この号の内容
世界の繁栄は3年連続で横ばい
2023年版は、世界の繁栄が3年連続で頭打ちになったと報告している。主な理由として挙げるのは、制度と民主的な手続きが全体として劣化する流れである。一方、生活の基本的な条件はこの10年でかつてなく満たされるようになった。1日5.50ドル未満で暮らす人の割合は世界で57%から47%に下がり、東アジア・太平洋では56%から28%へ半減した。前期中等教育(日本の中学校に相当)を修了する子どもは74%から80%に増え、5歳未満の死亡は子ども1,000人あたり37人から26人に減った。
📖 報告書では:Key Findings「Executive summary」PDF p.16(冊子p.15)
下位40か国は取り残された
2013年に下位だった40か国は、この10年でさらに世界から引き離された。12の柱(分野)のうち6つで悪化し、その間ほかの国々は平均して改善している。10年で下位40か国を抜け出したのは4か国だけである。この40か国では、二者間の紛争による死者が23,000人から86,000人に増え、1人あたりGDP成長率は2.0%から−0.1%に落ちた。貿易協定でつながる市場は世界経済の8%から12%に広がったにとどまる(上位40か国は31%から45%へ拡大)。報告書は、制度と経済の劣化がこれらの国を遅れさせたと結論づけている。
📖 報告書では:Key Findings「Executive summary」PDF p.16(冊子p.15)
民主主義と市民的自由の後退
選挙が行われているかどうかに関係なく、民主的な慣行は世界中で後退している。行政権への制約(司法・議会が政府の権力をどれだけ抑えられるか)は、西欧を除くすべての地域で弱まった。個人の自由は過去10年で108か国で悪化し、集会・結社の自由、言論の自由、情報へのアクセスに対する締めつけが強まった。検閲は民主主義国も含めて広がっている。12の柱のうち10年間で最も大きく悪化したのが「個人の自由」である。
📖 報告書では:Executive summary PDF p.16、図「Bottom 40 deterioration of freedom」PDF p.17、「The pillars of prosperity at a glance」PDF p.19
西側先進国にも「不調の兆し」
上位国でも繁栄は頭打ちで、もろさの兆しがある。報告書によると、大きな経済の変化に対応できず、労働者階級の実質所得が伸び悩んだり減ったりした。そこから3つの傾向が生まれた。「取り残された」という感覚の広がり、自国の民主主義への不満、ポピュリズムの台頭である。1990年代半ば以降、自国の民主主義の働きに「不満」と答える市民の割合は世界で約10%上昇した。また、孤独や心の健康の問題、制度への信頼の低下を、社会関係資本(人と人のつながりや信頼)の衰えと結びつけて論じている。反対に、それ以外の地域では社会関係資本が高まっている。
📖 報告書では:Executive summary PDF p.17(冊子p.16)
注目の国々
首位のデンマークは2020年から首位を保ち、健康を除くすべての柱で10位以内に入る。最下位は南スーダン(167位)で、治安・安全でも最下位である。2023年に最も改善したのはケニア(108位)、最も悪化したのはミャンマー(143位)だった。2013〜2023年で最も改善したのはコートジボワール(121位)、最も悪化したのはベネズエラ(145位、36位下落)である。香港(22位)は個人の自由が世界で最も速く悪化し、自由への満足度は87%から67%に下がった。トルコはガバナンス(統治の質)が65位下がって127位になった。
📖 報告書では:「Key country rankings」PDF p.17、「Mapping prosperity in 2023」PDF p.18
12の柱の10年の動き
インターネットを使う人の割合は29%から59%へ倍増した。基本的な衛生設備を使える人は67%から78%に増えた。保全への取り組みに対する満足度は51%から62%に上がったが、排出量と大気汚染への曝露(さらされる度合い)も増えている。財政の持続可能性は最も大きく悪化した項目の一つで、1人あたりGDP成長率は10年で半分になった。一方で新しく生まれる企業や特許出願は増えている。社会の寛容さ、人と人との信頼、市民参加は改善が続いている。
📖 報告書では:「The pillars of prosperity at a glance」PDF p.19–20
日本の結果
この号の調べ方
対象は167か国で、世界人口の99.4%をカバーし、16年分のデータを追跡している。300の指標を67の要素にまとめ、12の柱と3つの領域(包摂的な社会、開かれた経済、力を持つ人々)に組み上げた合成指数である。データ源は81、年ごとのデータ点は49,933で、105人の専門アドバイザーが関わる。全か国に同じ指標と同じ組み合わせ方を使い、相対的な順位を比べる。データが入手できない国は含まれず、その中で最も人口が多いのは北朝鮮である。
この号から言えること
- 基本的な生活条件、健康、教育が改善する一方で、制度と自由が後退しているという「二つの流れ」が、この号の軸である。
- 全体の格差は、技術や基本的な支援で改善しやすい分野ではなく、制度と経済の分野で広がっている。報告書はこう結論づけ、自由民主主義と制度づくりを繁栄の鍵と位置づけている。
- 日本は総合16位で安定している。健康(2位)や治安・投資・企業環境(各5位)は上位だが、社会関係資本(141位)が突出して低いという偏りが読みどころである。
読むときの注意
順位は国同士の相対比較であり、報告書自身も、各指標は政策の考え方を近似する代理指標として「目安」と解釈するよう求めている。また、自由民主主義を繁栄の条件とする論調は研究所の立場であり、示されている数字の多くは相関や推移であって因果の証明ではない。なお、5歳未満の死亡数は箇所によって「37→26」と「38→26」が併記されている。日本の柱別順位は、順位表の抽出テキストから読み取ったものである。