この号の内容
28か国でEU全域を網羅
第7波は、大陸側のEU加盟26か国すべてに加え、スイスとイスラエルをカバーした。第6波でクロアチアが加わった時点の参加国は18か国だった。第7波では、欧州委員会雇用・社会問題・包摂総局(DG Employment)の助成で、ブルガリア、キプロス、フィンランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア、スロバキアの8か国が加わった。ハンガリーも第7波で復帰した。報告書は、英国のELSA(English Longitudinal Study of Ageing)とアイルランドのTILDAの調和データを合わせれば、高齢化の研究をEU全加盟国に広げられると位置づけている。
📖 報告書では:第1章「SHARE Wave 7: Combining panel and retrospective data…」p.15、新規8か国の参加経緯は第4章 p.63–78
約8万件の面接を8か月で実施
本調査の実施期間は2017年3月から10月31日までである。収集した面接は約8万件で、亡くなった回答者について家族などに尋ねる「終末期面接」も含む。面接の大半は、欧州とイスラエルにいる約2000人の調査員が対面で行った。これに先立ち、2016年に事前テスト(プレテスト)と本番さながらの予行調査(フィールドリハーサル)を行った。予行調査は、新旧28か国が同じ日程で2016年9〜10月に実施した。
📖 報告書では:第1章 p.15–16、実査の詳細は第8.1章 p.109以降
生活史調査SHARELIFEの再実施
SHARELIFEは、回答者がSHAREに初めて参加する前の人生を振り返って尋ねる調査である。尋ねる範囲は、子ども時代の家庭環境、配偶者と子ども、住まい、家計、職歴、健康と医療に及ぶ。第7波では、第3波に参加していない人を対象とし、27か国の6万人超(全体の約82%)から生活史を集めた。第3波で回答済みの約1万3000人(約18%)には、通常のパネル調査票を用いた。SHARELIFEの回答者にも通常調査票の要約版と握力測定を行い、パネル調査としての連続性を保った。オランダは生活史を集めず、通常のパネル調査票をオンラインで実施した。
📖 報告書では:第2.1章 p.21、図2.1「Structure of the Wave 7 interview」
記憶を助ける生活史カレンダー
報告書によると、人は過去の出来事を誤りなく再現できるわけではない。その一例が「テレスコーピング」で、出来事を実際より最近、または昔に起きたと答えてしまう現象である。この誤りを減らすため、SHARELIFEは「生活史カレンダー」を使う。これは、行に生活の領域、列に年を並べた格子状の画面である。就業や住居、交際の期間が図で示されるので、回答者は出来事の重なりや順序を確かめやすい。調査員も記録の空白や矛盾を見つけやすくなる。報告書は、人生の転機となる重要な出来事に焦点を絞れば、振り返りデータは因果分析に大きな可能性をもつという研究の流れを紹介している。
📖 報告書では:第2.2章「SHARELIFE」2.2.1 Introduction p.23–24、図2.2
性格・子ども時代・終末期の新設問
第7波では、次の5種類の設問が新たに加わった。1つ目は、性格を10項目で測る「BFI-10(ビッグファイブ性格検査の短縮版)」で、第6波から延期されていたものを全回答者に実施した。2つ目は、子ども時代の対人環境で、親との関係、親などからの身体的虐待、友人関係、近隣、家庭の宗教性を尋ねる。3つ目は、回答者の親が経験した戦争・迫害・差別である。4つ目は、高齢期に親や子と同居しているかどうかである。5つ目は、終末期面接での緩和ケアで、痛みとその治療、不安、緩和ケア病棟での死亡などを尋ねる。また、新しい設問に対しては、回答者が質問を意図どおりに理解しているかを確かめる「認知的プレテスト」が義務になった。完全に新しい設問では、外部機関のGESISとWESTATがこれを実施した。
📖 報告書では:第1.1章 p.16、第2.1章 p.21–22、各設問は第2.3〜2.7章 p.29–54
調査員研修と不正面接の検出
各国の手順をそろえるため、まず各国の研修担当者を育てる「トレーナー研修(TTT)」を行い、それを手本に各国で調査員研修を実施した。TTTは新旧の参加国を分けて開き、2016年にミュンヘンで2日間の研修を4回、2017年に本調査向けの研修を2回行った。調査員の行動や意識を尋ねる「調査員調査」は第5波から続いており、今回で3回目である。また、調査員による面接の捏造(カーブストーニング)を見つける新しい手順を導入した。これは、面接データと、面接時間など調査の過程で残る記録(パラデータ)を組み合わせた多変量クラスター分析で、行動パターンが異常な調査員を割り出すものである。その結果をもとに、調査会社は実査の途中で面接の確認(バックチェック)を行った。
📖 報告書では:第1.1章 p.16–17、第6章 p.89–97、第7章 p.101–106、第8.2章 p.154–158
重み付け・補完と検索ツール
第9章は、回答の偏りを補正する重み付けの方法を説明している。最初の標本と途中で補充した標本の抽出確率を合わせて計算し、回答拒否や調査からの脱落を補正する。特定の質問への無回答は、「多重代入」という統計手法で補う。第10章は、新しい「SHARE Data & Documentation Tool」を紹介している。これはSHAREのデータと説明資料をウェブ上で閲覧・検索できるツールで、質問や変数を回や国をまたいで追いやすくしたものである。
📖 報告書では:第1.1章 p.17、第9章 p.167–174、第10章 p.191–192
この号の調べ方
SHARE第7波は、欧州27か国とイスラエルの計28か国で、50歳以上の人々を継続して追跡するパネル調査である。本調査は2017年3月から10月31日まで行われ、約8万件の面接(終末期面接を含む)を主に対面で収集した。調査票の構成は2種類で、第3波に参加していない回答者にはSHARELIFEの生活史調査と通常調査票の要約版を、参加済みの回答者には通常のパネル調査票を用いた。データの最新版はRelease 9.0.0(2024年3月28日公開)である。
この号から言えること
- 第7波で8か国が新たに加わり、SHARE単独でEUの大陸側加盟国すべてを比較できるようになった。ELSAやTILDAと組み合わせれば、EU全加盟国が対象になる。
- 6万人超の生活史が加わったことで、子ども時代の健康と高齢期の健康の関係など、人生の長い時間軸をまたぐ分析ができるデータになった。
- 性格(BFI-10)、子ども時代の対人環境、親の迫害経験、緩和ケアなど、第3波には無かった設問が加わった。
- 不正面接を統計的に見つける手順や、認知的プレテストの義務化など、データの質を保つ仕組みが強化された。
読むときの注意
この報告書は調査方法をまとめた巻であり、CASP-12(生活の質)、生活満足度、EURO-D抑うつ尺度の平均値や国別の結果は載っていない。生活史は本人が過去を振り返って答えたもので、記憶の誤りを含みうることを報告書自身も認めている。生活史データから見える関係は、そのまま因果関係とは言えない。