どんな調査か
欧州健康・加齢・退職調査(Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe/SHARE)は、欧州の50歳以上の人を同じ人について繰り返し調べる、公式サイトが「欧州最大の社会科学パネル調査」と位置づける調査である。運営するのはSHARE ERIC(欧州研究インフラコンソーシアム、本部ベルリン)で、国際的な調整はSHARE BERLIN Institute(SBI)が担う。公式サイトは使命を、健康・社会・経済・環境の政策が欧州市民の生涯にわたってどんな影響を及ぼすかを研究するための基盤と説明している。調査は2004年に始まり、2021年の第9波までほぼ2年ごとに続いてきた。現在は欧州27か国とイスラエルの計28か国にチームを置く。
何をどう測っているか
対象は50歳以上の人で、同じ回答者を追い続けるパネル調査(同じ人を時間をおいて何度も調べる方式)である。健康状態や医療、仕事と退職、所得と資産、家族や友人とのつながり、認知機能などを1人の人について記録するため、退職、病気、孫の世話といった出来事の前後で暮らしと幸福がどう変わるかを追える。生活の質はCASP-12で測る。これは「統制(自分で物事を左右できる感覚)」「自律」「自己実現」「喜び」の4領域を12の質問で尋ね、12〜48点で表す尺度である。あわせて生活満足度と、12項目で抑うつの度合いを測るEURO-D抑うつ尺度を用いる。公式サイトによれば、これまでに約17万5,000人から延べ69万回の面接を集め、乾燥血液スポット(指先から採った少量の血液)から12か国の回答者について21種類の血液バイオマーカー(健康状態を示す生体指標)を測ったデータも公開している。データは学術目的なら無料で利用でき、利用者は2万4,000人、関連する出版物は4,858件にのぼる。
これまでの歩み
2017年の第7波は28か国で実施され、新たに8か国が加わったことで、イスラエルとスイスに加えて大陸側のEU加盟26か国すべてを網羅する回となった。この波では、第3波で初めて行った生活史調査「SHARELIFE」を再び実施し、6万人超の回答者の人生の歩みを振り返って記録した。2019年10月に始まった第8波は、新型コロナの流行により2020年3月に全28か国で対面調査が中断され、電話による「SHAREコロナ調査」に切り替えられた。その経緯は方法論報告書『SHARE Wave 8 Methodology: Collecting Cross-National Survey Data in Times of COVID-19』(Bergmann・Börsch-Supan編、2021年)に、新しい質問項目や標本設計、中断時点までの面接数とともに記録されている。2021年夏には電話調査「SHAREコロナ調査2」を行い、同年10月から2022年10月にかけて第9波で対面調査に戻った。第9波では約2,000人の調査員が27の欧州諸国とイスラエルで約7万件の面接を集め、データ(リリース9.0.0)は2024年3月28日に公開された。ここに挙げた各波の報告書はいずれも調査の設計・実施・品質管理を記録した方法論の巻であり、幸福度や生活の質の集計結果を示すものではない。
分かってきたこと
欧州全域を覆う比較の土台ができた
第7波で8か国が新たに加わり、大陸側のEU加盟26か国すべてとイスラエル、スイスを網羅した。現在は28か国にチームを置いている。同じ設計の質問で多くの国を並べられることが、この調査の大きな特徴である。ただし国ごとに参加し始めた波が異なる。
「いま」だけでなく人生の歩みも記録する
SHARELIFEは回答者に過去の人生を振り返ってもらう生活史調査で、第3波で初めて行われ、第7波で再び実施された。第7波では6万人超の人生の歩みが記録された。通常の波で追う現在の暮らしと組み合わせることで、生涯を通した経過を調べる材料がそろう。
感染症の流行下でも調査を途切れさせなかった
第8波は2020年3月に全28か国で対面調査が中断されたが、電話による「SHAREコロナ調査」に切り替えて継続した。2021年夏には「SHAREコロナ調査2」を行い、同年10月に対面調査へ戻った。第9波の報告書はこの復帰の手順を記録しており、約2,000人の調査員が約7万件の面接を集めた。
質問紙を超えたデータへ広がっている
健康、雇用、認知機能、社会的なつながり、経済状況に加え、生体指標のデータも集めている。2026年5月には乾燥血液スポットのデータ(リリース2-0-0)が更新され、12か国の回答者について21種類の血液バイオマーカーが収録された。世界各地の姉妹調査との国際ネットワークにも加わっている。