この号の内容
経済を除いた57指標の合成指数
指数は、栄養、安全、教育、権利など57の社会・環境の「成果」指標を組み合わせて、170か国の総合スコアを出す。予算などの「投入」ではなく、成果を測る。構成は「基本的ニーズ」「ウェルビーイングの基盤」「機会」の3次元で、各次元は4要素の平均である。各要素の中の指標の重みは主成分分析(多数の指標に共通する傾向から重みを決める統計手法)で決める。人間開発指数やOECDのより良い暮らし指標が経済と社会の指標を混ぜるのに対し、この指数はGDPなどの経済指標を意図的に外している。このほか26か国は、データが足りる範囲で要素と次元のスコアだけを算出している。
📖 報告書では:第2章「Introduction」p.12–15、図1(p.13)
GDPは運命ではない
報告書は、社会進歩は経済成長と強く関連するとしている。ただし所得の低い国ではGDPの小さな増加でも大きな改善が伴い、高所得国ではその効果が小さくなる。一方、同じGDPでも社会進歩の水準には大きな差がある。デンマークと米国は1人当たりGDPが同程度だが、米国の社会進歩は10点低い。米国の水準は、1人当たりGDPが米国の半分のラトビアと同程度である。ガンビアは中央アフリカ共和国とGDPが同程度でも20点以上高い。ベトナムはエジプトよりGDPがやや低いのに13点以上高く、世界平均よりGDPが低くても世界より7点高い。
📖 報告書では:第3章「Drivers of social progress」p.17–21、図2〜5
コロナ後に弱まった成長と進歩の結びつき
報告書は、コロナ禍以降、経済と社会進歩の関係が弱まったと指摘している。この5年間の世界の成長は特に包摂的でなかった(成長の恩恵が社会全体に広がらなかった)としている。その理由の一つとして、経済の回復が社会指標の回復より速かった可能性を挙げている。課題は二つに整理されている。一つは、GDP増加の効果が最も大きい低所得国の成長を支えることである。もう一つは、世界がGDPに見合う社会進歩を実現できていない点を改めることである。
📖 報告書では:第3章 p.20–21、図4・図5
健康:寿命は回復、飢餓は停滞
コロナ禍は2020年以降、社会進歩の重荷になった。寿命が延び続けてきた長期の流れが反転し、寿命の指標は8ポイント下がった。その後、寿命は回復している。報告書は、健康の加速に欠かせない分野として、飢餓、水と衛生、医療制度の3つを挙げる。世界の半分はなお栄養面で大きな課題を抱え、最も深刻なのはサハラ以南アフリカである。水と衛生は多くの地域で解決に近く、南アジアとサハラ以南アフリカにはまだ余地がある。多くの先進国では質の高い医療への信頼が落ち込んでいる。
📖 報告書では:第1章「Summary」p.8、第4章「A Healthier World」p.28–31、図6〜12
権利と自由の10年の後退
権利と自由、特にメディアの自由は、先進国・途上国を問わず、すべての地域で10年にわたり後退している。地域別に見ても、北米、サハラ以南アフリカ、東アジア・太平洋、南アジアで「権利と発言」の低下が挙げられている。2024年に指数が上向いた唯一の地域は中南米・カリブで、その原動力は「権利と発言」の回復であった。報告書は、正しい方向に動く国は支援があれば短期間で大きく前進できる分野だとしている。
📖 報告書では:第1章 p.8、第4章 p.27、図13〜18(p.37–38)、地域別プロフィール p.62–69
環境とジェンダーの機会
南アジアやサハラ以南アフリカなど低所得地域では、クリーンエネルギー技術に大きな可能性があると報告書は述べる。粒子状物質による大気汚染を減らし、健康にも良い影響を与えるという位置づけである。また、廃棄物の再利用は世界中で手つかずの大きな市場だとしている。女性の健康と教育は近年大きく改善した。一方、早婚、避妊へのアクセス、特に家庭内暴力(親密なパートナーからの暴力)は改善が遅い。
📖 報告書では:第1章 p.8、第4章 p.27、図19〜25(p.40–45)
上位国と地域の明暗
首位はノルウェー(91.95)で、2位デンマーク(91.65)、3位フィンランド(91.28)、4位スウェーデン(90.75)、5位スイス(90.44)と続く。地域別では、北米が最も高いが2024年に低下した。北米は、2011年以降に住まい、基礎教育、権利と発言の要素で低下した唯一の地域でもある。米国は81.65点の31位で、2011年から1.87点下がっており、G7の中でも低下が加速している。東アジア・太平洋は2011年以降で最も改善した地域で、サハラ以南アフリカは最下位の地域である。サウジアラビアは中東・北アフリカで2011年から最も大きく伸びた(+10.70)。
📖 報告書では:地域別プロフィール p.61–69、順位表、p.55(図36・図37)
日本の結果
この号の調べ方
対象は世界人口の99%を占める170か国で、2011〜2024年の推移を追っている。57の社会・環境の成果指標を、3次元12要素に組み立てる。各スコアは0(最悪)〜100(最良)に換算する。国々は8地域、6つの成績層に分けて示されている。
この号から言えること
- 所得が高い国ほど社会進歩のスコアが高い傾向はある。ただし同じGDPでも国によって10〜20点以上の差があり、報告書は「GDPは運命ではない」と結論づけている。
- コロナ禍以降はGDPの伸びが社会的成果の改善に結びつきにくくなっている、と報告書は示している。
- 健康や水と衛生では長期的な前進が見られる一方、権利と自由、報道の自由は地域を問わず後退している。進歩の中身にまだらな面がある。
- 日本は14位と上位だが、2011年からの伸び(2.24点)は地域内で小さい部類に入る。
読むときの注意
この指数は社会の客観的な成果を合成したもので、人々の主観的な幸福感や生活満足度を直接測るものではない。GDPと社会進歩の関係は相関として示されたもので、国ごとの差の理由は報告書でも一部しか説明されていない。今回の号は資産運用会社との共同発行で、投資機会という観点から構成されている点も踏まえて読む必要がある。