この号の内容
2010年より改善した暮らし
報告書は、金融危機の影響がまだ深く残っていた2010年と比べて、暮らしがいくつかの面で良くなったとしている。OECD全体で平均寿命は1年以上延び、今生まれる子どもは平均で80歳を超えて生きる。殺人の発生率はOECD平均で3分の1減り、交通事故死も減った。夜に近所を一人で歩くときに安全だと感じる人も増えている。過密な住居に住む世帯は8世帯に1世帯で、2010年より3ポイント少ない。就業率と平均世帯所得はどちらも5ポイントを超えて伸び、成人のほぼ10人に8人が有給の仕事に就いている。生活満足度も2013年時点より高くなっている。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「In many ways, life is getting better…」
平均の陰で国ごとに違う現実
報告書は、OECD平均が全加盟国に当てはまるわけではなく、国の中の集団ごとにはさらに当てはまらないと強調している。最も安定した明るい材料である平均寿命の伸びも、一部の国では頭打ちになっている。2010年以降、住居費の負担しやすさ、相対的所得貧困、投票率、社会的支援は、改善した国とほぼ同じ数の国で悪化した。今の暮らしの改善幅が大きかったのは、2010年時点で水準が低かった国が多く、その多くは東欧の国である。反対に、将来の暮らしを支える経済・自然・社会の資本では国どうしの差が広がっていることが多い。上位の国はさらに先へ進み、苦しい国では問題が深まっている。報告書は、GDP(国内総生産)の成長がいつも暮らしの改善を伴うとは限らず、特に健康、格差、環境ではその傾向が強いとしている。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「…but different OECD countries face very different realities」
家計の約4割が経済的に不安定
OECDの世帯のほぼ40%は経済的に不安定である。ここでいう不安定とは、3か月分の収入を失うと貧困に陥るおそれがある状態を指す。OECD全体で相対的所得貧困(社会の標準より大幅に低い所得で暮らす状態)にある人は12%である。一方、欧州のOECD諸国で家計のやりくりが苦しいと答えた人は21%で、ほぼ2倍にあたる。データのある国では、世帯資産の中央値が2010年ごろから平均で4%減った。低所得世帯の5世帯に1世帯は、可処分所得の40%超を住居費に充てている。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「…and insecurity, disconnection and despair affect some parts of the population」第1段落
細る人間関係と社会的孤立
OECD諸国の人々が友人や家族と交流する時間は週に約6時間である。これは、特に無償の家事労働を含めた働く時間と比べると、ごくわずかである。推移のデータは少ないが、約10年前と比べて家族や友人と過ごす時間は30分近く減っている。さらに、11人に1人が、困ったときに頼れる親族や友人がいないと答えている。高齢者が社会的支援を欠く割合は若い人のほぼ3倍で、報告書は高齢期の孤独への対応が重要だとしている。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「…and insecurity, disconnection and despair…」第2段落
心の不調と「絶望死」
ふだんの1日で、良い感情より悪い感情を多く経験する人は、男性で12%、女性で15%いる。生活満足度(0〜10で自分の生活にどのくらい満足しているかを答える質問)は2010年以降、平均では上がった。それでも、OECD諸国の人口の7%は非常に低い満足度を報告している。欧州のOECD諸国では、成人のほぼ15人に1人が直近2週間に抑うつ症状を経験したと答えた。症状とは、物事への興味の低下、疲れ、過食や食欲不振などである。自殺、急性アルコール中毒、薬物の過剰摂取による「絶望死」は死亡全体のごく一部だが、一部の国で増えている。OECD平均では、絶望死は交通事故死の3倍、殺人による死の6倍にのぼる。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「…and insecurity, disconnection and despair…」第3段落
続く格差と平均・平等の関係
報告書は、性別、年齢、学歴による差や、上位と下位の差が続いていると指摘している。平均世帯所得は上がったが、所得格差は2010年からほとんど変わっていない。所得上位20%の人は、今も下位20%の人の5倍を超える所得を得ている。OECD諸国の女性は男性より社会的なつながりが多い一方、所得は13%少ない。また、有償労働と無償労働(家事や介護・育児)を合わせると、女性は毎日30分近く長く働いている。全体として、平均的な暮らしの水準が高い国ほど、集団間の平等の度合いが高く、困窮して暮らす人も少ない傾向がある。
📖 報告書では:要約(Executive summary)「Inequalities in well-being persist」、要旨(Abstract)
この号の調べ方
対象は37のOECD加盟国と4つのパートナー国で、シリーズ第5版にあたる。指標は80を超え、次の3つを扱う。1つ目は今の暮らしの状態で、所得、仕事、住居、健康、主観的幸福、社会的つながり、安全などを含む。2つ目は集団間の格差である。3つ目は将来の暮らしを支える資源で、自然・人的・経済・社会の4つの資本を指す。多くの指標は2010年を基準に推移を比べ、OECDより良い暮らしイニシアティブ(Better Life Initiative)の15の領域ごとの詳しい分析と、国別プロファイルを収めている。
この号から言えること
- 平均寿命、所得、雇用、安全といった平均値は2010年以降に改善した。一方で、家計の約40%が経済的に不安定で、11人に1人に頼れる人がいない。平均の改善だけでは取り残される人々が見えない、というのがこの号の中心となる主張である。
- 人とのつながりは数少ない悪化の兆しが見られる領域である。交流時間は約10年で30分近く減り、高齢者が支援を欠く割合は若い人のほぼ3倍である。
- 今の暮らしの改善が、将来の資源(自然・人的・経済・社会資本)の改善を伴っていない。報告書は、国どうしの差が広がる警告サインが出ているとしている。
- 平均水準が高い国ほど格差や困窮が少ない傾向が示されている。これは国どうしを比べた相関であり、一方が他方をもたらすことを示したものではない。
読むときの注意
ここで紹介した数字の多くはOECD平均で、報告書自身が、平均が個々の国や集団に当てはまるとは限らないと強調している。比べる基準年も指標ごとに異なり(多くは2010年、生活満足度の一部は2013年)、一部の数字は欧州のOECD諸国に限られる。今回参照した元資料には、日本の具体的な数値(国別プロファイル)は含まれていない。