この号の内容
世界平均65点、3年続けて横ばい
2023年の71か国の平均MHQ(心の働きを総合的に測る点数で、-100〜+200の300点幅)は65点である。回答者の27%が0点未満の「苦しい(Distressed)・つらい(Struggling)」状態、38%が100点を超える「うまくいっている(Succeeding)・充実している(Thriving)」状態で、前年とほぼ同じである。2019年から追跡している英語圏8か国では、2019〜2020年に平均MHQが8%(24点)下がり、2021年にさらに3%(8点)下がった。2021年以降は、8か国でも、2021年から追跡する国々でも、2022年から追跡する64か国でも、平均点と「苦しい・つらい」人の割合にほとんど変化がない。報告書は、下落は止まったがコロナ前の水準には戻っていないとまとめている。
📖 報告書では:第1節「Global trends in mental wellbeing: 2019-2023」p.9–10、図1
若い世代ほど大きく下落
若い年齢層ほどMHQが低いという傾向は、アフリカからアジア、欧州、南北アメリカまで、測定したすべての国のネット利用者で見られる。報告書は、2010年以前の調査では若い層ほど幸福感が高かったこととは異なると指摘している。英語圏8か国では、2019〜2021年に18〜24歳と25〜34歳が42〜50点(尺度の14〜17%)下がったのに対し、35〜54歳は30〜35点、55〜64歳は15点の下落で、65歳以上はあまり下がらなかった。考察の章では、18〜24歳が45点下がって「苦しい・つらい」人が31%増え、25〜34歳は49点下がって同じく31%増えたとしている。2021〜2023年は、どの年齢層でもほとんど変化がない。
📖 報告書では:第2節「Global trends across age groups」p.11、図2/「The global trends of 2023」p.17
首位はドミニカ共和国、英国は下位
国別の順位は、年齢・性別ごとの点数を各国の人口構成で重み付けして平均したMHQで決めている。上位はドミニカ共和国、スリランカ、タンザニアで、いずれも88点以上(図3では91、89、88)である。最下位グループはブラジル、南アフリカ、英国、ウズベキスタン(ロシア語話者)で、48〜53点にとどまる。首位と最下位の差は尺度の14.3%にあたる。「苦しい・つらい」人の割合が最も低いのはスリランカ、イタリア、ジョージア、ナイジェリア(14〜17%)、最も高いのはブラジル、南アフリカ、英国(34〜35%)である。前年と比べてMHQが±2.0%を超えて変化したのは9か国だけで、±2.9%を超えた国は一つもない。
📖 報告書では:第3節「How countries rank」p.12–13、図3
6つの側面で国ごとに違う顔
MHQは、気分と見通し、社会的自己、意欲と動機、適応力と回復力、認知、心身のつながりという6つの側面の点数にも分けられる。多くの国で、適応力と回復力、意欲と動機の点数が高く、気分と見通し、社会的自己の点数が低い。同じくらいの順位の国と比べると、タンザニアやドミニカ共和国は社会的自己が高く、シンガポール、エクアドル、モルドバ、ベルギーは低い。英国、アイルランド、オーストラリアは意欲と動機が低く、カナダ、ドイツ、南アフリカなども加えた国々は適応力と回復力が低い。米国は心身のつながりが低く、インド、パキスタン、ボリビアは高い。
📖 報告書では:第4節「Mental wellbeing trends across the 6 dimensions」p.14–16、図4
スマホを持つ年齢が低いほど不調
報告書は2021年版で、各国ネット利用者の平均MHQが、1人あたりGDPや人間開発指数と強い負の相関を示すことを報告している。その理由の一つ目として、初めてスマートフォンを持った年齢を挙げる。27,969人の分析で、現在18〜24歳の人は、初めてスマホを持った年齢が低いほど大人になってからの心の状態が悪い傾向がある。18〜24歳の女性では、6歳で持った人の74%が「苦しい・つらい」範囲にあり、10歳では61%、15歳では52%である。影響は特に社会的自己の側面に強く、自殺念慮や現実から切り離された感覚などの症状と結びついている。初めてスマホを持つ平均年齢は、中南米で14〜15歳、サハラ以南アフリカで16歳、英語圏の中核国で11歳である。
📖 報告書では:「Explaining the rankings of countries」p.17–18
超加工食品と家族の絆
二つ目の要因は超加工食品である。292,786人の分析で、超加工食品を毎日食べる人の半数以上が「苦しい・つらい」状態にあり、ほとんど食べない人の18%と比べて約3倍である。報告書は、超加工食品を多く食べるほどどの年齢でも心の状態が大きく悪くなると結論づけ、米国や英国では食事の60〜70%が超加工食品だとしている。三つ目は家族の絆の弱まりで、407,959人の分析では、家族の誰ともうまくいかず会いたくないと答えた人が、18〜24歳で10%、最年長世代で3%である。報告書によれば、家族と親密な関係がある人は、大人になってから心の問題を抱えるリスクが4分の1である。英語圏の中核国は、多くの大人の家族と親しいと答えた人の割合が23%、安定した愛情ある家庭で育った人の割合が39%で、いずれも最も低い。
📖 報告書では:「Explaining the rankings of countries」p.18–19
この号の調べ方
2023年1月1日〜12月31日に、FacebookとGoogleの広告で18歳以上の回答者を募り、71か国・9地域・13言語で518,064人がMHQのオンライン調査(匿名、約15分)に回答した。理解しにくかったと答えた人、7分未満で終えた人、全項目に同じ値を付けた人などを除き、419,175人分を分析している。MHQは、心の感じ方と働きに関する47項目が生活にどれほど影響するかを尋ねる。100点が2019年のコロナ前の平均になるよう調整され、0点未満は生活機能に支障があり臨床的なリスクを伴う状態を表す。国の平均は、国連の人口推計を使い、年齢・性別の構成で重み付けして算出している。
この号から言えること
- コロナ禍で落ちた心の健康は、2021年以降、世界全体でも国ごとでもほぼ動いていない。報告書は、これが新しい常態になりつつあると警告している。
- 若い世代ほど点数が低く、その差は世界中のネット利用者で共通している。コロナ禍の2019〜2021年には、18〜34歳が40〜50点前後下がったのに対し、65歳以上はほとんど下がらなかった。
- 豊かな英語圏の国ほど順位が低い。報告書はその背景として、早いスマホ所有、超加工食品、家族や友人との絆の弱まりを挙げ、経済指標だけで人間の進歩を測ることに強く注意を促している。
読むときの注意
対象はインターネットを使う人だけである。アジアやアフリカでは、回答者が所得や学歴の比較的高い層に偏り、言語や文化によって質問の受け取り方が違う点も報告書自身が限界として挙げている。スマホや超加工食品と心の状態の関係は調査データで見られた傾向で、詳細は別冊の速報(Rapid Reports)にある。追跡対象の国数は、本文で32か国、図1では34か国と表記が食い違っている。