この号の内容
コスタリカが首位に返り咲く
2025年のHPIではコスタリカが68.3で首位に戻った。コスタリカは平均寿命が米国より長く、主観的ウェルビーイング(自分の人生への評価)は世界3位、エコロジカル・フットプリント(暮らしを支えるのに必要な地球の面積で測る環境負荷)は中程度にとどまる。中央アジアのタジキスタンは、環境負荷がきわめて小さく、ウェルビーイングが中程度であることから、意外な3位に入った。ただし報告書は、同国は海外からの送金に大きく頼っており、長期的に通用するやり方とは限らないと指摘している。4位のスペインは高所得国の中で最も高い得点で、一人あたりフットプリントは西欧で最も小さく、健康面の成果は優れている。
📖 報告書では:エグゼクティブ・サマリー「Latest results」p.4
寿命は日本、満足度は北欧が上位
平均寿命(出生時に見込まれる生存年数)の上位はおおむね豊かな国で、首位は日本の85.0歳、韓国・スイス・オーストラリア・イタリアが続く。一方、ヨルダンは一人あたりGDPが9,520ドルでも寿命は78.1歳に達する。最下位はナイジェリアの54.8歳で、下位30か国のうち28か国がサハラ以南のアフリカの国である。人生評価は、0〜10の梯子で今の人生を評価する質問(キャントリルの梯子)で測る。この人生評価では、フィンランドが10年連続の首位で7.8、コスタリカが7.6で3位に入った。最低はジンバブエの3.1で、インドは4.4、エジプトは4.2である。エジプトは一人あたりGDPが17,000ドル近くあるのに、近い水準のブラジルの6.7を大きく下回る。
📖 報告書では:「Results」の「Life Expectancy」p.14–15、「Self-reported Wellbeing」p.16–17
地球の限界内の国は37か国
報告書は、地球全体の生物生産力を人数で割った「公正な取り分」を2025年に一人1.48グローバルヘクタール(gha)としている。これを下回り、環境の限界内で暮らしている国は134か国中37か国にとどまる。ただし、これらの国の人口は対象国全体の43%にあたる。一人あたりフットプリントが最も大きいのはルクセンブルクの10.12ghaで、公正な取り分のほぼ7倍である。シンガポール、UAE、オーストラリアがこれに続き、米国は8番目の7.05ghaである。平均寿命の上位30か国はすべて、公正な取り分の2倍を超えている。ヨルダン・スリランカ・バングラデシュは限界内で寿命75歳超を実現しているが、長寿・高い人生評価・限界内のフットプリントの3つを同時に満たす国はない。
📖 報告書では:「Results」の「Ecological Footprint」p.18–19
GDPは物差しにならない
報告書は、GDPと持続可能なウェルビーイングの関係は弱く、直線的でもないとしている。一人あたりGDPが最も高いルクセンブルクとシンガポールは、HPIの得点がきわめて低い。総GDPが最大で、一人あたりGDPも世界6位(75,489ドル)の米国は105位である。HPI上位5か国の一人あたりGDPは、タジキスタンの4,756ドルからスペインの48,460ドルまで幅がある。報告書は、一定の水準を超えると消費を増やしてもウェルビーイングはほとんど増えないと述べている。
📖 報告書では:エグゼクティブ・サマリー「GDP is not the destination」p.4–5、終章「Where do we go from here?」冒頭(p.44の直前、目次ではp.43)
20年で43.7から48.5へ
世界全体のHPIは、新型コロナ流行期の落ち込みを除けばおおむね上昇し、2007年の43.7から2025年の48.5になった。報告書はその背景として、寿命の緩やかな伸びと、一部地域での環境負荷の減少を挙げている。西欧はフットプリントの削減を中心に着実に改善し、東欧・中央アジアも上昇した。一方、南アジアと中東・北アフリカは停滞または低下し、紛争や政治的不安定を抱える国が最も大きく落ち込んだ。報告書は、全体として改善のペースは不十分だとしている。
📖 報告書では:エグゼクティブ・サマリー「Trends over time: fragile progress」p.5、「HPI over time」p.29
女性の得点が高い傾向
男女別に分析すると、対象国では一貫して女性のHPIが男性より高く、国によっては差が8点を超える。差を生んでいるのは、女性の寿命の長さと、フットプリントのはっきりした小ささで、とくに移動手段と食事で差が大きい。国の指導者の性別については、148か国の2006〜2024年のデータを使い、同じ国の中で指導者が交代した前後を比べた。女性が指導者の時期は、男性の時期よりHPIが平均約0.6点高かった。所得、人口、民主主義の度合い、女性議員の比率を考慮しても、この関係は消えなかった。国内での年ごとの変動は約1.7点であり、報告書は女性の指導が持続可能なウェルビーイングに意味のある影響を与えていると結論づけている。
📖 報告書では:エグゼクティブ・サマリー「The role of gender on sustainable wellbeing」p.5、「Further analyses」の「Gender Differences」p.31、「Women's Leadership」p.38–39
4万人の個人HPIと市民会議
2024年に公開した個人向けHPI計算ツールには、2024年5月〜2026年1月に147か国の4万人超が回答した。そのうち約5%は、生活満足度6以上、寿命75歳以上が見込まれる生活習慣、炭素フットプリント3.17トン以下を同時に満たしていた。炭素フットプリントが大きい人ほど、生活満足度(相関−0.11)も見込まれる寿命(−0.18)も低い傾向がある。報告書は、GDPを超える指標が政治で使われるには、少数の見出し指標にしぼることと、市民が指標づくりに参加することが必要だとしている。その実践として、フィンランドのケラヴァ市で無作為に選んだ住民30人超が3晩にわたって議論し、町の「良い暮らし」を表す見出し指標を5つ選んだ。
📖 報告書では:「Individual HPI Scores」p.40–41、「The next steps on the path to go Beyond GDP」p.44–46
日本の結果
この号の調べ方
対象は2025年のデータがある134か国で、2006〜2025年について算出している。平均寿命は国連人口部、人生評価はギャラップ世界世論調査(各国で少なくとも1,000人の代表標本、キャントリルの梯子)を使う。フットプリントはヨーク大学の「エコロジカル・フットプリント・イニシアティブ」2026年版を使い、35か国は回帰モデルで推計した。フットプリントには輸入品に含まれる負荷を加え、輸出分を差し引く。計算は「平均寿命×人生評価」をフットプリントで割り、統計的に調整したうえで0〜100の尺度にしている。今回初めて、紛争による死者が人口1,000人あたり1人を超える戦争に関わる国を除外した。そのためウクライナ、ロシア、イスラエルは対象外である。
この号から言えること
- 上位国の一人あたりGDPは4,756ドルから48,460ドルまで幅がある。高い得点は特定の豊かさの水準に限られず、さまざまな発展段階で見られる。
- 環境負荷が大きい国ほど寿命や人生評価が高い傾向はあるが、関係はゆるい。リビアやモンゴルのように、負荷が大きくても成果が乏しい国もある。
- 個人のデータでも国の指導者の分析でも、男性や高所得者など力を持つ側ほどHPIが低い傾向が見られる。報告書はこれを「力を持つ者が問題であることが多い」とまとめている。
読むときの注意
キャントリルの梯子は、ほかの満足度の質問よりも回答者に富や地位を意識させやすい。報告書自身も、OECD推奨の標準的な生活満足度の質問を使っていれば、豊かな国の得点は低めに出たはずだとしている。HPIは版ごとに標準化の方法や構成要素が変わっているため、過去の版の数値とは比べられない。個人HPIのデータは自分から回答した人の集まりで、世界や各国を代表しておらず、示されているのは相関である。