どんな調査か
英国国家統計局(Office for National Statistics、ONS)が2011年から続けている「国民のウェルビーイング測定(Measuring National Well-being)」は、国の豊かさを経済だけでなく暮らしの質や社会の進歩からとらえる取り組みである。中心の一つが「個人のウェルビーイング(Personal well-being)」で、人々が自分の生活や気持ちをどう評価しているかを主観的な幸福として数字にする。ONSはあわせて、10分野・59の指標で国の進歩を示す「GDPを超えて(Beyond GDP)」の枠組みを公表している。GDP(国内総生産)だけでは見えない生活の質の変化を、国・地域・自治体の単位で追えるようにすることが目的である。
何をどう測っているか
個人のウェルビーイングは「ONS4」と呼ばれる4つの質問で測る。生活満足度、人生でしていることに価値があると感じる程度、昨日の幸福感、昨日の不安の4つで、いずれも0〜10点で答える。不安は点が高いほど不安が強く、他の3つは点が高いほど良い状態を表す。この4問は大規模な世帯調査である年次人口調査(Annual Population Survey)に組み込まれており、英国全体だけでなく、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの各国、地域、県、地方自治体の単位まで年次推計が公表される。年齢や性別、健康状態、婚姻状態などの個人の特性別の分析や、ウェルビーイングに最も影響しやすい特性の分析もデータとして提供されている。4問は簡潔なため、他の調査にも組み込みやすい。一方、より広い「国民のウェルビーイング指標」は10分野・59の指標から成り、ダッシュボードで個人・地域社会・国の各レベルの変化を一覧できる。
これまでの歩み
2019年10月の号(2018年4月〜2019年3月)では、英国全体の4指標はほとんど変化せず、幸福感の平均が7.52から7.56へわずかに上がっただけであった。この号は地域分析に力を入れ、スコットランドの島々など一貫して高い地域と、ロンドンの一部の区など一貫して低い地域を特定した。2020年7月の号(2019年4月〜2020年3月、ロックダウン直前まで)では、生活満足度・幸福感・不安が測定開始以来初めてそろって前年より有意に悪化し、不安の平均は2.87から3.05へ6.3%上がって過去最大の伸びとなった。2021年10月の号(コロナ禍の1年)では4指標すべてが悪化し、生活満足度は前年から0.27点下がるなど、変化幅は測定開始以来最大であった。2022年10月の号では一転して4指標すべてが改善し、不安・生活満足度・幸福感の前年比改善幅は測定開始以来最大だったが、どれもコロナ禍前の水準には戻らなかった。2023年11月の号では再び4指標すべてが悪化し、生活満足度は7.54から7.45へ、不安は3.12から3.23へ動いた。年次報告はこの後、年次人口調査のデータの質の問題で2024年10月から一時停止しており、2026年6月には59指標と四半期ごとの7つの主要指標で10分野を点検する「Beyond GDP」の号が公表された。
分かってきたこと
コロナ禍で記録的に揺れ、元の水準に戻っていない
2020年の号はロックダウン直前の時点で既に不安の平均が過去最大の伸びを示していた。2021年の号ではコロナ禍の1年に4指標すべてが悪化し、変化幅は測定開始以来最大であった。2022年の号では過去最大の改善幅で持ち直したものの、どの指標もコロナ禍前(2019年3月期)の水準には届かなかった。2023年の号では再び悪化し、いずれもコロナ前の水準を下回ったままである。
不安の平均はじわじわと上がっている
昨日の不安の平均(0〜10、高いほど不安が強い)は、2019年3月期の2.87から2020年3月期に3.05へ上がった。その後、2022年3月期は3.12、2023年3月期は3.23となっている。2026年の号では、2025年10〜12月に不安が高い成人は23.6%であった。
健康と婚姻状態が生活満足度と強く結びつく
2023年の号は、健康状態・障害・婚姻状態・学歴などによるウェルビーイングの差を詳しく示した。そのうえで、生活満足度との結びつきが特に強い要因として、主観的な健康状態と婚姻状態を挙げている。これは結びつきの強さを示すもので、どちらが原因かを示すものではない。
住む場所によって差がはっきり出る
2019年の号は、2013年3月期からの6年間で生活満足度と不安がどこで改善したかを地域別に示した。スコットランドの島々などはウェルビーイングが一貫して高く、ロンドンの一部の区などは一貫して低いことが特定された。同じ号では、国別で有意に変化したのは北アイルランドだけで、不安の平均が2.53から2.83に上がった。
気持ちは横ばいでも、暮らしの指標には悪化がある
2026年の号では、個人のウェルビーイングは前年から変化がなく、2025年10〜12月に生活満足度が低い成人は4.9%であった。一方で、成人の約4人に1人(24.6%)が家計のやりくりが苦しいと答えている。健康寿命や主観的健康は長期的に悪化しており、主観的な幸福の数字だけでは暮らし全体を判断できないことを示している。