この号の内容
所得と雇用は持ちこたえた
報告書は、家計や企業への経済的打撃を和らげる政府の広範な介入のおかげで、所得と雇用は持ちこたえたと結論づけている。平均的な家計の可処分所得(税・社会保険料を差し引いた手取り所得)は実質で維持され、2022年までにコロナ前の水準を大きく下回ったOECD加盟国は一つもない。OECD平均の就業率は2020年前半に落ち込んだが、2024年第1四半期には過去最高の水準に達した。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Positive trends in incomes and employment outcomes but warning signs in housing costs and self-reported financial well-being」第1段落
生活費の重さは続く
数年間の経済的不安を経て、とくに弱い立場の世帯では生活費の圧迫が依然として大きい。2019年以降、住居費が過大な負担となっている低所得世帯の割合は、OECD加盟国の3分の1で上昇した。欧州のOECD加盟国では、家を十分に暖かく保てないと答えた人が2019年の14人に1人から、2023年には11人に1人に増えた。家計のやりくりが苦しいと答える人の割合はコロナ前の10年間に30%から19%へ大きく下がったが、その改善は大幅に鈍り、2023年にも5人に1人近くが経済的な困難を訴えている。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Positive trends in incomes and employment outcomes but warning signs in housing costs…」第2段落
健康は危機で悪化
過去4年間の危機は、人々の生活の質、とりわけ健康に悪影響を及ぼした。コロナ禍の超過死亡(平常時の予測を上回る死亡)により、OECD平均の平均寿命は約半年短くなった。自殺、急性アルコール中毒、薬物の過剰摂取による死亡は「絶望死」と呼ばれ、OECD平均では2019年までの数年間減り続けていたが、それ以降は減少が突然止まった。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Limited resilience or worsening of critical non-economic aspects of well-being since 2019」第1段落
心配・悲しみ・孤独
コロナ禍以降、人々が自分の生活や人間関係の質をどう感じているかにも悪い傾向が出ている。2023年には30%近くの人が強い身体の痛みを経験しており、OECD加盟国の5分の2ではコロナ前より有意に増えた。過去4年間で多くの国で心配や悲しみの感情が悪化し、生活満足度の動きは国によってまちまちであった。2023年に孤独を感じる人の割合は、OECD加盟国の間で4%から14%の幅がある。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Limited resilience or worsening of critical non-economic aspects of well-being since 2019」第2段落
集団間の格差は根深い
平均だけを見ると、集団ごとの状況の違いが見えなくなる。男性は労働市場の多くの指標で女性より恵まれている一方、殺人の被害者になる、あるいは自殺や薬物過剰摂取で亡くなる可能性が高い。若い人は健康・主観的幸福・つながりで比較的良く、中年層は就業率が高く安全だと感じやすく、高齢者は政府をより信頼している。高等教育(大学など)を受けた人は、人口平均と比べて孤独を感じる割合が1.5分の1、身体の痛みを経験する割合が1.3分の1と、雇用以外の面でも良い結果を示す傾向がある。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Inequalities in well-being remain striking, though some gaps have narrowed」第1段落
差の縮小は良い話だけでない
過去10年で、年齢・性別による幸福の差の大半は縮まった。2010年以降、夜道の一人歩きを安全と感じる女性の割合は男性より速く上昇し、若者の長期失業率の改善幅は年長層の2倍であった。しかし、悪化によって差が縮んだ例もある。主観的幸福とつながりの年齢差が縮んだのは若者の落ち込みが相対的に最も大きかったためであり、心配・痛み・孤独の男女差が縮んだのはとくに男性でこれらが悪化したためである。
📖 報告書では:要旨(Executive summary)「Inequalities in well-being remain striking, though some gaps have narrowed」第2段落
この号の調べ方
OECD加盟国の人々の暮らしが良くなっているか、その進歩が持続可能で包摂的かを評価するシリーズの第6版である。現在のウェルビーイング(暮らしの良さ)の結果、集団間の格差、将来のウェルビーイングを支える資源(自然・経済・社会の資本)を、80を超える指標で示している。中期的な傾向と2019年以降の動きを対比し、コロナ禍と生活費危機の影響と、政策上の注意を要する警告サインを整理している。
この号から言えること
- 所得や就業率といった経済指標は持ちこたえたが、健康・感情・つながりといった経済以外の面は回復が限られるか悪化しており、経済指標だけでは暮らしの実態をつかめない。
- 差が縮んだことが必ずしも良い知らせではない。若者や男性の落ち込みによって年齢差・男女差が縮んだケースがあると報告書は指摘している。
- 将来世代の暮らしを守るにはずっと強い対策が必要とされ、2023年にはOECD平均で7人に1人が猛暑にさらされ、データのある国の半数で水ストレスが「中〜高」に分類された。
読むときの注意
本記事は公式ページの概要と要旨(Executive summary)に基づいており、数値の多くはOECD平均や加盟国間の幅である。教育水準と孤独・痛みの関係などは集団間の違いを示したもので、因果関係を示すものではない。日本の個別の値は抜粋に含まれていないため、日本について知るには別冊の国別ノート(Country notes)を参照する必要がある。