この号の内容
首位バヌアツ、2位スウェーデン
2021年の首位はバヌアツである。平均寿命70.4年、生活評価7.1点(10点満点)で、炭素フットプリント(消費に伴う温室効果ガス排出量)は公正な上限とされる1人あたり3.17トンCO₂eを大きく下回る。2位のスウェーデンは寿命83.0年、生活評価7.4点とバヌアツより高いが、1人あたりの炭素フットプリントは3倍以上ある。ただし、同程度に豊かな国の多くと比べれば低い水準である。4位のコスタリカは、炭素フットプリントが4.4トンと公正な水準をわずかに上回るだけで、世界最高水準のウェルビーイングを実現している。報告書は、これらの国が化石燃料による発電の段階的廃止や公共サービスへの投資などを通じて、経済成長より持続可能なウェルビーイングを意識的に優先してきたと述べている。
📖 報告書では:Executive Summary「Latest Results」p.4
達成国はゼロ、最高でも57.9点
HPIは0〜100の尺度で表される。最高位のバヌアツでも57.9点で、中間点をわずかに超える程度にとどまり、50点を超えた国はほかに15か国しかない。2021年には、寿命・生活評価・炭素フットプリントの3要素すべてで良好な水準に達した国はなかった。過去15年間には数回だけ達成例があり、最も新しいのは2014年のアルジェリアである。
📖 報告書では:Results章「2021: The latest results」(p.23以降)
GDPは「大事なもの」を測らない
1人あたりGDPが高い上位10か国のうち、6か国はHPIが平均を下回る。GDP成長率(2016〜2020年の年平均)とHPIの関係はさらに弱く、HPIのばらつきのうちGDP成長率で説明できるのは6%未満(R²=0.0582)である。レバノン、ジンバブエ、イラクのように経済が急落している国ではHPIも低い傾向があるが、それ以外では両者にほとんど関連がない。報告書は、GDPを最大化しようとする国が環境の限界内でのウェルビーイングで特に良い成績を上げているわけではないと結論づけている。
📖 報告書では:Executive Summary「GDP is leading us astray」p.4–5、p.29の散布図、p.32
コロナ禍で世界のHPIが低下
2019〜2021年に世界の炭素排出量は減ったが、それ以上に寿命と生活評価が下がったため、HPIは全体として低下した。最も打撃が大きかったのはラテンアメリカで、寿命が2.9年、生活評価が0.4点下がり、平均HPIが世界一の地域ではなくなった。一方、東アジアは炭素フットプリントをあまり増やさずに生活評価が上がり、HPIがわずかに上昇した。コロナ禍の前、2006〜2019年のHPIは上昇傾向にあった。サハラ以南アフリカでは寿命が54.3年から61.3年に延び、西ヨーロッパでは炭素フットプリントが13.9トンから10.1トンに減った。ただし報告書は、こうした改善の速さは気候変動の最悪の影響を避けるには到底足りないとしている。
📖 報告書では:Executive Summary「Changes over time」p.5、Results章「The HPI over time」p.32〜
最も富裕な10%はHPIが低い
今回初めて、国内の所得階層(所得十分位=所得順に人口を10等分した区分)ごとにHPIが算出された。データのある国は主に北欧とラテンアメリカで、その多くでHPIが最も低いのは所得上位10%の層である。米国の上位10%の炭素フットプリントは1人あたり68.7トンで、第8十分位の23.6トンの約3倍だが、寿命の差は2.4年、生活評価の差は0.1点にすぎない。メキシコは上位10%を除けば、平均炭素フットプリントが公正な範囲に収まる。コスタリカの上位20%を除いた80%のHPIは66.0で、これだけで国別の首位になる水準である。分析した15か国のうち、上位10%のHPIが平均を大きく下回らなかったのは1か国だけである。
📖 報告書では:Executive Summary「Inequalities in HPI within countries」p.6、Results章「HPI by income group」p.34〜・「The carbon elite」p.40〜、p.45
4つの教訓と市民会議の提案
報告書は4つの教訓を挙げる。①代替指標を真剣に扱うこと、②市民自身が国の成功の尺度を決めること、③前向きなビジョンを伝えること、④過剰消費と格差に焦点を当てることである。②については、市民会議を通じて3〜6個の主要指標を選ぶよう呼びかけている。その条件として、代表性のある市民の参加、科学的知見との共同作業、目的(ウェルビーイング)と手段(安定した経済)の区別などを挙げる。報告書は、HPIはGDPに取って代わるべきものではなく、何を測るべきかを議論する出発点だと明言している。
📖 報告書では:Executive Summary「Lessons from the HPI」p.6、「Where do we go from here?」p.42–45、p.12
日本の結果
この号の調べ方
対象は世界の国々で、データの期間は2006〜2021年(最新は2021年)、第6回の版である。平均寿命は国連人口部のデータを使う。生活評価はギャラップ世界世論調査(各国で代表性のある1000人以上が対象)の「キャントリルの梯子」(0〜10で自分の人生を評価する質問)の平均値である。環境負荷には、輸入品の生産に伴う排出も含めた消費ベースの炭素フットプリント(World Inequality Databaseなど)を使い、従来のエコロジカル・フットプリントから切り替えた。計算は「寿命×生活評価」を炭素フットプリントで割り、特定の要素が結果を左右しすぎないよう統計的に調整したうえで、0〜100の尺度にそろえている。
この号から言えること
- 3要素すべてを満たした国はないが、バヌアツやコスタリカのように限界に近い国がある。報告書はこれを、地球に負担をかけない良い暮らしは手の届く範囲にあることの表れとみている。
- 1人あたりGDPやGDP成長率は、HPIとほとんど関連がない。成長を目標に据える政策への問題提起が、この号の中心にある。
- 所得上位10%は巨大な炭素フットプリントの割に、寿命や生活評価の上乗せがわずかである。報告書は、格差を社会全体の効率を下げる「浪費」として捉えている。
- コロナ禍で排出量は減ったが、寿命と生活評価の低下がそれを上回り、HPIは下がった。地域によって影響は大きく異なり、ラテンアメリカが最も強く打撃を受けた。
読むときの注意
報告書自身が注記しているように、キャントリルの梯子の質問は回答者に富や地位を意識させやすい。OECD推奨の標準的な生活満足度の質問を使っていれば、豊かな国の評価はもっと低くなったと報告書は見込んでいる。また今回から環境負荷の指標をエコロジカル・フットプリントから炭素フットプリントに変更したため、過去の版の数値と単純には比べられない。所得階層別の分析は主に北欧とラテンアメリカの15か国に限られている。