ウェルビーイングの調査・報告書

2022年版テーマ:不確実性:その変化、人間開発にとっての意味、そして不確実性の中でどう生き抜くか

Human Development Report 2021/2022: Uncertain Times, Unsettled Lives(2022年9月)

国連開発計画(UNDP)人間開発報告書室

国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書2021/2022』(副題「不確実な時代、不安定な人生:変容する世界で未来を形づくる」)は、新型コロナの大流行の後、世界の人間開発指数(HDI)が記録上初めて2年続けて下がったと報告した号である。HDIは、健康・教育・所得から国の暮らしの豊かさを測る指標である。この2年の低下で、それまで5年分の伸びが帳消しになった。報告書は、気候などの地球規模の変化、社会の大転換、分断(二極化)が重なる状況を「新たな不確実性の複合体」と名づけた。そのうえで、これらが人々の不安と心の不調を広げていると論じている。

この号の内容

世界のHDIが初の2年連続低下

世界全体のHDIは2020年と2021年の2年続けて下がった。これは記録上初めてである。報告書はこの低下が、それまで5年分の伸びを帳消しにしたとしている。図2には、1990年以降の実際の値とコロナ前の予測値の推移が描かれている。2008年前後の世界金融危機の時期より、今回の落ち込みの方がはっきり大きい。報告書は、2020年の報告書(人新世のリスク)、2019年の報告書(不平等)に続く三部作の締めくくりと位置づけられている。

📖 報告書では:概要 図2(p.4)、第1章 図1.1(p.29)、序文(p.iii)

9割超の国でHDIが後退

2020年か2021年のどちらかでHDIが下がった国は、全体の90%を超えた。パンデミック1年目には、ほぼすべての国で人間開発が後退した。2年目の2021年は国の層によって差が出た。HDIが「非常に高い」国の多くは下げ止まったが、「低い・中位」「高い」国の大半は下がり続けた。2021年も低下が続いた国が多いことを、報告書は強調している。

📖 報告書では:概要 図7・図8(p.12)、第1章 図1.2・図1.3(p.30)

「不確実性の複合体」の三本の潮流

報告書によれば、人々が昔から向き合ってきた日常の不確実性の上に、三つの新しい層が重なり、影響し合っている。一つ目は、人新世(人間活動が地球環境を大きく変える時代)の危険な地球規模の変化である。二つ目は、産業革命に匹敵する社会の大転換の追求である。三つ目は、広がり強まる社会の二極化である。報告書はこれを、人類史上かつてない「新たな不確実性の複合体」と呼ぶ。コロナとウクライナでの戦争はその表れであり、エネルギーや食料、肥料などの価格の乱高下を招いた。数十億人が「一世代で最大の生活費危機」に直面していると記している。

📖 報告書では:概要 図1(p.3)、p.3–4、第1章「A new uncertainty complex」(p.28–)

広がる不安感と心の不調

コロナ以前から、世界の7人に6人超が不安(安全が脅かされている感覚)を抱えていた。不安感の高まりは少なくとも10年前から続いており、HDIが非常に高い一部の国でも見られる。世界や将来への否定的な見方は、前例のない高さに達した。ストレスは高い水準にあり、学歴にかかわらず上昇している。第2章は、心の苦痛(メンタル・ディストレス)を人間開発を妨げる要因として扱う。経済的な不安と心の苦痛が循環し、世代を超えて不平等を固定しうると論じている。

📖 報告書では:概要 p.4、図5・図6(p.10–11)、第1章 図1.4–1.7(p.31–34)、第2章(p.74–)

分断と民主主義の後退

政治的な二極化は世界中で進んでいる。報告書は、わずか10年前と比べて、民主主義の後退が例外ではなく当たり前になったと指摘する。第4章は、分断が公共の議論を損ない、人々が力を合わせて動くことを妨げていると論じる。人々が感じる不安を測る「主観的人間不安全指数」も、第4章の囲み記事で紹介している。序文は、ワクチンが1年で推定2,000万人の命を救った一方、接種機会の大きな不平等で避けられたはずの死が多く出たことを挙げる。そして、信頼と協力が崩れれば達成できることが限られる例だと述べている。

📖 報告書では:序文(p.iii)、概要 図4(p.9)、第1章 図1.13(p.47)、第4章・ボックス4.1(p.138–140)

処方箋は「3つのI」

報告書は、投資(Investment)、保険(Insurance)、革新(Innovation)の「3つのI」に重点を置く政策を提言している。投資の例は、再生可能エネルギーや、パンデミック・自然災害への備えである。保険には社会保障のほか、保健・教育などの普遍的な基礎サービスも含まれる。革新は技術・経済・文化の各面にわたり、政府は積極的なパートナーの役割を担うべきだとする。第3章は、人の意思決定を単純化しすぎた前提が政策の選択肢を狭めてきたと批判する。認知の偏りや価値観、社会的な文脈を踏まえるよう求めている。

📖 報告書では:概要 p.5・図10(p.18)、第3章(p.100–)、第6章(p.176–)

日本の結果

日本のHDIは0.925で、韓国と並び19位である。内訳は出生時平均余命84.8年、就学予測年数15.2年、平均就学年数13.4年、1人あたり国民総所得42,274となっている。不平等を反映させたHDIは0.850で、不平等による損失は8.1%である。ジェンダー開発指数(女性のHDIを男性のHDIで割った値)は0.970で、女性0.908・男性0.936である。女性の国会議席の割合は14.2%にとどまる。ジェンダー社会規範指数では、2010–2014年から2017–2022年にかけて、偏見を持たない人の割合の改善が大きかった国にドイツ、ニュージーランド、シンガポールとともに日本が挙がった。それでも、2017–2022年の日本で少なくとも一つの偏見を持つ人は63.41%いる。このほか、江戸時代(徳川期)の日本で17世紀の厳しい寒冷期に人口が大きく増えた背景として、裕福な農民に貧しい人を支える役割が期待されていたことが紹介されている。日本がGABAを多く含むゲノム編集トマトを承認した例も挙げられている。

この号の調べ方

HDIは、健康(出生時平均余命)、教育(就学予測年数と平均就学年数)、生活水準(1人あたり国民総所得)を組み合わせた総合指数である。本号では2021年の値で各国を順位づけている。世界のHDIの推移は、人間開発報告書室がBarro and Lee、IMF、国連経済社会局、ユネスコ統計研究所、国連統計部、世界銀行のデータをもとに計算した。ジェンダー社会規範指数の時系列比較は、世界価値観調査の第6波(2010–2014年)と第7波(2017–2022年)の両方にデータがある37の国・地域が対象で、世界人口の48%を占める。

この号から言えること

  • 所得や寿命、教育といった従来の指標は長い目で見れば大きく伸びてきた。その一方で7人に6人超が不安を感じているという「進歩と不安の逆説」を、報告書は中心の問いに据えている。
  • 2021年の後退は国の層によって分かれた。HDIが非常に高い国の多くは下げ止まったが、低・中位や高位の国の大半は下がり続けた。
  • 報告書は、学校教育の年数や平均余命が伸びても、自分の人生を思い通りにできるという感覚の喪失は埋め合わせられないとして、従来の「進歩」の捉え方に疑問を投げかけている。
  • 日本はHDIでは上位にある。ただし女性の国会議席割合14.2%や、男女の所得差(女性30,621、男性54,597)など、ジェンダー面の指標には差が残っている。

読むときの注意

報告書自身が、パンデミックの影響で主要なデータの入手が遅れたと記している。分析部分の数値の一部は人間開発報告書室などの推計で、各国の公式統計とは限らない。不安感やストレス、心の不調と経済状況との関係は多くが傾向を示すものであり、一方が他方の原因と断定できるものではない。ジェンダー社会規範指数の時系列比較は、37の国・地域に限られている。

出典

主に参照した箇所:本文PDFの序文(p.iii)、概要(p.2–18)、第1章(p.28–47)、第2章(p.74–)、第4章(p.138–)、第6章とスポットライトS6.7(p.176–210)、統計付表のHDI・不平等調整済みHDI・ジェンダー開発指数・ジェンダー不平等指数の各表。この記事は、上の公式資料に書かれていることだけをもとにAIが書き、記事中の数字が元資料にあることを照合しています(2026-10-12取得)。正確な値や文脈は原典で確かめてください。

あわせて読む 世界の主要ウェルビーイング研究 → 調査の数字の背景にある研究を。幸せの研究の著名論文2,358本を、要旨・研究の系譜・28の概念で。 最新の論文は 世界の最新ウェルビーイング研究 → AIが毎日集める最新の論文データベース。調査を使った新しい研究もここに。
URL・数字は公式の資料で確かめたものだけを載せ、各ページに確認日を添えています。順位や割合は版によって変わるので、引用するときは各版の公式資料をご確認ください。調べものと記入はAI(Claude)を活用し、はぴテックが確認しました。 調査・報告書の一覧(Excel)
© 株式会社はぴテック