この号の内容
新方式「べき平均」と3領域
今回の版は国の繁栄を3つの領域に分ける。発展(どれだけ発展しているか)、自由(どれだけ自由か)、社会(社会の結びつきがどれだけ強いか)である。領域の下には10の柱がある。発展は生活水準・健康・教育、自由は市民の平和・異議を唱える自由・経済の自由、社会は家族・地域・社会・国家の健全さからなる。新たに「べき平均(p-averaging)」という平均の取り方を採り、報告書はこれを「レガタム平均原則」と呼ぶ。ふつうの算術平均と違い、どこかに大きな弱点がある国は、ほかが強くても点数が引き下げられる。報告書は「莫大な富は壊れた人間関係や抑圧を埋め合わせられない」という考えを数式に反映させたと説明している。
📖 報告書では:序文 p.4–5、エグゼクティブサマリー p.7、序章「The Three Domains」「The Ten Pillars」p.11–12
首位スイス、弱点の少なさが決め手
1位スイス、2位ノルウェー、3位アイルランド、4位デンマーク、5位フィンランドである。スイスがいちばん順位を落とした柱は「家族の健全さ」だが、それでも15位にとどまる。これに対し、4位デンマークの最低は経済の自由の50位、3位アイルランドの最低は教育の47位である。2023年版では上位4か国をデンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランドの北欧勢が独占していた。今回もこれらの国はすべて10位以内に入っている。それでも首位の座を失った理由について、報告書は高い税負担を挙げている。
📖 報告書では:Key Findings「Switzerland tops the Index」p.8、「A question-mark as to Scandinavian dominance」p.9、順位表 p.16
東欧の躍進と米英の僅差
報告書は上位20か国をP20、上位30か国をP30と呼ぶ。エストニア(19位)とチェコ(20位)が初めてP20に入り、ラトビアとリトアニアもスロベニアに続いてP30入りした。エストニアはフランス(21位)より上、リトアニア(25位)はスペイン(26位)やイタリア(28位)より上である。米国は17位、英国は18位で、米国が英国を上回るのは2015年版以来初めてとなる。総合スコアは米国85.5%、英国85.4%とほぼ並ぶ。米国が前に出た主な要因は、1人あたり国民総所得(GNI)の高さによる生活水準の点である。一方、米国の弱い柱は健康(42位)、家族の健全さ(37位)、社会の健全さ(34位)である。イスラエルも33位から24位へ大きく上がり、家族の健全さでは世界1位である。
📖 報告書では:Key Findings「New entrants to the P20 and P30」「The USA and UK are almost tied」「Israel performs strongly」p.8、図1
権威主義の豊かな国が後退
中国は2023年版の54位から110位へ大きく下がった。自由の領域が150位と低いためで、発展は60位、社会は88位である。報告書は「地政学的な力は人間の繁栄に直結しない」と述べている。ロシアは77位から103位に下がり、自由は142位である。ベラルーシは発展こそ54位だが、自由155位・社会132位と低く、総合132位(2023年は78位)で欧州最下位となった。ほかにメキシコが71位から85位へ、英国が12位から18位へ下がった。英国の経済の自由は2015年の7位から18位に落ちており、報告書はその主因をインフレによる「健全な通貨」の点数低下としている。
📖 報告書では:Key Findings「Fallers」p.9、図2
重要な傾向と相関分析
3領域のうち総合点との結びつきがいちばん強いのは「社会」で、報告書は発展や自由より強い予測因子だとしている。社会領域の上位はデンマーク1位、ノルウェー2位、アイスランド3位、フィンランド4位である。10の柱のうち、総合点との相関係数が0.9を超えるのは「市民の平和」と「社会の健全さ」の2つである(相関係数は、二つの数値がどれだけ連動して動くかを表す指標)。発展と自由の順位が食い違う国もある。シンガポールは発展3位・自由35位、UAEは発展13位・自由90位である。逆にブータンは発展102位・自由38位である。さらに、繁栄している国ほど税負担が重い傾向がある。出生率が低く、違法薬物の取引が多い傾向もある。友人づくり・笑い・見知らぬ人への手助け・ボランティアといった項目では、繁栄していない国と同じか、むしろ低い点数の傾向がある。
📖 報告書では:Key Findings「Significant Trends」p.10
弱点を直せば伸びる国
べき平均は弱点に敏感なので、政策上の優先課題を浮かび上がらせる。報告書はそう説明し、具体例を挙げている。コスタリカは経済の自由が世界4位なのに、教育は96位である。英国は教育に優れる一方、派閥化(集団間の対立や不平等)を背景に社会の健全さが弱い。韓国は社会の健全さが非常に高いが、出生率の急低下で家族の健全さが120位と低い。チリは上位40位以内で中南米2位だが、低い出生率が足を引っ張っている。
📖 報告書では:Key Findings「Priorities for Prosperity」p.9–10、順位表 p.16
日本の結果
この号の調べ方
対象は161か国で、世界人口の98%をカバーする。35のデータ源から得た130超の指標を使い、615,877のデータ点を3領域・10の柱にまとめて点数と順位を出す。データは2025年時点までで、2015年以降の毎年について時系列のスコアも提供する。12人の専門家が査読している。
この号から言えること
- 今回から弱点を他の強みで相殺しにくい計算方法になった。このため、すべての分野がそろって高い国が上位に来る。弱点の少なさでスイスが首位になったのはその典型である。
- 日本は健康で世界1位、社会の健全さで2位、経済の自由で5位と強い。その一方、地域と家族の健全さ、生活水準の順位は相対的に低い。
- 総合点との結びつきが最も強いのは「社会」の領域である。柱では「市民の平和」と「社会の健全さ」の相関係数が0.9を超える。
- 繁栄している国ほど税負担が重く、出生率が低い傾向がある。友人づくりや笑いといった項目でも高くない傾向が示されている。
読むときの注意
2023年版との順位の比較は、方法の全面改定をはさんでいる。中国やエストニアの大きな変動は、新しい計算方法による結果でもある。また、この指数は統計指標を組み合わせた合成指数であり、個人の幸福感を直接たずねる調査ではない。相関分析の結果は、たとえば「社会が強ければ繁栄する」といった因果関係を示すものではない。