この号の内容
不調の人は46%、悪化が続く
心の状態は4区分で示される。「フラーリッシング」は社会的・心理的・情緒的に良好な最上位、「ゲッティング・バイ」は一部は良好だがそこまで届かない状態、「ランギッシング」は前向きな幸福感がなく意欲や集中を欠く状態、「ストラグリング」は多くの面で幸福感がなく苦痛を伴う状態である。ランギッシングかストラグリングの人は2023〜2024年に横ばいの兆しを見せたが、直近1年で3ポイント増えて46%となり、2022年比で6ポイント増である。フラーリッシングの人も2022年より少ない。調査対象16か国のうち10か国が、指数が始まった2021年以来最も低い結果を記録した。人々はいまや心の健康をがんより優先度の高い課題とみなしている。
📖 報告書では:p.3「5 key learnings」第1項、p.5「Our mental health keeps getting worse.」と4区分の定義・推移グラフ、p.6
重度の抑うつ・不安・ストレス26%
抑うつ・不安・ストレスの指標(DASS)で「重度以上」に当たる可能性がある人は26%で、2022年から3ポイント増えた。内訳はストレス22%、抑うつ14%、不安5%である。報告書はこれを「静かな流行(silent epidemic)」と呼ぶ。自分は心の病気を抱えていると申告した人は31%で、前年より1ポイント減ったが、2022年比では4ポイント増である。
📖 報告書では:p.7「The “silent epidemic” continues to intensify.」と推移グラフ
国別指数:首位タイ、最下位日本
マインドヘルス指数の平均は61.8である。最も高いのはタイ66.5で、スイス、中国、メキシコとフィリピン、米国が続く。低い側は日本58.1が最も低く、韓国、英国、ブラジル、イタリアの順に続く。タイではストラグリングの人がわずか6%なのに対し、英国は22%である。フラーリッシングの割合はスイスが32%で最も高く、隣国イタリアは15%と最も低い部類に入る。
📖 報告書では:p.8「How are countries ranking on mental health issues?」の国別ランキング図と本文
若者ほど不調の割合が高い
18〜24歳では59%がランギッシングかストラグリングで、全体平均より13ポイント高い。35歳未満の若年層は、抑うつ・不安・ストレスで重度と判定される割合が2.3倍以上である。世界の不安定さ、気候不安、仕事や技術の急速な変化といったリスク要因のほとんどが、他の年齢層より若者に強く影響している。若者は、デジタルの使いすぎ(平均より16ポイント高い)、SNSで取り残される不安(+17ポイント)、孤独・社会的孤立(+13ポイント)を自分の幸福感に悪いものとして挙げている。
📖 報告書では:p.3第3項、p.9「Young people are dramatically more exposed…」と年齢別グラフ
男女差は残るが縮小
女性の心の健康は、すべての指標で男性より悪い。女性の状態は2022年の水準をさらに下回った。一方で男性も悪化したため、男女差はこれまでで最も小さい。フラーリッシングの割合の男女差は2022年の7ポイントから5ポイントに縮まり、重度以上の抑うつ・不安・ストレスに当たる可能性がある人の差も5ポイントから3ポイントになった。
📖 報告書では:p.10「A gender gap that remains significant, but is narrowing.」とフラーリッシング割合の推移グラフ
画面時間と孤独
仕事以外の画面利用は平日1日平均5.1時間で、年間で約55日、ほぼ2か月分に当たる。75%が画面時間は日常生活に少なくとも中程度の悪影響があると答え、40%が直近2週間に少なくとも時々孤独を感じたと答えた。34歳未満の画面時間は1日平均6時間で、4時間の55歳超に比べて孤独を感じる割合が2倍である。報告書は、デジタル習慣による孤立が特に若者に多いとしている。若年成人の92%が、画面の見すぎは日常に悪影響があると答えている。
📖 報告書では:p.11「Always online, increasingly alone.」、p.23(Karima Silvent氏のコメント)
最大の壁は「受診不要」という思い込み
60%は心の悩みで医療専門職を受診したことがない。自国の公的医療制度が心の病気を持つ人をタイムリーに支えていると考える人は42%にとどまる。受診をためらう理由の上位は、「医療が必要なほどではない」36%、費用33%、時間の制約20%、偏見や否定的に見られる恐れ15%、専門職へのアクセスの乏しさ15%である。報告書は、最大の障壁は外的要因ではなく、良い心の状態とは何か、いつどこで助けを求めるべきかについての本人の理解不足だと結論づけている。
📖 報告書では:第2部「Challenge #1: Creating meaningful awareness」p.12–15(p.13の数字、p.14の上位5障壁の図)
AI利用は63%、利点と危うさ
63%がすでに心の健康に関してAIを使ったことがあり、21%は日常的に使っている。報告書は、AIが無料・24時間利用可能・即時・対人でないため恥の恐れがない点で、受診の主な壁を下げるとしている。一方、AIの助言に満足している人は55%、不満は45%である。「AIの助言をほぼ必ず実行する」が42%、「対面で仲間に打ち明けるよりAIを優先する」が41%、「専門職よりAIを信頼する」が38%にのぼる。28%がAIの利用で有害な行動に向かったと認めている。専門的な助けを求める人ほど、AIとも心の健康について多くやり取りしている。
📖 報告書では:第3部「Challenge #2: Turning AI into a lever of progress」p.16–19(p.17、p.18のリスク一覧、p.19)
職場のストレスと企業への期待
働く人の56%が、過去12か月に仕事で中程度から重度のストレス(10段階で6〜10)を感じた。72%は仕事のストレスによる影響が少なくとも1つあり、睡眠の問題は33%である。心の問題で病気休職をした人は24%で、18〜24歳38%から55歳以上12%まで、若いほど高い。48%は職場で心の悩みを話さないと答える一方、84%は職場で支援プログラムがあれば参加すると答えた。参加したい施策は、無料・補助付きの運動クラス68%、従業員支援プログラム(EAP)64%、職場の看護師・セラピスト62%、ウェビナー・啓発59%である。43%は自社に心の健康に特化した方針がないと答えている。
📖 報告書では:第4部「Challenge #3: Empowering companies to play a crucial role」p.20–23(p.21、p.22の施策図、p.23)
日本の結果
この号の調べ方
アクサがイプソスと共同で実施したオンライン調査で、期間は2026年1月12日〜2月16日である。対象は18の国・地域の18〜75歳、約1万9,000人である。性別・年齢・職業・地域で割り当て(クオータ)を設け、各国の標本が最新の国勢調査による成人人口の構成に近づくよう重み付けしている。心の状態は4区分とマインドヘルス指数で示し、抑うつ・不安・ストレスの重症度(DASS)も測っている。
この号から言えること
- 関心は高まっているのに、不調の人の割合は46%と過去最悪である。報告書はこれを、情報が行動に結びついていない「逆説」として描いている。
- 若者は不調の割合だけでなく、画面時間、孤独、病気休職の割合でも他の年齢層を上回る。「若者の問題」が複数の指標で一貫して表れている。
- AIは相談の入口として広く使われている。一方で「専門職よりAIを信頼する」38%、「有害な行動に向かった」28%という数字もあり、報告書はAIを「両刃の剣」と位置づけている。
- 職場で悩みを話さない人が48%いる一方、支援があれば参加する人は84%にのぼる。このギャップを埋める役割を、報告書は企業に求めている。
読むときの注意
報告書内で数字や表現が揃っていない箇所がある。「+6ポイント」の比較起点は、p.3では2021年、p.5では2022年となっている。p.3は調査国を「16か国」としているが、調査方法の記載は18か国である。画面時間が日常生活に悪影響と答えた人の割合も、p.2では「3人に2人」、p.11では75%と異なる。ストラグリングの割合ではタイ(首位)と英国を対比して英国を「最下位(bottom)」としているが、指数の最下位は日本である。また、これはアクサの企業発行物で自社サービスの紹介も含み、数字は相関を示すもので因果を示すものではない。