この号の内容
対面調査の中断と電話への転換
第8波の現地調査は2019年10月に順調に始まった。しかし2020年3月10日から23日にかけて、参加28か国すべてで中断された。対象が感染リスクの高い50歳以上で、超高齢者や高齢者施設・介護施設の入居者も含むため、中止は特に急を要したと報告書は説明している。その後、コンピューター支援の対面面接(CAPI)から電話面接(CATI)へ方式を切り替え、2020年4月〜8月に全28か国でコロナ調査を実施した(オーストリアのみ開始が遅れ、9月に終了)。ウェブ調査を選ばなかった理由は二つある。国や高齢層によってインターネット利用に差があること、そして調査員が行う方式どうし(対面と電話)より、調査員方式と自記式のあいだのほうが回答の差が大きいという先行研究があることである。
📖 報告書では:第1章「SHARE Wave 8 Methodology」1.1節、p.15–16
調査対象は1969年以前生まれ
対象者は、標本抽出時点(第8波では2019年)に1969年以前に生まれ、その国に通常の住所をもつ人である。50歳以上の人の配偶者・パートナーは、本人の年齢にかかわらず対象に含まれる。多くの研究と異なり、抽出の名簿に載っていれば介護施設などの入居者も対象とし、施設に移った回答者も追跡する。人口の10%超が話す言語があれば、質問票をその言語にも翻訳する(例:エストニアのロシア語)。報告書によれば、欧州では65歳以上の270万人が高齢者施設・介護施設・医療機関で暮らしている。
📖 報告書では:第2章 2.2節「The SHARE Target Population」p.23、2.7節 p.25
補充標本と中断時点の面接数
若い世代(1967〜1969年生まれ)を標本に加え、脱落で減った人数を補うため、一部の国では新しい回答者(補充標本)を抽出した。中断までに補充標本の面接ができたのは、オーストリア、ベルギー、スイス、チェコ、ドイツ、デンマーク、エストニア、フランス、クロアチア、ハンガリー、イスラエル、ラトビア、ポーランド、スウェーデン、スロベニアの15か国である。スペイン、フィンランド、ポルトガルでは補充標本を抽出したものの、現地調査に出せなかった。中断時点の個人面接数の例は次のとおりである。オーストリアは継続1,738人・補充383人の計2,121人、チェコは継続2,968人・補充328人の計3,296人、スイスは継続1,995人・補充186人の計2,181人。未実施の補充標本は、対面面接が再開できれば第9波で調査を続け、第9波データとともに公開する計画である。
📖 報告書では:第2章 2.9節「Sample Composition」p.26–28、表2.1、表2.2、図2.1
標本設計の工夫
標本抽出は4段階の手順で進める。各国が設計書を提出し、ミュンヘンの中央チームが審査・承認し、各国が抽出を行い、最後に抽出名簿を提出する。理想は全国が公的な住民登録から確率抽出することだが、使える名簿は国によって大きく異なる。チェコ、フランス、イスラエル、ラトビアは、50歳以上が1人以上いる世帯しか選べない名簿を使った。継続標本と補充標本の対象が重なる問題には、Watson(2014)の「プーリング法」で対処している。継続分析に使える人数を最大にするため、一定期間で回答者を入れ替える方式(パネル・ローテーション)は採らず、継続標本の全員を第8波の面接対象とした。
📖 報告書では:第2章 2.3〜2.9節、p.23–26
新しい質問モジュール
第8波では次の項目が新たに加わった。予防医療や受診・満たされない医療ニーズ・ヘルスリテラシーなど、医療の利用と受診のしやすさを測る新しい項目。記憶の変化の自己評価、逆唱(数を逆に数える課題)、物の名前を言う課題、図形描写などの新しい認知機能の測定。将来に向けた貯蓄をめぐる後悔を問う「貯蓄後悔」モジュール。料理・買い物・テレビ視聴・ボランティア・孫の世話などに費やす時間を測る「時間配分」モジュール。回答者の社会的ネットワークに関する項目は、第4波・第6波に続き3回目の収録である。一部の国では、加速度計(身体活動を記録する装着型機器)のデータを初めて収めた。
📖 報告書では:第3章「Questionnaire Innovations」p.33–56、公式ページ Wave 8 Introduction
コロナ調査の内容と付随データ
SHAREコロナ調査は、通常の質問票と同じ分野を大幅に短縮した。流行の第1波とそれに伴う感染対策が50歳以上の生活に与えた直接・間接の影響に焦点を当てている。扱う分野は、心身の健康と健康行動、本人と周囲の人の感染、医療の質、仕事と経済状況、人間関係である。第3部では三つの取り組みを紹介している。高齢者の活動量と座りがちな行動を測る加速度計調査、自己申告データを公的機関や保険の行政データと結びつける手続きの統一、そして教育・家族・健康・移民・就労・退職の政策データを国や地域ごとに時系列で整理する社会政策アーカイブSPLASHである。
📖 報告書では:第8章「SHARE COVID-19 Questionnaire」p.153–154、第12〜14章 p.183–203、第1章 p.16
この号の調べ方
SHAREは、欧州などの50歳以上を対象に、確率抽出で選んだ回答者を繰り返し追跡する国際パネル調査である。全参加国が同じ日程・同じ仕様・同じ質問票とソフトで調査し、回答率は中央で監視している。第8波の通常調査は2019年10月〜2020年3月の対面面接で、中断後は2020年4月〜8月(オーストリアは9月まで)に全28か国で電話によるコロナ調査を行った。本書の各章は、執筆時点の暫定データ(第8波リリース0)にもとづいている。
この号から言えること
- 本号は幸福度の結果報告ではなく、パンデミック下で国際比較データをどう守ったかの記録である。中断から電話調査への移行までの判断理由が具体的に書かれている。
- 介護施設の入居者まで含めて追跡する設計であり、感染リスクの高い集団を対象とする調査が対面面接をいち早く止めた経緯がわかる。
- 時間配分、貯蓄後悔、新しい認知機能テスト、加速度計など、第8波で加わった測定は、後続の分析で使えるデータ基盤として位置づけられている。
読むときの注意
本書は方法論の巻であり、提示された抜粋には、主な指標とされるCASP-12(生活の質を測る12項目の尺度)、生活満足度、EURO-D抑うつ尺度の値や分析結果は含まれていない。面接数は中断時点の暫定データにもとづく。第8波の通常調査は途中で止まったため、国によって補充標本の有無や規模が大きく異なる点に注意が必要である。