どんなレポートか
『How's Life?』(OECD幸福度白書)は、OECD(経済協力開発機構)のウェルビーイング・包摂・持続可能性・機会均等センター(WISE)がまとめる報告書のシリーズである。ウェルビーイングとは、暮らしの良さや幸福を指す言葉である。GDP(国内総生産)は経済の生産量を測る確立した道具だが、「暮らし全体が良くなっているか、それは誰にとってか」までは示さない。このシリーズは、その問いにOECD加盟国(一部のパートナー国を含む)の統計で答えることを目的とする。初版は2011年10月に刊行され、改訂を重ねて2024年11月刊行の版が第6版である。OECDはこの枠組みを、人々と地球と将来世代にとって大切な多くの側面にまたがる、人を中心にした政策づくりに役立てるものと位置づけている。
何をどう測っているか
土台になるのはOECDウェルビーイング枠組みで、暮らしを3つの面から見る。1つ目は現在の幸福で、所得、仕事、住居、健康、教育、社会的つながり、安全、主観的幸福などが含まれる。2つ目は幸福の格差で、同じ国の中でも誰が良い状態にあり、誰が取り残されているかを見る。3つ目は将来の幸福を支える資源で、自然・人・経済・社会の4つの「資本」が今後の暮らしを支えられるかを見る。主観的幸福とは、人が自分の生活や感情をどう感じているかを本人に尋ねるもので、代表例が0〜10の尺度で答える生活満足度である。これを所得や雇用、寿命などの客観指標と組み合わせた指標群が「OECDウェルビーイング・ダッシュボード」で、2024年版では80以上の指標を収める。統計は各国の行政データなどから集められ、国別の概要(カントリー・ノート)や、同じ枠組みに基づく対話型の「より良い暮らし指標(Better Life Index)」も用意されている。
これまでの歩み
2011年の初版『How's Life?: Measuring Well-being』は、暮らしを11の側面から描き、過去15年間で平均的なウェルビーイングが向上したと結論づける一方、学歴の低い人や低所得の人がすべての側面で一貫して不利な傾向を示した。2013年の第2版は同じく11の側面を用い、世界的な経済・金融危機(大不況)が家計の経済面と非経済面の両方に大きな影響を及ぼしたことなど、男女差、仕事の質、現在と将来の幸福のつながりを含む4つの特集分析を載せた。2015年の第3版は子どものウェルビーイングを特集し、すべての子どもが人生の良いスタートを切れているわけではないと指摘したほか、将来の幸福を支える資源の新指標、ボランティア活動、国内の地域間格差の章を設けた。2017年の第4版は35の加盟国と6つのパートナー国、計41か国を50の指標で描き、「不平等の多面性」を主題とした。2020年の第5版は37の加盟国と4つのパートナー国を80を超える指標で比べ、2010年以降の変化をたどった。2024年の第6版は副題を「危機の時代のウェルビーイングとレジリエンス(回復力)」とし、コロナ禍と生活費危機を経た2019年以降の変化を、それ以前の中期的な傾向と比べている。
分かってきたこと
平均は良くなってきたが、取り残される人がいる
初版は、過去15年間で人々はより豊かになり、より長生きし、教育水準も上がったと結論づけた。2020年版も、2010年と比べて寿命、安全、所得、雇用などが改善したと示している。しかし初版の時点で、学歴の低い人や低所得の人はすべての側面で一貫して不利な傾向があった。平均値の改善だけでは「誰にとって良くなったか」は分からないという問題意識が、シリーズを通して続いている。
格差は暮らしのあらゆる面に及ぶ
2017年版は「不平等の多面性」を主題に、人々の達成や機会の格差がウェルビーイングのあらゆる側面に及んでいることを示した。同じ号は、前進の兆しはあったものの、ある面での改善が別の面での悪化で相殺されたとまとめている。2015年版は子どもに焦点を当て、すべての子どもが良いスタートを切れているわけではないと指摘した。2013年版は男女差を、2015年版は国内の地域間格差を取り上げており、格差を見る切り口は版ごとに広がってきた。
人とのつながりは伸び悩んでいる
2020年版は、人と人、人と政府とのつながりが伸び悩むか悪化していると指摘した。同じ号では、家計の約40%が経済的に不安定で、11人に1人が困ったときに頼れる親族や友人がいないと答えている。2024年版でも、健康、主観的幸福、人とのつながりに警告サインが出ているとされる。物質面の改善と、つながりや心の面の停滞が並んでいる点が近年の版の特徴である。
危機は暮らしの経済面と非経済面の両方に影響する
2013年版は、大不況が家計の経済面だけでなく非経済面にも大きな影響を及ぼしたと指摘した。2024年版は、コロナ禍と生活費危機の時期について、政府の大規模な支援策が所得と雇用を下支えしたと結論づけている。その一方で、年齢による幸福の差が縮んだのは、若者の落ち込みが大きかったためでもあると指摘している。差が縮むことが、必ずしも良い知らせではないことを示す例である。