この号の内容
英国全体は横ばい、北アイルランドは不安が上昇
2018年3月期から2019年3月期にかけて、英国全体で有意に改善したのは幸福感だけで、平均は7.52から7.56に上がった。生活満足度、人生でしていることに価値があると感じる程度(以下「価値の感覚」)、不安の3指標は横ばいだった。国別で有意な変化があったのは北アイルランドだけで、不安の平均が2.53から2.83へ11.9%上がった。この上昇は、不安を「非常に低い」と答えた人の割合が47.0%から41.1%に大きく減ったことによる。北アイルランドの不安は2012年3月期の測定開始から概ね下がり続けていたが、2018年3月期でその流れが途切れ、不安の水準は他の英国構成国と同程度になった。一方で、生活満足度・価値の感覚・幸福感は、これまでと同様にイングランド、スコットランド、ウェールズより北アイルランドのほうが高かった。
📖 報告書では:「Main points」「UK and country-level personal well-being」、図1
生活満足度は6年で3.4%改善
地方レベルで英国全体の基準値がそろう最初の年は2013年3月期である。この年から2019年3月期までに、英国の生活満足度の平均は3.4%改善した。国別ではイングランド3.6%、ウェールズ3.2%、北アイルランド2.5%、スコットランド2.1%で、地域別ではロンドンの4.6%が最大だった。ただしロンドンの2019年3月期の平均は7.58で、英国平均の7.71を下回り、依然として低い部類に入る。測定開始以来いちばん高い北アイルランドは改善幅が最小だった。2019年3月期の平均は北アイルランド7.89、イングランド7.71、ウェールズ7.68、スコットランド7.69である。北アイルランドとイングランドの差は、2013年3月期には3.5%(7.70対7.44)あったが、2019年3月期には2.3%に縮んだ。
📖 報告書では:「Main changes over time: life satisfaction and anxiety」、図2
もともと低い地域ほど改善幅が大
地方自治体レベルでも、生活満足度の改善幅が大きいのは、もともとウェルビーイングが低めだった地域である。イングランドではハーロウ(Harlow)が14.4%で最大で、ランカシャーのファイルド(Fylde)14.2%、ノース・ウォリックシャー14.1%が続く。イングランド平均は3.6%である。ウェールズではブレナイ・グウェント(Blaenau Gwent)の6.6%が最大で、ウェールズ全体は3.2%だった。スコットランドではミッドロージアン6.9%とイースト・エアシャー6.6%が目立ち、いずれもスコットランド平均(2.1%)の約3倍である。北アイルランドで有意に上がったのはデリー市・ストラバン(Derry City and Strabane)の8.0%だけで、北アイルランド平均2.5%の3倍を超える。
📖 報告書では:「Main changes over time: life satisfaction and anxiety」(生活満足度の地方自治体別の記述)
不安は6年で5.3%改善
2013年3月期から2019年3月期までに、英国の不安の平均は5.3%改善した。生活満足度の改善幅(3.4%)より大きい。国別で統計的に有意に改善したのはイングランド(5.6%)だけである。地域別では北西部が9.7%で最大で、東部8.1%、北東部6.6%と、もともと不安が高めだった地域で改善が大きかった。地方自治体ではウェスト・サセックスのホーシャム(Horsham)が46.4%減で最大で、ウェリングバラ39.4%、イーデン37.3%、サウス・ダービーシャー36.1%が続く。ウェールズではレクサム16.5%とデンビーシャー14.9%がウェールズ平均の3.0%を大きく上回った。スコットランドで有意に改善したのはノース・エアシャー(17.2%)だけで、スコットランド平均3.4%の5倍を超える。北アイルランドでは、国レベルでも地方レベルでも有意な改善はなかった。
📖 報告書では:「Main changes over time: life satisfaction and anxiety」、図3
一貫して高い地域・低い地域
報告書は、2012年3月期以降(北アイルランドは2013年3月期以降)の少なくとも5年間、4指標のうち少なくとも2指標で英国の上位10%または下位10%に入った地方自治体を「持続的に高い/低い」と定義している。ロンドンのランベス、ハックニー、イズリントン、カムデンの4区は、全指標で一貫して最も低い部類だった。ウルヴァーハンプトン、マンチェスター、ルイシャム、グリニッジ、ノッティンガムは3指標で低かった。ただしウルヴァーハンプトンは、過去8年のうち5年で不安が英国平均より低い。高い側では、スコットランドのオークニー諸島、ナ・h-エラナン・シャール(Na h-Eileanan Siar)、シェトランド諸島と、北アイルランドのファーマナ・オマー(Fermanagh and Omagh)が4指標すべてで一貫して高かった。コーズウェイ・コースト・アンド・グレンズ、リブル・バレー、イーデンは3指標で高かった。ウェールズは地域間のばらつきが小さく、一貫して高い地域も低い地域もなかった。
📖 報告書では:「Areas of persistently high and low well-being」(第5節)、図6・図7
地域事例:TPIで地域の状況を比較
報告書は、地域の状況を測る指数であるハッピー・シティの「繁栄する場所指数(Thriving Places Index、TPI)」を使い、イングランドとウェールズの4地域を事例として取り上げた。低い側のランベスは、地域環境2.55点、安全2.34点、住宅3.28点(いずれも10点満点)だった。微小粒子状物質への曝露は12.0μg/m³(イングランド8.9)、犯罪発生率は人口1,000人あたり109件、住宅価格は平均収入の13.9倍(イングランド8.0、ロンドン13.1)である。低所得家庭で暮らす16歳未満の子どもは23.4%(イングランド17.0%)だった。同じく低い側のウルヴァーハンプトンは、身体活動をしている成人が52.1%(全国66.3%)、失業率が6.5%(全国3.9%)で、男性の総寿命と健康寿命の差は21年(イングランド男性16.1年)である。高い側のチチェスターは、犯罪の深刻度スコアが8.0(イングランド・ウェールズ平均14.1)、10〜11歳の肥満率が13.6%(イングランド20.1%)、身体活動をしている成人が71.4%だった。報告書はこれらを、地域によって住民が暮らしやすい条件をつくる上での課題が大きく異なることを示す例として示している。
📖 報告書では:「Differences in personal well-being at local levels: case studies」(ランベス、ウルヴァーハンプトン、チチェスターの各事例)
この号の調べ方
データは英国の年次人口調査(Annual Population Survey)で、4月〜翌3月の年度ごとに、4指標(いずれも0〜10点)の加重平均を英国・構成国・地域・県・地方自治体の各レベルで推計している。指標は、生活満足度、人生でしていることに価値があると感じる程度、昨日の幸福感、昨日の不安である。地方レベルの測定は、イングランド・スコットランド・ウェールズでは2011年4月に、北アイルランドでは2012年4月に始まった。このため英国全体の基準年は2013年3月期としている。面接は電話と対面の両方で行うが、遠隔地のスコットランドの島々は電話だけである。
この号から言えること
- 英国全体の4指標は1年ではほぼ動かないが、6年単位で見ると生活満足度は3.4%、不安は5.3%改善している。
- 改善幅が大きいのは、ロンドンやイングランド北西部など、測定開始時にウェルビーイングが低かった地域である。最も高かった北アイルランドとの差は縮まりつつある。
- 一貫して高いのはスコットランドの島々や北アイルランドの地方部で、一貫して低いのはロンドン中心部の区である。報告書は、農村部の人ほど都市部よりウェルビーイングを高く評価する傾向があると述べている。
- 事例分析は、ウェルビーイングの低い地域で大気汚染・犯罪・住宅費・健康・失業などの指標が不利な値であることを並べて示している。ただしこれは因果を検証したものではない。
読むときの注意
報告書自身が注意しているとおり、地方自治体を平均値だけで順位づけると誤解を招く。標本の大きさや信頼区間、調査方式の違いによる影響(モード効果)があり、都市と農村のように性格の異なる地域を比べることにもなるためである。特にオークニー諸島など電話調査だけの島嶼部の結果は慎重に読む必要がある。事例分析のTPI指標はウェルビーイング推計とは出典も時期も異なり(2016年以降のデータ)、ウェルビーイングの差の原因を証明するものではない。