】 「失敗しても笑われないとか、そういう安心がある感じ!」 「話をしたら『おおー』『すごい』と言ってくれて嬉しかった」 心の成長プロセス②:話し合いの「葛藤」を越えて、自信を手に入れる 【葛藤】 「自分は意見を言っていただけ。周りに意見を言う人が少なくてイライラしていた」 理想通りに進まないもどかしさ。 逃げずに全員で解決策を探る経験の積み重ね。 Level 2 【効力感の獲得】 「前は笑顔で終われなかったけど、みんな笑顔で終わることができてよかった」 「やっていくうちに、なんて伝えればいいか分かるようになりました」 心の成長プロセス③:誰かの役に立つ喜びと、大人からの「承認」 【貢献意欲】 「みんなで決められるのが気持ちよかった」 「自分もみんなの役に立ちたいと思った」 【大人からの勇気づけ】 先生:「○○さんのおかげでまた4年生がよくなったね」 【自己受容へ】 「意見が言えなくて困っていたときに、みんながやさしく言ってくれた」 「自分は受け入れられているという確信」 Level 3 結論:自己受容を高める 「成長の上昇らせん」 Step D:【受容】 そんな「あのままの自分 が好き」になる(自己受容) Step A:【貢献】 自分たちで誌し合い、 仲間の役に立つ Step B:【承認】 先生や仲間から 「勇気づけ」られる Step C:【信頼】 「ここは自分の居場所だ」 と安心する(他者信頼) 自己受容は 一人では育ちません。 仲間への「貢献」と、 周囲からの「勇気づけ」の サイクルが回ることで、 初めて確固たるもの になります。 明日から使える! 大人の「勇気づけ」フレーズ集 「あなたのおかげで、 とても助かったよ」 (貢献への注目) 「結果はどうあれ、 たくさん努力したんだね」 (過程の重視) 「この前よりも、ずい ぶん上手になったね」 (成長の承認) 「協力してくれて ありがとう」 (感謝と共感) 「残念そうだね。でも、 挑戦したことはすごいよ」 (失敗の受容) 特別なイベントは必要ありません。日常の「当たり前」の行動を 価値づけるだけで、子どもは自分自身をプラスに再認識できます。 まとめ:子どもが自分を好きになるために、 大人ができる3つのこと 1.小さな「ありがとう」を交換する習慣をつくる 心理的安全性は一朝一夕では生まれません。日常的な感謝の共有が 「失敗しても大丈夫」という安心の土台をつくります。 2.結果を「褒める」のではなく、過程を「勇気づける」 上から目線の評価をせめ、子どもの賃辱や成長プロセスに共感し、 感謝を伝えてください。 3.特効薬はない。短時間でも「継続」する 週1回、たった15分でも継続することで、少しずつ疲労を乗り越え、 確固たる自己受容が育ちます。 【クラス会議への期待と不安】 〈結し合うことの喜び〉〈導入プログラムでの楽しい実感〉〈発言することへの恥ずかしさ〉 〈過去の話し合い経験からの不安〉〈初めてのごこへの不安や心配な気持ち〉 【 】…カテゴリー 〈 〉…概念 →…影響関係 【関係性の広がり】 〈仲間のことを知れる楽しさ〉 〈良好な関係性の実感〉 【教室の受心層の醸成】 〈話し合いのルールを守るうえで生ずる喜感〉 〈反応ぶある喜ぶ〉〈失敗していいと思える安心感〉 〈見直と表現する抵抗の解消〉 【葛藤する経験】 〈理想とのギャップによる
動画での解説はこちら😊
https://youtu.be/BLzV6a9iAHs
本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:「自分のことが好き」はどこから育つ?
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-15-1791997861/
【研究背景】
■ この研究の背景を順を追って解説します
対象論文:高橋・赤坂「クラス会議が児童の共同体感覚の自己受容に及ぼす影響」(日本学級経営学会誌 2026, 第8巻)
この研究は「クラス会議」という話し合い活動の中で、教師が「勇気づけ」の考え方にもとづいたフィードバックを行うと、子どもの「自己受容(自分のことが好きだと思える感覚)」にどんな影響があるのかを調べたものです。ここでは、その研究にたどり着くまでに積み重ねられてきた先行研究を、論文の記述に沿って整理します。
■ 出発点:学級経営と「よりよい人間関係」が求められている
▼ 国の方針
▼ そこで注目されたのがアドラー心理学
論文はこれらを根拠に、よりよい人間関係の形成と学級経営の充実を目指すうえで、アドラー心理学に注目することに意義があるとしています。
■ 鍵となる概念:共同体感覚とクラス会議
▼ 共同体感覚とは
アドラー心理学は、アルフレッド・アドラー(1870-1937)が提唱した心理学で、最重要概念として「共同体感覚」を挙げ、その育成を目標にしています。
▼ クラス会議とは
クラス会議は、学級の全員が輪になって、議題について話し合い、解決策を決めていく活動です。
■ クラス会議で共同体感覚は育つのか:7件の先行研究
論文の著者らは、木下・赤坂 (2020) の研究動向のまとめに加えて、2010年以降2024年12月までの論文を検索し、クラス会議による共同体感覚の育成に関する研究を7件確認しています。それぞれの結果と課題は次のとおりです。
四日市市教育委員会 (2014):小学校4年生37名、8回実施。髙坂 (2011) の共同体感覚尺度を参考に「自己受容」「所属感」「信頼感」「貢献感」の質問項目を作成し、いずれも向上したことから、クラス会議は共同体感覚を育成できる取り組みだと報告しました。ただし、作成したアンケートは標準化されたものではなく、信頼性の高いアンケートづくりが必要だと述べています。
山岡・濵田 (2016):小学校4年生27名、16回実施。髙坂 (2014) の小学生版共同体感覚尺度を用い、共同体感覚全体と下位項目の「貢献感」「所属感」が有意に上昇し、一定の効果があったと報告しました。一方で、クラス会議などの介入が途切れると共同体感覚が低下することから、継続的な実践が必要だと述べています。
熊谷 (2016):高校1年生39名、帰りのホームルームで15分程度、23回実施。「所属感・信頼感」に有意傾向が見られ、学校生活満足度の向上も報告されました。ただし、実施時間が短く、小グループ中心で進めていたため、共同体感覚を有意に高めるまでにはいかなかったと指摘しています。
金山ら (2018):大学2年生31名、8回実施。クラス会議に参加した群は対照群に比べて共同体感覚の全項目で変化量が有意でした。しかし、対象が心理教育プログラムへの関心が強いと考えられる教育学部の学生であり、もともとクラス会議への関心が強かった可能性を指摘しています。
金山・堀内 (2018)、金山・二宮 (2021):大学生を対象に7回実施。共同体感覚に一定の効果があったと報告していますが、有意な変化は実証できませんでした。課題として、参加人数の少なさ、参加者同士の関係が希薄な中でリレーション(関係性)形成への配慮が十分でなかったこと、1週間間隔の定期実施ができなかったことを挙げています。
生田目・渡部 (2024):小学校5年生37名、13回実施。「所属感・信頼感」が有意に上昇した一方、他の項目は天井効果(はじめから得点が高く、上昇の余地が小さい状態)が現れ、有意差が見られませんでした。行事が立て込む時期に定期的な実施ができなかったことを課題としています。
▼ 先行研究からわかる到達点と空白
■ なぜ「自己受容」に注目するのか
▼ 自己受容の意味と重要性
論文は、学級という小集団で日常的に相互作用が生じる小学生期に焦点を当てること、とりわけクラス会議を通した自己受容の育成を検討することの重要性をここから導いています。
▼ 自己受容が上がりにくかった理由をめぐる先行研究の考察
これらから論文は、①教師や学級の仲間との関係性がつくられること、②その関係ができた他者から当たり前のことを価値づけられること、③クラス会議を継続的に実施すること、が児童の自己受容の育成に影響を及ぼす可能性があると整理しています。
■ 「他者から認められること」と自己受容をつなぐ理論
▼ 共同体感覚の円環構造
▼ 他者からの受容・承認が自己受容を生む
▼ 共同体感覚の形成プロセスに関する研究
■ クラス会議における教師の役割:「褒める」ではなく「勇気づけ」
▼ 「先生の話」とフィードバック
▼ 勇気づけとは何か
▼ 本研究で用いた勇気づけの枠組み
本研究の勇気づけフィードバックは、野田 (2017) の「勇気づけの方法」に依拠しています。たとえば「貢献や協力に注目する(あなたのおかげでとても助かった)」「過程を重視する(努力したんだね)」「感謝し共感する(協力してくれてありがとう)」などの内容とメッセージです。
また、フィードバックの効果については、ハッティ・クラーク (2023) が、効果的なフィードバックは高い信頼があって不安が少ない環境で行う必要があると述べており、本研究が筆者と関係性がすでにできている学年を対象にした根拠となっています。
これらを踏まえて論文は、クラス会議で児童が他者に貢献している場面を教師が勇気づけの考えにもとづいてフィードバックすると、児童が他者貢献した気持ちを自覚でき、自己受容を育むことに影響を及ぼす可能性があるという仮説を立てています。
■ 研究方法の面での背景:量的研究だけでは足りない
▼ 用いる尺度と分析法の出どころ
■ まとめ:先行研究が残した問いと、この研究の位置づけ
ここまでの流れを整理すると、次のようになります。
これらを受けて本研究は、小学4年生の1学級を対象に、約半年間17回のクラス会議の中で教師が勇気づけフィードバックを行い、共同体感覚(とくに自己受容)の変化を尺度で測るとともに、児童の振り返りとインタビューをM-GTAで分析して、自己受容に影響が及ぶプロセスを描き出そうとしたものです。
【研究内容】
■ この研究のねらい
▼ 背景
▼ 先行研究の課題
▼ 目的
■ 研究の方法
▼ 対象と期間
▼ クラス会議の進め方
▼ 勇気づけフィードバック
▼ データ収集
▼ 分析方法
■ 結果
▼ 尺度の変化(n=25、6月→12月)
図1 小学4年生25名に17回のクラス会議を行った前後の共同体感覚尺度(5点満点)の平均値。尺度全体と3つの下位項目すべてで得点が上がり、先行研究で示されていなかった「自己受容」も統計的に有意に高まりました。
この論文の表6 児童の共同体感覚の変化(3.1 小学生版共同体感覚尺度の分析結果)の数値をもとに、はぴテックが作図。
▼ M-GTAの結果:32個の概念と9個のカテゴリー
生成されたカテゴリーは以下の9つです。
▼ ストーリーライン(プロセスの流れ)
■ 考察
▼ 教師の勇気づけフィードバックと自己受容
▼ 二つの理論との対応
▼ 明らかになった3点
■ 今後の課題
▼ 読む際の注意点