2026.10.26

ご機嫌は親切を生み、不機嫌は親切を消す

ご機嫌は親切を生み、不機嫌は親切を消す
〜ただ、不機嫌のマイナス影響の方が大きい〜

気分と人助けについての、スイスの最新研究

スーパーで買い物中の600人を対象に、本人に気づかれない形で実験しました。


50年前の有名な実験の再現です。
元の実験は「電話ボックスでコインを拾った人は、ほぼ全員が人助けをした」という伝説級の結果。
今回はそれを、
①お金を拾う(ご機嫌)
②サクラがカートでぶつかってきて、謝らず立ち去る(不機嫌)
③何もしない(比較用)
の3条件で検証。

その後、サクラが目の前でオレンジを袋からぶちまけて、拾ってくれるか(親切行為)を観察しました。


結果は、

  • ご機嫌グループ:41.6%が親切(+6.6%)
  • 何もしないグループ:35%が親切
  • 不機嫌グループ:23.9%が親切(-11.1%)
    きれいに気分の良い順に人助けが増えました。
    ただし伝説の実験ほどの劇的な差ではなく、しかも「ご機嫌の効果」より「不機嫌の効果」の方が強い。
    人は良いことより嫌なことに強く反応するようです。

また、性別の組み合わせだと、

  • ご機嫌の効果は、困っているのが女性のときだけ発動
  • 不機嫌の効果は、困っているのが男性のとき特に強烈
  • 不機嫌な男性が困っている男性を助けた割合は、わずか12.1%
  • 不機嫌な男性でも、女性のことはほぼ普段通り助けていました。
    (うーん、ヨーロッパだからかな😂)

ここで大事なのは、
無礼をされた人が冷たくするのは「無礼をした本人」ではなく、
たまたま居合わせた「無関係な人」だということ。
感情は本人の中で完結せず、見知らぬ誰かに連鎖します。
ご機嫌は連鎖するが、不機嫌も連鎖する。そして不機嫌の方が影響力が大きい。

意識してご機嫌でいたり、ご機嫌な職場にしていきたいですね😊


Mood and Helping Strangers: Revisiting Isen and Levin’s Field Experiment
気分と見知らぬ人への援助:アイゼンとレヴィンのフィールド実験を再訪する
Fabienne Wöhner & Axel Franzen(ベルン大学、スイス)
Social Psychology Quarterly, 2026
https://doi.org/10.1177/01902725261487402

気分と親切心の心理学:小さな出来事が「見知らぬ人への親切」を変える? 日常の小さな出来事による「気分」の変化と「助け」を求める人の性別が、親切な行動にどのような影響を与えるか 気分が親切心に与えるインパクト 約300円相当 良い気分は親切心を高め 41.6%が手助け (通常より+6.6 pt) 実験条件ごとの手助け実行率の比較 実験条件 | 気分観測のつけ方 | 手助けした人の割合 良い気分 | カーネーション を発見 | 41.6% 適度 (控時時) | 特別な刺激なし | 35.0% 悪い気分 | 下棚にカートを ぶつけられる | 23.9% 悪い気分は親切心を大幅に冷ます 23.9%のみ手助け (通常より-11.1 pt) ネガティブな出来事のほうが親切心への悪影響が大きい 性別(助けを求める人・助ける人)による違い 因っているのが「女性」の場合 48.6% 相手が 良い気分 までしも 助けてもいやすい 因っているのが「男性」の場合 12.1% 相手が 良い気分 までで減少! 最も助けてもらえない (特に悪い気分の男性が選避晴) 1枚のコインと「親切」の科学 機嫌の良し悪しは、見知らぬ人への親切心にどう影響するのか? Genius Notebook 1972年の有名な実験では、「公衆電話で小銭を拾うだけで、親切になる確率が83.5%も跳ね上がる」とされた。 Isen と Levinの古典的実験:電話ボックスに小銭を置き、拾った人の気分を良くする。直後に書類をばらまいた人の手助け観察 結果:女性の秘書室に王子って、小銭を拾った全員(100%)が人助けした。 この魔法のような結果は真実か?それとも、ひわかすぎるサンプル(N=41)によるだったのか? +83.5%の劇的な上昇 小銭を見つけなかった人 (ほぼゼロ) 小銭を見つけた人 (100%近く) 心理学の「再現性の危機」を乗り越えるため、スイスの研究チームが600人規模の現代版アップデート実験を行った。 The Legend (1972) The Reality (2023) サンプルサイズ 41人 600人 圧倒的な 信頼性の違い ポジティブな刺激 公衆電話の小銭 ショッピングカートの小銭 ネガティブな刺激の追加 なし 「無言でカートをぶつけられる (無礼な扱い)」 助けを求める状況 書類を落とす 買い物袋からオレンジを落とす この最新の「おとり捜査(Sting Operation)」によって、気分の変動と親切心のリアルな関係が明らかになる。 Gemass Notebook 日常のスーパーマーケットを「行動観察ラボ」に変え、人々の無意識の選択を記録する。 舞台: スイス・ベルンの 地下駐車場。 ターゲット: 一人で買い物に来た 18~70 18~70歳の男女。 ミッション: 手が達がっていない(カートを持っている) 状態で、目の前にオレンジ色をされたとき、 自発的に拾うかどうか観察する。 (文字なし) 18:13 09:00 Gomas Notebooks 買い物客はランダムに「3つの平行世界」のいずれかに割り当てられ、最後に同じ「オレンジを落とす人物」に遭遇する。 ポジティブな世界(Path A) 基準の世界(Path B) ネガティブな世界(Path C) 買い物客は自分が観察されていることに気づいていない。 彼らの「その日の気分」は、直前のほんの些細な出来事によって密かに操作されている。 Genius Notebook 実験の狙いは、単なる「良い気分」の測定だけでなく、他人の無礼による「ネガティブな感情」の引力を測定することだ。 トリガー(Trigger) | 想定される感情(Emotion) | 予測(Prediction) 【ポジティブ条件】 カートに無料の小銭が入っている。 | 小さな喜び・幸運。 | 親切心の向上。 【コントロール(基準)条件】 何もなし。 | 平常心。 | 通常の親切心。 【ネガティブ条件】 見知らぬ人に無礼でカートを激しくぶつけられる。 | 怒り・フラストレーション。 | 親切心の低下。 Gemini Notebook 気分は親切心を上下させる。しかし、「不機嫌の引力」は「上機嫌の浮力」よりもはるかに強い。 親切心温度計 (Helpfulness Thermometer) Warm Orange 41.6%(基準+6.6pt) コインを見つけた幸運は、人を少しだけ親切にする。 基準線 (Control): 35.0% Light Grey Deep Navy 23.9%(基準-11.1pt) 無礼な扱いを受けたことによるフラストレーションは、人を大きく冷酷にする。ネガティブな感情の重力は重い。 © Genius Notebook 親切のベースラインは、「誰が助けを求めているか」と「助ける側の年齢」によっても変動する。 年齢の影響(Age Impact) 性別の影響(Gender Impact) 年齢の壁:オレンジを拾うには腰をかがめる必要があるため、51~70歳の参加者は最も助け る確率が低かった。 男性: 28.5% → → 女性: +10% 38.5% 性別の壁:全体を通して、助けを求める人が「女性」の場合、男性よりも平均して10パー セントポイント多く助け得られた。 Geminis Notebook ネガティブな感情のペナルティは、助けを求める人が「男性」の場合に最も残酷に現れる。 Gender Dynamics Heatmap ♀→♂ 22.4% ♀→♀ 27.6% ⚠ 12.1%(暴落) ♂→? 31.4% 女性は、相手の機嫌が悪くても比較的「安全」に助けてもらえる。 しかし、機嫌の悪い男性が、困っている別の男性に遭遇した場合、助ける確率はわずか「12.1%」まで暴落する。 助ける側(機嫌が悪い状態) 助けを求める側 Gender Notebook あなたの「小さな無礼」は、被害者の気分を害するだけでなく、 次にすれ違う「見知らぬ誰か」への親切心を奪う。 人物A 人物B 人物B 人物C Time 1: 人物A(機嫌が悪い)が人物Bに カートをぶつける(無礼の発生)。 Time 2: 人物B(フラストレーション)が歩く。 Time 3 & Result: 人物Bは人物Cを無視する。 人物Aの放った「ネガティブな感情」が、 無関係な第三者Cの被害として具現する。 感情は無関係者と他人同士の間を転移していく。被害者は、元の加害者とは全く関係のない人物になる。 Gesnma Notebook 親切も無礼も、社会インフラのように伝染していく。 親切の伝染 無礼の伝染 ・1枚のコインや1回の無礼な態度は、数学的に社会の道徳の総量を変化させる。 ・フレンドリーな振る舞いは単なる個人の美徳ではなく、次に続く誰かの「親切な行動」を後押しする共有のインフラストラクチャーである。 親切の伝染
投稿者による補足(4件)
補足 1

本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:小銭ひとつ分の「ごきげん」が、やさしさを連れてくる
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-26-1792953001/

補足 2

【研究背景】

■ この研究の出発点:見知らぬ人への手助けと「気分」

▼ なぜ「見知らぬ人への援助」なのか
  • 他者を助けることは、ほぼどの社会にも存在する基本的な社会規範です。
  • 見知らぬ人への手助けは自発的に起こることが多く、相手と再び会う可能性が低いため、互恵的な関係(お返しを期待する関係)には発展しにくいとされます。
  • 直接の見返りがないにもかかわらず観察されるため、長期的な関係を見越した戦略的な計算に左右されにくく、援助行動の規定要因を調べる場面として適している、というのが本研究の前提です。
▼ 「気分(mood)」の定義
  • 本研究は He et al. (2026) などに倣い、気分を「長く続く気質」ではなく、「特定の状況や刺激に反応して生じる短期的な感情状態」として扱っています。
▼ 原点となった実験:Isen & Levin (1972)
  • Isen & Levin (1972) は、公衆電話ボックスに硬貨を置いておき、それを見つけた人(ポジティブな気分の条件)と見つけなかった人(統制群)を比較しました。
  • 女性の協力者(confederate:実験者側のサクラ)が電話ボックスの近くで書類を落とし、被験者が拾うのを手伝うかどうかを観察しました。
  • 結果、良い気分にある人のほうが自発的な援助を多く行ったと報告されています。

■ なぜ再度の追試が必要とされたのか

▼ 元研究の規模と効果の大きさ
  • Isen & Levin (1972) のサンプルは N = 41 と小さく、ポジティブ気分群と統制群の援助率の差は83.5ポイントという非常に大きなものでした。
  • 女性被験者24人に限ると、統制群では誰も助けず、ポジティブ気分群では全員が助けるという「完全な関連」が報告されています。
  • 本研究の著者らは、こうした巨大な効果は社会科学では極めてまれで、起こりにくいと指摘しています。
▼ 再現性の危機
  • 社会心理学における再現性の危機を背景に、異なる設定・大規模サンプルでの追試が求められています(Maxwell, Lau, & Howard 2015; Open Science Collaboration 2015)。

■ ポジティブな気分の効果:これまでの追試の積み重ね

▼ 著者自身による追試
  • Levin & Isen (1975) は再び電話ボックスに硬貨を置く方法でポジティブな気分を誘導し、援助行動は「落とし物の手紙を投函するか」で測定しました。
  • 硬貨を見つけたかどうかによる差は、研究1で56.6ポイント、研究2で67.8ポイントと、やはり大きな効果が報告されています。
▼ レビュー論文
  • Salovey & Rosenhan (1989) のレビューは、さまざまなポジティブ気分誘導法と援助指標を用いた20研究を挙げ、いずれも気分と援助行動の間に正の関連を報告しているとまとめています。
▼ レビューに含まれない12研究(本論文の著者らが整理)
  • ポジティブ気分の効果を再現した6研究:Bartlett & DeSteno (2006)、Batson et al. (1979)、Forbes & TeVault (1975)、Guéguen (2012)、Guéguen & de Gail (2003)、Piff et al. (2015)
  • 再現しなかった5研究:Behler et al. (2020)、Blevins & Murphy (1974)、Donnerstein, Donnerstein, & Munger (1975)、Schellenberg & Blevins (1973)、Weyant & Clark (1977)
  • 結果が混在した1研究:Vrugt & Vet (2009)(笑顔による気分誘導の効果が男性実験者の場合にのみ見られた)
  • 再現した研究でも効果量は元研究よりずっと小さく、9〜35ポイントの差にとどまっています。たとえば Forbes & TeVault (1975) は硬貨で23ポイント差、Batson et al. (1979) は硬貨で35ポイント差、Guéguen & de Gail (2003) は第三者の笑顔で9.2ポイント差、Guéguen (2012) は心地よい香りで24.5ポイント差でした。
▼ 「厳密な追試」という整理
  • 本論文は「厳密な追試」を、被験者が観察されていることに気づかない現場実験で、硬貨・心地よい音楽・香りのような非対人的な刺激を用い、求められていない援助を測定した研究、と定義しています。
  • この基準で約10件の厳密な追試があり、7件が正の効果を見出し、3件は再現できなかったとまとめています。
▼ メタ分析
  • He et al. (2026) は、実験室・現場・オンラインの108実験を対象に、ポジティブ/ネガティブ感情が協力やボランティアなどの向社会的行動に及ぼす効果をメタ分析し、ポジティブ感情には小さいが統計的に有意な効果があると報告しています。
  • 本論文はこれを、現場実験でも気分効果が確認されるという結論を支持するものと位置づけています。

■ ネガティブな気分の効果:より複雑な先行知見

▼ 全体像
  • ネガティブな気分が向社会的行動に与える影響は、ポジティブな気分よりも複雑だとされます(Carlson & Miller 1987; He et al. 2026; van Kleef & Lelieveld 2022)。
  • 援助が増えるか減るかは、ネガティブ感情の種類によって異なります。
▼ 援助を「増やす」とされるネガティブ感情と、その理論
  • ネガティブ状態解消モデル(negative state relief model):困っている人への共感から生じるネガティブな気分は、助けることで自分の気分が上向くため、援助が増えると仮定します(Cialdini et al. 1987)。
  • 注意焦点仮説(attentional focus hypothesis):注意が自分の感情ではなく他者のニーズへ外向きに向かうと援助が増えるとする考え方です。他者の不幸によるネガティブ感情は他者のニーズに注意を向けさせて援助を促す一方、自分の悩みに向かう場合はそうならない、とされます(Thompson, Cowan, & Rosenhan 1980)。
  • 責任/客観的自己認識モデル:罪悪感のような感情は、本人が責任を感じ道徳的基準に応えようとするため、援助を増やすと仮定します(Carlson & Miller 1987)。
  • He et al. (2026) も、罪悪感や同情が援助行動を増やすことを見出しており、社会的調和の回復によるものと推測しています。
▼ 援助を「減らす」とされるネガティブ感情
  • 他者からの攻撃や侮辱(assault)によって生じるネガティブ感情として、怒り・嫌悪・軽蔑・嫉妬が挙げられます(van Kleef & Lelieveld 2022)。
  • これらは、罪悪感や悲しみとは対照的に、向社会的行動を抑制することが見出されています(He et al. 2026)。
▼ 攻撃・苛立ちによるネガティブ気分を扱った現場実験は3件のみ
  • Weyant & Clark (1977):電話ボックスの硬貨返却口にグラファイト(黒鉛)を仕込み、被験者の手が汚れるようにしました。硬貨を見つけた人と比べて援助が減少しました。
  • North, Tarrant, & Hargreaves (2004):英国の2つの大学ジムで、気分を高める音楽と不快な音楽を流し分けました。不快な音楽を聴いた参加者は、慈善目的のチラシ配りのボランティアに応じる割合が25ポイント低くなりました。
  • Porath & Erez (2007):学部生82人を対象に、実験室へ向かう途中で第三者から無礼な発言を受ける条件を設けました。無礼な発言を受けた人は、実験者が落とした本を拾う援助を49ポイント少なく行いました。
  • これら3研究はいずれも、援助意欲の低下という結果になっています。

■ 援助を求める側の性別に関する先行研究

▼ 元研究の限界
  • Isen & Levin (1972) は、援助を求める協力者として女性のみを用いていました。性役割期待が元の結果に影響した可能性があると本論文は指摘しています。
▼ 援助を求める側の性別を調べた5研究
  • 性別効果なし:Cunningham (1979)、Cunningham, Steinberg, & Grev (1980)、Guéguen (2012)
  • Guéguen & de Gail (2003):異性の協力者に対してより多くの援助が提供された(女性は男性を、男性は女性をより多く助けた)と報告しています。
  • Vrugt & Vet (2009):笑顔によるポジティブ気分誘導が援助を増やしたのは、男性実験者の場合のみでした。
  • これらを踏まえ、本論文は援助を求める側の性別による効果はないと予想しています。

■ 気分操作の解釈をめぐる先行知見

▼ 誘導法による効果の違い
  • 気分操作の方法によって、気分への影響の程度は異なるとされます(Joseph et al. 2020; Westermann et al. 1996)。
  • Diener, Cha, & Oishi (2023) は、ネガティブな誘導が本当にネガティブな気分をもたらしているのか、それとも依然ポジティブな範囲内での気分の低下にとどまっているのかは不確かであるとして、気分誘導実験の解釈に注意を促しています。
  • Joseph et al. (2020) のメタ分析は、気分が双極的な連続体(ネガティブからポジティブまで一本の軸上にある)であることの証拠を示し、またポジティブ刺激よりネガティブ刺激に人がより強く反応することも示しています。
▼ 援助率の基準値
  • Charities Aid Foundation (2024) の World Giving Index では、スイスの回答者の45%が過去1か月に見知らぬ人を助けたと回答しています。
  • Lefevor et al. (2017) のメタ分析では、統制群全体で約40%の被験者が見知らぬ人を助けたとされています。
▼ 性別と援助に関する規範
  • 性別による援助行動の違いについては、Eagly & Crowley (1986) のメタ分析や、Shnabel et al. (2016) の好意的性差別(benevolent sexism)と異性間援助に関する研究があり、本論文では騎士道のような性別規範や性別による地位差の維持を考える際に参照されています。

■ 先行研究から導かれる本研究の位置づけ

  • ポジティブな気分の効果は多くの現場実験で確認されてきたが、効果量は元研究より小さく、再現できなかった研究もあるため、さらなる追試が必要とされていました。
  • 怒りや苛立ちに関わるネガティブな気分を扱った現場実験は3件しかなく、ポジティブ・ネガティブ両方の条件を1つの研究で比較する余地がありました。
  • 援助を求める側の性別は元研究では女性に限られており、男性の援助要請者を加えて検討する必要がありました。
  • これらを踏まえ、本研究は「ポジティブ気分条件で最も多く、ネガティブ気分条件で最も少なく援助が行われる」「援助を求める側の性別による効果はない」という予想のもとで、Isen & Levin (1972) の追試と拡張を行っています。
補足 3

【研究内容】

■ この研究のねらい

  • 「気分がよいと、見知らぬ人を助けやすくなる」というのは、社会心理学でよく知られた知見です。その出発点となったのが Isen and Levin (1972) の実地実験で、電話ボックスに小銭を置いて拾わせ(よい気分の誘導)、近くで女性の協力者が書類を落とす、という場面で助ける人の割合を比べました。
  • ただし元の研究は参加者41人と少なく、効果の大きさが83.5ポイント差(さらに女性24人では、よい気分の人は全員助け、そうでない人は誰も助けなかった)という、社会科学としては極端に大きなものでした。その後の追試でも結果は一致していません。
  • そこで Wöhner and Franzen (2026) は、この古典的実験を(1)大規模に再現し、(2)「悪い気分」の条件を追加し、(3)助けを求める側(協力者)の性別が男性・女性どちらでも試す、という拡張を行いました。

■ 先行研究の整理(文献レビュー)

▼ よい気分の効果
  • Levin and Isen (1975) による著者自身の追試でも56.6ポイント、67.8ポイントという大きな差が報告されています。
  • Salovey and Rosenhan (1989) のレビューでは20の研究がすべて正の関連を示しています。
  • 本論文の著者らはさらに12研究を特定。6研究は再現(例:Forbes and TeVault 1975、Batson et al. 1979、Guéguen 2012 など)、5研究は再現せず(例:Blevins and Murphy 1974、Weyant and Clark 1977 など)、1研究は混在(Vrugt and Vet 2009)。再現した研究でも効果は9〜35ポイント差と、元研究よりずっと小さいものでした。
  • 108の実験をまとめたメタ分析(複数の研究結果を統合する手法)である He et al. (2026) も、ポジティブ感情が向社会的行動(他者のためになる行動)に小さいが有意な効果をもつと報告しています。
▼ 悪い気分の効果は単純ではない
  • 悪い気分といっても種類によって効果が逆になります。
  • 困っている人への共感から生じる負の感情は、助けることで気分を回復しようとする「負の状態緩和モデル」(Cialdini et al. 1987)により、むしろ助けを増やすとされます。
  • 注意が自分でなく他者の困りごとに向く場合に助けが増えるという「注意焦点仮説」(Thompson, Cowan, and Rosenhan 1980)もあります。
  • 罪悪感も責任感を通じて助けを増やすとされます(Carlson and Miller 1987)。
  • 一方、他者からの攻撃や無礼によって生じる怒り・嫌悪・軽蔑などは、向社会的行動を抑えることが分かっています(van Kleef and Lelieveld 2022;He et al. 2026)。
  • この「無礼・苛立ち」型の負の気分を実地実験で扱った研究は3つだけで、いずれも助けが減りました:コイン返却口に黒鉛を入れて手を汚した Weyant and Clark (1977)、ジムで不快な音楽を流した North, Tarrant, and Hargreaves (2004)(25ポイント減)、第三者が無礼な発言をした Porath and Erez (2007)(49ポイント減)。
▼ 助けを求める側の性別
  • 先行の5研究のうち3つは性別の効果なし(Cunningham 1979 など)、Guéguen and de Gail (2003) は異性に対して多く助ける傾向、Vrugt and Vet (2009) は男性実験者に対してのみ効果ありと、まちまちでした。
  • 以上から著者らは「よい気分で最も助けが多く、悪い気分で最も少ない」「助けを求める側の性別の効果はない」と予想しました。

■ 実験の方法

▼ 設定
  • 場所はスイス・ベルンのショッピングモールに付属する地下駐車場。2023年3〜4月に実施。
  • 対象は、1人で買い物をしていて、ショッピングカートを使っている推定18〜70歳の人。カートを使っていると、両手が空いていて助けやすく、また身体接触なしに気分操作ができるためです。1人の人に限定したのは、元研究に近づけ、刺激が本人だけに届き、同伴者の影響を避けるためです。
▼ 気分の操作(3条件)
  • よい気分:カートのコイン差込口に2スイスフラン硬貨(約2.4米ドル)を置いておき、見つけてもらう。
  • 統制群:何も起きない。
  • 悪い気分:協力者が対象者のカートにぶつかり、謝らずに立ち去る。これは怒り・苛立ちなどを引き起こすと想定されました。
▼ 助けの測定
  • 協力者(助けを求める側)が、仕掛けをした買い物袋からオレンジを対象者の近くで落とします。オレンジは四方に転がるため、助けが必要なことが明白になります。
  • 対象者が自発的に拾うか、手伝いを申し出れば「助けた」と記録(申し出の場合、協力者は丁重に断る)。
  • 助けを求める側は男性・女性の両方を用い、3つの気分条件×2つの性別=6条件に、サイコロで無作為に割り当てました。6条件への割り当ては均等とみなせる結果でした(χ²=8.08、p=.152)。
  • 各試行は3人の協力者で行い、対象者の年齢と性別を推定記録。子どもが先に硬貨を見つけた場合や、対象者が硬貨に気づかなかった場合は中止。
  • 合計600観察(悪い気分184、統制226、よい気分190)。

■ 結果

▼ 気分の主効果
  • 助けた割合は、統制群35.0%、よい気分41.6%、悪い気分23.9%。
  • よい気分の効果(+6.6ポイント)は再現されたものの、元研究の83.5ポイント差よりはるかに小さいものでした。

図2 よい気分の人が統制群よりどれだけ多く助けたかの差。元の研究や

図2 よい気分の人が統制群よりどれだけ多く助けたかの差。元の研究やその追試では50〜80ポイント超の極端な差でしたが、600人で行った今回の再現では6.6ポイントにとどまりました。
Wöhner & Franzen(2026)の本文「Introduction」「Literature Review」「Results」節の数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Wöhner & Franzen (2026). Social Psychology Quarterly. https://doi.org/10.1177/01902725261487402

  • 悪い気分の効果(約11ポイント減)のほうが、よい気分の効果より大きいものでした。
  • 全体として気分と助けには統計的に有意な関連がありました(χ²=13.333、p=.001)。

図1 オレンジを拾うのを手伝った人の割合。よい気分では統制群より6

図1 オレンジを拾うのを手伝った人の割合。よい気分では統制群より6.6ポイント多く、悪い気分では約11ポイント少なく、気分が良いほど助けが増える関係が見られました(n=600)。
Wöhner & Franzen(2026)の本文「Results」節(Figure 4 の記述)、Abstractの数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Wöhner & Franzen (2026). Social Psychology Quarterly. https://doi.org/10.1177/01902725261487402

▼ 回帰分析
  • 性別、年齢、場所を統制したロジスティック回帰(助けた/助けないという二値の結果を予測する分析)でも、気分と助けの単調な関係は保たれましたが、有意だったのは悪い気分の係数だけでした。
  • 51〜70歳の人は18〜30歳の人より有意に助けが少ない結果でした。
  • 場所は概ね影響しませんでしたが、1か所だけほぼ誰も助けなかった場所がありました(86%が助けず、n=57)。著者らは、このような実験は複数の場所で行う意味があると述べています。
▼ 助けを求める側の性別
  • 全体では、女性のほうが男性より助けられました(38.5%対28.5%、10ポイント差、z=2.59、p=.01)。

図3 袋を落とした協力者が男性か女性かで、助けてもらえた割合を比べ

図3 袋を落とした協力者が男性か女性かで、助けてもらえた割合を比べたもの。全条件をまとめると女性のほうが10ポイント多く助けられ、統計的にも有意な差でした。
Wöhner & Franzen(2026)の本文「Results」節(z=2.59、p=.01)の数値をもとに、はぴテックが作図。出典:Wöhner & Franzen (2026). Social Psychology Quarterly. https://doi.org/10.1177/01902725261487402

  • 統制群では性差なし(男女とも約3分の1が助けられる)。
  • よい気分では、女性への助けは統制群より12ポイント増えましたが、男性への助けは増えませんでした。女性については気分と助けの単調な正の関係が見られました(χ²=8.301、p=.016)。
  • 男性については悪い気分だけが効き、助けが14.6ポイント減りました(z=2.35、p=.019)。
▼ 助ける側の性別
  • 助ける側の性別による違いはなく、男女とも、よい気分で多く、悪い気分で少なく助けました(男性 χ²=6.046、p=.049;女性 χ²=7.477、p=.024)。
  • 元研究で見られた「女性のほうが気分の影響を強く受ける」という結果は再現されませんでした。
▼ 両者の性別の組み合わせ
  • 男女どちらの対象者も、男性より女性を多く助けました。
  • よい気分の恩恵を受けたのは女性の助け手のみ。
  • 悪い気分の男性対象者は、困っているのが男性の場合に特に助けを減らし(12.1%まで低下)、女性が袋を落とした場合にはほとんど行動が変わりませんでした。

■ 考察

▼ 統制群の水準の妥当性
  • 統制群の35%という値は、スイスの回答者の45%が先月に見知らぬ人を助けたと答えた World Giving Index(Charities Aid Foundation 2024)や、各種実験の統制群で約40%が助けたというメタ分析(Lefevor et al. 2017)と近い水準です。
▼ 気分操作の解釈について
  • 気分誘導の方法によって効果の強さは異なります(Joseph et al. 2020;Westermann et al. 1996)。
  • Diener, Cha, and Oishi (2023) は、負の誘導が本当に「悪い気分」を生むのか、それとも「気分が下がっただけで依然ポジティブ」なのかは分からない、と注意を促しています。Joseph et al. (2020) のメタ分析は、気分が一本の連続体(双極的)であることを示唆しています。
  • 著者らの仮説はこの点を取り込んでおり、気分と助けの意欲の間に直線的な正の関係を想定しています。無礼にぶつかられた際の感情が怒りかそれに近いものかは確定できませんが、気分を下げたという想定は妥当だと述べています。
▼ よい気分の効果が小さかった理由(著者の推測)
  • 助けを求める側が若く健康な大学生であり、助けるにはかがむ必要があったため、高齢の対象者には助けが難しく、またその必要性が低く見えたかもしれない。
  • 1970年代の米国と2020年代のスイスという文化的・時代的な違いがあり、効果量の直接比較は難しい。
  • 悪い気分の操作は対人接触を伴うため、硬貨を見つけるだけの操作より強く効いた可能性がある。Joseph et al. (2020) も、人は正の刺激より負の刺激に強く反応すると示しています。
  • 今後は、正負両方の気分を対人接触で誘導して比較可能性を高めること、強さの異なる複数の刺激を用いて単調な関係をより厳密に検証することが提案されています。
▼ 性別に関する解釈
  • 元研究と一部の追試は女性の助け手だけを用いていたため、よい気分の効果が過大に見積もられた可能性があると著者らは指摘しています。
  • 男性同士の場面で悪い気分の影響が特に強く、男性が困っている女性に出会う場面ではほとんど影響しなかった点については、騎士道のようなジェンダー規範や、ジェンダー間の地位差の再生産(Eagly and Crowley 1986;Shnabel et al. 2016)を反映している可能性が挙げられています。
  • ただし、試行数が多かったため助けを求める協力者は10人おり、魅力度など観測されていない協力者間の違いが性別の結果に影響した可能性も限界として述べられています。

■ 結論

  • 600試行の実地実験により、気分が自発的な援助行動に正の効果をもつという知見は再現されました。ただし効果の大きさは元研究よりずっと小さく、悪い気分(第三者の無礼)による助けの減少のほうが、よい気分による増加より大きいものでした。
  • 助けを求める側の性別によって気分の効果の現れ方が異なり、よい気分の効果は女性に対してのみ、悪い気分の効果は特に男性(とりわけ男性同士)で強く見られました。
  • 著者らは実践的な含意として、親切な振る舞いは向社会的行為を促し、無礼な振る舞いはそれを抑えること、そしてどちらも無関係な第三者にまで波及するため、親切の文化が向社会的行動と社会的結束を育てる、と述べています。
補足 4

動画解説はこちら😊
https://youtu.be/VKWcSUFZPQQ

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