この号の内容
幸せと不幸せを別々の軸で測る
従来の主観的幸福感の尺度は、幸福度の高低を1本の軸で測るものである。本研究は、仕事を通じた幸せと不幸せは「どちらも感じる」「どちらも感じない」こともあるとして、2本の軸で状態をとらえる診断を作った。幸せの7因子は自己成長(新たな学び)、他者承認(見てもらえてる)、他者貢献(誰かのため)、自己裁量(マイペース)、リフレッシュ(ほっとひと息)、チームワーク(ともに歩む)、役割認識(自分ゴト)である。不幸せの7因子は不快空間(環境イヤイヤ)、協働不全(職場バラバラ)、自己抑圧(自分なんて)、理不尽(ハラスメント)、評価不満(報われない)、オーバーワーク(ヘトヘト)、疎外感(ひとりぼっち)である。共分散構造分析(複数の要因の関係をまとめて推定する統計手法)の結果、はたらく幸せ実感の68.0%は幸せ7因子で、不幸せ実感の46.2%は不幸せ7因子で説明できた。報告書は、不幸せ実感の約半分はプライベートの状況や個人要因など7因子以外の要因で変動するとしている。
📖 報告書では:「はたらく人の幸せ/不幸せ診断」の開発 p.9–17、短縮版21項目はAppendix p.97–98
4タイプと組織文化
幸せ実感と不幸せ実感の得点で回答者を5群に分け、そのうち特徴的な4群を分析した。いずれかが中程度の人は23%である。「幸せ」かつ「不幸せでない」群の平均年齢は47.6歳、年収は465万円、継続就業意向は69%、学習実施率は58%である。この群には部長以上、大学院博士卒、60代、教育・学習支援業の人が特徴的に多い。一方、「幸せでない」かつ「不幸せ」群の平均年齢は40.1歳、年収は404万円で、30代男性、配偶者なし、子供なし、情報通信業・運輸業・製造業の人が多い。組織文化の高群別にみると、「幸せ」かつ「不幸せでない」群は自由闊達・チームワークの高群で65.4%・66.1%を占め、成果主義・競争、権威主義・責任回避の高群では40.1%・41.3%にとどまる。
📖 報告書では:はたらく人の幸せ・不幸せの4タイプ p.20–26
誰が幸せに働いているか
5問平均の得点(1〜7pt)は、全体で幸せ実感が4.3pt、不幸せ実感が3.4ptである。雇用形態別では、幸せ実感は自由業(フリーランス)が4.84、自営業が4.63と高く、正社員は4.19と低い。業種別では教育・学習支援業が4.96、農業・林業が4.75と高く、不動産業・物品賃貸業は4.00と低い。職種別ではマーケティング・企画が4.66と高く、生産・管理・製造は3.93と低い。年代別では、不幸せ実感は20代を底に徐々に改善し、68〜69歳では幸せ実感5.06、不幸せ実感2.47である。課長相当以上では職位が上がるほど、また年収500万円以上では年収が上がるほど、幸せ実感が高い傾向がある(一般社員4.13〜取締役相当4.99、年収300万円未満4.21〜1500万円以上4.97)。
📖 報告書では:はたらく人の幸せ・不幸せの実態 p.28–39(図:雇用形態別p.29、業種別p.30、職種別p.33、年代別p.36、職位別p.38、年収別p.39)
残業・比較意識との関係
残業時間が長い人ほど、幸せ実感は低く、不幸せ実感は高い傾向がある。残業なしの人は幸せ実感4.39・不幸せ実感3.14、月60時間以上の人は3.91・4.14である。ただし20〜40時間未満では、わずかな揺り戻しがある。リフレッシュ因子は、残業時間が増えるにつれて一貫して低い。自分の仕事ぶりを周囲と比べる度合いが強い人ほど不幸せ実感が高く、「全く比べていない」群の2.94と「かなり比べている」群の4.04では約1.1ptの差がある。「はたらくことを通して幸せを感じることは大事だ」と思う程度とはたらく幸せ実感の相関係数は.49である。
📖 報告書では:はたらく人の幸せ・不幸せの実態 p.40–45
幸せとパフォーマンス・定着
報告書は、はたらく幸せ実感がワーク・エンゲージメント(仕事への熱意や活力)と挑戦志向を高め、個人パフォーマンスを高める効果を確認したとしている。個人パフォーマンスへの総合効果は、幸せ実感が正、不幸せ実感が負である。組織パフォーマンスへの総合効果は幸せ実感が.461で、売上高増加率(前年比)への総合効果も正の値であり、報告書は企業業績にまで影響すると示唆している。営業職とIT系技術・クリエイティブ職では、幸せ実感が最も低い群の数値目標達成率は81.8%、最も高い群は91.9%である。継続就業意向は、幸せ実感1〜2pt群の15.4%に対し、6〜7pt群では75.6%である。人生満足度との相関係数は、幸せ実感が.55、不幸せ実感が-.36である。
📖 報告書では:はたらく人の幸せ・不幸せがもたらす効果 p.47–56(共分散構造分析の図 p.49、p.50、p.53、p.55)
幸せを左右する職場の要因
正社員2,916人を対象にした重回帰分析(複数の要因の影響度を同時に推定する手法)では、人事施策の中で組織目標の落とし込みが幸せ実感と最も強く関連した(.272)。ワークライフバランスの良さと育成の手厚さも幸せ実感と正に関連し、異動・転勤の多さと終身雇用は負に関連した。上司のマネジメントでは、肯定的で公正なフィードバックが幸せ実感を高め、不幸せ実感を下げる結果となった。ハラスメント的な態度やモーレツ上司は、部下の不幸せ実感を高める。「一緒に目標を設定」「仕事ぶりに見合った評価」「ねぎらいの言葉」は、幸せ実感との関連が強いにもかかわらず、実施率が30%未満にとどまる。組織文化では、自由闊達・開放的やチームワークが幸せ実感を高め、成果主義・競争や権威主義・責任回避は低下させる傾向がある。
📖 報告書では:はたらく人を幸せ・不幸せにする組織マネジメント要因 p.58–88(人事施策p.60–62、上司p.71–76、組織文化p.82–83)
日本の結果
この号の調べ方
調査会社のモニターを使ったインターネット定量調査である。予備調査(2019年7月、600人)、第1回調査(2019年11月、5,000人)、第2回調査(2020年2月21〜25日、5,000人、性・年代均等割付、企業・団体の代表者を除く)の3回で構成される。分析対象は第2回調査の有効回答者4,634人である。幸せ実感・不幸せ実感はそれぞれ5問を7段階で尋ね、その平均を個人の得点とした。因子分析、共分散構造分析、重回帰分析などで分析している。
この号から言えること
- 幸せと不幸せは表裏ではなく、別々に向き合うべきものである。報告書は「幸せの条件を満たし、かつ不幸せの条件を満たさない」ことが幸せな職場づくりに肝要だと提言している。
- 正社員の幸せ実感は4.19で、フリーランスの4.84や自営業の4.63を下回る。働き方の形態で差がある点が読みどころである。
- 上司の「ねぎらい」「見合った評価」「一緒に目標設定」は、幸せ実感との関連が強い一方で実施率が30%未満である。報告書はこれらを手を付ける余地の大きい注目領域としている。
- はたらく幸せ実感が高い群ほど、継続就業意向が高く、「はたらき続けたい年齢」と「はたらき続けなくてはいけない年齢」の差が小さい(最も低い群7.8年、最も高い群1.2年)。
読むときの注意
分析は第2回調査という一時点の回答にもとづくものである。報告書は「効果が確認された」と表現しているが、データが示すのは同時点での関連である。パフォーマンスや売上高増加率も回答者自身の回答によるものである。また、サンプルは性・年代を均等に割り付けているため、全体の割合は就業者の実際の構成比どおりではない。