どんな調査か
米国の非営利研究機関Sapien Labs(サピエン・ラボ)が運営するGlobal Mind Project(グローバル・マインド・プロジェクト)の年次報告書である。旧称は「Mental State of the World Report(世界のこころの状態)」で、2025年版から「Global Mind Health」に名前が変わった。インターネットを使う世界の人々を対象に、感情・社会性・認知などの心の働きと、社会文化・生活習慣・環境の要因を集め、国や年齢層ごとに心の健康(mind health)を比べる。測定は2019年に始まり、これまでに85か国の250万人超のデータを持つ、この種の継続調査としては最大規模だと報告書は述べている。2025年版は2026年2月に公表され、2024〜2025年の約100万件の回答(84か国・25言語)を使っている。データは研究者向けのResearch Hubを通じて学術研究に無料で公開されている。
何をどう測っているか
中心となる指標はMHQ(Mind Health Quotient=心の健康指数)である。MHQは、日常生活をうまく営むための認知・感情・社会・身体の47項目の能力や問題を本人が評価するオンライン調査から算出する総合点で、-100〜+200の範囲をとる。点数帯は低い方から「Distressed(苦痛)」「Struggling(苦闘)」「Enduring(耐えている)」「Managing(何とかやれている)」「Succeeding(うまくいっている)」「Thriving(充実している)」と名づけられ、0未満(苦痛・苦闘)の人は典型的に臨床的に気になる症状を5つ以上抱え、その89%が少なくとも1つの精神疾患に該当する。100は通常の集団で想定される水準である。報告書は、MHQがうつや不安の単なる指標でも、生活満足度や幸福度の指標でもないと明記している。データの質を保つため、MHQを分かりにくいと答えた人、7分未満で終えた回答、全項目でほぼ同じ評価をつけた回答(標準偏差0.2未満)を除き、2024〜2025年分として84か国の768,448件を分析に使った。年齢構成の違いをならすため、国別比較は18〜34歳(220,944人)と55歳以上(308,632人)に分けて示し、5点以内の差は誤差とみなして5点刻みの帯で順位をまとめている。さらに今号は、家族との親しさ(80か国、5段階で質問)、スピリチュアリティ(69か国、「より高い力や神とのつながり」を1〜9で評価)、初めてスマートフォンを持った年齢(18〜24歳、79か国、85,633人)、超加工食品(UPF=添加物を多く含む工業的に加工された食品)を週のほとんどの日以上食べる割合(85か国)の4要因を、それぞれ別の調査時期のデータで国別に順位づけている。
これまでの歩み
2023年版(2024年3月公表、第4回)は、71か国・13言語で50万人超のネット利用者から集めたデータをまとめた。コロナ禍の2019〜2021年に大きく落ち込んだ心の健康が2023年も2021〜22年とほぼ同じ低い水準にとどまり、回復の兆しがないことが最大の話題だった。国別では中南米やアフリカが上位、英国やオーストラリアなど豊かな英語圏が下位という構図が続き、報告書はその理由としてスマートフォンを持つ年齢の低さ、超加工食品の多さ、家族関係の希薄化を挙げた。2024年版(2025年2月公表)は82か国の661,426件をもとにし、国別の総合順位をやめて年齢層別に国をグループ分けする形に改めた。この版では55歳以上の平均MHQが101、18〜34歳が38で、18〜34歳の41%が日常生活に支障が出るほどの苦痛を抱えていると示した。2025年版(2026年2月公表)は名称を「Global Mind Health」に変え、インドネシア・ベトナム・トルコを加えた84か国を扱い、年齢層別の国別順位を復活させたうえで、若者の不調に関わる4要因の国別順位を初めて示した。また、Google検索経由の回答の除外や、自然流入の回答の重みを10%にするなど方法を一部変更しており、前年と比べて一部の国の点数にわずかな影響が出ている。
分かってきたこと
若い世代ほど心の健康が低い
2025年版の世界平均MHQは66で、「何とかやれている」帯にあたり、平均すると月のおよそ70%(21日)は生活で十分に力を発揮できている水準である。しかし55歳以上の平均は101で、苦痛・苦闘の層は約10%にとどまるのに対し、18〜34歳は36で41%が苦痛・苦闘の層に入る。100以上の「うまくいっている・充実している」人は55歳以上で60%、18〜34歳で23%である。報告書は、この世代差に例外となる国は1つもないとし、2000年代初めには若い成人がどの年齢層よりも高い幸福を報告していたことと対比している。
若者が最も低いのは豊かな国と東アジア
18〜34歳の地域平均はサハラ以南アフリカが54で最も高く、東アジアが21で最も低い。55歳以上では東南アジアが115で最高、オセアニア84と西欧85が最低である。国別の18〜34歳上位10か国のうち6か国はガーナ、タンザニア、ケニア、ナイジェリアなどサハラ以南アフリカで、下位には日本・台湾・香港・英国・中国が並び、英語圏の中核国の多くが下位4分の1に入る。国レベルでは55歳以上と18〜34歳の点数に相関がなく、報告書は国ごとに世代間の低下の進み方が違うことの表れと見ている。
MHQは幸福度ランキングとは別物
報告書は、生活満足度にもとづく世界幸福度ランキングで首位を続けるフィンランドが、MHQでは55歳以上で84か国中28位、18〜34歳で40位にとどまる例を挙げている。報告書はこの差を、生活の状況への満足と、困難を乗り越えて生産的に機能する心の力が別のものであることを示すと説明している。スペイン語圏の中南米諸国は55歳以上では上位10か国を占めるが、若者は平均34位と中位で、ドミニカ共和国だけが両方の年齢層で上位10か国に入る。
年ごとの変化は小さく、若者の回復はわずか
2025年は2024年と比べて小さな上昇にとどまり、75か国で前年からの変化は5点以内だった。2019年から追う8か国では18〜34歳がコロナ禍の2020〜2021年に急落し、その後の回復はごくわずかで、55歳以上はどの年も100前後で安定している。報告書は、心の健康がより悪い若い人がこの年齢帯に入ってくることで、回復が見えにくくなっている可能性にも触れている。西欧では平均5点上がり、フランスとベルギーは11点上昇した一方、前回18〜34歳で首位(73点)だったタンザニアは11点下がったが、なお上位5か国に入る。
若者の不調に関わる4つの要因
報告書は、家族の絆の弱まり、スピリチュアリティの低下、子ども時代のより早いスマートフォン所有、超加工食品の摂取増の4要因が、若者の低下の4分の3を予測すると結論づけている。家族と誰ともうまくいかない人の44%が苦痛・苦闘の層にいるのに対し、多くの家族と親しい人では12%で、家族と親しい割合は18〜34歳61%、55歳以上75%である。スピリチュアリティの平均は18〜34歳5.7、55歳以上6.2で、評価7以上の若者は3未満の若者よりMHQが20点以上高い傾向がある。初めてスマホを持った平均年齢は世界で14歳(フィンランド9.9歳〜タンザニア18.4歳)、超加工食品を常食する割合は18〜34歳54%対55歳以上26%で、米国79%、韓国76%、英国・ニュージーランド75%が高く、モロッコ34%、エジプト35%が低い。報告書はまた、心の健康の結果が1人あたりのメンタルヘルス支出や精神科医・セラピストの数と相関しないと指摘している。