この号の内容
世界平均66、若者は36
MHQ(Mind Health Quotient)は、感情・認知・社会性・意欲・回復力など47項目への自己評価をまとめた総合点で、-100〜+200の幅をとる。2025年の世界平均は66で、「Managing(何とかやれている)」の範囲にあたる。これは平均して月の約70%、21日ほど十分に生産的に過ごせる水準である。55歳以上は101で、臨床的に重要な不調(MHQが0未満の「Distressed/Struggling」)は約10%にとどまる。一方、18〜34歳は36で、41%が不調の範囲に入る。スコア100以上の「Succeeding/Thriving」は、55歳以上の60%に対し、18〜34歳では23%しかいない。
📖 報告書では:Summary p.6、第1章「Our Collective Mind in 2025」p.7–8、図1・図2
地域差と年ごとの推移
若い世代ほどスコアが低いという傾向は、例外なくすべての国にあてはまる。55歳以上の地域平均は東南アジアが115で最も高く、オセアニアが84、西欧が85で低い。18〜34歳では地域差がより大きく、サハラ以南アフリカが54で最高、東アジアが21で最低である。国単位で見ると、55歳以上のスコアと18〜34歳のスコアには相関がない。2019年から追跡している8か国では、18〜34歳が2020〜2021年のコロナ禍で急落し、その後の回復はごくわずかである。55歳以上は、どの国の組でも毎年100前後で安定している。
📖 報告書では:第1章「Regional differences」p.8 図3、「Trends over time」p.9 図4
若者上位はアフリカ、下位は豊かな国
18〜34歳の上位にはガーナ、ナイジェリア、ケニア、ジンバブエ、タンザニアなどサハラ以南アフリカの国が並び、上位10か国のうち6か国を占める。最下位は香港(84位)で、台湾83位、日本82位、英国81位、中国80位と続く。中核的な英語圏の国の多くは下位4分の1に入る。55歳以上ではスペイン語圏の中南米が上位10か国を占める一方、その若者の順位は平均34位と中位である。ドミニカ共和国は両方の年齢層で上位10か国に入る。世界幸福度報告で首位常連のフィンランドは、55歳以上で28位、18〜34歳で40位である。報告書はこれを、生活の満足度とMHQが別のものを測っている証拠としている。
📖 報告書では:第2章「Mind health across countries」p.10–13、図5・図6(国別順位表)
家族の絆とスピリチュアリティ
家族の誰とも折り合いが悪い人の44%が不調の範囲に入るのに対し、多くの家族と親しい人では12%にとどまる。18〜34歳で家族と親しいと答えた人は61%で、55歳以上の75%より少ない。最多はドミニカ共和国の72%、最少は台湾の46%である。スピリチュアリティ(宗教の所属とは別に、より高い力や神的なものとのつながりを感じる度合い。1〜9で評価)の平均は、18〜34歳が5.7、55歳以上が6.2である。最高はタンザニアの7.6、最低はドイツの3.5である。若者が「スピリチュアル寄り」(平均7超)の国は、「無神論寄り」(平均4未満)の国よりMHQが平均30点高い。
📖 報告書では:第3章 p.14、図7 p.16、家族の絆 p.17–20(図8・9)、スピリチュアリティ p.21–24(図10・11)、考察 p.34
スマホの低年齢化と超加工食品
Z世代(18〜24歳)が初めてスマホを持った年齢の世界平均は14歳である。最も早いのはフィンランドの9.9歳、最も遅いのはタンザニア(18.4歳)とウガンダ(18.3歳)である。持った年齢が低い人ほど、成人後に自殺念慮や他者への攻撃性などを抱えやすく、悪影響は13歳未満で特に強い。超加工食品(UPF)をほぼ毎日以上とる人は、18〜34歳で54%、55歳以上で26%である。若者で最も多いのは米国の79%、次いで韓国76%、英国とニュージーランドが75%で、最も少ないのはモロッコ34%、エジプト35%である。UPFは抑うつや感情・認知の制御の難しさと最も強く結びつき、心の健康の負担の15〜30%に寄与すると推定されている。
📖 報告書では:第3章 p.15–16、スマートフォン p.25–28(図12・13)、UPF p.29–32(図14・15)、考察 p.35
進歩の逆説と根本原因
報告書は「国が豊かであるほど、その国の若者の心の健康は悪い」ことを「進歩の逆説」と呼ぶ。米国は2024年だけで精神保健研究に22億ドルを投じ、成人の精神疾患の治療にも毎年巨額を支出している。英国のNHSも2021〜2022年度にイングランドの精神保健サービスへ多額の資金を使った。それでも結果は改善しておらず、報告書は心の健康の結果と精神保健への支出との間に相関がないとしている。巻頭言では、4要因で若者の低下の4分の3を予測できると述べている。そのうえで、症状への対処ではなく、個人の行動・学校・国の政策の各レベルで根本原因に取り組むべきだと結論づけている。
📖 報告書では:巻頭言 p.3、第5章「Insights and Interpretations」p.33–35、「Reversing the trend」p.36
日本の結果
この号の調べ方
対象は、インターネットを使う18歳以上の人である。Meta・Googleのディスプレイ広告で年齢・性別ごとに募集し、23言語(日本語を含む)で約15分のオンライン評価MHQに答えてもらった。期間は2024年1月1日〜2025年12月31日で、計1,156,207件の回答から除外基準を適用し、84か国768,448件を分析した(18〜34歳N=220,944、55歳以上N=308,632)。国の値は国連の人口推計で年齢・性別を補正し、世界・地域の値はインターネット利用者の比率でも重みづけている。4要因は調査時期や対象国が異なり、スピリチュアリティは2023〜2024年の69か国、スマホは18〜24歳のみを対象としている。
この号から言えること
- 若者の不調は「豊かな国ほど深刻」という逆転が今号の核心である。日本は若者・高齢者のどちらでも82位で、両方の年齢層が下位にある数少ない国の一つである。
- フィンランドは幸福度ランキングで首位常連だが、MHQでは若者40位である。「生活に満足しているか」と「心がうまく働いているか」は別物だと示す読みどころである。
- 4要因の国別順位は、国ごとに効いている要因が違うことを示す。日本は超加工食品の常食率が上位にあり、その点が目立つ。
読むときの注意
データは、ネットを使い、自ら15分の調査に答えた人に限られる。オフラインの人々は含まず、言語や文化による答え方の違いも国際比較に影響しうる。MHQで5点以内の差は誤差の範囲であり、中国のデータは方法の違いから信頼度が低い。4要因とMHQの関係は横断データにもとづく関連であり、要因ごとに調査時期と対象国も異なる。