この号の内容
HPIの計算と目標値
HPIは、人生の評価(キャントリルの梯子=0〜10で自分の人生を評価する質問、ギャラップ世界世論調査)に平均寿命を掛け、1人あたりエコロジカル・フットプリント(1人が環境にかける負荷、単位はグローバルヘクタール)で割った指数である。0〜100の尺度で、3要素すべてで良い水準を達成した場合を基準に「妥当な目標値」を58.1点と定めている。2019年の最高点は62.1点、世界平均は43.1点で、目標に届く国はごく一部である。報告書は、環境負荷が小さくても幸福度や寿命が低い社会も、良い暮らしを地球が支えきれない資源量で実現している社会も、「効率的」とはみなさないとしている。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.2「How is the HPI calculated?」、p.4「Rethinking economic “efficiency”」
上位は中南米、首位コスタリカ
上位10か国は、1位コスタリカ(62.1)、2位バヌアツ(60.4)、3位コロンビア(60.2)、4位スイス(60.1)、5位エクアドル(58.8)、続いてパナマ、ジャマイカ、グアテマラ(いずれも57.9)、ホンジュラス(57.7)、ウルグアイ(57.5)である。コスタリカは平均寿命80.3年、人生評価7/10、フットプリント2.65 gha/人である。報告書は、コスタリカの1人あたりフットプリントは米国の3分の1にすぎないのに、幸福度と寿命は米国をわずかに上回ると指摘している。下位10か国の点数は31.7〜24.3点で、ルクセンブルク、チャド、アフガニスタン、ジンバブエ、レソト、モンゴル、カタール、中央アフリカ共和国、シエラレオネ、トリニダード・トバゴが並ぶ。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.3「TOP 10 COUNTRIES / BOTTOM 10 COUNTRIES」、p.4の国別比較、p.5「Wealthy countries」
豊かな国は環境負荷で失点
米国は人生評価6.94/10、平均寿命78.9年と高いが、フットプリントが8.21 gha/人と大きく、HPIは37.4点で152か国中122位である。インドは36.4点(128位)で、フットプリントは1.22 gha/人と小さい一方、人生評価が3.25/10と低い。ジンバブエは28.6点(148位)である。環境負荷が最も大きい国はモンゴル、ルクセンブルク、カタールで、カナダ、米国、トリニダード・トバゴ、香港、アラブ首長国連邦もワースト10に入る。報告書は、高所得の西側諸国は寿命と幸福度では高得点でも、経済の環境コストのためにHPIでは上位に入らないとしている。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.4の国別比較(Costa Rica / USA / India / Zimbabwe / Europe)、p.5「Wealthy countries」
信号色の基準
各要素は赤・黄・緑の3段階で評価される。平均寿命は65年未満が赤、65〜75年が黄、75年以上が緑である。人生評価は5未満が赤、5〜6が黄、6以上が緑である。フットプリントは、地球が1人あたり供給できる量(生物生産力、2019年は1.56 gha)以下が緑、その2倍の3.12 ghaまでが黄、3.12 gha以上が赤となる。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.3「Thresholds for components of the HPI」
地域ごとの推移
西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アフリカではHPIが改善したが、南アジアと中東の低下で相殺された。インド(128位)は2006年以降一貫して低下しており、主因は幸福度の低下とフットプリントの増加である。サハラ以南アフリカは、フットプリントを大きく増やさずに平均寿命が急伸して上昇し、ジンバブエ(148位)は最大の上昇国だが2015年以降は幸福度が大きく落ちた。中南米は依然として上位10か国中8か国を占めるが、ブラジル(21位)など直近5〜10年で幸福度が下がった国もある。西ヨーロッパはスイス(4位)や英国(14位)のようにフットプリントの減少で大きく改善し、2019年の平均は中南米に次ぐ水準である。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.6「The data over time」
2020年のパンデミックの影響
新型コロナの流行した2020年、HPI全体はむしろ3点わずかに上昇した。平均寿命は世界的に下がったが、フットプリントも下がったためである。2020年7〜12月に集めたギャラップのデータでは、多くの国で幸福度は大きく下がっておらず、上がった国もあった。報告書はこれを、地球への負荷を小さくしても幸福は保てる可能性を示すものと位置づけ、パンデミックに頼らず、より前向きで公平な方法で実現する必要があるとしている。
📖 報告書では:ブリーフィングペーパー p.7「What was the impact of the pandemic in 2020?」
この号の調べ方
対象は152か国、主に2019年のデータを用いる。人生の評価はギャラップ世界世論調査の「人生の梯子(0〜10)」、平均寿命は国連開発計画(UNDP)、エコロジカル・フットプリントはグローバル・フットプリント・ネットワークのデータに基づく。3要素を組み合わせ、0〜100の尺度で国を順位づける。HPIは2006年に英国のニュー・エコノミクス財団(NEF)が始め、2019年まで同財団が運営し、2021年版はウェルビーイング経済同盟(WEAll)が2021年10月に公表した。
この号から言えること
- 幸福度と寿命が高くても、資源を大量に使う国はHPIでは上位に来ない。米国は122位、首位コスタリカは米国の3分の1のフットプリントで同等以上の幸福度と寿命を示している。
- 3要素すべてで良い結果を出した国はなく、環境の限界内で消費している国は3分の1(世界人口の38%)にとどまる。報告書は2008年以降の前進を認めつつ、変化はもっと速くなければならないとしている。
- 報告書は、GDP成長を最優先しない「ウェルビーイング経済」への転換を提言し、コロナ後の回復期をその好機と位置づけている。
読むときの注意
HPIは「資源あたりの効率」を測る指数であり、点数が高い国ほど人々が幸福だという意味ではない(上位国でも幸福度や寿命が欧州の高所得国より低い場合がある)。本記事は12ページの概要版(ブリーフィングペーパー)に基づき、日本の順位や値は記載されていない。またコスタリカの平均寿命はp.3で80.4年、p.4で80.3年と表記が分かれている。