この号の内容
世界の社会進歩は2021年から足踏み
人口で重み付けした世界全体のスコアは、2011年の58.86から2021年の63.33まで毎年上がった。その後は2022年63.50、2023年63.24、2024年63.56、2025年63.75と、ほぼ横ばいである。171か国のうち約3分の1が直近1年で低下し、報告書はこの停滞が世界のほぼすべての地域で起きていると述べる。2021年以降、エジプト、パキスタン、ロシア、米国、エチオピアはスコアを下げた。中国は0.6点、インドは1.5点の上昇にとどまった。
📖 報告書では:p.7–10(世界スコアの推移、直近1年の低下国、主要国の停滞)
安全・健康・環境は2021年より低下
世界の「安全」「環境の質」「健康」のスコアは、現在のほうが2021年より低い。「住まい」「水と衛生」「情報と通信」も、2021年以降は伸びが鈍っている。世界を1つの国とみなすとスコアは63.75で、ガイアナとボリビアの間に位置する。要素別では「栄養と医療」と「住まい」が高く、「高等教育」と「権利と発言」が低い。
📖 報告書では:p.12「Since 2021, progress has reversed or is slowing」、p.17(人口加重の世界スコア)
権利と自由は長期的に後退
報告書によると、世界の権利と自由は長期的に下がり続けている。主な要因は「法の下の平等」と「権利の平等」である。2011年以降に改善した地域は中央アジア・コーカサスだけだが、この地域は今も最低スコアの地域である。報道の自由の低下は「情報と通信」のスコアも押し下げている。同性愛者の受容度はすべての地域で下がり、学問の自由も低下しており、報告書はこれを不寛容の高まりの兆しとしている。
📖 報告書では:p.11「Chronic decline rights & freedoms」、p.18「Declining press freedom & rising intolerance」
環境・ジェンダーの進歩は部分的
コロナ禍には大気の質が一時的に改善したが、環境の質の進歩は遅く、加速の兆しはない。2011年以降、改善幅が最大の地域は欧州で、南アジアは低下した。ジェンダー関連では、女性の高等教育へのアクセスが最も進んだ一方、親密なパートナーからの暴力は悪化している。2011〜2025年の世界全体で大きく改善したのは「情報と通信」「住まい」「高等教育」「水と衛生」で、「権利と発言」は大きく低下した。
📖 報告書では:p.19(環境の質)、p.20(ジェンダー指標)、p.21(2011〜2025年の要素別変化)
GDPは運命ではない:米国の例
報告書は、経済成長は社会進歩の重要な原動力だが、GDPがすべてを決めるわけではないとしている。デンマークと米国は1人当たりGDPが同程度だが、米国の社会進歩スコアは10点近く低い。ラトビアの1人当たりGDPは米国の半分なのに、社会進歩スコアは米国と同程度である。米国は1人当たりGDPで世界7位を保つ一方、2011年から12位順位を下げて2025年は32位になった。スコアは12要素中9要素で低下し、順位は12要素すべてで下がった。経済と社会進歩の結びつきはコロナ以降弱まっている。
📖 報告書では:p.15–16(GDPと社会進歩)、p.24–29(米国の分析)
G7と新興国の明暗
G7の首位はドイツ(87.79、11位)で、日本(87.23、14位)、英国(85.54、18位)、カナダ(85.11、22位)、フランス(85.07、23位)、イタリア(84.58、25位)、米国(81.76、32位)と続く。G7のうち4か国は第2層で、カナダは第2層に落ちた。英国は2011年から5位下げて18位となり、12要素中10要素で順位が下がった。2011年以降の改善幅が最大の国はフィジー(+11.83)で、サウジアラビア(+10.80)、モルドバ(+10.40)が続く。2011年以降に低下した国は8か国だけで、最も下げたのはベネズエラ(-4.72)とシリア(-4.25)である。新興国では、政治の変化もあって近年回復したブラジルが首位である。インドネシア、バングラデシュ、ナイジェリアは安定して伸びている。
📖 報告書では:p.22(G7)、p.23(改善幅の大きい国・小さい国)、p.30–35(G7・英国・新興国)
日本の結果
この号の調べ方
171か国について、2011〜2025年の15年間の推移を追っている。指数は、社会・環境の成果を表す57の指標を12の要素、さらに3つの次元(基本的ニーズ、ウェルビーイングの基盤、機会)にまとめた0〜100の合成指数で、経済指標は含まない。各要素は、因子分析(指標間の関連から重みを決める統計手法)で決めた重みによる指標の加重和である。次元は要素の平均、総合指数は3次元の平均で求める。データは、全ての国を同じ方法で測る単一機関のものに限っており、主な出所はIHME(17指標)、国連機関(13)、国際研究機関(10)、ギャラップ世界調査(10)、V-Dem(9)、世界銀行(4)である。
この号から言えること
- 世界の社会進歩は2021年以降ほぼ横ばいで、安全・健康・環境の質は2021年を下回っている。長く続いた改善の流れが止まっている点が、この号の核心である。
- 権利と発言、報道の自由、同性愛者の受容度、学問の自由といった「機会」に関わる分野で、後退がはっきり表れている。
- 同じ程度の豊かさでも社会の成果には大きな差がある。米国はGDPが高いのにG7最下位であり、日本はG7で2番目に位置する。
読むときの注意
社会進歩指数は社会の「成果」を測る合成指数で、個人の主観的な幸福感(生活満足度)を直接測るものではない。GDPと社会進歩の関係は相関として示されたもので、国ごとの差の原因を特定したものではない。首位国の順位(公式概要ではノルウェー91.73、2位デンマーク、3位フィンランド)は、今回の抜粋本文では確認できない。