この号の内容
世界の繁栄は2年連続で横ばい
世界の繁栄は2015〜2019年に着実に改善したが、2021年版では2年続けて伸びが止まった。最も繁栄した2地域の北米と西欧も、2年連続で足踏みしている。一方、最も繁栄度が低いサハラ以南アフリカは11年連続で改善した。報告書は、政治的説明責任と言論・集会の自由がほとんどの地域で悪化し続けていることを「重大な懸念」として挙げている。
📖 報告書では:エグゼクティブ・サマリー「Introducing the 2021 Prosperity Index」PDF p.16(印刷頁14)
コロナ禍で経済の質が全地域で悪化
WHOの推計では、2021年10月末までにコロナによる死者はほぼ500万人に達し、平均寿命が延びてきた流れが逆転した。経済の質(財政の持続性や生産性など経済の強さを測る柱)は全地域で大きく悪化し、下げ幅が最大だったのは北米である。IMFによると、2020年の世界経済は3.6%縮小した。これは記録上最大で、2008〜09年の世界金融危機の2倍超にあたる。1人あたりGDPは7地域すべてで前年を下回り、西欧が−7.5%と最も大きく減った。1人あたりGDPが下がった国は147か国にのぼる。
📖 報告書では:Key findings、PDF p.16(印刷頁14)、図「ECONOMIC QUALITY: REGIONAL CHANGE, 2020-2021」
失業の急増と政府債務の膨張
ロックダウンの影響で、2019〜2020年に158か国(全地域)で雇用率が悪化した。米国の失業率は3.7%から8.3%へと2倍以上になった。中東・北アフリカでは湾岸諸国の上昇が最も大きかった。167か国のうち149か国で政府債務が増えている。債務がGDPの100%を超える国は、コロナ前は米国を含む15か国だったが、2020年には英国を含む28か国とほぼ倍になった。
📖 報告書では:Key findings、PDF p.16(印刷頁14)
ガバナンスは3年連続で後退
ガバナンス(統治の質)は3年連続で悪化した。2014〜2018年には83か国が改善していたが、2018年以降、そのうち46か国が後退した。近年改善したのはサハラ以南アフリカだけで、OECD諸国は長期的に悪化している。主な要因は、行政権への法的・独立したチェック(行政権の抑制)が弱まったことである。2018年以降の悪化が最も大きい地域は北米と中東・北アフリカで、国では米国、イラン、トルコが目立つ。世界では116か国が悪化または横ばいで、なかでもヨルダンと中国の後退が最大だった。政治的説明責任は2018年以降64か国で悪化し、コモロとバングラデシュの下げ幅が最も大きい。東欧では23か国中14か国が悪化した。
📖 報告書では:Key findings、PDF p.16–17(印刷頁14–15)、図「GOVERNANCE: ELEMENT CHANGE, 2011-2021」
言論・集会の自由が全地域で後退
過去10年、言論の自由と集会の自由はすべての地域で弱まった。報告書は、コロナのロックダウンによる制限がこの長期的な流れを強めたと述べている。この10年で政治的説明責任が悪化した国のうち、8割超では言論・集会の両方の自由も悪化した。アジア太平洋では29か国中20か国で2011年以降に集会の自由が後退した。下げ幅が大きかったのはインド、バングラデシュ、香港、フィリピンである。インドは政府のメディア検閲の拡大により、言論の自由の低下も地域で最大だった。中東・北アフリカでは13か国で両方の自由が低下し、とくにトルコとエジプトが目立つ。東欧では23か国中14か国で両方が悪化し、ハンガリー、ポーランド、セルビアの落ち込みが最も大きかった。
📖 報告書では:Key findings、PDF p.17–18(印刷頁15–16)、図「FREEDOM OF ASSEMBLY AND ASSOCIATION/FREEDOM OF SPEECH AND ACCESS TO INFORMATION: REGIONAL CHANGES, 2011-2021」
主な国別順位
世界の首位はデンマーク、最下位は南スーダン(167位)である。2021年に最も改善したのはウクライナ(78位)、最も悪化したのはレバノン(109位)だった。2011〜2021年の10年間では、最も改善したのがコートジボワール(120位)、最も悪化したのがシリア(158位)である。各地域の首位は次のとおりである。北米はカナダ(15位)、東欧はエストニア(17位)、中南米はウルグアイ(37位)、アジア太平洋はニュージーランド(8位)、中東・北アフリカはイスラエル(32位)、サハラ以南アフリカはモーリシャス(45位)。10年間で地域内の改善が最大だったのは、北米が米国(20位)、西欧がスペイン(24位)、アジア太平洋がミャンマー(133位)などである。
📖 報告書では:「KEY COUNTRY RANKINGS」PDF p.17(印刷頁15)
日本の結果
この号の調べ方
対象は世界167か国である。300の指標を67の要素(投資家保護、初等教育、政府の清廉さ、大気汚染など、政策分野ごとのまとまり)にまとめ、さらに12の柱に束ねて総合の繁栄度を算出する。12の柱は、安全・安心、個人の自由、ガバナンス、社会関係資本、投資環境、事業環境、インフラと市場アクセス、経済の質、生活条件、健康、教育、自然環境である。これらは「包摂的な社会」「開かれた経済」「力を得た人々(Empowered People)」の3領域に分かれる。データは公開され検証可能な資料にもとづき、全国で同じ指標・同じ方法で合成している。2007年以降の15年分のデータで、時系列の変化も追える。
この号から言えること
- 報告書は、繁栄の停滞はコロナだけが原因ではないと論じている。行政権の抑制、政治的説明責任、集会・結社の自由、言論と情報アクセスの自由という4つの要素の悪化が、繁栄の土台を削っているという見立てである。例として、過去10年ほどで31か国が首長の任期制限を延ばし、100か国で表現と集会の自由がともに悪化したと挙げている。
- 報告書は、国際社会が健康・教育・生活水準といった「成果」ばかりに注目してきたと指摘する。そのうえで、統治・法の支配・社会関係資本・個人の自由という「土台」への投資がなければ成果もいずれ伸び悩むと結論づけている。
- 日本は健康で世界1位、安全で5位と成果面・経済基盤で上位に並ぶ。その一方で、社会関係資本は143位と大きく出遅れている。柱ごとの凸凹を見ることが、この指数の読みどころである。
- 報告書は、中位の国にとってデンマークを目標にするのは中期的には有用ではないと述べる。中間的な目標を置き、発展を最も強く縛っている制約から順に手を打つべきだとしている。
読むときの注意
順位は167か国の相対比較であり、各指標は政策概念の「代理指標」にすぎないと報告書自身が述べている。数値は詳しい分析のきっかけとして読むべきものである。また、自由の後退と政治的説明責任の弱まりの関係は「相関」として示されたものである。「自由を抑えれば繁栄は限られる」という主張は、報告書(序文)の見解である。