この号の内容
言葉の認知度は2年で倍近く
「ウェルビーイング」の意味を知っている就業者は27.1%で、2023年同時期の15.9%から11.2ポイント増えた。「聞いたことがない」は48.1%で、半数を下回った。認知度は先行して普及した「エンゲージメント」(24.6%)を上回り、「人的資本経営」「健康経営」よりも高い。仕事でのウェルビーイングのイメージは「健康的で明るく意欲的」「ゆったりと余裕がある」という“自然体”である。若い年代ほど「ほっとした」「私生活中心の」「ゆるい」を想起しやすく、報告書は組織ごとに概念を明示することが重要だと述べている。
📖 報告書では:サマリ1(p.4)、「ウェルビーイングの認知度」章 p.13–16
はたらく幸せはやや後退
「はたらく事を通じて幸せを感じている」人は40.8%で、2020年2月の43.9%から3.1ポイント低下した。「幸せを感じていない」人は23.8%から31.7%に増えた。「不幸せを感じている」人は22.5%で、2020年比2.3ポイント増である。5問で測る「はたらく幸せ実感」の平均は2021年の4.28から2025年は4.03に下がり、「不幸せ実感」は3.34とほぼ横ばいである。女性は一貫して男性より幸せ実感が高く不幸せ実感が低いが、男女とも幸せ実感は低下傾向にある。
📖 報告書では:サマリ2(p.5)、「職業生活ウェルビーイングの実態」章 p.19–20
幸せ因子が軒並み低下
幸せと不幸せの要因を、それぞれ7つの因子で測る尺度(はたらく幸せ/不幸せの7因子)で比べた。2020年2月と比べると、幸せ因子は「役割認識因子」を除いて全般にやや低下した。不幸せ因子は「評価不満因子」を除いて、横ばいかやや低下(良化)であった。報告書は、幸せ因子の低下がはたらく幸せ実感の低下を説明するとしている。特に「自己成長」「リフレッシュ」「他者承認」「自己裁量」の4因子の低下を注視すべき点に挙げている。
📖 報告書では:p.21–23「はたらく幸せ/不幸せ因子の経年変化(2020年~2025年)」
親が幸せそうな学生は前向き
学生1,041人のうち、親のはたらく姿が「幸せそうだ」と答えたのは36.2%、「幸せそうではない」は23.3%であった。学生がはたらくことに抱くイメージの上位は「自由に使えるお金」「趣味や欲しいもののため」「生活のかて」で、経済的な側面が強い。親が幸せそうに見える学生ほど、はたらくことにポジティブなイメージを持つ傾向がある。たとえば「楽しい」は、親が幸せそうに見える群と見えない群とで35.2ポイントの差があった。報告書はこの結果を相関であって因果ではないと断ったうえで、親のはたらく姿が子どもの労働観に影響し得ることを示唆するとしている。
📖 報告書では:サマリ3(p.6)、「就業者(親)のウェルビーイングと子どもの就労イメージ」章 p.25–27
実感が工夫を生む循環
はたらくことを通じて幸せを感じることを「大事だ」と答えた就業者は67.6%、不幸せを感じることを「よくない」と答えた人は67.3%であった。現在の幸福度が高い人ほど、幸せを大事にする価値観を持つ傾向がある。また、価値観を持つ人ほど自分の幸せの要因を理解し、工夫している。より良い状態を自らつくる姿勢を、報告書は「ウェルビーイング・クラフティング」と呼ぶ。構造方程式モデル(SEM:複数の要因の関係を同時に推定する統計手法)による分析では、①幸せ実感→②幸せを重視する価値観→③自分の幸せの理解→④工夫(クラフティング)→①さらなる実感、という循環が示された。報告書は、理念を説くだけでは不十分で、喜びや手応えを得られる体験機会の設計が重要だと結論づけている。
📖 報告書では:サマリ4(p.7)、提言(p.11)、「ウェルビーイング・クラフティング」章 p.29–34
リフレッシュ偏重と要因の変化
自分が注目する要因の影響を実際以上に重く見る傾向を「フォーカシング・イリュージョン(焦点化幻想)」という。幸せ7因子のうち「リフレッシュ因子」を最も重視する(1位に挙げる)人は26.8%で最多であった。この層は次に「オーバーワーク因子」を重視し、幸せ実感との相関が強い「他者貢献因子」や「自己成長因子」を過小評価する傾向がある。また、幸せに感じる要因が「大きく変わったことがある」人は24.4%で、30代以上で多かった。変化のきっかけは「年齢・経験を重ねることで自然と変わった」(31.2%)が最多で、「体調悪化・病気」(19.8%)、「転職・独立」(18.6%)、「ハラスメントや不遇によるストレス」(18.1%)が続いた。不幸せの要因では「評価不満因子」が40代以降も上位にとどまり、世代を超えた課題であることが示唆されている。
📖 報告書では:サマリ5・6(p.8–9)、「フォーカシング・イリュージョン」章 p.36–40、「ウェルビーイング・トランジション」章 p.42–47
日本の結果
この号の調べ方
調査会社のモニターを用いたインターネット調査で、2025年5月29日〜6月3日に実施した。スクリーニング調査は全国12,176人が対象で、うち学生(15〜25歳、中学生を除く)は1,041人である。本調査は全国の20〜69歳の就業者5,000人(企業・団体の代表者を除く)で、労働力調査2023年の性・年齢構成に合わせて割り付けた。経年比較には、2020年(n=4,634)、2021年(n=3,000)、2023年(n=1,500)の同研究所の調査結果を用いている。主な指標は「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」(各5問)と、はたらく幸せ/不幸せの7因子である。
この号から言えること
- ウェルビーイングという言葉は浸透した一方で、仕事を通じた幸せの実感はむしろ後退しており、言葉の普及と実感の向上は別物である。
- 報告書は、幸せは重視するから実感できるのではなく、実感がその後の価値観や工夫を育てると結論づけている。そのため組織には、成長や他者貢献を体験できる機会の設計を求めている。
- 休息(リフレッシュ)を最重視する人が多いが、幸せ実感との相関が強い自己成長や他者貢献は見落とされやすい。また、何が大事かは年齢や経験とともに移り変わる。
- 親が幸せそうに働いているかどうかは、学生の労働観と関連している。報告書は、従業員のウェルビーイング推進を次世代への社会的投資と位置づけている。
読むときの注意
経年比較は、2020年・2021年・2023年の別調査とサンプル数や時期を並べたもので、2023年の調査はデータ未公開である。親の姿と学生のイメージ、幸福度と価値観などの関係は、報告書自身が相関であり因果ではないと明記している。循環モデル(SEM)は、適合度指標の一つであるRMSEAが基準を満たしておらず、報告書は自由度が1と小さいことの影響と説明している。