2026.10.15

「あなたのおかげで」の一言が、子どもの「自分が好き」を育てる

「あなたのおかげで」の一言が、子どもの「自分が好き」を育てる
〜アドラー心理学ベースのクラス会議による小学生の変化〜

クラス会議と子どもの自己受容についての、日本の最新研究

小学4年生25人のクラスで、半年間・計17回のクラス会議を追いかけた調査です。


ここでのクラス会議というのは、
アドラー心理学ベースの学級活動で、
みんなで輪になって座り、
「ハッピー・サンキュー・ナイス」(嬉しかったこと・感謝・いいなと思ったこと)を言い合ってから、
「給食中に静かに食べるには?」「先生へのサプライズ何にする?」みたいな議題を、

自分たちで話し合って決める。というもの。


この研究のポイントは、
先生が最後に「褒める」んじゃなくて「勇気づける」こと。
「すごいね」「えらいね」ではなく、
「〇〇さんが意見をまとめてくれたおかげで、みんなが納得する案になったね」
「たくさん意見を出してくれてありがとう」

みたいに、貢献した事実をそのまま言葉にして返す。


このクラス会議をやったらどうなるか。
結果としては、半年前と比べて、

  • 貢献感(役に立ててる感)
  • 所属感・信頼感(ここにいていい感)
  • 自己受容(自分が好き感)
    の全部が上がっていました。

これまでの研究では、貢献感や所属感は上がるが、
「自己受容」だけはなかなか上がらない。

と言われていたので、ここが新しいところ。


子どもたちへのインタビューを分析すると、
こんな順番で変わっていってました。
①最初は「反対されたらどうしよう」「傷つけたら嫌だな」と不安
②みんなの話を聞くうちに「失敗しても笑われない」安心感が育つ
③「自分の意見、言えるようになった」と手応えが出る
④「みんなの役に立ちたい」気持ちが湧く
⑤先生や友達から「あなたのおかげで」と言われて嬉しい

⑥「自分、けっこういいかも」になる


面白いのは、
自己受容は「自分で自分を認める」ことなのに、
入り口は「誰かの役に立って、それを誰かに認められる」ことだった。というところ。

「自分が好き」は、ひとりでは育たない。ということですね😊


クラス会議が児童の共同体感覚の自己受容に及ぼす影響
高橋弘樹(横浜市立みなとみらい本町小学校)・赤坂真二(上越教育大学教職大学院)、日本
日本学級経営学会誌 第8巻、2026
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacm/8/0/8_37/_article/-char/ja

クラス会議と「勇気づけ」が育む子どもの自己受容 教師の「勇気づけフィードバック」と仲間からの承認が、自己受容や共同体感覚を高めるメカニズム クラス会議による 意識の変化(量的成果) 自己受容をはじめとする 共同体感覚が有意に向上 17回の継続実践により、自己受容を含む 全ての評価項目で数値が上昇。 共同体感覚 全体: 3.94 貢献: 3.77 自己受容: 3.75 共同体感覚 全体: 4.31 貢献: 4.22 自己学受 4.17 介入前(6月) 介入後(12月) 自己受容が高まる循環プロセス 貢献行動と教師の「勇気づけ」による承認 仲間との関係深化に 「ありのままの自分」の肯定 安心感ある学級で肯定的な言葉を受け取り、 自己受容と他者信頼が深まる。 ありがとう すごいね! その子 でもOK! 子どもが「自分を好きになる」 教室のつくり方 アドラー心理学に基づく 「クラス会議」と 「勇気づけ」の魔法 高橋弘樹(横浜市立みなとみらい本町小学校) 赤坂真二(上越教育大学教職大学院) 出典:「日本学級経営学会 2026 第8回『クラス会議が児童の共同体意識の自己受容に及ぼす影響』」 Gakken Notebook すべての成長の土台となる「共同体感覚」 自己受容 (ありのままの自分を受け入れ、 自分が好きだと思える) 他者信頼 (他者を仲間だと見なし、 居場所があると感じる) 他者貢献 (自分は誰かの役に 立っていると実感する) 「自分を好きになる(自己受容)」ためには、仲間を信頼し、役に立つ経験が欠かせません。 では、このサイクルを学校や家庭でどう回せばいいのでしょうか? 解決策:週1回・15分の「クラス会議」 Step 1: 輪になる&あいさつ (全員で顔を合わせる) Step 2: Happy, Thank you, Nice (感謝と良いことの共有) Step 3: 講題の解決策を話し合う (みんなで決める) Step 4: 先生の話 (勇気づけのフィードバック) 大切なのは「短い時間でも継続する」こと。半年間で17回、 日常の延長として組み込むことで、子どもの心に変化が生まれます。 大人の関わり方:「褒める」のではなく「勇気づける」 【褒める】(評価) 視点:結果重視・他者との競争 大人の立ち位置:上から目線の評価 生み出す感情:「失敗したらどうしよう」という恐れ 「100点ってぐいね!」 【勇気づける】(共感・賛献) 視点:過程重視・個人の成長 大人の立ち位置:横の関係・感謝と共感 生み出す感情:「もっと役に立ちたい」という内発的意欲 「努力したんだね」 「協力してくれて助かったよ」 勇気づけとは、自己尊重と自信頼を築くためのメッセージです。 実証データ:たった半年間で、子どもたちの意識は確実に変わる 6月 12月 4.6 4.5 4.4 4.3 4.2 4.1 4.0 3.9 3.8 3.7 3.6 3.5 4.15 4.50 所属感・信頼感 4.22 (有意に上昇) 4.50 貢献感 3.77 4.22 (有意に上昇) 3.75 4.17 自己受容 (有意に上昇) 6月 12月 ※小学4年生25名を対象に、17回のクラス会議を実施した結果(Wilcoxon検定) 「自分を好きになれない」時期(小4)にもかかわらず、クラス会議と勇気づけを継続することで、「ありのままの自分を受け入れる力(自己受容)」が明確に育ちました。 心の成長プロセス①:期待と「不安」から、安心できる居場所へ 【不安】 「最初はみんなに自分の意見を反対されるかもしれないと思って心配だった…」 「相手が嫌な思いをしないかなーても心配だった」 毎週の「ありがとう」の交換やルールの共有により心理的抵抗が解消。 Level 1 【安心感の醸成】 「失敗しても笑われないとか、そういう安心がある感じ!」 「話をしたら『おおー』『すごい』と言ってくれて嬉しかった」 心の成長プロセス②:話し合いの「葛藤」を越えて、自信を手に入れる 【葛藤】 「自分は意見を言っていただけ。周りに意見を言う人が少なくてイライラしていた」 理想通りに進まないもどかしさ。 逃げずに全員で解決策を探る経験の積み重ね。 Level 2 【効力感の獲得】 「前は笑顔で終われなかったけど、みんな笑顔で終わることができてよかった」 「やっていくうちに、なんて伝えればいいか分かるようになりました」 心の成長プロセス③:誰かの役に立つ喜びと、大人からの「承認」 【貢献意欲】 「みんなで決められるのが気持ちよかった」 「自分もみんなの役に立ちたいと思った」 【大人からの勇気づけ】 先生:「○○さんのおかげでまた4年生がよくなったね」 【自己受容へ】 「意見が言えなくて困っていたときに、みんながやさしく言ってくれた」 「自分は受け入れられているという確信」 Level 3 結論:自己受容を高める 「成長の上昇らせん」 Step D:【受容】 そんな「あのままの自分 が好き」になる(自己受容) Step A:【貢献】 自分たちで誌し合い、 仲間の役に立つ Step B:【承認】 先生や仲間から 「勇気づけ」られる Step C:【信頼】 「ここは自分の居場所だ」 と安心する(他者信頼) 自己受容は 一人では育ちません。 仲間への「貢献」と、 周囲からの「勇気づけ」の サイクルが回ることで、 初めて確固たるもの になります。 明日から使える! 大人の「勇気づけ」フレーズ集 「あなたのおかげで、 とても助かったよ」 (貢献への注目) 「結果はどうあれ、 たくさん努力したんだね」 (過程の重視) 「この前よりも、ずい ぶん上手になったね」 (成長の承認) 「協力してくれて ありがとう」 (感謝と共感) 「残念そうだね。でも、 挑戦したことはすごいよ」 (失敗の受容) 特別なイベントは必要ありません。日常の「当たり前」の行動を 価値づけるだけで、子どもは自分自身をプラスに再認識できます。 まとめ:子どもが自分を好きになるために、 大人ができる3つのこと 1.小さな「ありがとう」を交換する習慣をつくる 心理的安全性は一朝一夕では生まれません。日常的な感謝の共有が 「失敗しても大丈夫」という安心の土台をつくります。 2.結果を「褒める」のではなく、過程を「勇気づける」 上から目線の評価をせめ、子どもの賃辱や成長プロセスに共感し、 感謝を伝えてください。 3.特効薬はない。短時間でも「継続」する 週1回、たった15分でも継続することで、少しずつ疲労を乗り越え、 確固たる自己受容が育ちます。 【クラス会議への期待と不安】 〈結し合うことの喜び〉〈導入プログラムでの楽しい実感〉〈発言することへの恥ずかしさ〉 〈過去の話し合い経験からの不安〉〈初めてのごこへの不安や心配な気持ち〉 【 】…カテゴリー 〈 〉…概念 →…影響関係 【関係性の広がり】 〈仲間のことを知れる楽しさ〉 〈良好な関係性の実感〉 【教室の受心層の醸成】 〈話し合いのルールを守るうえで生ずる喜感〉 〈反応ぶある喜ぶ〉〈失敗していいと思える安心感〉 〈見直と表現する抵抗の解消〉 【葛藤する経験】 〈理想とのギャップによる
投稿者による補足(4件)
補足 1

動画での解説はこちら😊
https://youtu.be/BLzV6a9iAHs

補足 2

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:「自分のことが好き」はどこから育つ?
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-15-1791997861/

補足 3

【研究背景】

■ この研究の背景を順を追って解説します

対象論文:高橋・赤坂「クラス会議が児童の共同体感覚の自己受容に及ぼす影響」(日本学級経営学会誌 2026, 第8巻)

この研究は「クラス会議」という話し合い活動の中で、教師が「勇気づけ」の考え方にもとづいたフィードバックを行うと、子どもの「自己受容(自分のことが好きだと思える感覚)」にどんな影響があるのかを調べたものです。ここでは、その研究にたどり着くまでに積み重ねられてきた先行研究を、論文の記述に沿って整理します。


■ 出発点:学級経営と「よりよい人間関係」が求められている

▼ 国の方針
  • 文部科学省 (2017) の小学校学習指導要領解説総則編では、「学習や生活の基盤として、教師と児童との信頼関係及び児童相互のよりよい人間関係を育てるため、日頃から学級経営の充実を図ること」が示されました。
  • 同じく特別活動編では、「学級や学校の生活において互いのよさを見付け、違いを尊重し合い、仲よくしたり信頼し合ったりして生活すること」が示され、よりよい人間関係の形成が重視する内容の一つに挙げられています。
▼ そこで注目されたのがアドラー心理学
  • 諸富 (2000) は、教師は心理面からの学級経営テクニックを身につける必要があると述べ、学級集団を扱うのに役立つ心理学としてアドラー心理学を挙げています。
  • 赤坂 (2010) は、アドラー心理学は対人関係支援を得意とし、学校教育に有効であると紹介しています。
  • 古庄 (2014) も、アドラー心理学の基本的前提とされる仮説は、自己や他者を理解するうえで非常に有効だと述べています。

論文はこれらを根拠に、よりよい人間関係の形成と学級経営の充実を目指すうえで、アドラー心理学に注目することに意義があるとしています。


■ 鍵となる概念:共同体感覚とクラス会議

▼ 共同体感覚とは

アドラー心理学は、アルフレッド・アドラー(1870-1937)が提唱した心理学で、最重要概念として「共同体感覚」を挙げ、その育成を目標にしています。

  • 岸見・古賀 (2013) は、共同体感覚を「他者を仲間だと見なし、そこに『自分の居場所がある』と感じられること」と説明しています。
  • 野田 (1989) は、共同体感覚の三つの条件として、「私は私が好きだ」という自己受容、「人びとは信頼できる」という基本的信頼感、「私は役に立てる人間だ」という貢献感を挙げています。
▼ クラス会議とは

クラス会議は、学級の全員が輪になって、議題について話し合い、解決策を決めていく活動です。

  • 赤坂 (2014a) は、共同体感覚を育成する方法で最も有効なものとしてクラス会議を挙げています。
  • 木下・赤坂 (2020) は、アドラー心理学に基づくクラス会議に関する研究を整理し、クラス会議が学級経営の充実を図る手立ての一つとして期待されていると述べています。
  • ネルセンら(会沢訳, 2000)は、クラス会議は「生徒たちがこの重要な人生への態度と、真の共同体感覚を身につけるためのスキルを伸ばすことのできる、一つのプロセスを提供します」と説明しています。

■ クラス会議で共同体感覚は育つのか:7件の先行研究

論文の著者らは、木下・赤坂 (2020) の研究動向のまとめに加えて、2010年以降2024年12月までの論文を検索し、クラス会議による共同体感覚の育成に関する研究を7件確認しています。それぞれの結果と課題は次のとおりです。

  • 四日市市教育委員会 (2014):小学校4年生37名、8回実施。髙坂 (2011) の共同体感覚尺度を参考に「自己受容」「所属感」「信頼感」「貢献感」の質問項目を作成し、いずれも向上したことから、クラス会議は共同体感覚を育成できる取り組みだと報告しました。ただし、作成したアンケートは標準化されたものではなく、信頼性の高いアンケートづくりが必要だと述べています。

  • 山岡・濵田 (2016):小学校4年生27名、16回実施。髙坂 (2014) の小学生版共同体感覚尺度を用い、共同体感覚全体と下位項目の「貢献感」「所属感」が有意に上昇し、一定の効果があったと報告しました。一方で、クラス会議などの介入が途切れると共同体感覚が低下することから、継続的な実践が必要だと述べています。

  • 熊谷 (2016):高校1年生39名、帰りのホームルームで15分程度、23回実施。「所属感・信頼感」に有意傾向が見られ、学校生活満足度の向上も報告されました。ただし、実施時間が短く、小グループ中心で進めていたため、共同体感覚を有意に高めるまでにはいかなかったと指摘しています。

  • 金山ら (2018):大学2年生31名、8回実施。クラス会議に参加した群は対照群に比べて共同体感覚の全項目で変化量が有意でした。しかし、対象が心理教育プログラムへの関心が強いと考えられる教育学部の学生であり、もともとクラス会議への関心が強かった可能性を指摘しています。

  • 金山・堀内 (2018)、金山・二宮 (2021):大学生を対象に7回実施。共同体感覚に一定の効果があったと報告していますが、有意な変化は実証できませんでした。課題として、参加人数の少なさ、参加者同士の関係が希薄な中でリレーション(関係性)形成への配慮が十分でなかったこと、1週間間隔の定期実施ができなかったことを挙げています。

  • 生田目・渡部 (2024):小学校5年生37名、13回実施。「所属感・信頼感」が有意に上昇した一方、他の項目は天井効果(はじめから得点が高く、上昇の余地が小さい状態)が現れ、有意差が見られませんでした。行事が立て込む時期に定期的な実施ができなかったことを課題としています。

▼ 先行研究からわかる到達点と空白
  • クラス会議が共同体感覚の育成に一定の効果をもつことは示唆されている。
  • しかし、小学生を対象とした研究は3件と少ない。
  • そして、共同体感覚の下位項目のうち「自己受容」が有意に上昇したことは、いずれの研究でも示されていない。

■ なぜ「自己受容」に注目するのか

▼ 自己受容の意味と重要性
  • 野田 (2017) は、共同体感覚における自己受容を「自分のことが好きであるということ」と説明し、精神的に健康な条件の一つとして自己受容をしていることを挙げています。
  • 春日 (2015)(本文中では2014と表記)は、今後の教育現場では、自尊感情や自己肯定感だけでなく、他者との関係に密接に関連する自己受容に注目することが必要ではないかと指摘しています。

論文は、学級という小集団で日常的に相互作用が生じる小学生期に焦点を当てること、とりわけクラス会議を通した自己受容の育成を検討することの重要性をここから導いています。

▼ 自己受容が上がりにくかった理由をめぐる先行研究の考察
  • 生田目・渡部 (2024) は、自己受容に有意な変化が見られなかったことについて、天井効果が現れていること、そして「4年生が終わってすぐの4月から5年生後半にかけての精神的な成長過程において、今の自分自身を肯定的に受け止めることができなくなってきている」と推察しています。
  • 四日市市教育委員会 (2014) は、自己受容の値が(有意ではないが)上昇したことの最大の要因として、クラス会議でのコンプリメント(互いのよいところや感謝を伝え合う活動)を挙げ、「特別なことだけではなく、ちょっとしたこと、当たり前のことについて価値づけてもらえることにより、自分自身をプラスの考え方で再認識することができ、自己受容できるようになった」と考察しています。
  • 山岡・濵田 (2016) は、自己受容は他の下位項目と違い遅れて効果が表れると述べ、貢献感や信頼感が高まるクラス会議を継続していくと、それに伴って自己受容が遅れて高まることが確認できたとしています。
  • 櫻井 (2024) は、児童期には信頼できる他者(養育者や教師、友達等)との良好な関係を継続することで自己受容は確固としたものになると述べています。
  • 赤坂 (2024a) は、クラス会議の効果について「最低でも1週間に一度以上、2か月くらい続けて、ようやく効果が見えてくる」と述べています。

これらから論文は、①教師や学級の仲間との関係性がつくられること、②その関係ができた他者から当たり前のことを価値づけられること、③クラス会議を継続的に実施すること、が児童の自己受容の育成に影響を及ぼす可能性があると整理しています。


■ 「他者から認められること」と自己受容をつなぐ理論

▼ 共同体感覚の円環構造
  • 岸見・古賀 (2013) は、共同体感覚は円環構造として成り立つと主張しています。ありのままの自分を受け入れる「自己受容」をするからこそ「他者信頼」ができ、他者を仲間だと思えるからこそ「他者貢献」ができ、他者に貢献するからこそ「わたしは誰かの役に立っている」と実感してまた「自己受容」できる、という循環です。
▼ 他者からの受容・承認が自己受容を生む
  • 山田・岡本 (2006) は、他者に受け入れられる体験が安心感を生み、それが自己の受容につながると述べています。
  • 浦川 (2014) は、他者に認められた経験が青年期の自己受容を高める一要因となっていることを明らかにし、教師が子どもを認める力を育むことの重要性を指摘しています。
▼ 共同体感覚の形成プロセスに関する研究
  • 水流ら (2024) は、小学生の共同体感覚の向上について、まず「貢献感」が形成され、その後に「所属感・信頼感」が形成され、自己評価的経験を積み重ねることで「自己受容」が高まっていく可能性を報告しています。本論文はこのモデルも参照し、結果と照らし合わせています。

■ クラス会議における教師の役割:「褒める」ではなく「勇気づけ」

▼ 「先生の話」とフィードバック
  • 赤坂 (2014b) は、クラス会議の終末にある「先生の話」とは、子どもたちの話し合いの様子を見ていて望ましい姿を指摘することだと述べています。
  • ネルセンら(会沢訳, 2000)は、クラス会議の教師のスキルとして「支持的なフィードバックによる勇気づけ」を挙げ、褒めることではなく勇気づけを主張し、肯定的なクラス会議の雰囲気を作り上げるために勇気づけは大きな助けになると述べています。
▼ 勇気づけとは何か
  • 岩井 (2011) は、勇気づけを「自己尊重(自尊心)と自己信頼を築くのを支援するために個人の持ち味と潜在的に焦点を当てるプロセスであり、勇気と信頼を確立するのに欠かせない技術を適用することで現実化する理論」と定義しています。
  • 酒井 (2008) は、褒めることと勇気づけの効果を比較するにあたり、岩井 (2002) の「ほめは他人との競争、周囲の評価を意識するようになることで失敗を恐れるようになる懸念があるため、自己の成長への意識が生まれにくい」という論考を紹介し、これをもとに行った研究で、勇気づけは自己の成長への意欲を高め、内発的動機づけ(外からの報酬ではなく、自分の内側からわく「やりたい」気持ち)を高められることを報告しています。
  • 赤坂 (2024b) は、教師のフィードバックが共通認識として子どもに理解されると述べています。
▼ 本研究で用いた勇気づけの枠組み

本研究の勇気づけフィードバックは、野田 (2017) の「勇気づけの方法」に依拠しています。たとえば「貢献や協力に注目する(あなたのおかげでとても助かった)」「過程を重視する(努力したんだね)」「感謝し共感する(協力してくれてありがとう)」などの内容とメッセージです。

また、フィードバックの効果については、ハッティ・クラーク (2023) が、効果的なフィードバックは高い信頼があって不安が少ない環境で行う必要があると述べており、本研究が筆者と関係性がすでにできている学年を対象にした根拠となっています。

これらを踏まえて論文は、クラス会議で児童が他者に貢献している場面を教師が勇気づけの考えにもとづいてフィードバックすると、児童が他者貢献した気持ちを自覚でき、自己受容を育むことに影響を及ぼす可能性があるという仮説を立てています。


■ 研究方法の面での背景:量的研究だけでは足りない

  • 木下・赤坂 (2020) は、クラス会議研究では質的な調査方法を用いた研究が乏しいと指摘し、量的な調査結果の妥当性を高めるために、発話・会話分析などの質的な方法を組み合わせた混合型研究へ転換していく必要があると述べています。
▼ 用いる尺度と分析法の出どころ
  • 量的分析には、髙坂 (2014) が小学4〜6年生を対象に作成した小学生版共同体感覚尺度(「貢献感」「所属感・信頼感」「自己受容」の3因子13項目)を用いています。統計解析には清水 (2016) のHADが使われています。
  • 質的分析には、木下 (2020) が提唱した修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:インタビューデータから人間行動の説明モデルを作ることを目指す質的研究法)を用いています。木下 (2003) は、M-GTAが適する研究課題として、人と人が直接やり取りする社会的相互作用に関わる研究、得られた仮説から支援のあり方を検討する研究、対象がプロセス的性格をもつことの3点を挙げており、クラス会議はこれに当てはまると判断されています。
  • 半構造化インタビュー(聞きたいことをおおよそ決めつつ、聞き方や順番は状況に合わせて柔軟に変える方法)の説明は中嶌 (2015) に依拠しています。
  • 分析手順は甫仮 (2023) を参考に作成されています。

■ まとめ:先行研究が残した問いと、この研究の位置づけ

ここまでの流れを整理すると、次のようになります。

  • 学級経営の充実とよりよい人間関係の形成が求められ、その手立てとしてアドラー心理学とクラス会議が注目されてきた(文部科学省 2017;諸富 2000;赤坂 2010;古庄 2014;赤坂 2014a;木下・赤坂 2020)。
  • クラス会議が共同体感覚を育てることは複数の研究で示唆されてきたが、小学生対象の研究は少なく、「自己受容」の有意な上昇は示されていなかった(四日市市教育委員会 2014;山岡・濵田 2016;熊谷 2016;金山ら 2018;金山・堀内 2018;金山・二宮 2021;生田目・渡部 2024)。
  • 自己受容は他者からの受容や承認、信頼できる他者との継続的な関係から生まれるとする知見がある(岸見・古賀 2013;山田・岡本 2006;浦川 2014;櫻井 2024)。
  • 教師の関わり方としては「褒める」より「勇気づけ」が有効とされる(ネルセンら 2000;岩井 2011;酒井 2008;赤坂 2014b, 2024b)。
  • クラス会議研究には質的手法を組み合わせた混合型研究が求められている(木下・赤坂 2020)。

これらを受けて本研究は、小学4年生の1学級を対象に、約半年間17回のクラス会議の中で教師が勇気づけフィードバックを行い、共同体感覚(とくに自己受容)の変化を尺度で測るとともに、児童の振り返りとインタビューをM-GTAで分析して、自己受容に影響が及ぶプロセスを描き出そうとしたものです。

補足 4

【研究内容】

■ この研究のねらい

▼ 背景
  • 小学校学習指導要領では、教師と児童の信頼関係や児童同士のよりよい人間関係を育てるため、日頃から学級経営の充実を図ることが求められています。
  • この研究は、アドラー心理学に基づく「クラス会議」に注目しています。アドラー心理学は「共同体感覚」(他者を仲間だと見なし、自分の居場所があると感じられること)の育成を目標とする心理学で、野田(1989)はその条件として、自己受容(私は私が好きだ)、基本的信頼感(人びとは信頼できる)、貢献感(私は役に立てる人間だ)の三つを挙げています。
  • クラス会議とは、児童が輪になって議題を話し合い、解決策を決めていく学級活動のプログラムです。赤坂(2014a)は、共同体感覚を育成する方法として最も有効なものにクラス会議を挙げています。
▼ 先行研究の課題
  • 著者らが2010年以降の研究を調べたところ、クラス会議による共同体感覚育成の研究は7件あり、一定の効果が示唆されていました。しかし小学生対象の研究は3件と少なく、共同体感覚の下位項目のうち「自己受容」が有意に上昇したことは示されていませんでした。
  • 山岡・濵田(2016)は、自己受容は他の下位項目と違い、遅れて効果が表れると述べています。四日市市教育委員会(2014)は、自己受容の値が上昇した最大の要因として、クラス会議でのコンプリメント(当たり前のことを価値づけてもらうこと)を挙げています。
  • ネルセンら(会沢訳, 2000)は、クラス会議の教師のスキルとして「支持的なフィードバックによる勇気づけ」を挙げ、褒めることではなく勇気づけを主張しています。勇気づけとは、岩井(2011)の定義では、自己尊重と自己信頼を築くのを支援するために個人の持ち味と潜在的な力に焦点を当てるプロセスです。
▼ 目的
  • クラス会議において、教師が勇気づけの考えに基づいたフィードバック(勇気づけフィードバック)を行うことが、児童の共同体感覚の下位項目「自己受容」に及ぼす影響を明らかにすること。
  • 木下・赤坂(2020)がクラス会議研究には質的な調査が乏しいと指摘していることから、量的な尺度調査に加えて、質的な分析でそのプロセスを検討しています。

■ 研究の方法

▼ 対象と期間
  • A県B市立C小学校の第4学年1学級25名(男子11名・女子14名)。全学年単学級の小規模校です。
  • 筆者(第一著者)はこの学校に勤務しており、対象児童とは関係性が比較的できている状態でした。ハッティ・クラーク(2023)が、効果的なフィードバックは高い信頼があり不安が少ない環境で行う必要があると述べていることから、この学年を対象としています。
  • 令和6年6月6日〜12月20日、計17回のクラス会議を実施しました。
▼ クラス会議の進め方
  • 赤坂(2014b, 2024b)に依拠したプログラムです。1時間の流れは、輪になる→あいさつ→話し合いのルール→Happy, Thank you, Nice(コンプリメントの交換)→前回の解決策のふり返り→議題の提案→解決策を集める・比べる・決める→先生の話→あいさつ、です。
  • 議題は「お楽しみ会で遊ぶ内容を決めよう」「給食中に静かに食べるにはどうしたらいいか」「担任の先生以外の授業で騒がしくならないようにするには」など、児童の身近なものでした。
▼ 勇気づけフィードバック
  • 野田(2017)に依拠し、「貢献や協力に注目する」「過程を重視する」「失敗をも受け入れる」「感謝し共感する」などの内容と、それに対応するメッセージ(例:「あなたのおかげでとても助かった」「協力してくれてありがとう」)を用いました。
  • 主に各回終末の「先生の話」で、該当する行動が観察されたその都度、具体的事実を指摘した上でメッセージを届けました。具体例は「○○さんが意見をまとめたことで、みんなが納得する解決策が生まれたね」などです。
  • なお、フィードバックの回数や対象者数は体系的に計数しておらず、実施頻度の分析は行っていないことが明記されています。
▼ データ収集
  • 第1〜6回(1学期)は、時間割の都合でインタビュー時間が確保できなかったため、クラス会議直後に自由記述の振り返り用紙で感想を尋ねました。
  • 第7〜17回(2学期以降)は、当日の休み時間に半構造化インタビュー(聞きたいことを大まかに整理しつつ、聞き方や順番は流れに合わせて柔軟に変える面接法)を実施しました。対象は議題提案者・司会及び書記・フォロワーの3名で、フォロワーは恣意性を避けるためランダムに抽出しました。各約5分、録音して逐語化し匿名化しました。
▼ 分析方法
  • 量的分析:髙坂(2014)の小学生版共同体感覚尺度(「貢献感」4項目、「所属感・信頼感」5項目、「自己受容」4項目の3因子13項目、5件法)を介入前後で測定し、Wilcoxonの符号付順位検定(前後の差を順位で比べるノンパラメトリック検定)で比較しました。
  • 質的分析:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA。インタビューデータから概念を作り、人間行動の説明モデルを生成する質的研究法)を用いました。分析テーマは「クラス会議を経験した児童の自己受容の変容プロセス」、分析焦点者は「クラス会議を経験した児童」です。

■ 結果

▼ 尺度の変化(n=25、6月→12月)
  • 共同体感覚全体:3.938→4.314(p=0.015)
  • 貢献感:3.770→4.220(p=0.009)
  • 所属感・信頼感:4.152→4.504(p=0.022)
  • 自己受容:3.750→4.170(p=0.041)
  • 尺度全体および自己受容を含むすべての下位項目で、有意な高まりが確認されました。

図1 小学4年生25名に17回のクラス会議を行った前後の共同体感覚

図1 小学4年生25名に17回のクラス会議を行った前後の共同体感覚尺度(5点満点)の平均値。尺度全体と3つの下位項目すべてで得点が上がり、先行研究で示されていなかった「自己受容」も統計的に有意に高まりました。
この論文の表6 児童の共同体感覚の変化(3.1 小学生版共同体感覚尺度の分析結果)の数値をもとに、はぴテックが作図。

▼ M-GTAの結果:32個の概念と9個のカテゴリー

生成されたカテゴリーは以下の9つです。

  • 【クラス会議への期待と不安】:話し合うことの喜び、初めてのことへの不安、発言することへの心配や不安 など
  • 【関係性の広がり】:仲間のことを知れる楽しさ、良好な関係性の実感
  • 【教室の安心感の醸成】:話し合いのルールを守ろうとする意識、反応がある嬉しさ、失敗してもいいと思える安心感 など
  • 【葛藤する経験】:理想とのギャップによる不満や葛藤、よりよくしようと思う気持ち
  • 【効力感の獲得】:意見を表現できるようになった実感、経験の積み重ねによる自信
  • 【クラス会議に対する肯定的認識】:自分の議題について話し合ってもらえた喜び、話し合いを笑顔で終えられた達成感 など
  • 【貢献する気持ちの高まり】:みんなで決めることの良さの実感、役割があることの良さの実感、貢献できた喜び など
  • 【人間関係の深化】:共感できるようになった実感、他者を尊重する気持ちの醸成、学校生活への満足感の向上 など
  • 【承認による喜びと成長の実感】:仲間からかけられた言葉への喜び、勇気づけによる意識の強化、勇気づけによる嬉しさの実感、個人の成長実感
▼ ストーリーライン(プロセスの流れ)
  • 導入期、児童は【クラス会議への期待と不安】を抱えています。「自分の意見が反対されるかもしれないから心配だった」「1学期のお楽しみ会の話し合いでけんかをする人がいたから不安」といった声がありました。
  • 毎回のコンプリメント交換で〈仲間のことを知れる楽しさ〉を感じて【関係性の広がり】が生まれ、ルールづくりを通して【教室の安心感の醸成】が起こります。一方で、話し合いがスムーズに進まない【葛藤する経験】もしています。
  • 【関係性の広がり】から〈自分の議題について話し合ってもらえた喜び〉を感じ、【葛藤する経験】を乗り越えて〈話し合いを笑顔で終えられた達成感〉を得るなどして、【クラス会議に対する肯定的認識】へ転換します。安心感の中で「クラス会議は発言が1周するから、やっていくうちに発言ができるようになった」という【効力感の獲得】も、肯定的認識を強めます。
  • 【クラス会議に対する肯定的認識】を経て、〈みんなで決めることの良さ〉などから【貢献する気持ちの高まり】が起こり、貢献した場面をフィードバックされることで【承認による喜びと成長の実感】をします。「先生から○○さんのおかげでまた4年生がよくなったねと言われて嬉しかった」という発話がその例です。
  • その喜びが自信となって〈共感できるようになった実感〉から【人間関係の深化】が起こり、さらにクラス会議の良さを実感する、という循環が描かれています。
  • 【人間関係の深化】を感じた児童は、「意見が言えなくて困っていたときにみんながやさしく言ってくれた」など〈仲間からかけられた言葉への喜び〉を感じ、「自分もみんなの役に立ちたいと思った」と【貢献する気持ちの高まり】が起こる流れも捉えられました。
  • 著者らは、【クラス会議に対する肯定的認識】【貢献する気持ちの高まり】【人間関係の深化】【承認による喜びと成長の実感】の4つのカテゴリーが、児童の自己受容プロセスの中核を成していると考えています。

■ 考察

▼ 教師の勇気づけフィードバックと自己受容
  • 児童の発話からは、貢献や協力に注目したフィードバックや、「いつも楽しくクラス会議に参加してくれてありがとう」といった感謝し共感するフィードバックを受け取って、自信がもてたり喜びを実感したりしていることが捉えられました。
  • 櫻井(2024)は、自己受容は重要な他者から受容されていると思えることによって生まれる力だと説明しており、著者らはこうした知見を踏まえて、教師の勇気づけフィードバックが児童の自己受容に影響を及ぼした可能性があると述べています。
▼ 二つの理論との対応
  • 岸見・古賀(2013)は、共同体感覚を「自己受容→他者信頼→他者貢献→自己受容」という円環構造として説明しています。本研究で捉えられた、【貢献する気持ちの高まり】から生じた意欲や行動を【承認による喜びと成長の実感】によって受け止め、自己を受け入れて【人間関係の深化】へ至るプロセスは、この円環構造と重なるとされています。加えて、他者からのフィードバックによる強化が影響を及ぼすことが示唆されました。
  • 水流ら(2024)は、「貢献感」が形成された後に「所属感・信頼感」が形成され、自己評価的経験を積み重ねることで「自己受容」が高まる可能性を報告しています。本研究でも、【貢献する気持ちの高まり】が、所属感や信頼感の高まりといえる【人間関係の深化】を経て、【承認による喜びと成長の実感】をし、自己を肯定するプロセスが捉えられ、このプロセスも支持する結果となりました。
▼ 明らかになった3点
  • 1つ目:児童が貢献した場面を教師が勇気づけフィードバックすることで、児童の自己受容に影響を及ぼしている可能性。
  • 2つ目:教師だけでなく、学級の仲間からの肯定的な言葉かけが児童の自己受容に影響を及ぼしている可能性。本研究は教師のフィードバックに着目していましたが、児童は仲間からの言葉への喜びも多く語っていました。
  • 3つ目:継続的なクラス会議の実施が児童の自己受容に影響を及ぼしている可能性。継続すれば他者貢献の機会が増え、その分フィードバックを受けられると考えられています。

■ 今後の課題

  • 1つ目は、分析結果の実践活用です。M-GTAは理論の生成を目的とし実践活用を強調する方法であるため、生成した理論を参照して実践を重ね、修正や検討を続ける必要があります。
  • 2つ目は、フィードバックの細かな調査です。児童がフィードバックによる自信や喜びを実感していることは捉えられましたが、フィードバックの頻度や勇気づけのメッセージの内容については細かく分析できていません。頻度や内容の検証が望まれています。
▼ 読む際の注意点
  • この研究は1学級25名を対象とした前後比較であり、対照群は設けられていません。また、教師のフィードバックの回数も計数されていないため、「フィードバックの量」と「自己受容の変化」の関係を数量的に示したものではありません。著者らも、影響は「可能性」として慎重に述べています。
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